ビブリオバトル(2018年2月25日)
visit:2018/02/25
2018(平成30)年2月25日、大田区立大森東図書館で開催されたビブリオバトルに参加してきました。大森東図書館ではこれが2回目のビブリオバトル開催で、書架の奥にある第二読書室を会場に、5人のバトラーと10人強の観覧者が集まりました。
ビブリオバトルは本の紹介を通じたコミュニケーションゲームで、図書館で開催されることも多いのですが、このビブリオバトルでも、ビブリオバトルが何か知らないまま観覧に来てみた人が2人、バトラーも5人中2人が初めてのビブリオバトル参加だそうで、まだまだ知られていないゲームです。詳しくはビブリオバトル公式サイトを見ていただければと思いますが、簡単に言うと、バトラーと呼ばれる参加者がお薦めの本を5分で紹介、その紹介を受けて2〜3分間参加者が質問などする、というのをバトラーの数だけ繰り返し、最後に「どの本が一番読みたくなったか」を基準に参加者全員で1人1票投票して、一番票が集まった本をチャンプ本とするゲームです。
投票すると聞いて、プレゼンのコンテストのように思ってしまう人もいますが、「どの本が一番読みたくなったか」を基準とする投票は、評価ではなく、投票する人の趣味・嗜好があらわれるもの。どんな本のどこが好きかを発表や投票であらわすことが、参加者同士のコミュニケーションになります。
ビブリオバトルは、何かテーマを決めて、それに因んだ本を紹介するやり方もありますが、今回のビブリオバトルは、そのようなテーマはなし。その結果、紹介された本はこんなラインナップでした。
1番手 | 『14ひきのあさごはん』いわむらかずお |
2番手 | 『TESORO―オノ・ナツメ初期短編集1998・2008』オノ・ナツメ |
3番手 | 『車いすのパティシエ―涙があふれて心が温かくなる話』ニッポン放送「うえやなぎまさひこのサプライズ!」編 |
4番手 | 『暗い夜、星を数えて―3・11被災鉄道からの脱出』彩瀬まる |
5番手 | 『陽気なギャングが地球を回す』伊坂幸太郎 |
大森東図書館で子どもへの読み聞かせボランティアをしている女性が紹介した『14ひきのあさごはん』は、1983年に発行されて今も読まれているいわむらかずおさんのベストセラー。おじいさんとおばあさん、お父さんとお母さん、子どもたちという3世代14匹のねずみの一家が、森へ朝ご飯を採りに行き仲良く食べる物語です。1枚1枚の絵を見ると、文として書かれていること以外にもいろいろなことが起こっていて、それを見るのが楽しい。大勢の子どもへの読み聞かせより、数人の子どもに間近で絵を見せるのに向いている絵本だともおっしゃっていました。
これは確か、ビブリオバトルの後の雑談の中でこの女性がおっしゃっていたのですが、図書館には大人にも読んでほしい絵本がたくさんあるのに、お子さんがいる人以外はなかなか児童エリアに足を踏み入れない。大人にも絵本を読んで欲しいということで、この絵本を持ってきたそう。私は常々、自分も絵本を読んでみたいけど何を選んだらいいかわからないと思っていたので、こうして絵本を紹介してもらえるのがとても嬉しいです。
『TESORO』は漫画で、絵のタッチか何となく見たことがあると思っていたら、『のぼうの城』の表紙画を描いた人だと紹介されて、なるほど納得。バトラーさんのお薦めは、この中に収録された小編の一つで、父子2人の家庭でお父さんが息子に「キャラ弁を作るから何でも好きなキャラクターを言って」というと、息子が「お母さんを作って欲しい」というところから始まる物語。発表の中でストーリーをほぼ最後まで話してしまったのですが、それでも読んでみたいと思う物語で、私はこの本に投票しました。
『車椅子のパティシエ』は、ラジオ番組「うえやなぎまさひこのサプライズ!」の「10時のちょっといい話」というコーナーの投稿を抜粋したもの。CD付きの本で、バトラーさんはCDを先に聞いたそう。ディスカッション時間では、観覧者からの「CDで聞くのと、本で読むのとでは違うか」という質問に、バトラーさんが「CDだと音楽もついていて話そのものだけではない楽しみがある。本はじっくりと読める」と答え、読書もラジオも好きな私としては、わかるなあと心で頷いていました。
『暗い夜、星を数えて―3・11被災鉄道からの脱出』は私が紹介した本で、小説家の彩瀬まるさんが、東北旅行をしているときに東日本大震災に被災した体験を書いた本です。紹介時間では、この本の内容だけでなく、私がこの本を読んだきっかけを話したら、そちらにも興味を持っていただきました。彩瀬さんの小説『やがて海へと届く』を読んだら、主人公の親友が震災の後に行方不明になり、おそらく一人旅の最中に津波に巻き込まれてしまったらしい、その残された人々の想いを描いた内容だったんです。その小説を読み終わった後に著者略歴を読んだら、彩瀬さんがまさに一人旅の途中で東日本大震災にあっていて、その体験を書いた本があると知って読みました。このビブリオバトルの開催が2月末で、3月11日が近いということでも、皆さんに関心を持っていただきました。
最後を飾るバトラーさんは、『陽気なギャングが地球を回す』を紹介。もともと漫画が好きで、週刊少年サンデーで連載されていた『魔王 JUVENILE REMIX』の原作者として伊坂幸太郎さんを知り、その繋がりでこの本も読んだそう。『陽気な〜』も漫画化されているし、伊坂さんの作品はビジュアルで観たい気にさせる内容と言えるかも。発表時間では登場人物の特徴をそれぞれ説明してくれ、その人たちがどう組み合わさって犯罪を成し遂げて行くのか想像が膨らみました。
全ての発表が終わり、参加者全員の投票(バトラーも自分以外の本に投票します)を集計した結果、『暗い夜、星を数えて―3・11被災鉄道からの脱出』がチャンプ本に選ばれました。ありがとうございます。会場では、今回の紹介本を図書館蔵書で揃えて、借りたい人は借りられるようにしてあったのですが、実はそこでは『14ひきの~』シリーズの方が人気があったくらい。チャンプ本だけでなく、どの本も面白そうでした。
ここで大森東図書館から素敵なプレゼントがあり、チャンプ本に選ばれたバトラーにはオリジナルマグカップが、また、バトラー全員にオリジナル付箋が記念品として贈られました。
記念品に描かれているカエルは、「エルくん」という大森東図書館のキャラクター。大森東図書館の館内をよく見ると、カウンターや展示コーナーにエルくんが姿を現しています。キャラクターの由来はわかりませんが、カエルの「エル」でもあるし、Libraryの「L」でもあると言ったところでしょうか。次に大森東図書館に行ったら、エルくんの由来を聞いてみます。
ただ、私の意見としては、図書館は税金で運営されている施設ですし、記念品にお金をかけることはないと思います。図書館が提供すべきは、プレゼントをもらって嬉しいという体験ではなく、読書の楽しさ、読書を通じたコミュニケーションの楽しさだと思うので。記念品をいただいておいてこんなことを言うのも失礼な話かもしれませんが、このイベント時間が既にプレゼントで、記念品のお気遣いはなくても十分楽しいです。
ビブリオバトルでは、皆が前を向くように椅子を並べて、バトラーは前に立って話すかたちになっていましたが、終わった後は、皆が輪になるように机と椅子を並べかえて懇親会を行いました。これまた、大森東図書館のご厚意で、お茶やお菓子も用意していただき、本の話、地域の話、そこから派生したいろいろな話で盛り上がりました。
お菓子の目玉としてご用意していただいたのが、大森東図書館から道のりで約500mのところにある大黒屋さんの「美原どーなつ」。揚げるのではなく焼いて作ったドーナツで、いろいろな味がある中には「のりドーナツ」もありました。私ものりドーナツをいただきましたが、焼いているからさっぱりしていて、いくつでも食べられそう。
懇親会で大田区民の皆さんと話してて興味深かったのが、「普段はどこの図書館を使っているんですか」と聞くと、「○○図書館です」と1館を挙げる人より、「○○図書館とか○○図書館とか」と複数の図書館を挙げる人が多かったこと。さすが23区で独立した図書館が一番多い区だけあると思ってしまいました。当サイトの図書館数ランキングは、蔵書がない窓口業務だけの施設や図書館の分室である小さな図書室も入れてしまっているので、世田谷区や足立区が大田区より上になりますが、そうした施設を覗いた図書館数では大田区が一番多いんです。
そんな皆さんと「平和島(大森東図書館の最寄駅)は、書店がない。大森東図書館の指定管理者は有隣堂さんだし、有隣堂さんに平和島に出店してもらおう」と盛り上がったり、私が東日本大震災に関する本を紹介したことから災害への備えの話をしたり、いろいろな話をしました。ご一緒した皆さん、主催の大森東図書館さん、楽しい時間をありがとうございます。
こんな風に、本の紹介をきっかけに話が広がるコミュニケーションゲームがビブリオバトル。面白そうと思った方にはぜひ参加して欲しいです。言うまでもありませんが、ここに書いたことは当日の雰囲気のほんの一部。ビブリオバトルと懇親会あわせて2時間いたので、実際にはもっとたくさんの話をしています。
おそらく大森東図書館でもまた開催するでしょうし、当サイトの東京都の公立図書館でのビブリオバトル開催予定リストや、ビブリオバトル公式サイトのビブリオバトルカレンダーを見れば、他の場所での開催予定がわかります。ぜひ一緒に本の話を楽しみましょう。