リレートーク「台東図書館のあゆみ」
visit:2014/02/16
図書館は所蔵資料を活用するための場所ではなく、本に囲まれたその場所にいること自体が本好きにとっては楽しい時間。だからこそ私もこうして図書館巡りをしているし、一通り都内の図書館を回って終わりではなく同じどころに何度行っているのは、その空間に居ることが楽しいからにほかなりません。
そうやって今存在する図書館に行くことにとどまらず、昔あった図書館の思い出話を読むのも面白く、それが自分も行ったことがある図書館だったら懐かく思うし、そうでなかったら記録などから想像してバーチャル訪問するのも楽しい。2014(平成26)年2月16日、台東区立中央図書館でそうした体験をさせてくれる講演会「台東図書館のあゆみ」が開催され、私も参加してきました。
ここでいう「台東図書館」とは、台東区立図書館の意味ではなく、中央図書館の前身である台東区立台東図書館のこと。1962(昭和37)年1月23日に台東区の最初の図書館として誕生してから2001(平成13)年8月15日の閉館まで、40年弱の間台東区の図書館の中心を務めていた図書館です。場所は現在の台東区三筋2丁目で、田原町駅・新御徒町駅・蔵前駅の3駅を頂点とする三角形の中心あたりにあったそうです。
講演会は中央図書館がある台東区生涯学習センターの5階研修室で行われ、実際に台東図書館で働いていたことがある職員さん3名が、スライドやDVD資料を交えながら当時の様子を話してくださいました。講演会冒頭で現在の台東区立中央図書館館長さんが、ご自分も利用者として台東図書館に行った経験があるのでこぼれ話などが楽しみだとおっしゃっていたのが印象的で、図書館職員さん同士でもこんなイベントのときでないと昔の館の話をまとめて聞ける機会はないのかもしれませんね。
そんな台東図書館ですが、最初の区立図書館が1962(昭和37)年に開設されたというのは遅い方で、区立図書館を設立した早さでいうと23区中22番目だったそうです。ただ、設立が遅い分だけ他の図書館を参考にしたり、新しい設備や仕組みを導入できるというメリットもあり、台東図書館も当時はまだ充実していなかったエレベーターが開館当初から設置されるなど、後発メリットを活かした図書館だったようです。
そして、閲覧席が303席だったというのは、今の基準で考えても多いです。私が調べた限りで閲覧席が300席を越えている(図書館が公表している「閲覧席数」は椅子席を含む・含まないがばらけているので、私が実際に行って数えた数字(椅子席含む)を使います)のは、23区では千代田区日比谷図書文化館、足立区中央図書館、葛飾区中央図書館の3館のみ。いずれも現在の基準で大きな図書館であり、1962年当時にこの閲覧席数を用意していたとはすごい。ただ、この数字からは、「閲覧席」でありながら実質的には資料閲覧ではなく持ち込み勉強ができる「自習席」として使われていただろうことも推測できます。
施設の在り方として面白いのは、結婚相談所との併設施設だったこと。他に青年館も併設で同じ建物に入っていたので、「青年のための施設」ということでこの2つの施設を図書館に併設したのでしょうか。1962(昭和37)年というと団塊の世代が中学校を卒業しようとしている頃で、若い世代がどっと増えることを見越した施設の在り方のだろうと想像できます。当時を知る職員さんからは、「1人で結婚相談所があるフロアに上がって行った方が、帰るときカップルで降りてくると、心の中でおめでとうございますと言っていました」といったエピソードも披露され、今とは違う時代の雰囲気を感じました。
また、台東図書館は当時の東京都立日比谷図書館を大いに参考にしたそうで、窓を覆う障子や観葉植物などに日比谷図書館らしさが感じられます。障子のある図書館って日本ならではのスタイルで好きなのですが、このイベントの2週間前にも「障子のある図書館」だった豊島区巣鴨図書館が大規模改修のため休館に入り、改修をきっかけに障子がなくなってしまうかもしれない(障子があると適宜張り替えが必要で手間がかかる設備であるのも事実)と少し淋しく思っていたところでした。台東図書館もそんな「障子のある図書館」だったんですね。
また、台東図書館の頃は、この本が面白かった、どんな本が面白いかといった本の話題から、学校でこんなことがあったという話まで、お子さんが職員さんにワイワイと話し掛けてくることが多かったという話も印象に残っています。今は、台東区中央図書館のように児童エリアが独立して多少騒いでもいい造りになっているところでもそれほど騒ぐ光景は見ませんし、会話があるとしても友達同士や親子での会話で、職員さんにワイワイ話し掛けるかたちは少ないです(ないとは言いませんが)。図書館というより社会全体が、見知らぬ人との関わり方や公共空間での振る舞いが時代によって変わっていることを感じます。
台東図書館しかなかった頃の区内の他の地域への図書館サービス充実の施策として、移動図書館の話も出ました。1967(昭和42)年に開始して2001(平成13)年まで区内を回った「ひかり号」は、その後四国で移動図書館としての役割を果たしているそうです。夏休みには屋外でおはなし会を行う「緑陰図書館」も行ったそうで、当時の写真を見ると大賑わい。携帯ゲームなどもない時代に、図書館が近くの公園などに回ってくることが楽しみにされていた様子がうかがえました。
こうやって昔あった図書館の話を聞けるのは楽しく、参加して本当によかったです。実際に働いていた方々が直接話してくださるということで生の体験が聞けるし、資料を読むのと違って質問ができる機会としても貴重です。この月の初めに、この講演会のプレイベントのようなかたちで、浅草文庫(江戸時代から平成に渡って何度か生まれては消えた文庫)に関するトークイベントもあったのですが、記録そのものが少ない時代のことを調べるのは司書さんをもってしてもやはり限界があり、知る人がいるうちに記録を残しておくことはとても大事だということを実感したところなので、こうして図書館が昔の話をまとめてくれるのは嬉しいです。と同時に、トークイベントの場合は、先の結婚相談所帰りの人を見ていた話など、公式記録としては残しづらい話が聞けるのも面白いです(笑)。
また、講演会後に職員さんに質問していたときに、台東図書館に行っていた利用者さんも話に加わって当時の話を聞かせてもらえたこともあり、職員さん側の話だけでなく利用者さん側の話も聞いてみたいと思いました。このイベントに伴って、2階郷土資料室の入口に台東図書館の思い出を書きこめるコーナーを作っていたのですが、それほど書き込みが集まっていない様子で、台東図書館を覚えている方も少ないのかな。お住まいが台東図書館に近かった方だと、今はくらまえオレンジ図書館や浅草橋分室を利用していて中央図書館まではなかなか来ないのかもしれませんが、昔の図書館の話をしたら止まらなくなる人も少なからずいるはずです(笑)。
台東図書館を知らない私にとっても面白い話で、自分でも台東図書館をはじめ昔の図書館のことをいろいろ調べてみたいと思ったイベントでした。台東区立図書館さん、ありがとうございました!