千石図書館ビブリオバトル ~文京区ゆかりの文人たち編~
visit:2013/09/21
学校・図書館・書店などで徐々に広まりつつある「ビブリオバトル」。どんなものなのか簡単に説明しますと、面白いと思った本を持って集まり、本の紹介を5分間+発表に関するディスカッション3分間を繰り返したあと、「どの本が一番読みたくなったか?」を基準として参加者全員が投票し、最も多く票を集めた本をチャンプ本とするという、本の紹介ゲームです。そのビブリオバトルが2013年9月21日に文京区千石図書館で開催され、私も本の発表者として参加してきました。
ビブリオバトルには、参加者全員が本を発表するパターンもあれば、数人の発表者と大勢の観覧者が集まって行うパターンもあり、図書館で行われる場合は後者のパターンで開催されることがほとんどです。今回の千石図書館ビブリオバトルでも、6人の発表者に対して2階の学習室に多くの観覧者が集まり、その場にいる発表者+観覧者で投票を行いました。
ビブリオバトル自体はどんな本を紹介しても構いませんが、テーマを決めてそれに関する本の発表を募るやり方もあり、今回の千石図書館のビブリオバトルでは「文京区ゆかりの文人たち」がテーマ。文京区は、永井荷風、夏目漱石、太宰治、宇野千代、宮沢賢治、川端康成、芥川龍之介、石川啄木、樋口一葉などなど、ゆかりの人物がとても多いんですよね。千石図書館の利用者さんの中には、このビブリオバトルの告知ポスターで「この人も文京区ゆかりの人物だったんだ!」という発見があった人もいるんじゃないかな。
また、ディスカッション時間もアレンジして、公式ルールが3分のところ、5分間に設定されました。文京区では、これまでに本郷図書館と水道端図書館でビブリオバトルが開催されていますが、いずれもディスカッションを5分で行っています。
今回のビブリオバトルは、発表者6人を2グループにわけ、発表&投票を2ゲーム行うかたちで開催されました。「文京区ゆかりの文人たち」というテーマで皆さんが発表した本は以下の通り。私自身は、第1ゲーム3番手として『レインフォール 雨の牙』を発表しました。
第1ゲーム | 第2ゲーム | |
1番手 | 『子規三大随筆』 | 『たけくらべ』 |
2番手 | 『兄のトランク』 | 『イーハトーブロマン』 |
3番手 | ★『レインフォール 雨の牙』 | ★『私の美男子論』 |
宮沢賢治の弟である宮沢清六氏が書いた『兄のトランク』、絵童話集『イーハトーブロマン』と、6冊のうち2冊が宮沢賢治関連の本だったというのは、このビブリオバトルが開催された9月21日が宮沢賢治の命日だったということもあるでしょうし、没後80年経った今も宮沢賢治の人気が高いことを物語っているように思います。『兄のトランク』紹介の中では、レコードを売っては買ってを繰り返したエピソード、『イーハトーブロマン』紹介の中では、巡査の月給が20円だった時代に書店で20円10銭分の本の予約をしていた(家出した際に当面のお金を得るためにそれを解約した)エピソードを教えてもらい、「雨ニモマケズ」のイメージとは違うお金の使い方にびっくり。
『子規三大随筆』も正岡子規の子どものような率直さに焦点をあてた発表で、偉大な俳人がぐっと身近に感じられました。知識や教養を詠み込むのではなく、自分の感覚で捉えたものを詠むというのが、子規の唱える「写生」(という安易な説明では、詳しい人に怒られそう)ですが、その率直さこそが「写生」の精神なのかも。私が第1ゲームで投票したのはこの本で、発表のおかげでハードル高く感じていた子規の世界が近くなったように感じました(発表者は、投票の際、自分が発表した以外の本に投票します)。
また、『たけくらべ』は言わずと知れた樋口一葉の代表作ですが、今回紹介されたのは松浦理恵子さんが現代語訳したバージョン。そして、美登利と信如の結ばれない悲しい運命に目がいきがちな作品ですが、発表者さんは作品の中で音が効果的に使われているのが好きだとおっしゃっていて、発表を聞いているうちに想像が膨らんで、下駄の音などが頭の中で聞こえてくるような感覚に。
ビブリオバトルは、自分が読んだことがない本についての話を聞くのが面白いだけでなく、既に読んだことがある本について、他の人がどう思っているのかを聞くのも面白いんですよね。そういう読み方があるのかという発見があって。投票の基準である「どの本が一番読みたくなったか?」というのも、既に読んだことがある本でも発表を聞いてもう一度読みたくなったなら票を入れられるという意味なんです。私も音を意識して読み直してみたいと思い、第2ゲームでは『たけくらべ』に投票しました。
『私の美男子論』は、森鴎外の娘である森茉莉さんが、昭和40年代に雑誌に連載していた人物エッセイを収録した本。この本を紹介したのは本郷図書館ビブリオバトルの常連の遠藤さんで、私の記憶ではこれまでに5回開催された本郷図書館ビブリオバトルで毎回チャンプ本に輝いている強豪バトラーさん。今回の千石図書館ビブリオバトルでも、見事チャンプ本に選ばれました!
発表では遠藤さん自身の男性の好みも交えて(笑)本を紹介しており、この本も面白そうだったのでイベントが終わった後に見せてもらったのですが、仲代達也、立川談志、岡本太郎などの若かりし頃などの写真がまぶしいくらい。色気のある男性が取り上げられる本をめくるうちに、私の頬もゆるんでしまっていたような(笑)。男性に限らず女性もだと思いますが、脂が乗っている時期は同性からみても魅力的ですよね。そして、嵐と同世代だというお若い遠藤さんが、こうした本を読んでいるというのがこれまた渋い!
私が発表した『レインフォール 雨の牙』は、「文京区ゆかりの文人たち」というテーマの中では変化球といえる本で、著者のバリー・アイスラー氏はアメリカ人なのですが、日本に住んでいたことがあり、その際の住んでいた場所が千石なんです。小説の中でも主人公の殺し屋が千石に住んでいるという設定で、その設定を話した時点で観覧者の皆さんにウケてもらえたので、 第1ゲームでチャンプ本に選んでいただいたのは99%小説の設定ゆえですね(笑)。投票していただいた皆さん、ありがとうございます!
こんなかたちで私自身も大いに楽しんだ、千石図書館での初のビブリオバトル、イベント開始時の館長さんからのご挨拶では、ずっと前からビブリオバトル開催を計画していたとのこと。千石図書館では、2012年9月29日に書評家の豊崎由美さんを迎えて、書評の読み方・書き方術に関する講演会を行ったのですが、それも書評バトルであるビブリオバトル開催を見据えてという意味もあってのイベントだったとのこと。
私もその講演会に参加し、豊崎さんの書評論を大いに参考にしています。この講演の内容は『ニッポンの書評』という豊崎さんの著書に沿っており、講演会に行けなかった人もこの本を読めば豊崎さんの書評に関する考え方がよくわかります。私が一番印象に残っているのは、ネタバレ的な書評はこれからその本を読む人が素直に驚いたり感動したりする権利を奪うものである、書評がその権利を奪ってはいけない、というもので、そう言われてからブログに本の感想を書くときなども気を付けるようになりました。
実は、私はこの講演会に行ったときは、座席を追加して定員を増やすほどの盛況ぶりだったのに、講演会を聞きに来た人のほとんどが図書館に寄らずに帰ってしまったのが残念で(このビブリオバトルも講演会も、会場は建物2階の千石アカデミー学習室、千石図書館は建物の地上1階&地下1階)、図書館イベントとしてはこれでいいのかとブログ記事にも書いたのですが、あの講演会も長期的な計画の一環だったんですね。偉そうなこと書いてすみません…。でもやっぱり、今振り返っても、あのまま帰さない工夫が欲しかったのも事実ですが。
最近、都内でもビブリオバトルを開催する図書館が徐々に増えてきましたが、その関連イベントとして、千石図書館のように書評家の講演会を行うのもいいですね。しかも、豊崎さんのように、「正しい書評」といったものはなく、人それぞれの本の読み方がある、極論を言うと「面白い書評なら何でもいい」という考えをお持ちの書評家さんの講演会なら猶更。豊崎さん自身がビブリオバトルに対してどんな考えをお持ちなのかわかりませんが。ちなみに私は、ビブリオバトルで『ニッポンの書評』を発表してチャンプ本に選んでいただいたことがあり、書評とは何かを考えるうえでビブリオバトル参加者にお薦めの本です。
このように、長期的計画の中でビブリオバトル開催を実現させた千石図書館。これからも開催したいとおっしゃっていたので、ぜひ多くの人に参加していただきたいです。今回のビブリオバトルを楽しんでいただいた方にもまた来ていただきたいし、豊崎さんの講演会にいらした方々も、投票というかたちで書評を楽しむビブリオバトルを楽しみましょう!