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たかなわミュージックライブラリー 第8回「大歌謡~昭和ソングライターズ」

―2014年2月19日のイベント
visit:2014/02/19
§ 笠置シヅ子から聖子・明菜まで歌謡曲をたどるCDコンサート

港区立高輪図書館で3ヶ月に一度開催されているCDコンサート「たかなわミュージックライブラリ」では、これまでジャズ、ポップス、映画のサウンドトラックなど、さまざまなジャンルを取り上げてきました。そして第8回を迎えた2014年2月19日のテーマは「歌謡曲」。小中学校時代に80年代アイドル全盛期を目の当たりにしている1971年生まれの私としては聞き逃すわけにはいかず(笑)、楽しみにして高輪図書館へとやってきました。

それにしても「歌謡曲」って幅広いですよね。ポップス的なものもあれば、演歌的なもの、ムード歌謡のようなものもあるといった状態で、専門家の中では何らかの定義があるのかもしれませんが、一般的には「昭和のボーカル曲」くらいの広い意味で使われているようにも思います。それは今回のイベントの選曲にも表れていて、先に曲目リストを掲載しますと以下の通り。

曲名アーティスト
1買物ブギー笠置シヅ子
2ヴァケイション伊東ゆかり
3ふりむかないでザ・ピーナッツ
4見上げてごらん夜の星を坂本九
5東京ドドンパ娘渡辺マリ
6ロカビリー剣法美空ひばり
7ブラック・サンド・ビーチ加山雄三
8フリフリザ・スパイダース
9君だけに愛をザ・タイガース
10恋のハレルヤ黛ジュン
11だまって俺についてこいクレージーキャッツ
12ポポンの歌千秋恵子
13イエイエ小林亜星作曲
14かに道楽デュークエイセス
15愛のさざなみ島倉千代子
16圭子の夢は夜ひらく藤圭子
17喝采ちあきなおみ
1817才南沙織
19あなたに夢中キャンディーズ
20UFOピンク・レディー
21美・サイレント山口百恵
22風立ちぬ松田聖子
23禁句中森明菜
24さらばシベリア鉄道太田裕美

途中12~14曲目に、歌謡曲というよりCMソングが入っているのもご愛嬌。また、実際には、ちょっと似ているかもということで、南沙織「17才」と一緒にAKB42「恋するフォーチュンクッキー」を聴き比べたり、間違えてかけてしまった別の曲をせっかくだからと聴いてみたりと、リストに上がっていない曲も含めて1時間半たっぷり歌謡曲を堪能しました。

多少前後するところもあるものの、概ね昔から今へという流れに沿って歌謡曲を聴いて感じたのは、昔の曲が大仰な様子であること。後期の歌謡曲は何か別のことをしながら聴いても構わない気がするのに対し、例えば坂本九の歌などは正座したりしてかしこまって聞いた方がいいのかなという気にさえなります。実際、歌う九ちゃんの方もスーツで正装して歌っていましたよね。

イベント後に職員さんとも、昔の歌手は「スター」だったのが、時代を経るにつれ「クラスの隣の席にいそうなアイドル」へと変化していったという話をしたのですが、音楽にも同様の変化があるのを感じます。個人的には、ラジオ・テレビが稀で貴重だった昔から、いつでもどこでも聴ける今となった、音楽を聴く装置の進化が音楽そのものにも影響を与えているようにも思いました。

§ 「歌謡曲」の幅広さを実感

イベントの中で館長さんが紹介くださったレコード大賞受賞作を追っていくのも興味深かったです。「上を向いて歩こう」はビルボードで3週連続1位を獲った曲として海外でも有名ですが、レコード大賞は獲っていないんですね。この曲が発売された1961年のレコード大賞はフランク永井「君恋し」です。また、♪そのうちなんとかなるだろう でお馴染みのクレイジーキャッツ「だまって俺についてこい」が発売された1964年のレコード大賞は、その対極ともいえる曲「愛と死をみつめて」。流行った1曲だけを抜き出して“この年はこの曲”だなどとまとめられないほど歌謡曲は幅広いということを感じます。

それに「歌謡曲」でくくってしまっていいのだろうかというほど曲調も幅広く、それくらい「歌謡曲」の取り込み力があったということなのかなとも思いました。ある意味、仏教もキリスト教も神道も年中行事として取り込んでしまえる日本らしさが「歌謡曲」にも表れている気がします。例えば、「禁句」は作曲が細野晴臣だけあってテクノ調の演奏で始まるにも関わらず、ボーカルの中森明菜が歌唱力で歌い上げていて、それで成り立っている。当時は(少なくとも私は)違和感なく、中森明菜の新曲はこんな感じなのねとすんなり受け入れていましたが、よく考えるとこの歌謡曲の包容力はかなり大きいといえそうです。

といった感想をイベント後に話していたら、そうした選曲も含めたアイドルの売り出し戦略の話が面白いからと館長さんに強く勧められて、『松田聖子と中森明菜』を借りてきました。アイドルを売り出すという動きの中で音楽要素がどう関わっていたのか、読むのが楽しみです。

こんなかたちで、皆で音楽を聴き、音楽の話で盛り上がれる「たかなわミュージックライブラリ」ですが、残念ながら今回がとりあえず最終回。これまで楽しい時間をありがとうございました!振り返ってみると、好きなジャンルの回が楽しかったのはもちろんのこと、馴染みのないジャンルを聴くきっかけにもなって、いいイベントでした。

図書館って音楽資料もたくさん所蔵していて、購入して聞くより気軽に聞けるんだから、図書館でこそ自分にとって未知のジャンルに足を踏み入れないと損ですよね。これまで毎回「たかなわミュージックライブラリ」を聴きに来た私としては、こうやって未知のジャンルも紹介してくれるイベントが終わるとともに馴染みの音楽に戻ってしまうのか、それとも自力で図書館資料を活用して新しい音楽と出会えるかを問われている気がします。後者の道を歩めるよう、図書館を使いこなしますぞ!