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知的書評合戦ビブリオバトルin赤レンガ図書館(テーマ:新しい)&読書会『みどりのゆび』

―2014年1月11日のイベント
visit:2014/01/11
§ 「新しい」をテーマにしたビブリオバトル

北区中央図書館ではビブリオバトルを2ヶ月に1度くらいの割合で開催しており、2014年1月11日の開催がおそらく4回目、既に定期イベントとして定着しつつあります。ビブリオバトルというのは、面白いと思う本を持ち寄った参加者が本を発表し、発表に関する質疑応答を行ったあと、「どの本が一番読みたくなったか?」を基準として参加者全員が投票し、最も多く票を集めた本をチャンプ本とするという本の紹介ゲーム(詳しくは公式サイトをどうぞ)。図書館だけではなく学校やカフェでも開催され、多くの人に楽しまれています。

ビブリオバトル自体はどんな本を紹介してもOKなのですが、イベントとして開催される際にはテーマを決めて本を持ち寄ることもあり、4回目のビブリオバトルin赤レンガ図書館のテーマは「新しい」でした。「新しい」に関連する内容の本でもいいし、本を「新しい」にからめて発表するかたちでもいいし、「新しい」というテーマをどう使うかは発表者の自由というわけです。

また、ビブリオバトルは、全員が発表者となるスタイルもあれば、発表者数名と観覧者で構成するスタイルもあり、北区中央図書館でのビブリオバトルは後者のスタイルです。今回は6名の発表者と30名弱の観覧者が、中央図書館3階ホールに集まり、私も発表者の一人として参加しました。

発表された作品は以下の通り(紹介本は確実ですが、順番は間違えているかも。参加した方で順番を覚えている方がいらっしゃったら、教えていただけると助かります)。

1番手★『くらやみの速さはどれくらい
2番手 『鳥居民評論集 昭和史を読み解く
3番手 『絵本 化鳥
4番手 『信念 東浦奈良男 一万日連続登山への挑戦
5番手 『聖夜
6番手 『FUTON
★がチャンプ本

上のタイトルを見る限り、いかにも「新しい」を扱った本という印象はないですよね。むしろ、古さから新しさを知る、新たな世界に踏み込む状況が描かれているなど、自分が好きな本をいかに「新しい」に寄せて紹介するかがポイントというところ。泉鏡花の作品を絵本にした『絵本 化鳥』も含めると、小説が4冊、ノンフィクション1冊、評論1冊とジャンルもいろいろです。ちなみに、私が紹介したのは中島京子さんの『FUTON』です。

ビブリオバトルは、5分間の発表→その発表に関する2~3分間の質疑応答→次のバトラーの発表→その発表に関する質疑応答…と続けるかたちで進行し、観覧者の方々も質疑応答の時間で参加することになるのが特徴。『絵本 化鳥』で「好きな一節を読んでみてください」というリクエストが出たときには、発表者さんから「朗読したかったけど5分間に収まらないから断念したのに、私の回し者かのようなリクエストをありがとうございます」という感謝の言葉も飛び出しました(笑)。

『信念~』を紹介した発表者さんからは、自分もこの本の東浦氏と同じように定年退職後に毎日の登山をしようと思ったけど雨であっさり断念してしまったといったエピソード披露もあり、本の発表を通じて発表者さんの人柄が見えてくるのもビブリオバトルの面白さです。佐藤多佳子の『聖夜』の紹介者さんも、この本が紹介したくて「新しい」にこじつけたと明言しており、それも含めてちゃきちゃきとした語り口が爽やかでした。

また、北区中央図書館は基本コンセプトの一つとして「区民が活動する図書館」というコンセプトを掲げており、ビブリオバトルの会場となったホールの隣には区民活動コーナーがあります。ここを拠点として活動なさっている方々は顔見知りだったりするようで、ビブリオバトルでもそんな方同士が挨拶したりする温かい雰囲気がある、といっても初めて来た人が居づらいような雰囲気はなく、ちょうどいい温度が心地いいです。

この区民活動コーナーが発表者の控室で、私は上着を置きっぱなしにしていたのでイベント後に戻ったんです。すると、このコーナーで活動している方だったようで、『鳥居民評論集』の紹介者さんがいらっしゃって、またここでお互いの紹介本の話で盛り上がってしまいました(笑)。この方は発表の際もパワフルな感じで、一緒に話しているだけでこちらまでパワーをいただいた気分。ビブリオバトルは、本の情報を知るだけでなく、本を通じて人がつながるゲームなのですが、北区中央図書館自体が利用者同士がつながる場として機能しており、ビブリオバトルもその一環だと感じます。

そして、6回の発表&質疑応答を繰り返した後に挙手で投票を行い、見事チャンプ本に選ばれたのが『くらやみの速さはどれくらい』。この本の発表者さんは、前回のビブリオバトル in 赤レンガに観覧者として参加、発表者としては今回が初参加だったのですが、初めて、かつ、一人目の発表者とは思えないほどの落ち着きぶりでした。発表から察するに深く考えさせられる主題を抱えた小説のようで、それが発表者さんの語り口とも相まって、じっくり読みたくなりました。

この後の読書会でご一緒した方が「今回は特に選ぶのが難しかった」とおっしゃっていましたが、本当にどれも面白そう。実際、ビブリオバトルとしてチャンプ本を決めるものの、面白そうだと思ったら全部読んだって構わないんですよね(笑)。自分一人で図書館を利用していたら、一人分のセンサーでしか本の情報を集められないところ、こうして他の利用者さんと本の話をする場があると、思わぬ本に出会うことができる。本好きが集まる「図書館」という場にふさわしいイベントだと思います。

§ 同じ場所での読書会

ビブリオバトルは13時半から始まり、終わったのが14時20分過ぎくらいだったかな。それから椅子・机を組み替えて、14時半からは1冊の課題本を読んだ感想を話し合う読書会です。ビブリオバトルと読書会は時間的に連続しているだけで、どちらか一方だけ参加しても、両方参加しても構いません。実際には、読書会に参加した人14名のほとんどは、ビブリオバトルから参加していたようです。

今回の課題本は『みどりのゆび』で、これは前回のビブリオバトル in 赤レンガ図書館で紹介された本の一つなのです。その日の紹介者さんも今回の読書会に参加して、皆で輪になって机につき、順番に感想を話すというスタイルです。

前回参加したときも思ったのですが、同じ本なのに人によって注目点や読み方が違うのが面白い。例えば、親指を触れたところに花を咲かすことができる主人公チトが「実は○○でした」というオチがあるのですが、それに対しても、「なるほど○○なのね」といい印象を持つ人もいれば、「なんだ○○なのか」とがっかりした人もいる。話を聞いていると、それぞれの意見も納得できる点があるんですよね。「本の感想は人によってさまざま」というのはよく言われることですが、読書会に参加するとそれが体感できるんです。

また、メモをとり気になったことを調べながら課題本を深く読みこなす方もいらっしゃって、自分が読み逃した点を教えてもらえるのも読書会のいいところ。私などは全然気が付かなかったのですが、読書会参加者さんの指摘を聞いて読み直してみたところ、「9列に並んだ高窓」「自動車が9台」「9頭の馬」「9本の巨大な煙突」と、チトの家の豊かさを示す際、9という数字が頻出しています。1桁で最大の数をもってくることで、「永遠になくならないくらいの数」みたいな意味を込めているのかな。また、この物語はいろんな種類の花が登場するのですが、その花言葉を調べた方から込められた意味を教えていただいて理解が深まったりと、とても勉強になります。

感想に優劣などない、むしろ、人によって異なることが面白さなので、誰でも気軽に参加できます。ビブリオバトルのところでも書いたように、初めての人でも居心地いい場なので、興味のある方はぜひ。今後の読書会の予定は、2014年2月1日に課題本『蕨野行』で、2014年3月1日に課題本『FUTON』で開催することが決まっています。そう、ビブリオバトルでの私の紹介本を読書会の課題本に選んでいただきました。ありがとうございます!ビブリオバトルの次回の日付はまだ決まっていない(毎回ビブリオバトルと読書会を一緒に行うわけではない)ようですが、今後もビブリオバトル&読書会というスタイルで開催するとのことです。

ビブリオバトルはいろんなところで開催されていますが、2種類の「本の感想を寄せる」イベントが楽しめるのは北区中央図書館ならでは。時間的に難しいようであれば、どちらか一つだけの参加も構わないので、ぜひ足を運んでください。