展示「スタッフわがまま図書館」「図書館報 ぷらっつ☆篠崎 スタッフのセレクション!」
visit:2018/07/13
江戸川区立篠崎図書館は、2018年7月6日にリニューアル10周年を迎えました。それまでは現在の篠崎こども未来館がある場所にあった図書館が、大人向け資料中心の図書館と児童向け資料中心の図書館の2館に分かれるという、珍しいリニューアルをしたのが10年前のこと。2008年3月31日を最後に旧・篠崎図書館が役割を終えた後、同年7月6日に大人向け資料を選り抜いた今の篠崎図書館が開館、2010年4月29日に篠崎子ども図書館が開館して、現在に至ります。
その10周年を記念した2018年7月の展示が、「リニューアル10周年『スタッフわがまま図書館』」。篠崎図書館のスタッフさん全員が、段ボール1箱分の図書館の館長となり、篠崎図書館入ってすぐ左の大きな展示コーナーに、それぞれお気に入りの本を集めています。8列2段でずらっと並んだわがまま図書館は、下の段に101、102…、上の段に201、202…と部屋番号のような数字が割り振られていて、図書館が集まったマンションの趣きです。
この企画、篠崎図書館の広報誌「ぷらっつ★篠崎」を読んでいる人は、誌面でよくやる企画の拡大バージョンという印象を受けると思います。「ぷらっつ★篠崎」では、毎年秋の読書週間に、テーマを決めて全スタッフさんが本をお薦めするのが恒例。毎年読んでいると、「この本を薦めている人、前にあの本を薦めた人と同じ人では…」と推理が働いたりして(笑)。また、第1号から続いている連載「スタッフのセレクション!」では、毎号1人のスタッフさんがお薦めのものを紹介していて、こちらは本に限らず、CDが紹介されることもあります。
今回の展示は、大きな展示コーナーの「スタッフわがまま図書館」とともに、入口の先の自動貸出機・検索機が並んでいるところを越えた左先にある小さな展示コーナーで、「スタッフのセレクション!」にフォーカスした展示を行っています。「スタッフのセレクション!」以外のコーナーの過去分も読んでみたい場合は、こちらのページに創刊号から最新号まで「ぷらっつ★篠崎」の全ての号が掲載されているので、そちらもどうぞ。
全部で16個のわがまま図書館には、「コアラ図書館」「円盤同盟図書館」「女子的図書館」「むらさき図書館」「いろは図書館」「忍者図書館」等々、それぞれ名前がついています。図書館名は、蔵書の内容を表しているものもあれば、ペンネーム的に付けられたものもあります。例えば、「コアラ」は館長さんのペンネームというだけでコアラの本を集めたわけではありませんが、「円盤同盟図書館」はお薦めCDを集めた図書館、「女子的図書館」は女性や、女性心理を知りたい男性にお薦めの本を集めた図書館といったかたちです。
本棚を見ることは、その人の脳の内や心の中を覗くのに近いところがあり、雑誌や書籍で著名人の本棚を見せてもらう企画を行うこともよくあります。でも、この企画は、具体的にどのスタッフさんなのかはわからない、だけど、こんな趣味の人がこの図書館にいるという、微妙なライン上にあるところがミソ。以下、できれば篠崎図書館に足を運んで見に行って欲しいので、なるべく具体的な書名・CDタイトルは明かさずに、それぞれのわがまま図書館を紹介します。
CDを集めた「円盤同盟図書館」はラインナップが渋すぎるので、たぶん私(47歳)と同年代か、私より上の世代かなと思うのですが、ギター好きの若い人という可能性もあり、どんな人なのか気になります。音楽系では、「ピアノ大好き図書館」もあり、ピアノを弾く人のための本、ピアノ作りに関する本、ピアノが鍵となる小説が集まっています。このラインナップなら『蜜蜂と遠雷』や『羊と鋼の森』も入れたかったのではと思ってしまいますが、今もなお予約多数で展示はできず。むしろ、他にもこんなピアノ小説があるよという紹介になっており、小説でピアノ・音楽の世界に浸りたい人は要チェックのわがまま図書館です。
「ラブリー図書館」には動物に関する本がたくさん並んでおり、これを「動物図書館」ではなく「ラブリー図書館」と名付けているところに、わがまま図書館館長さんの動物愛が表れています。単純に可愛い動物の本を集めただけでなく、人間の都合で命を奪われる動物の実態を描いたノンフィクションもあり、"可愛い"という感情に安易に流されず、その気持ちを"動物を大切にする"という行動で示すことの重要性も訴えているラインナップです。
ずばり動物の名前をつけた「コアラ図書館」「ラッコ図書館」もありますが、こちらはその動物の本を集めたものではなく、このわがまま図書館を作った館長さんのニックネームのよう。この2館は姉妹館だそうで、それぞれのわがまま図書館館長さんの好みが近く、本の情報交換もよくしているそう。ラインナップを見るに、コアラ図書館は8割が小説(ミステリ、異色もの寄り)、ラッコ図書館はもう少しノンフィクションの割合が多いでしょうか。この2人は、蔵書リストだけでなく、お薦め文付きの蔵書目録を別途配布しています。
私、以前、「ぷらっつ★篠崎」で紹介されていたので知って、スタンリイ・エリン『最後の一壜』を読んだことがあるのですが、この本を薦めていたのはたぶんコアラ館長(ラッコ館長の可能性もあるか)じゃないかな。この2館の蔵書目録を見ながら、読んでみたい本をメモしていったら、元々長かった読みたい本リストが、更に11冊増えてしまいました。私にとっては罪深いわがまま館長です(笑)。
こちらも内容というよりペンネームと思われるのが「ひまわり図書館」。ハーブの本や、虫の本、小説など、ラインナップは多岐にわたっていますが、賑やかな表紙の本が多く、毎日を楽しんでいる人の本棚という印象です。「心の花束図書館」は、ディケンズや『野菊の墓』などが並ぶなか、中村天風の本が表紙を見せて置いてあったので、私の中では<厳しい状況・運命にあっても信念で乗り越えていく「心の花束」館長>という印象ができあがってしまいました。もちろん、どちらも私の勝手な想像ですが、この企画は実際にどのスタッフさんか明かす予定はないようなので、こちらも思いきり妄想を膨らませてしまいます(笑)。
「ファンタジー図書館」は蔵書全てが小説の図書館で、『有頂天家族』のようなずばりファンタジー作品から、『李陵・山月記』のような純文学寄りの作品まであり、本当にファンタジー好きな人の本棚を覗いているような感覚になります。貸し出されていて展示にはなかったけど、ファンタジー図書館の蔵書リストにあった『村田エフェンディ滞土録』は、篠崎図書館2014年読書週間の企画「つながる読書』にも展示されていたので、「はは~ん、ファンタジー図書館館長さんがあのときこの本を紹介した人だな」と、一瞬犯人を解いた気分になりましたが、ファンタジー図書館館長さんがどのスタッフさんなのかはわからないので、結局何も解いていないのでした。
「わくわく図書館」は、冒険小説や、実際の絶景に関する本・写真集を集めたわがまま図書館で、見ていると、図書館の中にいながら心が別世界にワープしてしまいます。「わくわく」というラインナップの幅を広げやすい名前を付けながら、冒険系に絞っているのがうまい。細かく見ると、冒険小説でも、マーク・トウェイン作品のように現実的な世界で冒険するものから、ハリーポッターシリーズのように空想の世界で冒険するものまでいろいろあるし、貸出されていて棚にはなかったけど、ドラゴンクエストのゲーム音源のCDも蔵書にありました。
「むらさき図書館」も紫色の本を集めたわけではないので、館長さんのペンネームのようですが、サリンジャー作品、小川未明や新見南吉の童話集、絵画の本などが並ぶラインナップを見ると、確かに、白でも黒でもなく、真っ赤や真っ青でもない、「むらさき」の印象を与える本を集めた図書館という気もする。1冊1冊の本が「むらさき」っぽいというより、このラインナップ全体で「むらさき」を作っているといえばいいのか。スタッフの皆さんは、蔵書を揃えるだけでなく、それにどんな名前を付けるのかにもこだわったでしょうし、見る側はそこも楽しめます。
「いろは図書館」という名前で、明治・大正・昭和初期の世界が感じられる本を揃えた図書館も、その一ひねりした名前がうまいと思います。並んでいるのは、開国して外国のものがどんどん入ってきた時期の日本の独特の感じが味わえる小説、食文化の本、デザインの本など。私自身がちょうど、千代田図書文化館で開催中の特別展示「大正モダーンズ」を見てきたばかりなので、それと連想させて楽しみました。この切り口で、歴史に分類される本が1冊もなく、この当時の文化に触れられる内容の本を揃えているところにも、いろは館長さんのこだわりを感じます。
他に日本を感じるものとしては、「忍者図書館」「出羽を推していく図書館」があります。出羽(今の山形県、秋田県辺り)を推している職員さんは、そちらのご出身でしょうか。実は、江戸川区と山形県鶴岡市は友好都市の関係にあり、篠崎図書館と同じフロアにある企画展示ギャラリーで、友好関係に至った経緯や鶴岡市の紹介を取り上げたこともあります(詳しくはこちらをどうぞ)。イタリアン料理のシェフによるレシピ本もあり、何故唐突にレシピ本が?と思ったら、鶴岡市を拠点にして活躍するシェフだそう。場所を切り口にして、文学、自然、歴史、音楽など、さまざまなジャンルの本が並んでいます。
忍者図書館は、名前と違って忍者に関する本はあまりなく、歴史小説とおばけ・妖怪の本を集めた図書館。忍者に興味があるというより、忍者図書館館長さんの目指すところが忍者ということでしょうか。そういえば、「ぷらっつ★篠崎」の編集後記に、体を鍛える系の一言をよく寄せている、忍者っぽいペンネームがあったような…。戦国武将の本と妖怪・おばけの本が混ざったラインナップに、忍者館長さんの興味の幅広さを感じます。
忍者図書館では、「秘伝の書」なる忍者図書館独自の広報誌を配布しているほか、箱の天井から忍者の絵がぶら下がっていて、「タツマル」なる忍者マスコットが大活躍。このように、本を並べるだけでなく飾り付けをしている図書館は他にもあって、凝るスタッフさんだと後から装飾を付け足したりもしているそう。既にこの展示を見た人も、また篠崎図書館に行ったときに覗けば、飾り付けが増しているかも。頻繁に篠崎図書館に通う人は、装飾が盛られていく過程もお楽しみいただけます。
展示本の貸出が好調な図書館では、既に展示本が残り少なくなっており、2018年7月13日の時点で、「想いをつなぐ暮らしの図書館」は残り3冊、「女子的図書館」は残り4冊でした。「ぽけっと図書館」は残り6冊ありましたが、そこから私が上下巻2冊を借りてしまったので、これも残り4冊に。こんなわがまま図書館だったと書けるほど本が残っていないのは残念ですが、図書館に本がないのは誰かが読みたいと思って借りた証拠で、売れたら補充される書店にはない痕跡といえますね。全てのわがまま図書館の蔵書リストを展示コーナー左端で配布しているので、既に借りられたものが何かは、そちらで確認できます。
だいぶ長くなってしまいましたが、「スタッフのセレクション!」展示の方も紹介させてください。こちらは、広報誌「ぷらっつ★篠崎」の連載「スタッフのセレクション!」の過去58号分の全記事をまとめた冊子を配布するとともに、紹介されたもののうち篠崎図書館所蔵のものを展示しています。
わがまま図書館と合わせてみると、「この本を紹介したのって、○○図書館館長さんでは?」とついつい推理したくなります。いや、2008年から今までの間にスタッフさんの入れ替わりもあるので、その本をお薦めした人が今回のわがまま図書館館長さんの中にいるとは限らないのですが、わがまま図書館の蔵書にあって、「スタッフのセレクション!」にもあるものは、かなり高い確率でそのわがまま館長さんのお薦めだと思います。
「スタッフのセレクション!」の方は、一つのお薦めについて文章を尽くして説明しているので、どこがどうお薦めなのかが詳しくわかります。例えば、『自己カウンセリングとアサーションのすすめ』はひまわり図書館の蔵書にある本なのですが、「スタッフのセレクション!」を読むと、著者の平木典子氏がスタッフさんの恩師で、スタッフさんが篠崎図書館に勤めるようになってからこの本を見つけたというストーリーが見えてきます。
もちろん、わがまま図書館との合わせ技に限らず、「スタッフのセレクション!」単体でも楽しめます。ジャンルを問わずお薦めのものということで連載を続けてきたので、バラエティに富んだ本・CDが紹介されています。文章の形式も決まっていないので、文字数もかなりばらつきがあり、なかには1つの記事で3作品紹介しているものもある。書く順番が回ってきたときに、スタッフさんがこれぞ!と薦める意気込みが伝わってきます。
今回の企画の面白いところは、どれかはわからないけど、ここにいるスタッフさんは必ずどれかのわがまま図書館の館長さんであるというところです。スタッフさんは、利用者が展示コーナーの前に来るたびに、どの本を手に取って、どの本を借りていくのか、その挙動が気になるでしょう。自分のお薦め本を借りてもらえたら嬉しいだろうし、自分のわがまま図書館に本がたくさん残っていたら、ぜひ読んでください!と心で叫んでいるはず。
篠崎図書館には自動貸出機があるので、自分で貸出手続きができるのですが、わがまま図書館の本を借りるときは、あえてカウンターで借りれば、貸出手続きをしたスタッフさんがそのわがまま図書館の館長さんという可能性もありますね。私は3つのわがまま図書館から4冊借りたのですが、ちょうど顔見知りのスタッフさんがカウンターにいたこともあり、自動貸出機で貸出手続きした後に、わざわざカウンターに行ってスタッフさんにどの本を借りたか見せてしまいました。
読んで面白かったら、返すときに篠崎図書館スタッフさんに感想を言えば、その本を蔵書にしたわがまま図書館館長さんに伝えてもらえるかもしれません。どのスタッフさんかを推測して話し掛けるのも面白そうですが、見当違いで不審がられる可能性もあるので注意しましょう。「コアラ図書館蔵書目録」を読むと、コアラ館長が誰かを当てて、肩にそっと手を置きたくなりますが、それをやったら確実に不審者です(笑)。
この企画だけ見に来ても楽しめると思いますが、最初に書いたように、篠崎図書館は普段から広報誌や展示を通じて、スタッフさんが好みやお薦めをちらっと見せているので、その流れを汲むとより楽しめると思います。この企画を機に、篠崎図書館をこれからも利用して、広報誌や展示を継続的に見ていけば、「きっとあの人のお薦めだ」「この人のお薦めなら読んでみよう」と楽しみ方が膨らみます。この本を気に入っている人が、「この図書館の誰か」であることはわかっているけど、「具体的に誰か」はわからないという微妙な関係、ぜひ楽しんでください。