閉鎖前の墨田区立寺島図書館
寺島図書館は2012年12月28日の通常開館を最後に窓口業務だけに縮小し、3月20日を最後にその窓口業務も終了しました。その後、あずま図書館と寺島図書館を統合したひきふね図書館が2013年4月1日に開館しました。
以下は、閉鎖前の墨田区立寺島図書館の訪問記です。
閉鎖前の墨田区立寺島図書館 訪問記
寺島図書館の最寄り駅は、東武線曳舟駅や京成曳舟駅。東武線曳舟駅からの道のりは、改札を出たら右(西口)に出て、右に回り込むかたちで線路に沿って東向島駅方向に進みます。200mほど先のやや幅広の曳舟たから通りと交差する地点(左先にレンガ色の建物があるところ)で左折、そこから300mほど進んだ右側、都立墨田川高校の先に寺島図書館が建っています。
京成曳舟駅からの道のりは、押上側の出口を出て右へ進み、曳舟川通りに出たら左に曲がります。次の信号で右折して曳舟たから通りに入り、あとは東武線の高架下をくぐって直進すると、道の右側に寺島図書館があります。曳舟たから通りに入った地点から図書館までの距離は500m弱です。
曳舟駅付近は、昔はひっそりとした地域だったのに、2010年に大きいイトーヨーカドーができ、更に2013年3月には墨田区の新しい図書館もできるということで、どんどん開発されていますね。新しい図書館は、この寺島図書館とあずま図書館を統合して設立されるかたちなので、新図書館開設にともなって寺島図書館は閉鎖されることになっています。東京は町の変化が激しいと言いますが、東京スカイツリーが開設されたこともあり、墨田区は特に変化が激しい時期にありますね。墨田区は庶民的な雰囲気が残っているのも魅力。新しさを歓迎しつつ、古きも大切にするような地域になるといいな…と思いながら、スカイツリーの見える風景を歩く私です。
寺島図書館は3階建ての建物で、都立墨田川図書館や民間の敷地の合間を縫って建てたかのようです。各階の配置は、1階が2つの児童室、雑誌、CD・カセット・DVD、家事関連本。2階が一般書架で、3階が読書室となっています。読書室の中にも本棚があり、地域資料や文学全集、一般書架の「0類 総記」にあたる本の一部は、そちらに並んでいます。限られた面積の中にたくさんの資料を詰め込んでいるような雰囲気で、悪く言うとごちゃごちゃした印象を受けますが、本に囲まれている雰囲気が味わえる、本好きには楽しい空間です。
建物入口に入ると、児童室1へのドアとカウンターがあるスペースへのドアと、2つのドアがあります。カウンターがあるスペースは、おそらく元々は図書館のロビー的な空間だったのだろうと思いますが、現在は書棚や閲覧用のテーブルなどが所狭しと並んでいます。このエリアに、雑誌、CD・カセット・DVD、家事関連本、コピー機、ネット閲覧PCなどが収まっているんだから、あらためて考えても密度の濃い空間です。
2つある児童室は、入口に近い児童室1が絵本など幼児向けのエリア、カウンター奥の児童室2がちしきの本や児童読み物と分かれています。カウンター手前から児童室1に入ると、目の前の床が大きな靴脱ぎスペースになっています。絵本は日本のおはなしと外国のおはなしを別にして、おはなしの作者の姓名五十音順に並んでいます。貸出ができる布絵本もありますよ。靴脱ぎスペースの脇にベビーベッドもあるので、ちょっと赤ちゃんに休んでもらいながら、借りる絵本を選ぶこともできますね。絵本の選び方の本も、建物入口側の壁の棚にあるので、ぜひ活用を。
もう少し成長した子ども向けの児童室2も、部屋いっぱいに本棚が所狭しと並んでいます。児童読み物は著者姓名五十音順に並んでいて、外国のおはなしは更に、中国のおはなし、英米のおはなし…といった具合に、国・地域別に分けたうえで著者姓名五十音順になっています。児童室2に入る手前の壁には、漫画もずらり。漫画は、棚に並んで1冊ずつ借りられるものもあるし、それとは別に複数巻をまとめて1セットとして借りることができるセット漫画もあります。
2階はフロア全体が一般書架で、L字状の区画にこれまた所狭しと本棚がぎっしり並んでいます。書架のあちこちに児童向けの小さい椅子が踏み台として配置されているのですが、椅子ではなく踏み台ですよという目印として足あとのマークが貼ってあり、何とも可愛らしいんです。踏み台なのに踏むのにちょっと躊躇してしまうくらい(笑)。
2階への階段を上がった正面は「ベストリクエストコーナー」で、少し前まで予約待ちになっていた本を集めています。本の背に「06」「07」などの文字が書かれた丸シールが貼られているのが、おそらく6月・7月のベストリクエストに入った本だという意味なのでしょう。2012年9月に行ったときに一番小さい数字が「03」だったので、概ね半年以内のベストリクエスト本を並べているようです。
ベストリクエスト本の中でも小説・文学の本は、この階段近くの棚ではなく、小説の棚の脇にあります。ここには前月のベストリクエストランキング表が貼ってあるので、それを参考に現在予約待ちが続いている本の中から気になる本を探すこともできます。過去のベストリクエスト本が棚に並んでいるのを見ると、どんなに予約人数が多くてもいつかは棚に戻ってくるんだなとも思います。墨田区は図書の予約点数が10点までなので、予約待ち人数を確認してから予約するなど、10点までという制限を最大限に利用したいところです。
日本の小説はエッセイとひとまとめにして著者姓名の五十音順で並んでおり、複数作家による作品集は頭文字が「わ」の作家の後にまとめられています。外国の小説は、中国文学・英米文学・ドイツ文学…と国・地域別に分かれた上で、著者姓名の五十音順に並んでいます。
漫画は2階にもあります。児童向けの漫画は児童コーナーに、もっと年齢が上の人向けの漫画は一般書架に、と分けていると思うのですが、寺島図書館の分類はなかなか微妙な線ですね。それぞれの階にある漫画を挙げると、1階にあるのが『動物のお医者さん』『ジョジョの奇妙な冒険』『ヒカルの碁』『はじめの一歩』など、2階にあるのが『三国志』『北斗の拳』『聖闘士星矢』『本気!』『東京ラブストーリー』など。どうでしょう、結構気まぐれな分類にも見えますよね(笑)。利用者側としては、分類はそれほど気にせず、どちらの本も楽しみたいところです。
ティーンズコーナーの脇には外国語で書かれた本もありますが、小さな3段の棚に収まる程度の冊数で、その半分程度がビジュアル本です。写真中心の本だと、言語が読めなくても、眺めて楽しむという楽しみがありますので、言語にとらわれず手に取ってみてください。
読書室は、2~3人が横に並んで座る長机が全て同じ向きで並んでいる空間。63席ある机席のうち、入って左側の列10席では持参PCを利用することもできます。こう書くと、机席がずらっと並ぶ堅苦しい空間と思われるでしょうが、読書室入口に近い側には地域資料や全集などの棚があり、更に木のベンチなどもある。展示ケースで幸田露伴や夏目漱石など墨田区ゆかりの文豪の資料を展示しているかと思えば、奥の展示ケースにはなぜかまねき猫が入っていたり、意外とほのぼのとしている空間です(笑)。
この読書室で地域資料の棚を見ていたら、『寺島図書館の生い立ち』『寺島図書館創立六十周年記念誌』という2冊の資料を見つけたんです。気軽に手に取ってめくってみたら、寺島図書館が廃止の危機にあいながらも、関係者のご尽力で今日こうして存在していることを知り、衝撃を受けました。ぜひ、寺島図書館ご利用の皆さん全員に読んでほしいくらい!
寺島図書館の始まりは、東京がまだ東京「府」だったときにさかのぼります。東京府南葛飾郡寺島村に町制がしかれるようになり、それが東京市に併合されて東京市向島区寺島町となるのですが、東京市に併合される前に寺島町の図書館を作ろうという話が出ます。町議会で図書館設立が議決され、現在東京都立墨田川高校や第一寺島小学校があるあたりが町の中心部だったので場所はそこで決定、ちょうどいいことに東京府第七中学校=現在の東京都立墨田川高校のそばに小学校の旧校舎があったので、それを図書館に改造することに決まります。
ただ、町の財政的にも難しかったのでしょう、設立予算は町の予算のほかに、町の有志や各町会の方々の寄付をあてることに決まりました。そこで大きく貢献したのが東京府第七中学校です。図書館の改造や修理は町が行うが、鉄製書架以外の建物内部の備品は七中校友会の負担で用意する。閲覧図書は七中校友会が購入する。館長と小使いさんの給与は町が払うが、司書は七中校友会が雇うなど、七中校友会が財政的も大きく図書館に貢献します。図書館開設にあたって、七中在校生の各家庭から3冊以上の寄贈を受けるといった協力もあったとか。そうした尽力で、晴れて「寺島町立図書館」が開設します。
寺島町が東京市に併合され、更に東京市と東京府を廃止して東京都が設置されるといった具合に、属する自治体が変化するなか、寺島図書館は継続していきますが、元々小学校の旧校舎を改造してできた建物なので、年月を経るうちに老朽化が激しくなり、改築の必要に迫られます。東京市・東京府が東京都へと統合される前に改築計画が認められ、新しく改築された頃には「東京都立寺島図書館」となる予定で改築工事が始まります。
しかし当時は戦争の最中。一から立て直すために古い建物を取り壊したところで、戦局悪化のために工事は止められてしまいます。建物が取り壊されてからは、第七中学校の校舎の一部を使って図書館事業を続けていたのですが、それも戦時閉館する羽目に。更に1945(昭和20)年5月25日の空襲で、都立第七中学校が焼失、そこで事業を続けていた寺島図書館も資料全てを焼失してしまいました。
戦争が終わり、戦後復興が行われるなか、数多く存在していた都立図書館は、日比谷図書館を除いて各区へ移管、現在存在していないものは廃館にすることに決まります。寺島図書館は、改築途中で工事を止められて建物がない、戦火にあって資料もないということで、廃館ということになりますが、関係者のご尽力で特別なケースとして対処してもらえることになり、日比谷図書館の分館というかたちで建築してから墨田区に移管することになりました。実際には、1951(昭和26)年10月29日に建物が竣工し、11月28日に墨田区へ移管、1952(昭和27)年2月1日に墨田区立寺島図書館として開館するという経緯で現在に至っていますが、都立寺島図書館としては事業を行わないまま墨田区に移管されたという、とても珍しいケースだと思います。
歴史を振り返るに、東京府第七中学校、現在の東京都立墨田川高校の尽力がなければ、寺島図書館は開設・運営できなかったし、戦後の熱心な働きかけがなかったら、寺島図書館は廃止されていた。まさに関係者の努力でこうして存在しているということだと思います。実際の寺島図書館の中でこうした資料を読むと、感慨もひとしおです。
現実的には、蔵書数に対して面積が小さかったり、エレベーターもなくバリアフリー面で劣っているということもあり、この先あずま図書館と統合した新しい図書館へと生まれかわる寺島図書館ですが、苦しい時代も生き抜いてきたという経緯は、統合新図書館になってからも語り継ぐべき歴史だと思います。そして、昔の方々の力で図書館があることを思うと、私たちも図書館を未来の人々へよりよいかたちで受け渡せるよう、できることをしていきたいと思います。