閉館前の足立区立宮城コミュニティ図書館
足立区立宮城コミュニティ図書館は2018年3月13日を最後に閉館しました。その後、移転したうえで名称を変え、江南コミュニティ図書館が2018年4月13日に開館しました。
以下は、閉館前の足立区立宮城コミュニティ図書館の訪問記です。
閉館前の足立区立宮城コミュニティ図書館 訪問記
宮城コミュニティ図書館の最寄り駅は、都電荒川線の小台駅か、日暮里舎人ライナーの足立小台駅。但し、いずれも徒歩で20分以上かかります。
バスの最寄停留所は足立区のコミュニティバス・はるかぜ8号か、都バス・王40丙の「みやぎ水再生センター前」停留所で、ここからなら徒歩3分。が、「はるかぜ」は1時間に2本、都バスの方は通勤・通学時間には多少増えるものの、昼間は1時間に1本です。待つのを最小限にするなら、王子駅から王40甲に乗って「宮城二丁目」停留所から徒歩9分。または、田端駅前か江北駅前から東43に乗って、「宮城都営住宅前」停留所から徒歩5分というのがいいと思います。
このように鉄道駅からの便が悪いのは、この地域が隅田川と荒川に挟まれた中州だから。裏を返せば水辺の風景に囲まれてところで、私のお薦めは、宮城コミュニティ図書館からみて南東にあたる、小台橋北詰から西に延びる隅田川土手沿いの道です。川向こうにあらかわ遊園の観覧車が見える風景は、東京とは思えないのんびりした雰囲気で、堀江敏幸の『いつか王子駅で』の世界に入った気分になってしまいます。
建物としては、江南区民事務所と宮城コミュニティ図書館の併設施設となっており、更に、宮城コミュニティ図書館側は、1階に和室と会議室、2階が図書館となっています。1階の部屋は図書館でおはなし会をするときの会場になりますが、住民のサークル活動などにも使われているようです。
2階の図書館エリアは、足立区立図書館の中でも1,2を争う小規模な図書館です。足立区には、産業情報室など、図書館以外で図書館カードを使って本を借りられる施設がありますが、それを除いた「○○図書館」の中でも小規模で、数字上では最も面積が小さい新田コミュニティ図書館よりも宮城コミュニティ図書館の方が小さい印象を受けます。図書館の面積には、利用者が入れない事務所部分も含まれるので、利用者が入れる部分だけでいうと実際に宮城コミュニティ図書館の方が狭いのかもしれません。また、棚と棚の間が狭いのも、図書館を狭く感じさせる要因だと思います。
配置としては、階段・エレベーターからみて右先にカウンターがあり、そこから右にぐるっと折り返すようにして書架が伸びています。カウンターに一番近いところが絵本コーナー、その奥に児童読み物、児童向けちしきの本、ティーンズコーナーがあり、その更に奥が一般書架です。新聞は絵本と児童読み物の間にある棚に、児童向けは新聞ラックの裏側に、それ以外の雑誌は一般書架向かって右の区画にあります。一般書架の左奥には、閲覧室があります。CD・DVDなどの視聴覚資料はなし。設備としては、カウンター向かって右に、ネット閲覧PCが1台、検索機が1台あります。
図書館の面積が小さいと書きましたが、それが児童エリアの本棚にもあらわれています。絵本は大人用の高さの棚に入っているので、下の段はともかく、一番上の段は絵本を読む年齢のお子さんが自分で本を選ぶには高すぎます。こういう棚だと、大人が子どもに読ませたい本を選んでしまいがちになりますが、何冊かとってあげてその中から選んでもらうなど、お子さんが自ら絵本を選ぶ経験ができるよう心掛けたいです。
また、児童読み物やちしきの本が入っている棚も間隔が狭く、「ぎっしり本が並んでいる」感が強い印象です。絵本がある辺りに児童用の机があるし、絵本を広げて読める絨毯敷きの靴脱ぎスペースもあるので、絵本も読み物も、気になったものを棚からピックアップして、読む場所でじっくり読むといいと思います。絵本は、児童読み物側を向いたブックカートに、足立区立図書館からのお薦め絵本をあつめた「あだちおすすめえほん」コーナーがあるので、どの絵本を選んだらいいか迷ってしまうときにはそちらもどうぞ。
ティーンズコーナーにも絵本があり、中高生はもちろん大人にもお薦めの絵本が並んでいます。例えば、京極夏彦がおはなし作者となった妖怪えほんや、社会問題を描いた本など。大人向けの内容の本も、絵と合わせて絵本にすることで、想像力が刺激されたり、頭で理解するだけでなくビジュアル記憶に残るものになったりします。
一般書架も棚と棚の間隔が狭く、児童読み物に増してぎっしり感がある印象です。実際、自分の見たい本の前に別の人が立っていると、無理して一緒に見ようとするより、その人が移動するまで待った方がいいと思うくらい。気のせいかもしれませんが、棚の整理をする職員さんの利用者の動作への配慮(棚を見たいそぶりの利用者がいると、すぐにどいてくれる)も、他の図書館より反応がいい気がします。
一般書架の中で雑誌コーナーに面した棚には、ビジネス支援コーナーがあります。ビジネスと一言で言ってもその範囲は広いですが、宮城コミュニティ図書館のビジネス支援コーナーは、パソコン、経営訓、起業、仕事ガイド、資格ガイド、開店・開業の本を集めたコーナーです。このうち、パソコン関連と仕事ガイド・資格ガイドは、全部の本がここに集まっていますが、経営訓、起業、開店・開業についての本は一般書架の各分類の中にもあるので、このコーナーにいい本がなかったら一般書架も探してみてください。
一般書架でぜひ見て欲しいのが、向かって左にある、屋外階段への扉脇の棚。外国小説の文庫本の棚の側面に、「図書館にきた鳥」と題して、シジュウカラとメジロの写真が貼ってあるんです。想像するに、これらの鳥が来るのがとても稀なら、タイミングよく写真を撮るのも難しいはず。二つの川に挟まれた地域で、図書館の西隣に気に囲まれた広場があることも加味すると、よく鳥が来る場所なのではないかと思います。図書館の行き帰りに少し周りに注意して歩けば、こうした野鳥を実際に見ることができるかもしれません。
一般書架奥の閲覧室は、小さい部屋に机4つ(席としては19席)、ソファ1つがある空間。隣の席が近すぎて、全部の席が埋まったら、ものを書くのに隣の人と肘がぶつかること必至なくらいなので、現実的に机に座れるのは10人程度だと思います。そんな小規模な閲覧室ですが、防寒対策として自由に使えるひざ掛けが用意されていたり、持参パソコンが使える優先席も3席あり(但し、電源は使えません)。人の出入りが多い図書館と比べて静かに本を読めるというメリットもあり、地域の人のための穴場読書スポットという感じです。
足立区立図書館では、各館でテーマを決めており、その関連本を多く所蔵しています。といっても、棚を見て確かに力を入れているなと感じる図書館もあれば、テーマをやめてしまったのかなと思える図書館もあり、注力の度合いは館によってばらばらです。宮城コミュニティ図書館のテーマは「ハーレクイン」で、奥の閲覧室の入口に向かって左の壁にハーレクインコーナーがあります。
このテーマは独特で、例えばやよい図書館のテーマは「詩」、鹿浜図書館のテーマは「伝記」といったように、他の図書館のテーマはジャンルなのですが、宮城コミュニティ図書館だけはなぜか特定の出版社です。何でこのテーマになったのか、知っている人がいたらぜひ教えてください。
このコーナー、特色テーマでありながら一般書架の隅にあるのですが、ハーレクインの場合、それも配慮に思えたりして。こう言っては失礼かもしれませんが、正々堂々と好きだとは言いづらいような恋愛ロマンスというジャンルだからこそ、あえて人目を忍ぶ場所に置いてくれているのかも。密かにロマンスに浸りたい人も、安心していらしてください(笑)。
さて、このように小さな宮城コミュニティ図書館ですが、図書館としての歴史を振り返ると、足立区の図書館の中で一番古い図書館となります。詳しくいうと、宮城コミュニティ図書館が足立区の3館目の図書館として開設されたのが1962(昭和37)年2月。それ以前に梅島図書館と千住図書館が開設されていましたが、梅島図書館は、1969(昭和44)年に廃館&グレードアップして当時の中央図書館になり、千住図書館は2000年に廃館になってしまったので、図書館として継続しているものの中では宮城コミュニティ図書館が一番古いんです。
そうやって歴史を振り返ると、この小さな図書館が、後から開設された図書館に規模や設備で追い越されてしまった気もして、応援したくなってきます。実際、他の足立区立図書館にはないメリットもあるんです。足立区立図書館は返却期限が貸出日の14開館日後なのですが、他の図書館は休館日が月2回のところ、宮城コミュニティ図書館は毎週月曜と月末日が休みで休館日が多い分、返却期限が少し長くなります。休館日が多いのはデメリットではありますが、その分のリターンもあるかたちになっています。
私自身、現在のように館数も所蔵資料も多い図書館の状況を当たり前と思って利用していますが、昔は小規模でも図書館が近くにあるだけでありがたがられていたはず。古くて小さな宮城コミュニティ図書館にいると、そうした時代を想像してしまいます。