荒川区立日暮里図書館
荒川区立日暮里図書館 訪問記
荒川区立日暮里図書館は、日暮里駅と三河島駅の間にある図書館で、ハングルの資料が充実しています。吉村昭氏の生家が近いことから、「吉村昭コーナー」も設置されています。
日暮里図書館は、日暮里駅と三河島駅の間の住宅や事務所が密集している地域にあります。位置としては日暮里駅と三河島駅を結んだ線上にあるかたちで、どちらからも徒歩10分程度で行けます。
建物が密集している路地の中にある日暮里図書館ですが、少し南へ行けば繊維街があったり、後述するように作家・吉村昭氏の生家が近かったり、プロ野球の森本稀哲選手のご実家の焼肉屋さん(現在は閉店してしまったそうです)があったりと、町歩きすると面白い場所です。在日韓国人・朝鮮人の方々が多く住む地域であることから韓国料理店や焼肉屋さんも多く、そうした料理が好きな人は、図書館への道のりでついついお店をチェックしてしまうのでは。図書館帰りにそうしたお店に寄ることも考えて、お腹を空かせておくとちょうどいいかもしれません(笑)。
日暮里図書館は地下1階から2階までの建物です。1階入口は路面よりやや高い位置にありますが、入口手前の階段のほか、東側のスロープからも上がれるので、車椅子の方も入れます。各階の配置は、1階が一般図書、新聞・雑誌コーナー、ティーンズコーナー、地下は全体が児童エリア、2階が閲覧室と吉村昭コーナーになっています。貸出カウンターは、1階にも地下にも設置されています。一般書架内に椅子がほとんどないので、棚からあれこれ本を取り出していろいろ読んでみたいときにはやや不便ですが、シンプルでわかりやすい配置です。
1階は入口を入ったところから左右に分かれており、右側に地域資料コーナー、更に右に進むと新聞・雑誌コーナーとティーンズコーナー、左側にカウンター、CDコーナー、一般書架があります。
無線LANコーナーには、デスクトップのネット閲覧PCが4台あるほか、カウンター申込することで利用者持参のノートPCを館内無線LANにつなげてネット接続することもできます(1回1時間、1回のみ延長可能)。利用の際には、荒川区立図書館カードをカウンターに預けることになるので、初めて利用する人は、まず荒川区立図書館カードを作ってください(居住地が荒川区以外でも作れます)。
地域資料コーナーで目を引くのが、天皇陛下(今上天皇)が日暮里図書館2階の吉村昭コーナーをご覧になっているお写真。何と、この古びた地域図書館に、2013年6月11日天皇陛下がいらしたというのですから驚きですが、それくらい吉村昭氏の功績が認められているということですね。その隣には、荒川区出身のオリンピック金メダリスト、北島康介選手がアテネオリンピックの際に発した「何も言えねえ」を受けて、皇后美智子さまが詠んだ歌も掲示しています。ちなみに、北島選手ご実家の精肉店は、日暮里図書館から三河島駅を越えてさらに北に行った辺り。道のりのところで、韓国料理屋や焼肉屋の話を書きましたが、北島商店のコロッケも日暮里名物の一つです。
南側の壁には日暮里付近の手描きマップを掲示しているので、それを手掛かりに谷根千散歩を楽しむのもいいですね。谷根千(谷中・根津・千駄木)は日暮里より南の一帯で、日暮里図書館からも十分歩いていける距離。日暮里図書館の地域資料の棚にも、地域雑誌「谷根千」のバックナンバーを製本したものが置いてあります。その他、加太こうじ、牧野徑太郎、吉村武夫、木村伊兵衛などの荒川区ゆかりの人の著作物も多数揃っているので、棚を見ていると「この人も荒川区ゆかりなんだ」という発見があります。
一般書架は、棚と棚の間がそれほど広くなく(かといって、狭苦しいというほどでもない)、棚の上から下までぎっしり本が並んでいる印象です。図書館なのであらゆるジャンルを網羅していますが、中でもビジネス関連書籍は、図書館で一般的に使われている日本十進分類法による分類ではなく、荒川区独自の分類をしています。ちょっと長くなりますが、分類項目を挙げると以下の通り。
W1 仕事の技術 ― 技術・交渉・企画
W2 コーチング ― 人材育成・職場教育
W3 働く女性 ― 婦人労働・子育て支援
W4 会社情報 ― 会社データ
W5 マニュアルをどうぞ ― 労働条件・職業紹介・雇用
W6 変わることからはじめよう ― 転職
W7 働くって、どういうこと? ― 就職活動
W8 生涯現役 ― 定年退職
W9 仕事に悩んだら ― 労働衛生
W10 ビジネス外国語 ― ビジネス外国語会話・外国人労働
W11 IT戦略 ― PC関係
W12 マネジメント基本 ― 経営分析・人材管理・財務管理・法律
W13 経営最前線 ― 経営論
W14 マーケティング ― 集客・統計
W15 顧客志向 ― 営業・接客
W16 起業するは我にあり ― 起業・非営利団体
W17 現場でたたかう ― 会議・経理
W18 小よく大を制す ― 中小企業
W19 地元の魂 ― 荒川区地域
W20 この人に聞け ― 自己啓発・ブックガイド
これらの分類をもとに、働くうえで実際に直面するできごとに合った本を選べます。
日本の小説・エッセイは一緒にして、著者姓名の五十音順で並んでいます。但し、複数の著者による作品集は、タイトル名を元に五十音順の並びに入れられています。例えば、青島幸男(アオシマ ユキオ)が書いたの本の次に、10人の作家による『青に捧げる悪夢』(アオニササゲルアクム)という小説集が並び、その次に碧野圭(アオノ ケイ)が書いた本がある、といった並びになります。外国の小説は、国別分類などはなく“外国小説”でひとまとめにして、著者姓名の五十音順に並んでいます。
また、日暮里図書館の資料の特徴は、何と言っても外国語図書。道のりで説明したように、この付近には在日韓国・朝鮮人の住民が多いことから、ハングルの資料が充実しています。図書館の外国語資料というと一般的には英語資料が多いですが、日暮里図書館の場合は、棚の占有容積を見る限り、英語:ハングル:中国語が5:20:1という割合。また、一般書架の中の在日外国人関連図書も多いように思います。外国語雑誌のうち、ハングル雑誌は雑誌コーナーではなく、外国語図書コーナーにあるのでご注意ください。
棚を見ていて感じた素朴な疑問ですが、ハングルで書かれた小説が著者名の五十音順に並んでいるのは、韓国語読者にとっては探しやすいのかどうなんでしょう。私自身がハングルが読めないのでわからないのですが。ハングルや中国語で書かれた小説には、その邦題ラベルが貼られているので、ハングル・中国語の勉強をしている人にも便利です。
ちなみに、都内でハングル図書が多い公立図書館といえば、日暮里図書館のほかに、新宿区大久保図書館があります。大久保図書館には韓国語がわかる職員さんがいて、韓国語によるおはなし会や、韓国語での調べもの相談も受けつけています。こうした公立図書館の外国語サービスも年々充実しているので、ぜひご利用ください。
1階には机席が1つしかないので、机で本を読みたい場合は2階の閲覧室を使うことになります。閲覧室には、片側2人ずつ、合わせて4人で向かい合って座るタイプの大きな机が並んでおり、座席数は合わせて58席。この座席を利用するには1階カウンターへの申し込みが必要で、図書館カードと引き換えに席札をもらい、札に書かれた番号の座席を利用する方式です。座席は選ばせてもらえませんが、空いているときは他の人と一緒にならないように席を割り当ててくれます。
新聞・雑誌コーナーの奥にあるティーンズコーナーは、地味な日暮里図書館にあって、際立って明るい雰囲気です(笑)。「ティーンズコーナー」といっても、そばに女性誌や生活情報雑誌の棚もあるし、高齢者などの優先席もあるので、年齢にこだわらず利用できる雰囲気です。
ティーンズコーナーに多数ある漫画も、老若男女を問わず人気のコーナー。日暮里図書館所蔵の漫画は、内容によってこのティーンズコーナーと児童フロアの2箇所に分けておいてあります。ティーンズコーナーに置いてあるのは、『花ざかりの君たちへ』『火の鳥』『キラメキ☆銀河町商店街』『銀河鉄道999』などで、児童コーナーに置いてあるのは、『ちびまる子ちゃん』『ヒカルの碁』『ドラゴンボール』『あさきゆめみし』などです。
荒川区ではティーンズ向け広報誌を数種類発行していて、「図書館員の太鼓ボン」はしっかりした印刷・製本でたくさんの本を紹介してくれる冊子、その名の通り1枚の小さなチラシでさらっとお薦め本を紹介している「ぺら」、調べものの方法を教えてくれるパスファインダーシリーズ「MOTTECO☆」と、それぞれ異なる情報を配布しています。パスファインダーとは、「自立」「仕事」「部活」「地震に備える」などのテーマで、それについて調べる場合には図書館のどんな資料を使えばいいかを示してくれるガイドで、中高生だけでなく大人にも参考になります。
また、荒川区立図書館の公式ホームページの中高生向けページには、掲示板もあり、「こんな本がありますか」という書き込みに職員さんが答えてくれるので、それらも使っていろんな本と出会えます。
地下の児童コーナーへ向かおうとすると、地下への階段の壁に11ぴきのねこなどのイラストが飾られていて、絵本の世界に向かうような気分になります。日暮里図書館の前が幼稚園で、幼稚園が終わった時間帯は児童エリアが大賑わい。お子さんが小さくて静かにしていられないと、図書館に連れてくるのも気が引けるという人も多いですが、日暮里図書館のように児童エリアが完全に別フロアになっていると、気兼ねなく連れて来られます。
児童エリアに入ると、手前左に絨毯敷きの靴脱ぎスペースがあり、その奥に紙芝居や絵本、その右に児童読み物やちしきの本が並んでいます。カウンターは入って右にあり、カウンター向かって左には、専用の図書館通帳に読書履歴を印刷できる図書館通帳機もあります。
日暮里図書館の児童エリアでユニークなのは、紙芝居の棚の上にある「育児応援コーナー」です。育児コーナーを設置すること自体は、他の図書館でもしていますが、そうしたコーナーにあるのは一般的には育児書、離乳食のレシピ本、赤ちゃん服の裁縫本など、ストレートに育児に役立つ本です。一方、日暮里図書館の育児応援コーナーは、マザーズハローワーク日暮里の紹介ポスターや、区が行っている子育て女性向けのお仕事相談のチラシ、女性向けを中心としたビジネス本など、仕事と育児の両立をサポートする情報を置いているんです。
「育児応援コーナー」ではもう一つ、例えばハイキングの本など、育児に直接関係はないけど、お子さんとの暮らしに役立つ特集を、期間入替でしています。育児と仕事の両立に関する情報も、一見育児とは離れた特集も、置いてある本自体を紹介するだけでなく、意識が育児だけに行き過ぎてストレスになったりしないよう、視野を広く持ってねというメッセージのように感じます。
また、日暮里らしさを感じるのは、ハングル絵本や児童読み物の多さ。外国語絵本としては、ハングルだけでなく、英語や中国語も多数揃えているのですが、ハングル資料はそれに加えて、児童読み物やちしきの本も充実しています。
児童読み物は、対象年齢によって「ようねんどうわ」と「よみもの」に分かれています。ちしきの本で何だろうと思ったのは、地域資料、つまり東京都や荒川区についての本が分類されているところに、「伊豆・清里」という項目があること。調べてみると、荒川区は下田に臨海学園、清里に移動教室に使う少年自然の家を持っているんですね。臨海学校・移動教室に行く前に、行く先のことを調べるのに使えます。
もう一つ、ちしきの本が並ぶ棚を見て気付いたのは、昆虫や甲殻類の本に関する見出しが細かいこと。具体的には「48.3 みみず・くらげ」「48.4 貝・かたつむり」「48.5 くも・えび・かに」「48.6 昆虫(むし)」「48.6 セミ・とんぼ」「48.6 はち・アリ」「48.6 かぶとむし・くわがた」「48.6 チョウ」「48.7 さかな・カエル・カメ」「48.7 カエル」「48.7 かめ」「48.7 ヘビ・トカゲ・ワニ」という見出しで、大人向けの昆虫の本棚より細かいです。図書館の分類は、大人向けを細かく、児童向けを大まかに、という単純な話ではない。子どもの関心に対応した分類をしてくれています。
さて、訪問記のトリとして紹介したいのが、天皇陛下もいらした「吉村昭コーナー」。吉村氏は荒川区日暮里生まれ、しかも現在日暮里図書館が建っている場所から小路を隔てたほぼ真ん前に、生まれ育った家があったのだそうです。まさに、地元の中の地元というかたちですね。
展示内容は、吉村氏の年譜が掲示されていたり、著作が並んでいるのはもちろんのこと、小さい頃の写真や愛用品、直筆原稿などいろいろ。棚に並ぶ著作は、閲覧のみとなっているものもあるし貸出可能なものもあるので、それぞれタイプに合わせてご利用ください。また、右奥には奥様の津村節子氏の著作も並んでいます。
このコーナーは吉村氏が区民栄誉賞を受賞したことをきっかけに設置されており、設置に際して吉村氏と日暮里図書館が交わしたやりとりも垣間見えるのが面白いです。展示では、生家の詳しい場所を説明するのに吉村氏が日暮里図書館宛に送ったFAXが展示されており、それを見ていると吉村氏本人から生家の場所を説明してもらっている気分になります。それにしても、公立図書館で地域にゆかりのある文学者の資料を集めるのはよくあることですが、日暮里図書館と吉村さんほどゆかりの場所と図書館自体が近い例は、なかなかないのではないでしょうか。
もう一つ私が興味を惹かれたのが、『うえの』という雑誌に吉村氏が寄稿した「日暮里図書館と私」という文章。日暮里図書館に吉村昭コーナーができたことについての文章なのですが、もともと作家自身があまり目立つべきではないとお考えだったようで、一図書館に自分のコーナーができたところで、大して注目を浴びないだろうとたかをくくってようなんです。そしたら、思いのほか文章を頼まれてしまってどうしよう、みたいな内容なんです。吉村氏の人柄が表れているようで、微笑ましい気分になります。
ちなみに、吉村氏に関しては、荒川2丁目に図書館・吉村昭記念文学館・子ども施設の複合施設が2016(平成28)年度に開設される予定があります。吉村氏の記念文学館ができるのは嬉しいことですが、開設された後に日暮里図書館の吉村昭コーナーがどうなるのか心配。2013年11月に日暮里図書館の職員さんに聞いてみたら、文学館開設後に2階の吉村昭コーナーをどうするかはまだ決まっていないとのことでしたが、ゆかりの場所への近さは記念文学館にはない特徴なので残してほしいなあ。日暮里図書館さん、その点、ぜひよろしくお願いします!
荒川区立日暮里図書館 特集・行事・図書館だより感想記
荒川区立日暮里図書館 データ
住所 | 東京都荒川区東日暮里6-38-4 →Google Mapで見る | ||||
Tel | 03-3803-1645 | ||||
開館時間 |
臨時開館日とは、夏休みの終わり頃などに本来休館日である月曜を臨時に開館してくれる日です | ||||
定休日 | 月曜(祝日は開館し、翌日休館) 第3木曜(祝日は開館) 12月29日~1月4日 | ||||
最寄駅 |
日暮里舎人ライナー 日暮里駅から徒歩7分
日暮里舎人ライナー 西日暮里駅から徒歩12分
東京メトロ千代田線 西日暮里駅から徒歩14分
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駐輪場 | 建物の東側(入口向かって右)に駐輪場あり 2017/09/20に確認
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駐車場 | なし 2017/09/20に確認
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所蔵資料 | |||||
図書所蔵数 | 99,136冊 2023/03/31現在、出典『荒川区の図書館 令和5年』 | ||||
CD所蔵数 | 6,031点 2023/03/31現在、出典『荒川区の図書館 令和5年』 | ||||
カセット所蔵数 | なし 2023/03/31現在、出典『荒川区の図書館 令和5年』 | ||||
DVD所蔵数 | なし 2023/03/31現在、出典『荒川区の図書館 令和5年』 | ||||
ビデオ所蔵数 | なし 2023/03/31現在、出典『荒川区の図書館 令和5年』 | ||||
設備 | |||||
ブックポスト | 建物入口向かって右に、上部が白、下部が水色の箱型ブックポストあり。開館中の使用は不可。閉館時は格子状のシャッターが降り、その中にブックポストが置かれ、シャッターの隙間からブックポストへ投函するかたちになります。 2017/09/21に確認
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自動貸出機 | なし 2017/08/20に確認
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自動返却機 | なし 2017/08/20に確認
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セルフ予約受取 | なし 2017/08/20に確認
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音声試聴設備 | なし | ||||
映像視聴設備 | なし 2017/09/20に確認
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ネット閲覧PC | ネット閲覧PC4台あり。利用は1回1時間、次の予約がなければもう1時間だけ延長可能。 | ||||
持参PC利用 | 無線LANコーナー(2席)で持参PCの利用可能。利用時間は1回1時間、次の予約がなければもう1時間だけ延長可能。 | ||||
飲食設備等 | 蓋付き容器(ペットボトル・水筒など)の飲料に限り、館内での摂取可能。但し、机の上に置きっぱなしにするのは不可。 2017/09/20に確認
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その他設備 | 地下1階のカウンター向かって左に図書館通帳機あり |