書き出しで選ぶ一冊。

―2014年10月1日から11月9日までの企画
visit:2014/10/22
§ 中身が見えず、書き出しだけで本を選ぶ企画

私が直近で読んだ小説の書き出しは、「小説は冒頭の一文が何より肝心だ」というもの。確かに、印象に残っている書き出しは読み終わってしばらく経っても覚えているし、本を選ぶ際に最初の1ページで決めてしまうことがある。それだけ書き出しが重要ということなのでしょう。そうした書き出しだけで本を選ぶ「書き出しで選ぶ一冊」とぃう企画を、2014年10月1日から11月9日まで秋の読書週間にからめて墨田区立東駒形コミュニティ会館図書室で実施しており、私も見に行ってきました。

1階カウンター前の展示台を見ると、カバーに包まれた本が並んでおり、そのカバーに書き出しの文章を印刷したものが貼ってあります。通常なら本のカバーは表紙の端で中に折り込んで本が開けるようにするものですが、ここでは小口まで覆ってテープで留めてあります。つまり、中身が開けないようになっており、タイトルも著者名も全くわかりません。カバーに貼られた書き出しだけで本を選び、貸出手続きをしてから開いて初めて誰が書いた何という本なのかがわかるというわけです。

こうした企画は他の図書館や書店でも実施されており、実は冒頭の「小説は冒頭の一文が何より肝心だ」という書き出しも、渋谷区立富ヶ谷図書館の同様の企画「やみぼんカバー」で私が借りてきた本です。『二流小説家』というこの物語は小説家が主人公で、そう知ってて読めば主人公が自身の哲学を語っているとわかりますが、書き出しだけを示されるとそこからいろんな展開がありえるし、想像が膨らみます。

私がいろいろ説明するより、実際に展示コーナーにあった書き出しを挙げた方がわかりやすいでしょう。以下、私がメモしてきたものをお披露目します。

血の繋がっていない、赤の他人が瓜二つ。
きりこは、ぶすである。
たったの「一球」が人生を変えてしまうとこなんてありうるのだろうか。「一瞬」といいかえてもいい。それは真夏の出来事だった。夏でなければ起きなかったかもしれない。
この物語はきみが読んできた全部の物語の続編だ。
ああ、これだね、ここだったね。
半年前から、玄関で寝ている。
はじめてウンコに触ったのは、小学校3年生のときでした。
とどきますか、とどきません。
気持ちわるいと思っていたものが、こんなにおいしいなんて!?セミや毛虫を食べるたび、見た目と味のギャップに笑いがこみあげてきます。
とうとう開いてしまいましたね。あなたが今開いたのは、異界への扉です。
えたいの知れない不吉な塊が私の心を終始おさえつけていた。
気がついたとき、熊は頭をおさえてすわっていた。
さて、今回の、エッセイでは、まず私は離婚の報告をしなくてはならない。
八月のある日、男が一人、行方不明になった。

どうでしょう、気になる書き出しがありませんか。私もいくつか気になる書き出しがあって借りたいところですが、残念ながら多摩市在住・在勤の私は墨田区立図書館の利用登録要件からは外れているのです。この記事を書くためにひたすら書き出しをスマホに入力し、結局何も借りなかった私は、職員さんから見たらさぞ怪しかっただろうと思います(笑)。

この企画では、カバーに使っている用紙や書き出しを印刷したフォントが本によって違っており、それが中身の雰囲気にも関係ありそう。例えば、「とうとう開いてしまいましたね。あなたが今開いたのは、異界への扉です。」は、書き出しを印刷した紙を滴る血のようなかたちに切り取ってカバーに貼ってあるので、ファンタジーよりはホラーの可能性が高いのかな、とか。

この手の企画は、どの本もなるべく均一にして書き出しだけで選ぶようにするやり方もあれば、この企画のように包装の外観で中身を空想させるようにするやり方もある。どちらもそれぞれ楽しみがあります。

§ 包装や展示の仕方にも一工夫あり

また、展示の仕方として上手だと思ったのが、表紙部分に書き出しを貼っているのに加えて、書き出しを細長い縦書きにして印刷したものを本の背にも貼っていること。これによって、本棚に差すのと同じ向きで展示することができ、展示コーナーに並べられる冊数が面陳だけの場合より増やせるのです。

本の福袋企画(テーマに沿って複数冊選んだ本を袋に入れて、中身が見えない状態で貸出する)もそうなのですが、中身がわからないからこそ自分の好みに合うものを選びたくて、そうなると選択肢はたくさん欲しい。この「書き出しで選ぶ一冊」は小さな台の上を使った企画なのですが、30冊以上はあったと思います。

このアイデアを使ったフェアが評判を呼んだ紀伊國屋書店新宿本店の「ほんのまくら」が、表紙の裏表に書き出しを印刷したカバーだったので、同類の企画も書き出しを表紙に記すパターンが多いのですが、東駒形コミュニティ会館図書室の「本の背に書き出しを貼る」というやり方はナイスアイデア。小さい図書室で展示台が小さいからこそ生まれたアイデアなのかもしれません。

もし私が借りられるとしたら、「血の繋がっていない、赤の他人が瓜二つ。」か「この物語はきみが読んできた全部の物語の続編だ。」かな。でも、「半年前から、玄関で寝ている。」もどういうわけでそうなのか知りたいし、いやあ、本当にどれも気になります。墨田区の皆さん、私の分まで書き出しでの本選びを楽しんでください。