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知的書評合戦ビブリオバトルin赤レンガ図書館(テーマ:ロングセラーだと思う本)&読書会『アルジャーノンに花束を』

―2013年11月2日のイベント
visit:2013/11/02
§ 「ロングセラーだと思う本」をテーマにしたビブリオバトル

近年、「ビブリオバトル」というコミュニケーションゲームが広がりをみせ、学校・書店・カフェ・図書館などいろいろな場所で開催されています。どんなゲームか簡単に説明しますと、面白いと思った本を持って集まり、本の紹介を5分間+発表に関するディスカッション2~3分間を繰り返したあと、「どの本が一番読みたくなったか?」を基準として参加者全員が投票し、最も多く票を集めた本をチャンプ本とするという、本の紹介ゲームです。単なるお薦め本の情報ではなく、発表を通じて発表者の人柄なども見えるゲームで、「人を通して本を知る、本を通して人を知る」をキャッチコピーに、多くの人に楽しまれています。

都内の図書館でも次々と開催されており、北区立中央図書館でも2013年7月6日の読書会で初めてビブリオバトルを開催、同年8月3日には読書会とは独立したイベントとして「知的書評合戦ビブリオバトルin赤レンガ図書館」を開催しました。なので、読書会で開催された分を含めると2013年11月2日開催分が3回目となるのかな。そのビブリオバトルに私もバトラー(発表者)として参加してきました。

テーマは「ロングセラーだと思う本」で、当日司会の職員さんもおっしゃっていたように「だと思う」なので発表者がロングセラーだと思っていればOK。ベストセラーが「特定の期間内によく売れたもの」であるのに対し、ロングセラーは「長期間にわたって売れ続けるもの」で、このお題に対して皆さんがどんな本を紹介してくれるのか。先に発表本をお見せすると、以下の本が紹介されました。

1番手 『
2番手 『村上春樹全作品 1979~1989〈5〉 短篇集〈2〉<』
3番手★『100冊の徹夜本―海外ミステリーの掘り出し物
4番手 『照柿
5番手 『みどりのゆび
★がチャンプ本

1番手の方が紹介した『路』は、台湾の新幹線を巡る日台の人々を描いた吉田修一さんの小説。一番手の方は台湾好きで何度も台湾にいらっしゃっているそうですが、吉田さんは台湾でも人気の作家で、サイン会には多くの人が集まったとか。分厚い本なので読むつもりはなかったのに、一度読み始めたらあっという間に読み終わってしまったという発表者さんの紹介を聞いて、私もこの本に投票しました(発表者は自分が発表した本以外の本に投票します)。

2番手の方は『村上春樹全作品 1979~1989〈5〉 短篇集〈2〉』全体の紹介というよりは、その中の1作品「レーダーホーゼン」についての紹介でした。この作品は村上氏の妻の同級生の話をまとめた作品で、同級生の母親が父親と離婚するきっかけを描いているそうですが、発表者さんは「母親」の気持ちにものすごく共感して、ご自身の旦那様にもその共感を訴えてしまったほどだとか。この発表の際も熱く語っていらして、読者にそこまで思わせる作品ってどんなだろうと私も興味深々。

チャンプ本に選ばれたのは3番手の方が紹介した『100冊の徹夜本―海外ミステリーの掘り出し物』で、著者の佐藤圭氏は覆面書評家で(今ネットで「佐藤圭」を検索すると新聞記者の方が一番に出てきますが、その人とは別人らしい)、発表者さんが「実際にはこの方かな」と推測している方もいらっしゃるそうですが、実際に誰なのかは今も知らないとのこと。「徹夜本」として紹介されている本が面白そうなだけでなく、書評自体も読み物として面白いとなると、本好きなら食指が動かないわけがない!見事チャンプ本に選ばれました。

最後の『みどりのゆび』は岩波少年文庫になっている名作で、どんな場所にでも花を咲かせることができる指を持った少年が主人公の物語。発表者さんは本に合わせて緑のトップス&ストール、更にストールに小さな花もあしらってのご参加でした。発表者さんにとっては友達にもプレゼントすることが多い本だそうで、楽しそうに紹介する様子に、本当にその本が好きだという想いが伝わってきました。そう、ビブリオバトルって、公平な立場で本を紹介する図書館職員さんなどではなく、バトラーさんが思い入れ込めて紹介するところが楽しいんですよね。発表者の「好き」がこちらにも伝染する感覚なんです。

そして、私が発表したのが4番目の『照柿』。なぜこれを選んだかというと、私はこの本を4回も買ったんです。つまり、私個人が長きに渡って何度も買った「個人的ロングセラー」というわけ。イベント後に熱い発表を聞いて投票してしまいましたとおっしゃっていただいた方がいて、嬉しかったなあ。ビブリオバトルは「誰の発表が上手か」「どの本が素晴らしいか」などの基準ではなく、「どの本が一番読みたくなったか」という基準で投票するので、こうしたイベント型で0票になる本はまずないんですよね。

こんなかたちで、皆さんの本に対する思いが伝わってきたビブリオバトル、とっても楽しかったです!実際にビブリオバトルに参加するとわかりますが、投票が1冊しかできないだけで、紹介された本それぞれ読みたくなるんです。また、この日初めて会った方々と、本を仲介に話が弾むのも面白い。図書館で本を借りる・席で本を読むだけでは隣に座っている人と話したりする機会はほぼありませんが、こうしたイベントを通じて同じ図書館の利用者さんとお話できるというのは楽しいです。

§ 同じ場所で読書会も開催

北区立中央図書館でのこの日のイベントはこれで終わりではなく、同じ場所で読書会も開催されました。この読書会は毎回課題本を決めて感想を話し合う読書会で、当日会場に来れば誰でも参加可能。ほぼ毎月開催されていて、この回が45回目でした。

私はこの読書会も前から興味があって、北区立図書館のメールマガジン(このページから、登録サイト→利用規約同意→購読メルマガ選択・メルアド登録 で受信できます)で次回読書会の告知を読むたびに、「行きたい!…でも、今借りている本を期限までに読んで、更に課題本も読むのはスケジュールがキツイ…」と見送ってきたのですが、この回は既に読んだことがある『アルジャーノンに花束を』が課題本で、ついに初参加を果たすことができました。

形式としては参加者が順に本の感想を話すという読書会で、この会は参加者が10名だったのですが、大まかな印象やどこに注目したかなど読む人によって違いがあり、「なるほどそういう視点もあるのか」と気付かされることしきり。たとえば、私はチャーリイの運命に目を向けてばかりいたのですが、ある方はチャーリイを傷つけた側の描写を読んで「自分もどこかで誰かにこんなことをしているのでは」と感じたとおっしゃっていて、その方の優しさ・気遣いを垣間見た気分になったり。また、この小説の設定に1960年代の知能至上主義(もっと広げれば技術至上主義)を感じて反感を持ったという感想もあったし、ご自分の経験に照らし合わせた話をする方など、こちらの読書会も「人を通して本を知る、本を通して人を知る」になっていて、刺激を受けました。

ビブリオバトルとの対比で言えば、一人何分と決められていないので(もちろん、一人で長々と話すことはできないけど)、言い足りないもやもや感は読書会では味わわずに済みますね(笑)。また、薦めるための紹介ではないので「こういうところが自分にはダメだった」という話も出るのですが、作品を否定する感じではなく、この作品と対峙した自分の中に沸いた思いを率直に語ってらして、自分と違う感想もすんなり耳に入ってきました。同じ本を読んでの読書会は、1冊の本に対して様々な感想があるという部分を楽しむことが肝だと思うのですが、まさにそんな時間を過ごせた気分。

この読書会とビブリオバトルの関係も絶妙で、この日の課題本『アルジャーノンに花束を』は8月のビブリオバトルで紹介された本の一つだったそうです。残念ながらチャンプ本には選ばれなかったそうですが、バトラーさんが発表しながら涙を流してしまったそうで、そのインパクトもあってか11月の課題本に選ばれ、読書会の感想をいう順番も涙を流したバトラーさんからということになりました。実は、この先の課題本でも、この日のビブリオバトルで紹介された本(但し、これもチャンプ本ではない)が選ばれたんです。チャンプ本を課題本にするといった決まりごとにするわけでもなく、でもビブリオバトルの紹介本を課題本選びの参考にしているという絶妙な距離がいいなあ。

初めて参加してみてとてもいい時間を過ごせたので、また参加しようと思っています。この読書会は誰でも(小・中・高校生もぜひ)参加できるので、興味のある方はぜひ!課題本は上で書いたメールマガジンや図書館だより「ぽけっと」に掲載されています。

この日のイベント全体で考えても、2種類の「本の感想を寄せる」イベントそれぞれの面白さが味わえてよかったです。読書会は毎回ビブリオバトルと共催するわけではないのですが、これからも共催というかたちも行うそう(共催の際も、どちらかだけの参加も可能)なので、そちらも楽しみです。