新しい図書館学 第2回 東京図書館制覇!竹内庸子さんとこれからの図書館の使い方を考える~利用者による自発的な参加~
visit:2012/06/24
日比谷図書文化館では、「新しい図書館学」と題して2012年4月から2か月に1度のペースで講座を開いています。第1回の六本木ライブラリー・小林麻実さんの講座には私も受講者として参加したのですが、その第2回の講師を東京図書館制覇!を運営する私が務めて参りました。
この講座は、図書館利用者に過ぎない私が講師になったことからもわかる通り、図書館関係者さんのための講座ではなく、利用者も含めて図書館に関心がある人たち全てを対象にした講座です。そこで、私がお話するテーマとして決めたのが「図書館の利用者参加」という内容。
私は、2010年の初めに江東区から多摩市の実家に戻ったことをきっかけに、東京23区だけでなく多摩地域の図書館も回るようになったのですが、実際に回ってみて23区の図書館と多摩地域の図書館は雰囲気が違う傾向があると感じたんですね。23区の図書館は利用者を「お客様」として丁寧に扱うけど、図書館の運営や事業などに関して、図書館が利用者に一方的に与えるものとして捉えているような空気がある。それに対して、多摩地域の図書館は、職員さんがタメ口で話したりしてしまうこともある代わりに、職員さんが利用者と同じフィールドに立って共に図書館を作っていこうという空気が23区より強い。
もちろん、23区にも後者のような雰囲気を持つ図書館があるし、多摩地域の図書館も、特に民間事業者に業務を委託している図書館は、前者のような空気を感じるので、あくまでも「傾向がある」ということなのですが。講座が終わった後に話しかけてくれた受講者の方の一人に、23区の図書館と多摩地域の図書館の両方で働いた経験があった方がいらっしゃって、「中から見てもそうした違いを感じた」とおっしゃっていたので、やはりそういう傾向はあるのだろうと思います。
そのように図書館と利用者の関係が自治体によって異なるのを目にして、私は「公共」図書館ということを考えたとき、利用者は単に図書館側がしてくれることを受動的に利用するだけでなく、利用者側から図書館が行うことに能動的に関わってもいいのではと思ったんですね。そこで、利用者参加をテーマに講座を行いました。
以下、当日の講座の様子をお伝えしようと思うのですが、この講座は有料の講座なので、講座の内容を講師の私がネット上に詳しく書いてしまっては、お金を払って受講してくださった方に申し訳ありません。そこで、参加していない方には様子がわかる程度に、参加してくださった方には講座を振り返ることができるような形でレポートを書いてみます。
講座は14時から16時までの2時間で、それを3部構成にしました。第1部は私の話で、問題提起と実際に図書館で行われている利用者参加の例を3つ紹介。第2部では、受講者の皆さんが見た・体験した・主催した利用者参加企画の例を、マイクを回して話してもらいました。それらを材料にして、第3部では、受講者の皆さんにグループに分かれてもらって、グループごとに利用者参加のアイデアやその実現に必要な仕組みなどを考えていただき、発表していただくという構成。
第1回に私自身が受講者として参加したとき、話を聞いて終わりではなく、それをもとに他の受講者の方と討論できたのがとてもいい体験だったんですよね。聞いた話をその場で発展させていく体験もよかったし、自分では思いつかなかった考えなども聞けて、終わっても話し足りないくらいでした。なので、第2回でもそうした時間を設けたんです。
図書館の利用者参加というのは、特に新しいことでもなくて、既にいろんなかたちの利用者参加の仕組みがあります。ただ、平日の昼間に図書館協議会が行われていたり、ある程度の時間拘束が要求されるボランティア登録など、時間的余裕がある人でないと参加できないようなかたちのものも多い。これって、図書館運営費、つまり納税に貢献している働く社会人を参加させるつもりがないのでは、と言われてもしょうがないですよね。
それに対して、もっと気軽な参加やいろいろな方面からの参加のかたちがあっていいのでは、というのが私の提案です。実例としてご紹介したのが、渋谷区立こもれび大和田図書館の展示岩波少年文庫の60年 宮崎駿「本へのとびら」からの展示、世田谷区立代田図書館仮事務所でのダイタンのちびっ子読書検定、江戸川区立図書館でのティーン向け広報誌「ぐるぐるぐる」。どれも、図書館職員さんだけで実施している企画ではなく、お薦め本の投稿、検定問題作成、広報誌作成に利用者が参加しています。
私は図書館巡りを通じて、図書館の展示やイベントをいろいろ見てきましたが、図書館職員さんがお仕事として固い頭で行っているためか、申し訳ないけどつまらないものもあるんですよね。それよりは、利用者が参加して知恵を持ち寄った方が面白い企画になる。何より、図書館は図書館職員のためのものではなく、利用者のためのものですから。これらの事例の中には、図書館側が利用者参加を呼びかけたもののほか、利用者が自主的に参加した例もあり、利用者も遠慮せずに図書館側に企画を持ち込んだりしてもいいのではという話もしました。
私から3例紹介しましたが、それは数ある利用者参加例のほんの一部。受講者の皆さんからも利用者参加の例をお話していただきました。挙手を募って話していただいたのは、
- 足立区立図書館(の多くは区の地域センターと併設されている)の地域センターの講座と協同している例
- 墨田区の図書館開館プロジェクトリーダー講座の例(墨田区では、中央館であるあずま図書館と地域館である寺島図書館を統合して新しい中央図書館を作る計画があり、展示やイベント企画、地域情報の発信などを行うプロジェクトリーダーを住民から募っている)
- 葛飾区中央図書館の図書館友の会の例
また、図書館とは特に連携せずに、利用者が集まって自主的に行っているユニークな例として
- 図書館で各自本を借りた後に集まって行う読書会の例
といった話。いろんな図書館でさまざまな企画が行われているんですね。インターネットが普及して、個人が情報を受け取るだけでなく、発信もできるようになっている現代ですから、図書館でも利用者の企画立案や参加があって当然。キツい言い方をすると、図書館側が収集したり発信したりする情報を利用者が受け取っているだけの図書館というのは、そうしたニーズに応えられておらず、積極的に活用・参加したい利用者からは見捨てられているのかもしれません。図書館は利用者とともに発展していかないと!
このように、1,2部で現状の利用者参加を見た上で、グループに分かれてこれからの利用者参加の形を考えていただきました。5人程度ずつ8グループに分かれ、利用者参加のアイデアやそれを実現する仕組みなど、討論内容は広く設定して30分間討論した後、グループごとに話した内容を発表していただくという形式です。
実は、入場の際に、図書館側の立場の方か利用者側の立場の方かで、名札の色を2つに分けて、どのグループでも図書館側の人と利用者側の人が混ざって話せるような仕掛けを作りました。日比谷図書文化館さんと私の方では、双方の立場の方々が集まることで話が発展していけばいいなと思っていたところ、思いのほか皆さんが具体的な図書館名を挙げて討論を発展させていて、抽象的な討論だけでなく、情報交換にもなっていた様子。皆さんがいかに熱意をもって図書館のことを考えているかが伝わってきました。
皆さんに発表していただく際も、こちらからお願いせずとも口頭で発表する係と発表内容をまとめた紙を掲げる係が現れて、言葉と視覚的要素の両方で発表していただきました。発表の内容も、ボランティア参加のあり方のような現実的なものもあれば、図書コン(図書館合コン)のようなユニークなアイデア、建物としての図書館のあり方など、どのグループもメンバーさんの発想や持っている知識を融合していらっしゃいました。
講座としては、皆さんの発表の後に、私からのまとめを話して終了。ただ、これも私自身が第1回に参加した感想として、同じグループで話しあった人などともっと話したいと思ったので、会場となった部屋を閉館30分前まで交流サロンとして開放し(日曜の閉館時間が17時のため、30分間でしたが)、皆さんが自由に話ができる場を作りました。私自身も受講者の皆さんといろいろ話しましたし、受講者さん同士も残っていろいろお話していたり、興奮冷めやらぬといった様子。図書館の未来に希望が持てる時間でした。皆さん、ありがとうございます!
最後の私からのまとめで、こうやって利用者と図書館員が図書館について話し合って運営していくあり方こそが理想の図書館ではないかという話と、「今日の講座は楽しかった。明日からはいつもの図書館に戻る」のではなく、ぜひ今日話したうちの何がしかでも明日から活かしていこうという話をしたのですが、本当にこうした利用者と図書館員が討論できる場がそれぞれの図書館にあるといいなと思います。私もあちこちの図書館を回っているばかりでなく、地元の図書館にじっくり関わる時間も作りたいな。今回の講座の参加者さんが、それぞれご自分の地域の図書館を少しずつでも発展させていけば、日本の図書館はとてもエキサイティングな場となるでしょう。皆さん、いろいろな形で図書館と関わって、図書館を盛り上げていきましょう!