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第66回読書会『夢十夜』

―2015年10月3日のイベント
visit:2015/10/03

北区立中央図書館では、毎月第1土曜に課題本を決めた読書会を開催しており、参加者がそれぞれ感想を発表しあいます。本の感想は人それぞれで、同じ本なのに読む人によって目のつけどころが違っていたり、同じシーンでも受けた印象が違っていたりする。皆さんの感想を聞くことで、自分では気づかなかったことや違う考え方を得ることができ、私にとっては本の読み方が深くなる楽しい時間で、時間の都合がつく限り参加しています。

2015年10月の課題本は夏目漱石の『夢十夜』。これは、2015年8月の読書会で、課題本を決めて感想を話し合う通常の形式ではなく、番外編として参加者それぞれが好きな作家について語り合うという企画を行った。その中で夏目漱石『夢十夜』を好きな作家・作品として挙げた方がいて、それをきっかけにこの本が10月の課題本となりました。ちなみに、課題本を何にするかも、図書館が決めるのではなく、このように参加者同士で決めています(大抵は、毎回の読書会終わりに、次々回の課題本を決めるというかたち)。

§ 感想だけでなく、読む方法も人それぞれ

今回の参加者は10人。その中に初参加の方がいらっしゃったので、最初にその方に自己紹介していただき、その後、初めてでない参加者が順に初参加の人への自己紹介&課題本の感想を話すというかたちで進行しました。素敵な作品だという人もいれば、つまらなかったという方もいるのですが、その違いこそが面白い。

更に、この回では「若いころに読んだときにはつまらないと思ったけど、あらためて読んだらよかった」とおっしゃっていた方が数人いて、人生経験を経ることで本の感想が変わるということも感じました。私は、読書というのは実は自分を読むことで、その本に対してどんな感想を抱くかということがそのときの自分を表していると思うのですが、今回の読書会はその想いを強くしました。

また、『夢十夜』は十編の夢が収録された作品なので、私は何編目が好きという感想をおっしゃる方も多く、その違いも面白かったです。私は既に何度か読書会に参加していることもあり、常連の参加者さんの本の読み方やどういう本が好きでどういう本があまり好きでないかなどが少しわかる。「この方は確かにこの作品が好きそう」「あの方は意外とこんな作品も好きなんだ」といったように、読書感想を通じて皆さんを知り、仲良くなれるのが楽しいのです。

更に、今回の課題本の場合は、死後50年以上を過ぎて既に著作権の切れた文豪の作品ということもあり、いろいろな出版社がいろいろなかたち(全集に収録、文庫本、イラスト入りの単行本)で発行、映画化もされていて、どの本でどんな風に読んだかが参加者それぞれ違っており、その多様性も面白かったです。

例えば、参加者の一人は、図書館で朗読CDを借りて、それを聞きながら目でも文章を追うというかたちで読んだそう。他の方から、第1~3夜と第5夜の始まり「こんな夢を見た」の響きがいいという意見もあったのですが、音としての響きって作品の印象にも大きく関わっている。私はほとんどの読書を黙読するだけなのですが、朗読で楽しむという方法もあるということに気付かせていただきました。

また、別の参加者は図書館でこの作品が連載されていた1908年の朝日新聞の紙面を見つけて読んだのだそう。夏の日に新聞小説として掲載されて読んで、お盆の時期に合わせた作品という印象を受けたとおっしゃっていました。北区立中央図書館だと公開書庫に日本図書センター発行の「朝日新聞 明治編 復刻版」がありますし、データベース「聞蔵IIビジュアル」を使える図書館ならデジタル形式で当時の紙面を閲覧できる。図書館を使うとこうした読み方もできるんですね。

他の方のエピソードで素敵だと思ったのが、社会に出て最初のお給料で買った漱石全集(たぶん昭和40~42年発行版)をご持参した方のお話。買ったもののそのまま棚に入れっぱなしにしていて、今回漱石作品が課題本になったのをきっかけに初めて本を開いたのだそう。おそらくは、買ったことで満足したという面もあるだろうし、きれいに揃っているものを開くのがもったいないという思いもあったのではと想像したのですが、「本を買う」ということが必ずしも「読む」を意味していないというのは、実は多くの人が経験していることではなでしょうか。

§ 皆で朗読を楽しむ

こんなかたちで各人が感想や作品にまつわる話を一通りした後、更に自由に話をしていた時間の中で朗読で、楽しむということが再び話題に上がりました。ここの読書会の常連さんの中には、話を暗記して語りで演じる(本を開いて読むのではなく、暗記する朗読みたいなもの)「語り」という活動をしている方がいらっしゃって、この1ヶ月ほど前に私もその方の発表会を聞きに行ったのですが、話の流れで『夢十夜』の一編をその方に朗読していただこうとリクエストが出て、第一夜を朗読していただいたんです。

これが実に豊かな体験で、ふだんから「語り」をしている方の朗読を生で聞けたというのもよかったですし、『夢十夜』は読んでいて映像が浮かんでくる絵画的な作品でもあると思うのですが、朗読で聞くことであらためてその思いを強くしました。図書館は、利用者がそれぞれ読みたい本を手に取って読む空間でもありますが、こうして皆で一つの作品を楽しむこともできる場所でもあるんですね。

北区立図書館の読書会は、在住地等の制限なく誰でも参加できますし(私自身、北区の住民ではないのに、半レギュラーのように参加しています)、『夢十夜』のような短い作品だとほとんどの参加者が課題本を読了していますが、長い作品が課題本の場合は読み終わっていない方も何人か参加しています。皆の感想を聞いてネタバレするのが嫌でなければ課題本を読んでいなくても参加OKという寛大な読書会なので、ご興味ある方はぜひご参加ください。自分の読み方だけではない、広い読み方が体験できる読書会、お薦めです。