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渋谷のむかし話

渋谷区教育委員会 編集
§ お年寄りの記憶を集めた本

「むかし話」というと、「むかしむかしあるところに…」で始まるような遠い昔のおはなしを思い浮かべがちですが、この『渋谷のむかし話』は昔の渋谷の様子を知るお年寄りの方々に、記憶にある渋谷の姿や子どもの頃聞いた話を話していただき、それを渋谷区文化財調査委員・渋谷郷土研究会世話人である斎藤政雄氏がまとめたものです。

内容は、この辺にはこんな建物があった、こんな田んぼが川があったという話もあれば、どういう言葉が使われていたか、こんなことがあった、などなど雑多なのですが、そのごちゃごちゃな感じがかえってリアルなんです。出来事のはなしなども、話し手が大人になってからの話だと筋道もしっかりしていますが、話し手が子どもの頃に聞いた話だとぼんやりしていて、それはそれでリアルさが増している感じ。

タヌキに化かされた話や、市電を化け物がうなりながら追いかけてくるという噂が広まって捕まえてみたらカエルだったという話などは、今の渋谷からは想像できないと思いますが、私はこの本と一緒に『写真集 渋谷の昔と今』を借りたのでなるほど納得。写真集には本当にのどかな昔の渋谷の町が写っているんです。西原図書館で2013年の年始に行っていた本の福袋という企画で「渋谷の昔」というテーマの福袋を借りたらこれらの本が入っていて、一緒に読むことでより昔の渋谷が想像できました。西原図書館さん、ありがとうございます!

ちょっとした小話では、長谷戸小学校に泥棒が入った話なども面白かったな。戦後間もないころ、長谷戸小学校に入った泥棒が捕まったのですが、その泥棒が「自分は卒業生で恩師に会いにきたんだ」と言い訳をしたんですね。そこで警官が「お前はこの学校の卒業生か。それならこの学校の校名を言ってみろ!」というと泥棒が「長谷戸(はせど)小学校です」と答えたのですが、現在も恵比寿駅の近くにあるこの学校の名前は長谷戸(ながやと)小学校と言うんですね。本当の卒業生ならそれを知らないわけがないというわけで、連行されたという話。地元の人なら、あるあると頷いてしまう話ではないでしょうか。

また、明治の終わり頃から今の表参道あたりに移り住んだという「日本のラスプーチン」とよばれた男・飯野吉三郎の話なども興味深いし、元皇族の梨本伊都子、李方子にまつわる話なども掲載されています。この3人ともWikipediaに項目が立てられていますが、口づてに聞いた話のほうが人柄などがより伝わってくる感じで、印象が変わってきます。

渋谷って、10年前の写真さえ懐かしいものとなってしまうくらい変遷が激しい土地ですが、さらに遡るともっと面白いですよ。ほのぼのした話から不思議な話までいろいろあるので、自分好みのおはなしを拾って読んでいくのも楽しいと思います。2013年1月15日現在、10館ある渋谷区立図書館のうち8館で所蔵しているので、ぜひ来館したときにでも手にとってみてください。

<取り上げた資料>
渋谷のむかし話
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