ありがとう新宿図書センター
visit:2017/09/22
葛飾区立図書館といえば、金町駅近くにある中央図書館が、広いワンフロアの図書館として区外の人にも知られています。その中央図書館ができるまで葛飾区の中央館の役割を担っていた、前の葛飾図書館、現在の新宿図書センターが、2017(平成29)年10月1日から長期休館し、他の場所から移転してくる葛飾赤十字産院の中に併設されることになりました。隣の敷地と合わせたうえで産院を移転するので、現在の建物はなくなってしまいます。
この建物は、前・葛飾図書館として開館したのが1967(昭和42)年、新宿図書センターへ名前を変えたのが2009(平成21)年。これまで50年間も親しまれてきた図書館で、なくなってしまうことを惜しむ人は、利用者の中にも職員さんの中にも多いはず。そんな思い出の詰まった建物を振り返り、感謝するイベントが、2017年7月末からいろいろ行われています。
まずご紹介したいのが「新宿図書センターへメッセージを書こう!」。前・葛飾図書館や新宿図書センターの思い出を投稿してくださいという企画です。図書館に入ると、入口正面にある壁に皆さんから寄せられたメッセージがずらりと貼ってあり、こちらが大人の方からのメッセージ。お子さんからのメッセージは、書架エリアにあるカウンターの対面あたり、児童向け雑誌ラックの左にあります。大人からのメッセージの右には、前・葛飾図書館開館からこれまでを振り返る写真も展示していて、50年の歴史を振り返ることができます。
当サイトは2005年から運営していますが、その間になくなってしまった図書館も多数あり、その図書館のいくつかではこうしたメッセージを募る企画を行っていました。だから、この企画もそれらと同様、心がほんわかするものになっているだろうと思っていたのですが、50年の歴史があり、かつ、一時は中央館であった図書館だと、皆さんの気持ちの熱量が違う!寄せられたメッセージの数も多いし、特に大人の皆さんは、ブロックメモくらいの大きさのカードの一番下までぎっしりと思い出を書いていて、読んでいると目頭が熱くなってきます。
例えば、受験生のときに毎日通っていた、保育園児の頃から利用していた、などのメッセージを読むと、多感な時期の思い出とこの建物がリンクしているのが伝わってきます。なかでも、不妊治療のつらい時期に来て子どもの名前を考えていた、今は無事子どもを授かって図書館で考えた名前を付けています、というメッセージには、こちらまで目頭が熱くなってしまいました。
また、葛飾図書館が建った頃は1964年の東京オリンピックの後で、外観に流行の建築様式を感じたという当時の印象を書いている人もいました。この方は、葛飾図書館が立石から新宿へ移る過程も、新宿の葛飾図書館が中央図書館へと役目を引き渡す過程も見てきたんですね(新宿に葛飾図書館ができる前は、今の立石図書館へ継承される図書館が「葛飾図書館」を名乗っていました)。少し大袈裟かもしれませが、新宿で生まれ育った50歳以下の人なら、図書館の思い出を振り返ることが人生の振り返りにもなる。それくらい思いの詰まったメッセージがたくさんあるんです。
興味深かったのは、新宿図書センターになってから「落ち着いて読書できる図書館」として使っていたというメッセージも多かったこと。この新宿図書センターは、徒歩にして1.1kmのところに中央図書館があるので、少し移動してでも資料が多い図書館がいいという人は、中央図書館を使うでしょう。一方で、中央館の役割を終えた新宿図書センターは、資料数は減ったものの建物の大きさはそのまま。中央図書館によって来館者数は減ったはずだから、結果的に少ない人数でたくさんある閲覧席を自由に使える格好になります。新宿図書センターになってからの方が居心地いいと思う人がいるのも納得です。
また、地下にあった食堂への思いを書いている人も大勢いました。私も2回入ったことがありますが、「図書館に食堂がある」というより「地元に人気の食堂が図書館の中にある」という雰囲気で、図書館を素通りしてお昼御飯を食べに来たらしき人も一人や二人ではない様子が印象的でした(と書いたら、図書館としては複雑な気分になるか)。
メッセージにも、私は親子丼が一番好きだった、私は唐揚げ定食だと、具体的なメニューを挙げている人が多く、中には産院の中にできる新しい図書館にも食堂を作って欲しいという声まであるくらい。食堂は2016年7月30日を最後に閉店してしまったのですが、今でも地下へ向かう階段の壁に、食堂からお客様への閉店メッセージが貼ってあり、それによるとお父様の代から続けていた食堂だったとのこと。この食堂に関するメッセージが象徴的ですが、「ありがとう」の言葉は、利用者から図書館・食堂への感謝であると同時に、図書館・食堂から利用者への感謝でもあるんですね。
この新宿図書センターへのメッセージは、最後の開館日まで投稿を募集しています。メッセージカードや投稿ポストは、大人・子どもそれぞれのメッセージ展示の手前に用意されているので、伝えたい思い出がある人はぜひ参加しましょう!最後の開館日までに何日が定休日があるので、来る前に新宿図書センターのカレンダーを確認してください。
メッセージや昔の写真の展示は、2か月に渡る長い企画ですが、それとは対照的に、なくなってしまう直前だからこそできる企画が、9月20日から開催されています。その最後の最後の企画は「おはなし室に絵を描こう ~おはなし室の壁にみんなで絵を描きませんか?~」。児童向けのおはなし会を行ってきた部屋の壁に、油性マジックやクレヨンで思いっきり絵を描こうというものです。児童エリアにある部屋ですが、絵を描くのは子どもでも大人でもOKです。
この企画は、告知チラシにも「思いっきり絵を描いてみませんか」としかないので、めったにないほど大きなキャンバスに描くことや、普段は落書きしてはいけない図書館の壁に絵を描くことを楽しむというのが趣旨だと思います。でも、実際に行ってみたら、メッセージ企画の影響か、単に好きな絵が描かれているだけでなく、「今までありがとう」や「(なくなるのが)さびしいです」というメッセージが込められたイラストがあって、元々の趣旨以上に素敵な企画になっているように感じました。
中央図書館にも写真の掲載許可をいただいたので、実際の様子を披露しますと、9月22日の時点で写真のような感じ。それぞれ、クリックすると拡大します。
きちんとしたかたちを描けないくらいの小さい子から、単純にお絵描きを楽しんでいる人、惜しむ思いを描ける人まで、皆が自由に描いている感じがとてもいいでしょ。ちなみに、個人で楽しむ写真を撮るだけなら、職員さんに申し出れば、他の利用者さんが映らないように撮ることを条件に写真を撮らせてもらえます。
こちらも最後の開館日まで描けるので、最終日にはもっと賑やかな壁になるでしょう。もしかしたら日程の最後の方は、いや既にもう、描けるスペースがなくなりつつありますが、小さい隙間にちょこちょこと絵を描くのも楽しそうだし、既に描いてある絵に書き足していくのも面白いのでは。落書きを許されることなんてなかなかありませんし、ぜひ楽しんでください。
それにしても、こうやって紹介すべく文章を書くにつれ、本当にこの建物がなくなってしまうんだなという思いが大きくなってきます。日常的に新宿図書センターを利用している人なら、本棚の本が少しずつ減る過程も見てきて、私以上に終わりを実感していると思います。
いや、正確には、この後産院を建て、その中に新宿図書センターを移築するので、完全になくなってしまうわけではありませんが、中央図書館に役目を譲った後もかたちを変えて残った建物だけに、今度こそは本当になくなってしまうんだなという気持ちになってしまいます。
最後を飾るイベントがとてもいいので、私としては、葛飾図書館と新宿図書センターの写真、みんなからのメッセージ、おはなし室お絵描きを撮影した写真をまとめて冊子にし、地域資料にして欲しいくらいです。今はもう存在しないものも記録として残せるのが本(資料)のよさだと思うし、「ここにこんな図書館があった」という記録こそ図書館資料にするべきではないでしょうか。葛飾区立図書館さん、ぜひこの一連のイベントの資料化を検討してください!
上の章までが、2017年9月22日に行ったときの様子をうけて書いた記事です。この建物での新宿図書センターの最終日、2017年9月30日までお絵描きできたので、最後の最後のおはなし室は一体どんな様子になっているのかと気になり、実際に見に行ってきました。
すると、22日時点より更に壁が賑やかになっているうえに、2つあるおはなし室のドアにもメッセージがたくさん!下の写真はクリックすると拡大するので、ぜひじっくりご覧ください。照明のスイッチもカラーリングしてあったり、皆さんがしている細かい遊びも楽しいですし、何より皆さんからの感謝の気持ちがびしびしと伝わってきます。
最終日に行って、あらためて図書館ってこんなに愛されている空間なんだなあということを実感できました。おはなし室がどんなに楽しい空間だったか、新宿図書センターがどんなに親しまれていたかを、こうして目に見えるかたちで感じることができて、この企画を実施した新宿図書センターと、気持ちを壁いっぱいに表した利用者の皆さんに、ありがとうと伝えたいです。新しくできる新宿図書センターも楽しみにしています!