トップ図書館訪問記今はない図書館 > 閉館前の葛飾区立新宿図書センター

閉館前の葛飾区立新宿図書センター

新宿図書センターは2017年9月30日を最後に閉館しました。その後、この場所に東京かつしか赤十字母子医療センターが開設され、その建物内にてにいじゅく地区図書館が2021年6月20日に開館しました。

以下は、閉館前の葛飾区立新宿図書センターの訪問記です。

閉館前の葛飾区立新宿図書センター 訪問記

last visit:2017/09/30
§ 図書館の場所

何も説明なく「新宿」という地名を見たら、多くの人が「しんじゅく」と思うでしょうが、葛飾区にある新宿は「にいじゅく」で、亀有駅と金町駅の中間付近の地名です。新宿図書センターの最寄り駅は京成金町駅ですが、京成金町駅はすぐそばに葛飾区中央図書館があり、金町駅を利用する人の多くは中央図書館を使うかな。位置としては、京成金町駅から20分ほど歩いた水戸街道沿い、JR貨物線の踏切のそばにあります。

そう、新宿図書センターに来るたびに、そばに踏切があるけど一度も電車が通っているのを見たことがないと思っていたら、貨物線の線路なんですね。線路に沿うようにして西に中川が流れており、私も自転車で来るときには中川沿いを通るのですが、東西を川に挟まれ、その中間にも川が通る葛飾区の水風景の多さを感じます。

§ 建物内の様子

新宿図書センターの建物は、葛飾区立中央図書館が2009年10月17日に開館するまで葛飾区の中央館だった「葛飾図書館」の建物です。だから、結構大きい建物なのですが、一般利用者が自由に入れるのは1階と3階のみ。昔は地下1階に食堂がありましたが今は閉店しており、地下に入ることはできません。また、2階は閉架の保存庫として使われています。図書館の資料やカウンターは全て1階にあり、3階は閲覧席だけがあるフロアです。また、4階には視覚障害者に対面朗読を行う部屋があります。

中央館だったくらいですから建物は大きく、大人用の机席も100席以上、それでいて蔵書数が少なく、来館者も少ない。これがいい穴場になっており、静かな空間での読書・勉強が目的で新宿図書センターに行く人もいるようです。新宿図書センターがこの建物での運営を終える少し前から行っていたありがとう新宿図書センターという企画で、寄せられたメッセージの中にそのような声がいくつかあって、なるほどそういう使い方があったかと気づきました。

§ 1階の様子

カウンターや本棚があり、新宿図書センターのメインといえる1階は、横長の建物の中央に入口があり、入口を入って右側にカウンターと新聞・雑誌コーナー、左側に一般書架、中高生コーナー、閲覧室があり、左奥から中央に折り返すように児童エリアが広がっています。面積的にも蔵書数も児童の方が多く、一般書と児童書の蔵書数の比率が1:2くらいです。

新聞・雑誌コーナーは、カウンターのある辺りと比べて、数段低くなっています。ここには、机席が1席と平らな椅子が17席あるのですが、新聞を広げて読むのに、椅子に座って隣の椅子に新聞を広げて読む、つまり2席を利用して新聞を読む人が多いので、実質的には17席もないといえます。ただ、そうやって読んでも咎められないほど利用者が少ないのも事実。蔵書数の少ない新宿図書センターに好んで来る人がいるのもわかります。

入口入って左側は、手前に閲覧室、その奥に一般書架、その奥にティーンズコーナーとCD、一番奥が児童エリアという配置です。一般書架は小さな空間に肩身狭く作られているようにも見えてしまいますが、それもそのはず、葛飾図書館時代は1階の左側全体が児童コーナーだったんです。新宿図書センターに変わる際に、2階の一般書架を保管書庫に改修し、1階の一画に後から一般書架と閲覧室を設置したので、やや取ってつけたような感じになっています。

こちらの左側も入口付近からは数段下がる作りになっていて(スロープがあるので、車椅子でも入れます)、この建物が建てられた頃の建築の流行りを感じます。最近の公共施設は、バリアフリーへの配慮からも、フラットな造りが多いように思いますが、この建物が建てられた1967(昭和42)年がフロアの高さの変化を趣向と捉えられる時代だったことの表れでしょう。建物の外観も、窓の外側をコンクリートが格子状に覆うデザインになっていて、私などはつい家事的視点で見て、掃除が大変そうと思ってしまうのですが、こちらにも当時のセンスを感じます。

新宿図書センターは蔵書数が10万冊以上で、数字上では立石図書館よりも多いのですが、1階の一般書架は中央図書館の分館にあたる地区図書館よりも冊数が少ないように感じます。それは2階の保管庫も含めた蔵書数だからでしょう。ワンフロアにたくさんの本が広がる中央図書館が迷子になりそうなくらいであるのに対して、いろいろなジャンルの本がコンパクトに並んでいるので、気軽に読む本を探すのには便利です。

一般書架のすぐ隣に閲覧室があるという造りも便利で、北側の壁沿いに1人ずつ仕切られた机が並び、その後ろに2人で使う長机が並んでいます。皆が北側を向くような席の配置で、部屋の出入口も皆の背後になり、他人の動きに煩わされずに集中しやすい造りです。

児童エリアは、一般書架と打って変わって広々とした空間。南側にはテラスもあり、私はタイミングが悪いのか一度も開放されているところに遭遇できなかったのですが、テラスに出て読書することもできるようです。中央窓際に靴脱ぎスペースがあり、そこに向かって左側が絵本とちしきの本、右側が児童読み物で、右側手前にはおはなし室があります。

絵本の棚上には絵本に登場するぬいぐるみがあちこち置いてあり、これは単なる飾りではなく、本の場所も示しているんです。例えば、ぐりとぐらのぬいぐるみは絵本のぐりとぐらシリーズが入っている棚の上に、ババールのぬいぐるみは絵本のババールシリーズが入っている棚の上にある、といったかたちで、ぬいぐるみが置いてある下の棚を見れば、そのキャラクターが登場する絵本が見つかります。どの絵本を読もうかなというときに、お子さんにぬいぐるみで選んでもらうのもいいですね。

§ 3階の閲覧室

2階は利用者が立ち入れない保管庫なので飛ばして、3階に話を移しましょう。3階の中央にフロアを貫く通路があり、その両側に部屋があるのですが、閲覧室は南側の部屋で、空間全体にただただ机が並んでいます。机は2人が横に並ぶ長机で、こちらも1階と同様に皆が同じ向きで座るようになっています。

席数にすると80席ありますが、3階まで上がる煩わしさもあってか、ほとんど人がいないのが大きなメリット。中央図書館の空席率の少なさを考えると、穴場以外の何物でもありません。時間に余裕があるなら、中央図書館の棚から本を借りて、少し歩いて新宿図書センターまで来て閲覧室で読書をすれば、たくさんの本の中から選べるメリットと、静かに読書をできるメリットの両方を受けることができます。

§ 地下にあった食堂

地下にあった食堂は、残念ながら2016年7月をもって閉店してしまいましたが、特徴的で地元の人に愛されていた食堂だったので、記録として当時の様子を書いておきます。

面積としてはフロアの一画を占めるかたちで、小さい食堂でしたが、財布に嬉しい価格でした。2011年の時点で、定番メニューの中では一番安いものが、かけそば・うどん230円、一番高いメニューでも、さしみ定食600円。定番のほかに季節のメニューもありました。食券制ですが、販売機で食券を買うのではなく、お姉さんから食券を買う、昭和の雰囲気漂う食堂でした。

この食堂の面白いところは、丼もののテイクアウトも可能、また、電話注文も可能だというところ。現に、平日のお昼に行ったら、図書館利用者というより、周辺の会社からお昼御飯を食べに来た風の人の方が多かったんです。「図書館の中で食事ができる」というより、「地元に人気のある食堂が、図書館の中にある」というのがふさわしい状態。私は唐揚げ定食を食べておいしかった記憶がありますが、新宿図書センターの閉鎖に伴うイベントありがとう新宿図書センターで、利用者から新宿図書センターへのメッセージを募集・展示したときには、親子丼、カレー、うどんと、具体的なメニューを挙げて思い出を書いたメッセージがいろいろあり、この食堂の人気をあらためて感じました。他の図書館の食堂とは一風変わったあの雰囲気、今はもう入れないのが残念です。

§ 葛飾区立図書館のあゆみが見える施設

知る人ぞ知る穴場である新宿図書センターですが、残念ながら2017年9月末日をもってこの建物での事業は終了します。その後、隣にある道路補修課・道路保全事務所とともに建物を取り壊して、両方の敷地を合わせた場所に、現在立石にある葛飾赤十字産院が移設され、その中に新宿図書センターも移設される予定です。この建物とのお別れとして、実際に閉館する少し前から、ありがとう新宿図書センターと冠して、いくつかのイベントを行っているのですが、私もこれによってこの建物が葛飾区立図書館の歴史を物語っていることを感じました。

この建物が「新しい葛飾図書館」として開館したのが、昭和42年4月。それまでは今の立石図書館の2世代前の建物が区内唯一の図書館として葛飾図書館を名乗っており、規模として1世代前の立石図書館の1/4だったそうなので、かなり小さい図書館だったと思いますが、そんな時代に平成の基準でも大きいと言える規模の図書館が開館したというのは、とても誇らしかったのではと想像します。「ありがとう新宿図書センター」に寄せられたメッセージにも、開館のときのワクワク感を書いたものがありました。今はカフェのある図書館のほうが流行っていますが、図書館に食堂があったのも、昔のニーズの表れと言えます。

その後、必要に応じて改修もしつつ事業を行ってきましたが、2009(平成21)年には中央館の役目を中央図書館に引き渡し、こちらの建物は新宿図書センターに生まれ変わりました。中央館が新しくできる際の旧館の扱いには、それまでの中央館を地域館として運営する、建物自体を取り壊してしまうなど、いろいろなケースがありますが、葛飾図書館の場合は、地域館ではなく中央図書館の分館とし、かつ、2階部分を大きな保存庫として使うことにしたのです。

地域館よりもグレードが低い中央図書館分館という扱いになったのは、中央図書館が近いのにここを地域館として残すと、この地域だけ図書館サービスが偏重している状態になってしまうためだと思いますが、単に規模を縮小するだけでなく、2階全体を保存庫にするという発想はとてもユニーク。図書館の書架を置く部分は、他の建物と比べて床の強度を強くしてあるので、別の用途に流用するにはもったいないのですが、そこを保存庫に使うというのは面白い発想で、少なくとも都内の図書館では同様のケースを知りません。

また、ここが来館者が少ない穴場だというのも、人気の高い中央図書館との比較でより一層感じます。ワンフロアに書架が広まり、平日は夜10時まで、年末年始も休まない図書館として、今や葛飾区民だけでなく隣接区や更に遠いところからも利用者が集まる図書館になっています。利便性が高くて、資料が充実している図書館ができたことで、葛飾区のイメージも上がったのではないでしょうか。そうやって新宿図書センターを振り返ると、葛飾区立図書館のあゆみが見えてきます。

この先の新宿図書センターについては、移転建て替えに関する葛飾赤十字産院からの情報によると、割り当てられる延床面積が約250平米だそう。葛飾区立図書館で譬えると、四つ木地区図書館が230平米で、それより少し大きい程度の小規模図書館になりそうです。

産院のなかの図書館というのも都内には他になく、近い例を挙げれば、台東区が保健所に設置しているすこやかとしょしつが、「保健所に検診や相談に訪れる親子が気軽に絵本を手に取れるコーナー」というコンセプトのユニークな施設です。葛飾赤十字産院には婦人科もありますし、施設の特徴にあった資料を揃えるにしても、すこやかとしょしつとは違うかたちになるのかもしれません。葛飾区立図書館の歴史を担ってきた新宿図書センターに、お疲れさま、ありがとうと感謝しつつ、新しい新宿図書センターも楽しみにしています。

閉館前の葛飾区立新宿図書センター 特集・行事・図書館だより感想記

  ありがとう新宿図書センター
―2017年7月28日から9月30日までのイベント
旧「葛飾図書館」として設立され、中央図書館に中央の任務を引き渡してからは、「新宿図書センター」として長い間使われていた図書館が、建替えのため2017年10月1日から長期休館に入ります。休館を前に、この建物の思い出を振り返り、最後を惜しむ各種イベントが開催されています。