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ビブリオバトル@小岩図書館

―2013年12月8日のイベント
visit:2013/12/08
§ 江戸川区立図書館でははじめてのビブリオバトル

近頃ニュースにも取り上げられるようにもなったビブリオバトルというゲームをご存知でしょうか。面白いと思った本を持って集まり、本の紹介5分間+発表に関する質疑応答2~3分間を繰り返したあと、「どの本が一番読みたくなったか?」を基準に参加者全員が投票し、最も多く票を集めた本をチャンプ本とするというコミュニケーションゲームで、都内の図書館でもあちこちで開催されるようになっています。

そんなビブリオバトルというゲームが、2013年12月8日に小岩図書館で開催されました。江戸川区では、篠崎こども図書館が入っている「子ども未来館」で、子どもアカデミープログラムの一つとしてビブリオバトルを行うゼミを実施したことはあるようですが、図書館のイベントとして開催されるのは今回が初めて。どんなビブリオバトルになるんだろうと期待を膨らませて行ってきました!

§ 発表者さんの興味に応じてさまざまなジャンルの本が集結

会場は4階の視聴覚室。今回は8人の発表者が集まり、4人ずつ2ゲーム開催するかたちで行いました。事前に発表者同士で籤引きをして順番を決めており、その順序に従って、発表→質疑応答→発表→質疑応答…と4人繰り返して、その中からいいと思った本を皆で投票。これで1ゲームで、ちょっと休憩をはさんで同じかたちで第2ゲームを行うというわけです。

ビブリオバトルは「~な本」みたいにテーマを決めて開催することもあるのですが、今回は特にテーマはなし。なので、発表者の皆さんがもちよった本もジャンルが多岐にわたっているのが面白いんです。何か面白い本がないかなと探すときって、いろんな本に目を向けているつもりでも、ついつい好きなジャンルや馴染みのあるジャンルに偏りがち。でも、こうして自分とは関心の方向が違う発表者さんの話を聞くと、「こういう本・ジャンルにはこんな楽しみ方があるのか」という発見もある。偉い書評家の話などではなく、自分と同じ一般読者さんがこの本をこんな風に楽しんだという話であることに、親近感が増すんです。

例えば、『松居一代の超整理・収納術』を紹介してくれた女の子は、この本を読むまで自分は整理整頓している方だと思っていたのに実は違っていたことに気付かされ、自分が掃除するようになった結果、弟さんまで掃除するようになったことを話してくれました。読者の兄弟にまで影響力を与えるとは、松居一代パワー恐るべし(笑)。

また、羽生善治さんの著書『決断力』を紹介した方の質疑応答タイムで、「この本を読んだ後にした決断を何か教えてもらえますか」という質問に発表者さんが「仕事を辞めました(転職した)」と答えたときには、その決断の大きさに会場中がおぉ~っとどよめきました。この2人のおはなしだけ考えても、本が読者に与える影響力って本当に大きいですよね。

発表された本の中で、小説、あるいは小説集だったのは、『江戸川乱歩傑作選』(紹介したのは収録作の中の「屋根裏の散歩者」)、『素数たちの孤独』『虹の橋』『消えた受賞作 直木賞編』の4冊。どの発表もその作品への思い入れたっぷりで読んでみたくなるし、読んだことある作品もあらためて薦められると読みたくなったり。ちなみに、ビブリオバトルでは、既に読んだ本についても、その発表を聞いてまた読みたくなれば投票してOK。「どの本が一番読みたくなったか?」という投票基準には、そういう意味が含まれています。

そのほかには田邊元と西田幾太郎の思想について中沢新一氏がまとめた『フィロソフィア・ヤポニカ』の紹介も。西田幾太郎と言えば『善の研究』の著者…といった教科書的な知識は持っているものの、哲学の内容はなかなか理解できないでいたのですが、紹介者さんが合わせ鏡の例などわかりやすく話していたので、前よりほんの少し理解できたかも。自分には苦手なジャンルの本についても、発表者さんを通じてその本を垣間見れるというのが、こうしたイベントのメリットですね。

終末期医療の専門家である著者が患者たちから聞いた「やり残したこと」を類型化したという『死ぬときに後悔すること25』という本も、手に取ってみたくなりました。皆が後悔していることは何かというのも気になりますが、発表によると後悔のほとんどが「やれなくて後悔している」ことで、「やってしまって後悔している」ことはあまりないのだそうです。やはり、何でもチャレンジすべきということなのかな。

こんなかたちでそれぞれ発表、とっても面白かったです。紹介本と投票結果をまとめると、以下の通り。

第1ゲーム第2ゲーム
1番手 『松居一代の超整理・収納術』 『決断力』
2番手 『江戸川乱歩傑作選』
(紹介は「屋根裏の散歩者」)
 『素数たちの孤独』
3番手 『フィロソフィア・ヤポニカ』★『死ぬときに後悔すること25』
4番手★『消えた受賞作 直木賞編』 『虹の橋>』
★がチャンプ本

私は第1ゲームで『消えた受賞作 直木賞編』を発表し、チャンプ本に選んでいただきました。ありがとうございます。左の写真がチャンプ本に与えられる表彰状です。選んでいただいた嬉しさのあまり、編著者の川口さんにtwitterでご報告いたしました。この栄光は、編著者の川口さんのものです!ビブリオバトルという書評ゲームを楽しんで、それを編著者さんに直接伝えることができるなんて、楽しい世の中になったものだなあと実感します。

こうした楽しいイベントなので、これからもたくさんの人に参加して欲しい。イベント終了後に発表者同士が控室に戻って話したときにも出たのですが、ビブリオバトルの結果って投票できる人皆で選ぶものなので、参加メンバーが違えば違う結果になる可能性があるんですよね。例えば、『死ぬときに後悔すること25』は老人ホームなどで発表したらもっと読みたいと思う人が増えたかもしれないね、などと話したのですが、そんな風に参加者によって違う結果になるのがビブリオバトルの面白さ。逆に言うと、参加せずに結果だけどこかから知るのでは、ビブリオバトルの楽しさを味わっていないのと同じなんです。この記事をビブリオバトルに興味をもっていただいた方がいたら、ぜひ実際に参加して、この面白さを体験していただきたいです。

§ 普段は話さない図書館利用者同士が交流できるイベント

図書館というのは、静かに読書や調べものをする場所で、利用者同士の会話はあまりないもの。あるとしても、友達同士で来たとか、家族と来館したなど、元々知り合いである利用者同士の会話がほとんどですよね。でも、こうした参加型イベントがあれば、読んだ本の情報を交換しあったり、本を通じて新しい知り合いができる。これは講演会などの受動型イベントでは味わえない楽しさです。ビブリオバトルに限らず、こうした参加型・交流型イベントをこれからもぜひぜひ開催して欲しいです。

欲を言うと、ビブリオバトル後に発表者同士が控室で歓談する時間を作っていただいて、もちろんそれも楽しかったのですが、聞いてくださった皆さんとも話せる時間があるとよかったなとも思います。これは、今回の小岩図書館に限らず、都内の図書館で開催されるビブリオバトルのほとんどがそうなのですが、イベント終了後に「紹介者さんは控室へどうぞ」と誘導されることが多い。でも、観覧者さんから話しかけられるのも楽しいし、特にチャンプ本に選ばれなかったときに、それでもよかったと言ってくださる観覧者さんに話し掛けていただくととても嬉しいものなんです。図書館の皆さん、ビブリオバトル開催の際は、イベント終了後に観覧者さんと発表者さんが交流できる時間をぜひ作ってください。

また、イベントをきっかけに普段は行かない図書館に足を運んでくれる人がいるというのも開催メリットの一つでしょう。私が聞いた限りでも、普段は江戸川区中央図書館を利用していて、中央図書館内でイベント告知を見て申し込んで小岩図書館に来てみたという方が発表者さんの中に2名いらっしゃいました。図書館好きの方でもほとんどの場合はやはり利便性を考えて一番近い図書館ばかり利用すると思いますが、こうしたきっかけで別の図書館へ足を運ぶと新たな発見があって面白い。

もう一つ、図書館でのビブリオバトル開催の面白さは、参加者のバラエティが豊かなこと。ビブリオバトルは大学の研究室で生まれたゲームということもあり、どちらかというと若い人の間で広まっている傾向があります(私自身も若くはないし、必ずしも若い人だけのゲームではありませんが 笑)。また、ビブリオバトルを普及させるにあたってYouTubeやtwitterといったネット上のツールを使っているので、そうしたツールを使いこなせる人の間で広まりがち。でも、図書館という場所での開催は、それ以外の人にも参加してもらえる機会となります。私がもともと図書館びいきというのもあるでしょうが、他の場所でのビブリオバトルよりも図書館でのビブリオバトルの方が面白い気さえします。

そんなビブリオバトル、小岩図書館ではまだ具体的に決まってはいないものの、少人数のグループに分かれて皆が発表者となるタイプのビブリオバトルイベントなども構想に入れて、今後も開催したいと考えているそうです。江戸川区立図書館でのビブリオバトルの広がり、今後も楽しみにしています!