トップ図書館訪問記練馬区練馬区立春日町図書館 > 開館20周年記念講演会「春日町図書館は二つあった?」

開館20周年記念講演会「春日町図書館は二つあった?」

―2016年9月4日のイベント
visit:2016/09/04
§ 20周年を迎えた春日町図書館

1996(平成8)年8月28日に開館した練馬区立春日町図書館は、2016年が開館20周年。それを記念して春日町や春日町図書館を振り替える展示や講演会を実施しています。私は自分が知っている以前の図書館の様子を知りたいので、そうしたイベントには元々興味があるんです。それに加えて、20周年記念イベントの一つとして開催された講演会「春日町図書館は二つあった?」には、そのタイトルにも惹かれて足を運んできました。

講師の小原敦子さんは、計画当初から春日町図書館設立を担当していた3人の職員さんのうちの一人で、資料には残っていない貴重な話を聴かせていただきました。聞きに来た人の中には、開館した頃からおはなし会ボランティアとして参加していた人もいらっしゃって、小原さんが昔の配布物などをお見せくださるたびに、懐かしいとの声が会場から漏れていました。

§ 二つの春日町図書館の秘密

気になる「二つの」春日町図書館ですが、春日町図書館が建つ可能性のある場所が2つあったのだそうです。当時は練馬区が策定した図書館12館構想に基づき、春日町図書館の設立を進めており、そのための用地を春日町2丁目、現在の春日町リサイクルセンターがある場所に取得していました。ざっくり言うと、練馬春日町駅と平和台駅を結ぶ環八通りの真ん中よりやや平和台寄りのところです。

そこに図書館を建てるつもりでいたところにバブルが弾けて、練馬春日町駅の駅前ビルに入るはずだった大きなテナントが入居を取りやめるという事態が発生します。空いてしまった大きな区画へ、集客力のある施設に入って欲しい。そこで浮かんできたのが、設立計画のある春日町図書館に駅前ビルへ入ってもらうというアイデアです。

駅前ビル案には、アクセスのよさに加えて、当初の計画より広い区画が得られるというメリットがありました。デメリットとして、小原さんは練馬区立図書館全体の配置を考えると光が丘図書館に近すぎるということを挙げていらっしゃいましたが、今あらためて練馬区立図書館の地図を見ると、それほど近すぎる感じはしません(むしろ、石神井地域の図書館密度の高さの方が目に留まる)。

結果的に駅前ビルへの入居となり、今の春日町図書館となったわけですが、駅近という便利さが元々の計画ではなく、バブル崩壊の余波だったとは驚きでした。アクセスのよさとは、単純な距離だけでなく公共交通機関網などを踏まえて考えるべきで、バス・電車が充実している場所に図書館を建てることは、通勤通学途中など生活のなかでの図書館利用を便利にするだけでなく、徒歩での移動が困難な人も来館しやすくなります。最寄駅から微妙に距離がある館がほとんどの練馬区立図書館のなかで、春日町図書館が駅前ビルの中という立地を確保できたのは、春日町図書館にとっていいタイミングでバブルが弾けたからだったんですね。

ちなみに、練馬区立図書館ではここ数年で、図書館が駅から少し遠いのを補う目的があるのでしょう、大泉学園駅受取窓口石神井公園駅受取窓口といった、駅の近くに図書館のカウンター業務のみを行う施設を設置しています。利用者としては、こうした施設も活用して上手に図書館を利用していきたいです。

§ 割り当てられた区画に図書館を設置する難しさ

2案あったなか選ばれた駅前ビルの場所ですが、割り当てられた区画に図書館を設置するのは、図書館用に建てる建物を設計するときにはない苦労がいろいろあったそうです。例えば、デザイン上の都合なのか、換気・排煙の都合上なのかは講演では触れなかったのでわかりませんが、春日町図書館は外壁部の多くが窓になっており、壁面を使った書棚というのがほとんどありません。更に、与えられた区画は曲線が多くてデコボコしており、区画のなかに上階のマンションのエレベーター・非常階段が通っていて使えない部分がある。

こう書くと、春日町図書館を知らない人は使い勝手悪そうと思うかもしれませんが、実際に春日町図書館に行ったことがある人は、それがいい個性になっていると感じているのではないでしょうか。例えば、図書館エリアの中央がエレベーター・非常階段で使えないことで、書架がドーナツ状の回廊式になっている面白さ。もともとスペースが広いのに加えて、壁面に書棚がないため、圧迫感がなくゆったりした雰囲気になっている。

また、小原さんとしては、建物の外壁や1階の図書館側入口に目立つサインを入れたかったのですが、建設会社にサインは目立たせるのではなく建物と一体化していた方がいいと主張されて、断念。建物ができあがったみたら、同居しているスーパーのサミットのサインは目立つように入っていたので、もっと粘ればよかったと悔しい思いをしたそうです。言われてみれば、春日町図書館に限らず、図書館であること・図書館があることがわかりにくい建物は多いです。図書館を探している人はもちろん、知らなかった人にも「ここに図書館があるんだ、入ってみよう」と思ってもらえるよう、いいアピールとなるデザインが増えて欲しいです。

ちなみに、春日町図書館が入っている駅前複合ビルは「エリム春日町」というのですが、このエリムが何なのか、春日町図書館をご利用の皆さんはご存知でしょうか。実はこの「エリム」、春日町が練馬区のほぼ真ん中(正確にはやや東寄りですが)ということで、「NERIMA」の中をとって「ERIM」としたそうです。名前一つとっても、春日町の住民の皆さんの地元愛を感じます。

§ そして、開館

開設準備にあたっては、マンション部の住民の方のお引越しや、他の商業施設の開店準備と重なって、常に建物の周りにトラックが駐まっている状態で、搬入に至るまでも一苦労だったそうですが、その甲斐あって8月28日・大安に無事開館。夏休み期間中ということもあり、多くの方が貸出して、開館して少し経ったら図書館の棚がほとんどガラガラになってしまったそうです。

図書館巡りをしている経験から言うと、それまで図書館がなかったところに新設されると今でもそうなるので、あれこれ本を手に取りたい人が新設された図書館に行く場合、開館初日から最初の土日祝日までに行くか、それがダメなら開館してしばらくしてから行くのがいいです。また、開館初日で職員さんが不慣れな日に人が大勢来ると対応の質も下がってしまうので、平日を開館初日にしたほうが職員さんも仕事に慣れやすいし、実際に開館初日を平日にするケースも微増しているように思います。

開館してしばらくすると、駅前図書館ならではの使われ方も見えてきて、待ち合わせ場所としての利用は思った以上に多かったそう。また、スーパーと併設されていることで、お子さんがおはなし会に参加している間にお母さんが急いで買い物するという利用も珍しくなかったとのことです。

面白いのは光が丘図書館との使い分けで、小原さんの予想では、「光が丘図書館は駅から少し遠いので、光が丘駅を利用している人でも、途中下車して春日町図書館で予約受取・返却するケースがあるのでは」と思っていたのですが、蓋を開けてみると同じ人が滞在型利用の行く先を用途によって光が丘図書館と春日町図書館とで使い分けるケースが見られたそうです。

その様子は、いろいろ調べ物がしたいときには光が丘図書館、落ち着いた雰囲気で過ごしたいときは春日町図書館を使っているようで、調べ物には練馬区の中心館である光が丘というのはわかりやすいですが、落ち着いた雰囲気が欲しいときに駅前の図書館を利用するというのは、確かに頭で考えているだけでは予想できないかもしれません。

春日町図書館は駅前ではありますが、先に挙げたように書棚の配置が圧迫感なくてゆったりしている。また、回廊式で中央に大きな壁があるので、カウンターが多少混雑しても別のエリアにいればその混雑を感じずに過ごせます。対して、光が丘は周辺に団地を抱えて来館者も多く、資料が多いけど書棚の間隔もやや狭くて、ちょっと落ち着かない雰囲気がある。その使い分けは、2館の雰囲気の違いをうまく活用していると思います。

§ これからももっと春日町図書館を利用したくなりました

以上、おおまかにまとめましたが、実際の講演ではもっと細かい話も含めていろいろ聞くことができ、とてもいい講演でした。小原さんは南田中図書館の設立にも関わったそうで、ぜひ南田中図書館の何周年かに講演してくださいとリクエストしてしまったくらいです。

こうしたイベントは、利用者にとって貴重な話が聞けるだけでなく、職員さんにもぜひ聞いて欲しく思います。春日町図書館が指定管理制度というのもありますが、自治体による直営の図書館でも異動や退職で人が入れ替われば、古いことはわからなくなってしまいます。地域の情報を集めることも図書館の大きな意義ですが、その図書館自体が地域の情報を受け継いできているかというと、必ずしもできていないのでは。こうして昔の図書館の様子を聴くことは、職員さんにとっても勉強になると思います。

もう一つ、こうしたイベントに参加するたびに体験することですが、図書館開設の講演などは、その頃同時に関わった方々も聞きに来ることが多く、そうした皆さんと話すことで講師以外の方の話も聞くことができます。この日も、質疑応答時間で私が質問したことで、図書館ボランティアの方が話し掛けてくださり、いろいろお話を聴かせていただきました。講師の方のお話はもちろん、参加者の皆さんとの話も含めて、記録にはない話が聞けるいい機会でした。

ちなみに、同時にギャラリー行われていた展示では、大きく伸ばされた春日町の地図に、来館者がお薦めの場所にシールを貼って、お薦めコメントを添えるという企画をしていて、この日の時点でも80個ほどのコメントが集まっていました。思い出をびっしり書いている人もいて、読んでいるだけでも楽しかったです。20周年の節目を迎え、これからも地域に愛される図書館として存在して欲しいし、春日町住民でない私も活用させていただこうと思います。