本棚さんぽのススメ
visit:2012/03/18
振り返ればふとした思いつきから始めた図書館めぐりも、長く続けているといろいろな機会をいただけるもので、2012年3月18日に江戸川区西葛西図書館で講演会の話し手となる経験をさせていただきました。
講演会のタイトルは「本棚さんぽのススメ」。西葛西図書館の職員さんと講演の内容を打ち合わせする中で、図書館をよく利用する人でも、その多くは図書館全体を隈なく利用しているというよりは、自分の関心・必要性がある書棚ばかりを利用している、西葛西図書館は1,2階に書架があるのですが、利用者の中には2階に書架があることを知らない人もいるという話になったんですね。そこで、いつも同じ棚を利用するだけでなくいろいろな棚を見てみよう、本を探す場合も図書館の書棚の1ヶ所だけ見るのではなく、図書館の棚全体に目を向けると目的に適う本が違う場所でも見つけることができるという話をすることにしました。
講演の場所は西葛西図書館3階の視聴覚室で、ご参加いただいたのは20名ほど。まずは自己紹介ということでサイトを始めたきっかけからスタートし、都内のいろいろな図書館の話をしました。江戸川区の図書館に限って借りる・返すという図書館の基本的機能をだけを考えても、西葛西図書館のようにカウンターでのみ貸出手続ができる図書館もあれば、東葛西図書館のように自動貸出機で利用者が自分で貸出手続をできる図書館もある。特に東葛西図書館は、東京23区で一番最初にICタグ式自動貸出機を導入した図書館なんです。
江戸川区以外の区にも目を向けると、台東区中央図書館・葛飾区中央図書館・立石図書館が導入している予約コーナー(利用者自ら予約コーナーの中から自分の予約本を見つけて貸出手続をする)があったり、台東区では図書館カードに貸出中の本のタイトルが印刷される仕組みを2011年11月から導入しています。台東区の図書館カードに関しては、本のタイトルが印刷されている状態の私の図書館カードを皆さんに回して見ていただきました。大人数のイベントだと回して見ていただくというのもやりにくいですが、20名程という人数はこうしたこともできてよかったです。
そうした仕組み以外に、本棚の分類も図書館によって微妙に違うんですよね。実は講演会を行った西葛西図書館は、館内の書架の一部が他の江戸川区の図書館と違う点があります。それは、絵本の並び方。江戸川区の図書館のほとんどは「絵を描いた人」の頭文字で絵本を分類しているのですが、西葛西図書館と鹿骨コミュニティ図書館だけは「絵本のタイトル」の頭文字で分類しています。例えば、 ジャン・ド・ブリュノフの描いた『ぞうのババール』という絵本だったら、江戸川区中央図書館ならジャン・ド・ブリュノフの苗字「ブリュノフ」の頭文字をとって、絵本の「フ」の棚にあるのですが、西葛西図書館ではタイトルの頭文字をとって「ソ 」の棚に置かれています。
これらの並び方はどちらがいいというのではなく、それぞれのメリットがあるので、ぜひそれを活かして本を 探してみていただきたいところ。一般的に絵本は絵を描いた人よりもタイトルで覚えている人が多いので、「●●という絵本を読みたい」というときには、タイトルでの分類が探しやすい。一方、絵を描いた人で分類している図書館では「○○さんの絵が好き、ほかの絵本も読んでみたい」というときに見つけやすい。タイトル分類だと、例えば「ネ」の棚にいくと、いろんな人が描いた『ねこの~』『ねずみの~』というタイトルの絵本が集まっているという面白さもあります。
東京は図書館密度が高くて別の図書館にも比較的行きやすいし、通勤通学をしている人なら自宅の最寄図書館と会社・学校の最寄図書館の両方を使う人もいるでしょう。西葛西図書館だったら、葛西図書館や清新町コミュニティ図書館へも近いですしね。それぞれの図書館に違いがあったら、その違いを利用していろんな本と出会っていただきいと思います。
絵本の並び方は、小さいお子さんがいない人には縁遠い話かもしれませんが、児童の本には大人も活用できる本がいろいろあります。児童向けのちしきの本は、子どもにもわかるよう絵や図を多用して、重要な事柄をコンパクトにまとめている。一方、大人向けの本は細かいところまで説明しすぎて、初心者には難しいこともある。だから手っ取り早く入門的な知識を得たい場合などは、児童向けの本が有効なんです。
私は、こうした児童向けの本の活用法を、知識としては前から知っていたのですが、本当にそうだなあと実感したのが移築前の小岩図書館での展示「裁判員制度」を見たときでした。展示されていた本のうち、大人向けに裁判員制度を説明した本はとにかく難しい。特にこの展示の時期は実際に制度が導入される直前だったこともあって、裁判員制度の説明だけで終わる本より、導入賛成か反対かという著者の意見を主張する本が多く、中立的な立場で簡潔にまとめている大人向けの本はないといってもいいような状態だったんですね。そんな中、特集コーナーの一番下に置いてあった児童向けの本が素晴らしくわかりやすかった。こうした社会制度に関する本のほか、自然科学なども児童向けの本の説明はわかりやすくて、大人も活用できます。
そして、大人向けの本を読む際も、ぜひ図書館の書架全体を活用して欲しい、活用しないともったいないという話をしました。例えば、西葛西図書館の書架では小説が1階にあるので、小説が好きな人は専ら1階の棚しか見ないかもしれませんが、2階の「019 読書・読書法」の棚にはブックガイド本がありますし、小説の中でも文学全集は2階の「918 文学全集」の棚にあります。2階奥の参考図書(辞典類)の棚にも、『日本のミステリー小説登場人物索引』『歴史・時代小説登場人物索引』といった事典があるので、登場人物の名前から小説を選んでみるということもできます。
また、これは館内の講演会告知ポスターの脇で紹介した例題なのですが、「今度スペイン旅行に行くことになった、そのときに参考になる本はどこにあるか」というケースを考えてみます。まっさきに思い浮かぶガイドブックは西葛西図書館だと1階の児童コーナーに一番近い棚、ガイドブックより読み物的要素の強い旅行記は「293 ヨーロッパ」にあります。 また、「386 年中行事・祭礼」には各地のお祭りに関する本、「709 文化財」には世界遺産に関する本があり、ここでも旅行に役立つ本が見つかります。 スペインならではの本としては、「769 舞踊・バレエ」にフラメンコに関する本、「523 西洋の建築」にガウディなどスペインの建築に関する本、「788 相撲・格闘技・競馬」に闘牛に関する本がある…といった具合。旅行に直結する旅行ガイド以外にも、図書館のあちこちでスペイン旅行の参考になる本を見つけることができます。
このように目的が一つでも図書館の中のいろんな場所で本が見つけられるということを体感していただくために、講演会の後に「本棚さんぽ」という時間を設け、上に挙げた「今度スペイン旅行に行くことになった、そのときに参考になる本はどこにあるか」のようなクイズを用意して、実際に西葛西図書館の本棚を回りながら解答していただきました。問題用紙は<子育て編><趣味編><生活編>の3種類を用意して、お好きなものだけチャレンジしていただいてもいいし、全てに挑戦していただいてもよし。1つの編につき4問ある構成で、それぞれの問いに対する本(本以外のものも)がどこにあるかを西葛西図書館の配置図の中に記入していただくクイズです。実際には、答えになりうる場所には○がつけてあるので、それが何問めの本・資料がある場所なのか○の中に数字を入れていく形になっています。
後半の「本棚さんぽ」から先は自由解散という形になったのですが、ご参加の皆さんには実際に西葛西図書館の書架を回っていただいたり、図書館のことで講演後に話しかけていただいたり。私もとても楽しかったので、ご参加の皆さんにも楽しんでいただけていたら嬉しいです。小雨のなか足を運んでいただいた皆さん、本当にありがとうございました!
講演会当日は、最初の1時間を講演、後半の1時間を「本棚さんぽ」クイズの時間としたのですが、体験していただきたいのは1時間で問題を解くことではなく、問題を通じて普段は見ない本棚をいろいろ見ていただくことなんですね。なので、解答は2012年4月22日までカウンターで配布しており、それまでの間にじっくり本棚を回って解いていただけるようにしています。また、講演会当日にお越しいただけなかった方にもぜひ挑戦していただきたいので、問題用紙も2012年4月22日まで配布しています。
問題に挑戦する際は、面白そうな本を見つけたらどんどん寄り道してください。実際の散歩も寄り道や偶然の発見・出会いこそが面白いですよね。そんな風に、図書館の本棚でもどんどん寄り道して、多くの本を発見してほしいと思います。「本棚さんぽ」の問題を通じて、図書館をもっと深く利用してくださいね。
問題用紙は<子育て編><趣味編><生活編>の3種類を用意して、お好きなものだけチャレンジしていただいてもいいし、全てに挑戦していただいてもよし。解答した後に西葛西図書館のカウンターに行けば、答えをもらえます。ぜひ、チャレンジしてみてください!
【例題】あなたは友達のミナコさんと海外旅行に行くことになりました。どこがいいと決め切れないミナコさんに対し、あなたはスペイン旅行に行きたいと思っています。スペインの魅力をミナコさんに伝える本がある場所を探して、配置図に印をつけてください。
【解答】まっさきに思い浮かぶガイドブックは「旅行ガイドブック」の棚に、より読み物に近い旅行記は「293 ヨーロッパ」にあります。 また、「386 年中行事・祭礼」には各地のお祭りに関する本、「709 文化財」には世界遺産に関する本があり、ここでも旅行に役立つ本が見つかります。 スペインならではの本としては、「769 舞踊・バレエ」にフラメンコに関する本、「523 西洋の建築」にガウディなどスペインの建築に関する本、「788 相撲・格闘技・競馬」に闘牛に関する本があります。