「やみぼんカバー」~なかはひ・み・つ~
visit:2014/10/10
秋は読書の季節で、読書週間もあることから、公共図書館でもさまざまなイベントが開催されます。2014年秋、渋谷区立図書館では「ふしぎ」という共通テーマを掲げ、各館でテーマに沿ったイベントをそれぞれ実施しています。そうしたイベントの一つとして、富ヶ谷図書館で「やみぼんカバー」という企画が実施され、私も本との出会いを楽しんできました。
「やみぼん」とは「闇本」の意味で、「闇鍋」という言葉を連想していただければどんな企画か想像できるでしょうか。中身をわからない状態で本を貸出し、中身は開けてのお楽しみというもの。富ヶ谷図書館ではお正月の時期に本の福袋企画を行ったことがありますが、それに似ています。違いは、本の福袋企画が何冊か入った袋で貸出していたのに対し、今回のやみぼんカバーは1冊ずつの貸出であること。また、福袋は袋に書かれたテーマを手がかりに好きな袋を借りるものでしたが、今回のやみぼんカバーは本の書き出しを手がかりに借りるという点です。
企画開始日に富ヶ谷図書館に入ってみると、入口入ってすぐ右、普段は新着図書が並んでいる棚に、色紙でカバーがかけられた上に、文字が印刷された紙でくるまれた本が並んでいます。印刷されている文字を見ると、「女たちよ、覚悟せよ。ばあさんライフは、しんどいぞ。」「だからさあ、といくのが中野さんの口癖である。」といった文章になっており、それがその本の書き出し部分というわけ。その紙は糊付けされて輪になっているので本を開くことはできず、カバー掛けされているので表紙も見えない。まさに「闇本」です。
この「一部分だけの抜き出し」というのは、テーマで選ばれた福袋より中身の想像がつくようでいて、案外予想が外れたりするんですよね。以前、似たような企画で、江戸川区篠崎図書館がひと言選書というものを実施したことがあり、それは冒頭とは限らない本の中の一文だけで本を選ぶというものでした。そして、企画が終わった後に答え合わせと称して、どのひと言がどの本だったのかというリストを配布してくれたのですが、企業小説かと思っていたものが戦国歴史ものだったりして、意外な答えがたくさんあったんです。「やみぼんカバー」も少ない手がかりから自分の好みにあう本かどうかを推理するのが面白さ。
実際に展示コーナーに並んでいた書き出しをいくつか挙げてみます。
私の人生はこんなふうだ。テレビを見るのとまったく同じように、数秒おきに容赦なくチャンネルを変えてチェックする
きみは神経衰弱だから。
新婚なのに、家に帰りたくなくなった。
となり町との戦争がはじまる。
小説は冒頭の一文が何より肝心だ。
女たちよ、覚悟せよ。ばあさんライフは、しんどいぞ。
だからさあ、といくのが中野さんの口癖である。
おそらくはどれも小説だと思うのですが、それさえも確かではありません(そうだという説明はない)。仮に小説だとしても、笑える作品なのか深刻な作品なのか、恋愛ものなのか社会派小説なのか、これだけでは本当にわかりません。とはいえ、本の厚さやかたちがわかるので、実際にはそれもヒントになります。新書サイズで小口が黄色だからハヤカワ・ポケット・ミステリだろうなど、表紙の装丁から推理することもできますし。
いや、白状しましょう、実際に私はハヤカワ・ポケット・ミステリだとわかったうえで、左の写真「小説は冒頭の一文が何より肝心だ」を選んで借りてきました。中身がわからない企画を楽しむとしたら、全く見当がつかないものを選んだ方が面白いかなとも思ったのですが、ちょっと外国小説を読みたい気分だったので、確実に外国小説だとわかるこの本を選びました。ああ、冒険心が足りない私…(笑)。
ちなみに、展示コーナーにはカバーの色紙には赤と水色があるのですが、職員さんに聞いたところ、色は中身とは関係ないとのこと。また、私があまりに長い時間どれにするか迷っていたら、職員さんが話しかけてくださって、その際に「この書き出しってたぶん誰々さんの作品ですよね」と私の推理を披露したところ、ちょっとわからないとはぐらかされてしまいました。しかも、他の図書館に行ってこの作品だろうと思う本の書き出しを確認したところ、私の推理は間違っていました(笑)。よほど自信があるものではない限り、中身の推理は人に話さない方が無難ですね。
さて、借りてからのお楽しみ、中身を開けてみた結果がこの写真。デイヴィッド・ゴードン著『二流小説家』でした。小説家が主人公の作品で、彼の自説が書き出しだったんですね。この記事を書いている時点で既に読み終わったのですが、グロテスクな描写もあれど、表現とは何かなども考えさせられる推理小説で、とても面白かったです。富ヶ谷図書館さん、ありがとうございます。
この企画は2014年10月10日から11月16日までと1ヶ月以上開催しているので、闇本選びを楽しみたい方はぜひ。同様の企画で、2012年に紀伊國屋書店さんが行ったほんのまくらフェアというのがありましたが、中身がわからないものを「買う」よりも「借りる」ほうが気軽にできます。ほんのまくらフェアは、中身がわからないものだからあまり高額の本は避けたのでしょう、文庫文だけが対象でしたが、やみぼんカバーは単行本もありバラエティに富んでいます。少ない手がかりからの本選びを楽しんでください。