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新しい図書館学 第1回 六本木ライブラリー小林麻実さんと考える「図書館は何のためにあるか」

―2012年4月22日のイベント
visit:2012/04/22
§ 図書館の講座の新しいかたち

日比谷図書文化館は、純粋な図書館という立場からもう一歩踏み込んで、学ぶこと・交流することにも力を入れており、本格的な講座やセミナーも度々開催しています。そんな講座の一つ、「新しい図書館学」の第1回に参加してきました。

第1回の講師は、六本木ライブラリーアドバイザーの小林麻実さん。六本木ライブラリーといえば六本木ヒルズにある有料のライブラリースペースで、無料の公共図書館を回っている私には、やや敷居が高い施設でもあります(笑)。そんなライブラリーを運営している小林さんの考える図書館とは何か、興味津々です。

この講座は、図書館主催の講座には珍しく有料(一般2,000円、学生1,000円)で、更にもう一つ珍しい点として、事前課題が出されていました。「開催するのでお気軽にご参加ください」というイベントというより、しっかり学びましょうというイベントなんですね。課題の内容は

ご自身がもっとも良く知っている(利用している/勤務している等)図書館について、一ユーザーの視点から「おかしいな、不思議だな」と思う事、変えたほうがいいと思う事と、その理由を教えてください。

というもの。この課題、私はおかしいこと・不思議なことがなかなか思いつかなくて、自分が今の図書館に慣れきってしまっていることを感じてしまいました。図書館を利用する度合いが高まるほど、「図書館はこういうものだ」と受け入れてしまって、あらためておかしいと思わなくなってしまっているのかも。

課題はメールで提出するようになっていて、講座の2日前には参加者の皆さんの回答をまとめたものがネット上にUPされ、参加者だけが見られるようになっていました。皆さんの回答を見ると、現状の図書館への不満が多いなか、「有料サービスがあってもいいのではないか」「その人の利用の仕方によって貸出冊数を変えてもいいのではないか」といったユニークなアイデアもあり、皆さんいろんなことを考えているんだなあと興味深く読みました。また、回答から察するに、図書館職員さんもいれば図書館利用者もいるという構成のようで、講座の後半のワークショップも楽しみにして参加しました。

§ 図書館っぽい施設と比べて図書館を考える

会場は日比谷図書文化館4階の小ホール。ホールに入ると、テーブルが8つの島に分かれていて、テーブルの上には紙と数色のマーカーが置かれています。1つの島の座席は6,7席で、どんな方と一緒の席になるのか楽しみにしながら、配布されている皆さんの課題回答などを読んでいるうちに席が埋まっていって、講師の小林さんも登場、講座の始まりです。

講義はまず六本木ライブラリーや代官山TSUTAYAの話から始まりました。いわば、既存の図書館という枠組みの中から図書館を考えるというより、図書館っぽいけど図書館ではない施設から振り返って図書館を考えるというスタイル。例えば、六本木ライブラリーはどんな仕組みで運営しているかというと、本を借りることはできず、持ち帰りたい場合は購入してくださいというやり方。そのかわり、というわけではないけど、施設の中で本を読みながらお茶をしたり、ネット環境もよく、何といっても年中無休で7時から24時まで開いている(コミュニティメンバーの場合。オフィスメンバーなら24時間年中無休!)。書棚も毎日置き場所を変えて、利用者がいろんな棚で新たな本と出会う場を作っているのだそうです。

代官山TSUTAYAについては、私としてはおしゃれな書店だと思うので、図書館とはまた別物という気がしますが、TSUTAYA自体はCD・DVDレンタルだけでなくコミックレンタルを行っている店舗もあり、ますます図書館に近づいていると感じます。また、わかりにくい図書館分類ではなく、自由に書棚を作っているのも魅力。ヴィレッジヴァンガードなどのように、本を雑貨をつなげていく陳列なんかも楽しいですよね。

そうした施設を見たうえで今の図書館を振り返ると、あまりにも型にはまりすぎ。「無料なんだからしょうがない」と我慢しすぎているのではないかというのが、小林さんの問題提起です。無料だから有料のものよりサービスが低くてもしょうがないというだけでなく、情報があふれる今の社会に対応した施設になっていないのでないかとも。昔は情報が少なく貴重だったので、それを誰でも無料で利用できるようにすることが重要だった。でも、ネット環境が充実して、情報収集だけでなく発信も容易になった今の社会では、図書館の役割やあり方も変わるだろうと。では、これからの時代の新しい図書館とは何か、その答えの一つが六本木ライブラリーというわけです。

§ ワークショップ「21世紀の図書館はどうしたらいいか」

こうした小林さんの講義を1時間行ったあとは、ワークショップの時間。「21世紀の図書館はどうしたらいいか」というテーマで、同じ島にいる人たちと話をして、最後に各グループで話された内容を皆の前で発表することに。話し合いの時間を2回に分けて、途中でグループのメンバーををシャッフルするというかたちだったのですが、前半15分後半10分で、もっと深く話をしたいと思うところでメンバー入替させられてしまった感じ。いろんな意見があることを聞けたのは面白かったですが、私はメンバー入替なしでもっと深いところまで話したいと思いました。

各グループの発表を聞いた印象は、図書館職員さんが多いグループと利用者が多いグループで傾向が分かれていましたね。職員さんが多いと思われるグループは、現状の問題点を踏まえた上で近い将来のあり方を考える傾向があった一方、発表者(1人が前に出て発表します)が利用者側のグループは、自由な発想が多かったような。話し合いの時間も短かったので、考えた上で結論をまとめるというよりは、いろいろなアイデアを発表したといった感じでもあったな。

§ 受講が目的ではなくスタート

振り返ってみて感じるのは、講座やワークショップの発表を聞くことがこの講座の目的なのではなく、これを聞いて参加者それぞれがこれからの図書館のあり方をさらに考えることこそが、この講座の目的なんだろうということ。つまり、受講することで新しい図書館の方向性を知るという目的の講座ではなく、これをもとに新しい図書館とは何かを考え、職員・利用者として関わっている図書館を変えていくスタートとしての講座なんだろうなと。新しい図書館と比べて今の図書館はダメだと言っているだけでは、事態は何も変わらない。ここで考えたことを、いかに実際の図書館に反映していくかが重要ですよね。

私の図書館巡りというのは、ある意味広いけど浅い利用のかたちでもあるわけで、これからは地元の図書館にもっと積極的に参加したいと思いました。図書館を変えていくには、職員さんに任せて、職員さんが変わるのを待つだけでなく、利用者の立場からできることをしたいと。この立場だからできることもいろいろあると思うんですよね。

新しい図書館学の講座も既に第2回が予定されいて、実は第2回の講師は私が務めさせていただきます。第2回についての告知があったとき、司会者の職員さんのすぐそばの席にいたのですが、職員さんも私も特に何もしませんでした(笑)。風邪ひいててマスクを外せなかったので、それでご挨拶するのもどうかと…。本来ならご挨拶すべきところ、大変失礼いたしました。

いま、講座の内容を構想中ですが、第1回と同様にワークショップの時間も設けて、皆さんとこれからの図書館のことを考えたいと思います。第2回の開催は、2012年6月24日(日)14:00~16:00。ぜひご参加ください!