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たかなわミュージックライブラリー 第6回「画(え)のない映画~サントラ天国!」

―2013年8月21日のイベント
visit:2013/08/21
§ 何でもあり?の映画のサウンド・トラック

港区立高輪図書館で3ヶ月に1度のペースで開催されているCDコンサート“たかなわミュージックライブラリ”は、音楽好きの高輪図書館館長さんと音楽に詳しい図書館員・梅澤さんによるトークとテーマに沿った音楽で聴衆を楽しませてくれる素敵なイベント。2013年8月21日に開催された第6回のテーマは「画(え)のない映画~サントラ天国!」、そう、映画のサウンド・トラックの特集です。

冒頭で館長のタナベさんがおっしゃっていたことに深く頷いたのですが、CDショップなどに行くと、ジャズ、ロック、ポップス等音楽のジャンルでコーナーが分かれているなか、「サウンド・トラック」のコーナーだけはいろんな音楽が含まれている。で、「私はロックが好き」「私はポップスが好き」と特定のジャンルだけ聴く人も、映画のサントラに使われている曲は意外とすんなり抵抗なく聴いている。言われてみれば確かにそうですよね。映画と結びつくことで興味のないジャンルもするっと心に入ってくるって、サウンド・トラックの魔力と言えるかも。

そんな、あらゆるジャンルを内包しているサウンド・トラックなので、今回のCDコンサートで流した曲もクラシックからジャズ、ポップスまで様々。曲数も21曲と盛りだくさんの今回の曲目リストは以下の通り。

曲名映画
1グッド・モーニング『雨に歌えば』
2もうすぐ17歳『サウンド・オブ・ミュージック』
3ギーズ公の暗殺『ギーズ公の暗殺』
4ツァラトゥストラはかく語りき『2001年宇宙の旅』
5ワルキューレの騎行『地獄の黙示録』
6ラプソディー・イン・ブルー『マンハッタン』
7メモリーズ・オブ・ユー『ベニイ・グッドマン物語』
8モーテルのディナー『死刑台のエレベーター』
9ムーン・リヴァー『ティファニーで朝食を』
10ニュー・シネマ・パラダイス『ニュー・シネマ・パラダイス』
11ジェームス・ボンドのテーマ~死ぬのは奴らだ『007 死ぬのは奴らだ』
12燃えよドラゴン『燃えよドラゴン』
13黒いジャガーのテーマ『黒いジャガー』
14人食鮫(メイン・タイトル)『ジョーズ』
15ゴジラ(メイン・タイトル)『ゴジラ』
16チューブラー・ベルズ『エクソシスト』
17シェルブールの雨傘『シェルブールの雨傘』
18ぼくの伯父さん~アディオス・マリオ『ぼくの伯父さん』
19オルフェの歌(カーニバルの朝)『黒いオルフェ』
20ザ・ウェイト『イージー・ライダー』
21サウンド・オブ・サイレンス『卒業』

配布されたプレイリストは上記の通りでしたが、このほかにも毎回恒例、開始前の待ち時間をつかったオモシロ曲紹介では、「福岡市ゴジラ」(お馴染みゴジラのテーマに、♪ゴジラ・ゴジラ・ゴジラとメカゴジラ、といった歌詞をのせた歌)を流してくれたり、「ムーン・リバー」を作曲したヘンリー・マンシーニはこんな曲も作っているということで「ピンク・パンサーのテーマ」を流してくれたり、いつも通りサービス満点の内容でした。

§ サントラの効果を実験

今回のイベントの中でも特に面白い試みだったのが、同じ映像に違う音楽をつけたらどうなるかという実験。用意したモニタに映画『黄色いリボン』のあるシーンを音声なしで流し、同時にCDの音楽を流します。具体的にいうと、無人で走り出してしまった馬車を騎兵隊が追いかけるというシーンに、一度目は「ウィリアムテル序曲」(運動会などでよく流れるお馴染みのテーマですね)、二度目はNHK「映像の世紀」のテーマ曲をかけて、映像の印象は変わってくるか皆で観てみましょうと。

私の感想をいうと、「ウィリアムテル序曲」はやはり馬車につながれた馬が逃げていく方に目が行きます。捕まえようとしている騎兵隊より、逃げろ!と馬を応援したくなる(笑)。対して、「映像の世紀」テーマ曲は壮大すぎて、私の感覚では映像と合ってなかったような。この曲を選んだ梅澤さんは、西部開拓という壮大な事業に目が行く音楽として流したそうですが、選んだシーンが無人の馬車が走るハプニングの映像なので、壮大さを感じるにはちょっと…。でも、私のこの違和感自体が、音楽で壮大さを見せようとしていることを受け取っていることの表れですよね。私たちが映像を見ているときに、セリフで明示された言葉や登場人物の動きだけでなく、背景に流れる音楽も情報として受け取っていることがわかる実験、とても面白かったです。

§ サントラを読み解くトークや解説

たかなわミュージック・ライブラリーは、館長のタナベさんのトークや梅澤さんの解説も魅力で、たとえば「人食鮫(ジョーズのテーマ)」「ゴジラ」「チューブラー・ベルズ(エクソシストのテーマ)」という“恐ろしさを示す音楽”が、どれも単調なメロディーの繰り返しだというのを示してくれたり。単調な繰り返しが、退屈や飽きにつながらず、「来るぞ、来るぞ」みたいな雰囲気を作り出しているんでしょうね。恐ろしげにすればいいというわけではないというのは、とても興味深いです。

また、こうして映像効果を引き立てるものとして使われているサントラも、時が流れるにつれプロモーションとして使われるようになってきたのではないかというのが、館長のタナベさんのご意見。人気歌手の曲を主題歌として使って、その曲が流行ることが映画のプロモーションになるという流れは確かにありますね。というか、今や、俳優さんがバラエティ番組に出るのも宣伝、雑誌記事なども公平な記事というよりは宣伝を兼ねているように見えるものも珍しくなく、サントラに限らず全てが販促ツールに使われているような気も。でも、そういう商業的縛りを越えて質のいいものもあるし、どの時代も何らかの制約(技術的な制限や金銭的制限など)があったはずで、それを越えた音楽にできるかどうかが製作者の腕の見せどころのように思います。

毎回思うのですが、図書館で所蔵しているさまざまなCDを利用しようと思っても、結局借りるのは馴染みがあるジャンルの馴染みがあるアーティストのCDだったりしがちですよね。でも、こうして図書館で音楽の紹介や解説をしてくれるイベントがあると、未知のジャンルに触れることができたり、何気なく聴いていた音楽も解釈が広がったりする。本を読み解くように音楽を読み解くイベントというのはとても面白く、毎回楽しんでいます。定期的なイベントなので、興味のある方はぜひ!

次回の予定は、2013年11月20日18時からで、テーマはジャズのレーベル「ブルー・ノート」とのこと。ジャズ好きの館長さんのトークが炸裂すること必至ですね(笑)。熟練ファンも初心者も楽しめる内容にするとのことで、ジャズにはそれほど詳しくない私も今から楽しみです。