新宿区立中央図書館区役所内分室さんぽ まちの本を街なかで読む
今日は新宿区立中央図書館区役所内分室へ。ここは当サイトを始めた2005年頃に一度行ったきりなので20年ぶり、分室はおろか、歌舞伎町もかなりご無沙汰である。多摩市に実家の住んでいた頃は映画を見に来たりしていたが、江東区民の今はすっかり足を運ぶ機会のない場所となってしまった。
新宿三丁目駅を降りて靖国通りの北側の歩道を進むと、屋台がずらっと並び、道行く人の中には熊手を持っている人もちらほら。巻き込まれてから気付いたが、この日は花園神社酉の市の三の酉前夜祭にあたる日とのこと。寄ってみたら面白いかもしれないが今日はダメ、というのも酉の市の人混みに阻まれているのが16時少し前、分室は17時で閉まってしまうのである。こういうときはあせらず人波に合わせて屋台を覗きながら少しずつ進んで、16時ちょうどに区役所に着く。
区役所1階の一角にある区役所内分室は、ざっくり言って8割が行政資料、2割が地域資料、新聞雑誌がほんの少し、という蔵書構成。地域のお祭りの人波のなか歩いてきたので地域資料を読むかと、入って右方の棚に行く。あと1時間しかないし写真集でもと手に取ったのが『目で見る新宿区の100年』。このうんざりするくらい人がいる新宿が、明治維新の頃には誰も住んでいない武家屋敷が並ぶ寂れた場所だったなんて、写真を目にしても何だか信じられない。明治維新は概ね150年前、今から150年後には全く別の場所が繁華街になって、この新宿が「往年の繁華街」的な場所になっている可能性もあるのかも…。
この本を読むに、関東大震災のとき、日本橋から銀座あたりは火災で全滅したのに対し、新宿駅周辺は建物の倒壊こそあったものの火災がなくて店舗がそのまま営業できた、それが有利に働いて発展したとのこと。その後、戦時の空襲で大きな被害を受けたが、そこからまた復興していく。写真の印象では、昭和30年代前半までは新宿駅も低い建物ばかり、前川國男設計・昭和22年竣工の紀伊國屋書店は木造2階建てで、キャプションには「モダンな店舗」と書いてあるが、令和の私の感覚としては「こじんまりしていて可愛い」というたたずまいである。30年代末の写真から高い建物がちらほら写るようになり、今では東京で一番といってもいいほどの繁華街になったというわけか。外からみたら私は新宿区役所の片隅で本を開いているだけだが、脳内で時間旅行をしている気分。
ついついこの歌舞伎町・新宿駅周辺の写真にばかり目が行ってしまうが、目白文化村、下落合御屋敷も新宿区。神宮外苑が新宿区というのは、この本で初めて知った(神宮外苑は正確には、新宿区と港区をまたがっている)。図書館巡りをしていても、新宿区は場所によって全然雰囲気が違って楽しい。コリアンタウンをはじめ国際色豊かなお店が集まる立地の大久保図書館、夏目漱石ゆかりの地や早稲田大学に近い鶴巻図書館、閑静な住宅地の中にある西落合図書館、新宿御苑を見下ろせる四谷図書館…。どこもしばらくご無沙汰しているので、また回ってみよう。
閉館まで15分、もう1冊くらい読もうと向かい合わせの棚を見ていて目に留まったのが『東京人』2010.2 No.278 特集 新宿を楽しむ本。『目で見る~』が「写真を中心にした資料」的な意味合いが強いのに対し、こちらは新宿にゆかりのある人が思い出・思い入れを語っていて、その個人的な部分こそが面白い。
高校時代を新宿区在住・在学で過ごした伊東四朗と神楽坂に長く住む加賀まりこの対談、伊東四朗が「驚くことに神宮外苑も新宿区だ」と言うのを読んで、そう、私もついさっき知ったんだよと勝手に親近感を抱く。小学生のとき学校の先生に「新宿区は犬の形をしている」という話をされたという泉麻人の文章には、犬か、私にとってはサイなんだよなと思う。当サイトの新宿区の図書館MAPを見るたびに、西落合の部分がサイの角にしか見えなくて。
…とこの辺で閉館時刻になり、今日のところは退散。ここで地域資料を読んでいると、図書館で読んでいるのではなく、現場(街なか)で読んでいるという感覚で面白い。