品川区立大崎図書館
品川区立大崎図書館 訪問記
品川区立大崎図書館は、2018年3月31日まで大崎駅の西側にあった旧・大崎図書館が、同年6月1日から大崎駅の北東に移設して設置された図書館です。品川リハビリテーションパークと複合施設だから、というわけでもないでしょうが、すっきりさっぱり清潔という印象が強いです。
品川区立大崎図書館は、大崎駅の北東に位置する図書館です。最寄り駅は大崎駅ですが、五反田駅や京急線の北品川駅からも歩いていける距離にあります。オフィスビルが林立する大崎駅を東に出て目黒川を越えると、マンションが増え、「働く」エリアから「住む」エリアに入った感覚になる。大崎図書館もそんな「住む」エリアにあります。
建物としては、大崎図書館と品川リハビリテーションパークを合わせた複合施設で、2階全体が図書館です。体感的には移設前より少し面積が狭くなった気がしますが(2018年度の品川区立図書館事業年報が発行されたら、実際の数字を調べてみます)、2019年1月25日には新しく大崎図書館分館も開設され、両者を合わせると、旧・大崎図書館より広くなっていると思います。
図書館エリアは、というより、この建物自体が長方形の区画に直方体の建物を建てたかたちで、極めてシンプル。病院との複合施設だからというわけではないでしょうが、白ベースですっきりさっぱりした印象の内装です。近年、図書館で普及している図書消毒機(利用者が操作して、紫外線と送風で図書を消毒する機械)が大崎図書館にもあるのですが、心なしか他の図書館と比べて図書消毒機の存在と内装の印象がマッチしている気がするくらい。
配置としては、図書館エリアに入って右先にカウンターがあり、カウンター向かって右が児童エリアと中高生コーナー、左に雑誌コーナーと一般書架、カウンター前にロビーのようにテーブルや椅子が点在するなか新聞と企業情報コーナーが設置されています。児童エリアも一般書架もほどよい幅の長方形の区画で、どちらも本棚が同じ向き一列に並んでいるのが「シンプル」感に繋がっている。配置図を見たとき、今どこにいるか、読みたい本はどこか、ならばどう行けば見たい棚に行けるかということがわかりやすいです。
カウンターでは、貸出・返却などの図書館業務に加えて、品川区内の障害者福祉施設で製作されたブックカバー、しおり、布巾などの受託販売も行っています。この取り組みは、大崎図書館だけでなく品川区立図書館全体の取り組みです。
大崎図書館でユニークなのが雑誌ラック。東京で10年以上図書館巡りをしている私も初めて見たタイプで、上部3段がガラス製、下部3段が木製の棚に、どちらも表紙を天井に向けて雑誌を収納するようになっています。ガラス製の段には最新号を、木製の段にはバックナンバーを入れていて、バックナンバーは過去分を重ねて収納しています。表紙が棚を見る人の側を向いていない分、最上段以外はどこに何があるのかわかりづらいですが、それを補うように棚の上に配置表があり、それで雑誌の場所がわかるようになっています。
この雑誌ラックのメリットは、雑誌をあまり傷つけることなく収納できること。雑誌は薄くて判型が大きいものが多いので、棚に差す(単行本などのように立てて入れる)と、冊数が少ないときにクニャっと折れ曲がりやすい。図書館では、棚の扉に最新号を立てかけるタイプの雑誌ラックがよく使われますが、これだと大きい雑誌が無理に入れられていたり、紙の重さで雑誌が曲がってしまうことがある。都内のある図書館では、棚の形状に加えて湿度もよくないのか、雑誌ラックにある全ての最新号の表紙が見事にくるんと丸まっているくらい。それと比べて、このように平らに積む方式は、雑誌の状態をきれいに保ちやすいです。
雑誌の並び順は、ビジネス雑誌とそれ以外に分けて、それぞれでタイトルの五十音順になっています。ビジネス雑誌は電気工学系の専門誌が多く、これは旧・大崎図書館のなごり。旧・大崎図書館には区内の製造業者向けのビジネス支援コーナーがあり、こうした資料を収集していたんです。旧・大崎図書館がなくなるまえに職員さんに聞いたところ、ビジネス支援コーナーの資料は品川区立図書館各館で分散して所蔵するとのことでしたが、電気工学系の専門誌は、少なくとも今のところは、こうして大崎図書館で購入し続けています。
また、この雑誌コーナーとは別に、子どもから中高生向けの雑誌は児童エリア入って左手前にあるので、そちらもお見逃しなく。子育てに関する雑誌の『AERA with Kids』は一般エリアの雑誌コーナーにありますが、児童書に関する雑誌の『子どもの本棚』は児童エリアの雑誌コーナーにあります。
一般書架は、上に書いたように本が一列にずらっと並び、側面の窓に向かって並ぶカウンター席があります。この席には電源があり、持参PCを使用することができます。窓際カウンター席の左端にはネット閲覧PCが3台あります。
本の配置で少し変わっているのが、事典類が一番手前に、CDが一番奥にあること。一般的に、事典類を使う人はじっくり調べ物をするケースが多いので、事典類を広げやすい机席とともに、ざわざわする入口近くから離れた奥まった区画にあることが多いです。おそらく、大崎図書館では面積的に奥にそのような空間を作るのが難しく、雑誌コーナーのテーブル席を事典類閲覧にも使えるよう、このような配置したのだろうと思います。
図書館には実にさまざまな事典があり、そのジャンルの深さが知れて面白い。こうしてアクセスしやすい棚に事典類が並んでいると、「読み物として事典類を楽しむ」という読書をしたくなります。ちなみに、事典類は字が小さくて読みづらく感じる人もいると思いますが、大崎図書館では読む行に集中しやすくする読書補助具・リーディングトラッカーを館内貸出しています。
事典類とともに奥まった場所に置かれることの多い地域資料も、大崎図書館では手前から2つ目の棚にあり、ここもお薦め。『時代を書きすすむ 三菱鉛筆100年』『光とミクロと共に ニコン75年史』のような品川区にある企業の社史があるなか、特に大崎を感じるのが『明電舎100年史』。企業のことを知れるだけでなく、近現代史としても面白い。
行政資料の棚には、区立保育園でISO9000シリーズ認証の取得を目指していた頃に発行した『品川区立東五反田保育園 品質マネジメント』や、区内の小学校・義務教育学校(品川区には、6年間通う小学校・3年間通う中学校と、小中一貫教育の義務教育学校があり、入りたい学校を申請できる)の要覧を集めた『学校要覧』が並んでいて、教育に新しい試みを積極的に取り入れる品川区の姿が見えてきます。
また、利用が多いCDをあえて奥に置いているのは、壁沿いにある特設コーナーなど、行く途中にある他の本棚にもぜひ目を留めて欲しいという狙いがあるのかもしれません。特設コーナーでは、品川リハビリテーションパークとの複合施設ということから、闘病記や健康に関する本を集めた「健康コーナー」と、2020年に向けた「オリンピック・パラリンピック関連図書コーナー」を設置しています(2020年が過ぎたら、このコーナーはどうするんだろう?)。
カウンターの対面にある企業情報コーナーは、一般書架とは離れているので見逃しがちですが、名前の通り企業の情報を調べられる資料が揃っています。例を挙げると、『帝国データバンク会社年鑑』や東洋経済新報社が出している各種企業総覧、各企業のCSRレポートなど。会社四季報も、日本企業のものはもちろん、『米国会社四季報』まであります。新しい取引先と取引しようとしている、新しい業種の会社に営業をかけようとしているなどの局面に役立ちますし、就職活動で会社のことを調べるときにも使えます。
この企業情報コーナーも、旧・大崎図書館のビジネス支援コーナーの名残でしょう。ただ、このコーナーと雑誌コーナー以外にはビジネス支援コーナーの名残は感じられません。強いて言えば、工業所有権の本が地域館としてはやや充実していますが、それも「やや」がつく程度。この点に関しては、大崎図書館分館の書架が「他のジャンルはまだ空きスペースが多いのに、経営・技術系の本だけ妙に充実している」という印象です。こちらも、地域館としては突出して充実しているというより、「開館したばかりで他のジャンルは冊数が少ないのに」という対比の影響が大きいです。
このように、リニューアル前の名残とリニューアル後の特色からなる棚を回るうちに、借りる本が多くなってしまった場合は、カウンターの足元にある紙袋をどうぞ。カウンターのうち、一般書架を向いている側の足元に、自由にもらえる紙袋があり、荷物が多くなってしまった場合に使えます。
児童エリアに入ろうとして、まず目につくのが「寄り道は禁止されています 学校が終わったら、いちど家に帰ってから図書館にきてね!」という看板。注意書きを読むと、子どもを図書館で待たせている様子をよく見かけるが、やめてくださいとのこと。大崎図書館は、東に御殿場小学校、西北西に日野学園(地域資料のところで説明した義務教育学校)があるので、遠くから通っている子どもと親との待ち合わせ場所に使われてしまいがちなのかもしれません。
私は生まれも育ちも東京で、「放課後に図書館へ行くとしても、一度家に帰ってから」という環境のもとに暮らしてきましたが、全く違う考えの地域もあるんです。前に、図書館学が専門の慶應義塾大学・糸賀雅児教授が行った市民向け講演会でスライドを見て驚いたのですが、学校の後そのまま図書館へ行く習慣がある地域が沖縄などにあり、そうした子どものためにランドセルを入れる棚まで用意されているそう。子どもの図書館の通い方一つとっても、地域によって違うのが面白いです。
児童エリアに入ると、一般書架と同様に本棚が一列に並んでおり、右端には広い「おはなしのへや」、左端には多目的室があります。どちらも全くの壁ではなく、中が見える仕切りで区切られており、おはなし会が行われているときは外から様子を見ることができます。児童エリアの席は、一般書架と同様に窓に向かって机が並ぶほか、4人で囲むテーブルが3つ、更に、後述しますが、多目的室を使う行事等がないときには、小学生以下のための閲覧席として開放しています。
一般書架と児童書架の棚には、それぞれ重ならないように2桁の番号が振られていて、配置図から実際の棚を探すときなどにわかりやすいようにしています。ただ、児童書の分類も2桁の数字なので、棚番号と請求記号を混同しやすい。例えば、『子どもニュース いまむかしみらい』という本は請求記号が「21」なのですが、請求記号が21の本は23番の棚にあります。これを「検索機に21と出ているから21番の棚にあるだろう」と思ってしまう人も多いでしょう。利用者の本探しをあえて難しくしているような棚番号ですが、棚と一体化した木製パネルで棚番号が示されているので簡単には変えられない。検索機で見つけた児童書を実際の棚から探す際には、「請求記号は棚番号とは別」という点に注意してください。
本の配置は、「おはなしのへや」に近い側に絵本、中央に児童読み物、多目的室に近い側に児童向けちしきの本となっています。多目的室側の、児童エリアとそうでないエリアの仕切りになっている棚には、中高生向けの本が並んでいますが、目立つ表示があるわけではないので、実際にその棚に近づいてみないとわからない。中学生になったばかりならまだしも、高校生が児童エリアに積極的に入るとは思えず、これではせっかくのコーナーが気付いてもらえないのでは。もう少し「中高生向けの本がここにある」というアピールを、児童エリアの外から見えるようにした方がいいように思います。
絵本は、大きいサイズの絵本、小さい子向けの絵本、昔話絵本、創作絵本と、サイズや内容で分けているのに加えて、クリスマスが登場する絵本はそれでひとまとめにしています。が、「クリスマス」に分類されている本も検索機ではそうだとはわからず、検索機で本を知って探すときに、創作絵本の棚をいくら探しても見つからない状態になってしまいそう。利用する際にはご注意ください。
普段の多目的室は、小学生以下を対象とした閲覧室として9時から17時まで開放しています。「多目的室」というからにはイベントなどの会場にも使いそうなものですが、開館記念で行われた品川リハビリテーションパーク・品川区立大崎図書館共催の講演会も、この多目的室ではなく、建物1階のリハビリテーション室が会場でした。子ども向けのイベントは、開館から半年以上経った今まで常におはなしの部屋で開催しており、少なくとも現時点では、この部屋は閲覧室としてしか使われていないようです。
冒頭にも書きましたが、大崎図書館は2018年3月までは大崎駅の西側にありました。それが2018年6月に大崎駅東側に移設し、2019年1月に大崎図書館分館が西側に開設。更に、大崎図書館の移転に先立って、大崎駅西口図書取次施設(おおさきこども図書室。小さく、かつ、児童書のみですが、本を所蔵していて読むスペースもあります)が2018年2月に開設されています。大崎駅付近の図書館状況を考えると、図書館が1つしかなかった状態から、3つに増えたことになる。それぞれの施設は旧・大崎図書館より小さいですが、3つの延べ床面積を合わせると旧・大崎図書館より広くなっていると思います。
JR大崎駅は8番線まであり、新宿駅や品川駅ほどではないにせよ、駅の反対側までは距離があります。そして、新宿駅・品川駅と比べると付近に住宅が多く、住民の図書館利用も多いはず。大崎駅の西側にしか図書館がなかったときは、東側の住民は「駅の反対側までわざわざ足を運ぶ」感じがあったと思います。その点、この「小・中規模の図書館が駅の両側にある」という状態は、どちらの住民にとっても便利です。
普段は家に近い方を利用して、気が向いたら駅の反対側の図書館に足を伸ばすという利用もお薦めです。図書館を回っていて思うのですが、満遍なく図書館の棚を見ているつもりでも、どうしても自分の目の高さに近い棚に視線が行くものです。特に図書館の棚は書店の棚と違い、床にかなり近いところまで本が並んでいて、意識的に見ようとしないと目が届きません。その点、他の図書館に行くと、同じジャンルの本がいつもの図書館と別の高さにあり、「こんな作家さんがいるんだ」「こんな本があるんだ」という発見が起こりやすい。私が東京中を回って感じていることを、大崎駅周辺だけで体験できます。
移転で残念なのは、旧・大崎図書館の周辺で出会えた猫に会えない場所になったということでしょうか。というのも、旧・大崎図書館が閉鎖する際のメッセージ募集で、猫に会えるのが楽しみというメッセージがかなりあったんです(私は会えたことがないのですが、大崎図書館の駐輪場そばに藪があって、たぶんその辺りによく猫がいたんだろうと思います)。まあ、旧・大崎図書館辺りを散歩すれば、これからも会えるでしょう。
今はまだ、3つの施設ともにできたばかりで、その新しさが目立ちます。大崎図書館分館とおおさきこども図書室はまだ棚の空きスペースが多く、これから本が買い足されて棚が埋まるまでは物足りなさを感じるかもしれませんが、大崎図書館は今の時点でも棚が充実しています。使い分けるときには、そうした違いも踏まえて使い分けるといいでしょう。お近くの皆さん、図書館密度が急に高くなった大崎駅のメリットをたっぷり享受してください。
品川区立大崎図書館 データ
住所 | 東京都品川区北品川5-2-1 2階 →Google Mapで見る | ||||||
Tel | 03-3440-5600 | ||||||
開館時間 |
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定休日 | 第2木曜(祝日も休館) 12月31日~1月3日 | ||||||
最寄駅 |
京急本線 北品川駅から徒歩13分
東急池上線 五反田駅から徒歩14分
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駐輪場 |
2019/01/30に確認
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駐車場 | なし。建物北側から入れるに駐車場は、品川リハビリテーションパーク利用者用の駐車場です。 2019/01/30に確認
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所蔵資料 | |||||||
図書所蔵数 | 131,011冊(2017/04/01現在、出典『平成29年度 東京都公立図書館調査』) | ||||||
音声資料 |
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映像資料 |
DVD・ビデオは広報DVD・ビデオを除いた市販ビデオ・DVDの有無を表しています
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設備 | |||||||
ブックポスト | 建物入口向かって右の壁にブックポストあり。開館中の使用も可能ですが、ブックポストに入れてもすぐに返却手続きがされないことにご留意ください。 2019/01/26に確認
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自動貸出機 | なし 2019/01/26に確認
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自動返却機 | なし 2019/01/26に確認
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セルフ予約受取 | なし 2019/01/26に確認
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図書の除菌 | 児童エリア入口向かって左手前に、LIVA図書除菌機1台あり 2019/02/20に現地訪問にて確認
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音声試聴設備 | 雑誌コーナーに、CD試聴機1台あり 2019/03/09に確認
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映像視聴設備 | なし 2019/01/26に確認
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ネット閲覧PC | ネット閲覧PCが3台あり。利用は小学生以上で、1回1時間以内、1日2回まで、利用状況によっては更に使える場合もあり。 2019/02/20に確認
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持参PC利用 | 一般書架窓際のカウンター席24席(うち、車椅子優先席2席)で、持参PCの使用可能。電源あり。 2019/03/09に確認
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LAN接続 | 館内用無線LAN「しながわFree Wi-Fi」の利用可能 2020/02/01に確認
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飲食設備等 |
2019/01/30に確認
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