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終わりから始まるものがたり―25の問いと100冊の本―

―2013年8月15日から10月14日までの展示
visit:2013/08/14
§ 「問い」を展示する企画展

日比谷図書文化館で2013年8月15日から10月14日にわたって開催されている企画展「終わりから始まるものがたり―25の問いと100冊の本―」は、見るべきものや知るべき情報の展示ではなく、考えさせられる「問い」を展示するという、一般的な企画展示とは一味違う展覧会。タイトルを聞いて気付いた方もいるでしょうが、2012年に日本科学未来館で開催された企画展「世界の終わりのものがたり~もはや逃れられない73の問い」を元にして、日比谷図書文化館ならではの本・図書館へとつながる内容に再構成した企画展です。

メイン会場は1階入口入って階段向こうを左に進んだ特別展示室。図書館機能と博物館機能を合わせもった施設である日比谷図書文化館のミュージアムフロアでの企画展示で、観覧料(一般300円、大学・高校生200円、千代田区民・中学生以下、障がい者手帳をお持ちの方と付き添いの方1名までは無料)が必要というところが図書館の企画展示としては様子が違いますから、どうぞそのつもりで。1階入口入って左先にある券売機でお金を払うと、2次元バーコードが印刷されたチケットが出てくるので、それを特別展示室入口にかざして、いざ入場です。

会場に入って目立つのは、文字の書かれた三角錐の物体。この物体の一つ一つに固有の「問い」が書かれていて、それらに向き合うことで、“終わり”や“今”、そして“未来”を考えさせられる展示になっています。問いの例を挙げると、

など。こうした問いとともに、考えるヒントになる情報やアイテムが展示されていたり、来場者が自由に書き込める仕組みを通じて、他の人の回答をみることもできる。何かを受動的に見る展示ではなく、問いという刺激を受けた自分の内面の反応を見るような展示なんです。

例えば、「いちばんこわいものはなんですか?」という問いのそばには、さまざまなリスクの頻度と死者数が示されています。津波の恐怖は記憶に新しいですが、2万人に死をもたらすけど1000年に一度しか起きない大津波と、7分に1件という頻度で発生して1件当たりの平均死者数が0.7人である交通事故とでは、交通事故の方が計算上リスクが高い(交通事故の1000年間の死者数を割り出すと5256万人。津波の2万人とは桁が違いすぎる!)。大震災によって“今”が永遠に続かないことを意識させられましたが、実はもっと近くに“終わり”はある。単にそれを意識していなかっただけなんだということを実感します。

いろんなことがあと何回できるかを数字で示す「終わりメーカー」も、“終わり”を見つめるヒントになります。これは、現在の年齢と何歳まで生きたいかを入力すると、その年齢になるまでに何回食事ができるのか、あと何時間眠れるのか、あと何回桜が見られるのかなどを計算してくれるもの。「何歳まで生きたいですか」の項目に自分の願う年齢を入れるだけでなく、もし○歳で死んでしまうとしたら、と願望より少ない数字も入れてみると、何気なく行っていることの重みが感じられます。

ただ、死によって人生が終わるとしても、それでその人の全てが終わってしまうのか。誰かがその人のことを覚えていることを、「心の中で生きている」と言ったりしますよね。そこで、終わりを意識させたあとに展示が私たちへ投げかけてくる問いは、「「生きている」ってなんでしょう?」「どこまで「わたし」なのでしょう」というもの。前者の問いに対する回答は展示室からネット上へ投稿できるようになっており、展示されていた当時に開設されていた特設サイトを開けば、皆の回答が流れてくるようになっていたのですが、共感できる回答、意外な回答などなど、多様な意見がごちゃまぜになって流れてくるのが面白い。どこまでが「わたし」かという問いのそばでは、モノで「わたし」を表現した展示もしていて、「わたし」の定義を考えさせられます。

そして、展示ルートの終盤では、どんな未来がいいか、わたしの望みとみんなの望みは同じなのか、何を残すか、これから何を始めるかなど、終わりを意識したうえでの未来の捉え方が問われます。展示ルートのこの辺りになってくると、最初は遠く感じていた“終わり”をいつ来てもおかしくないものとして捉えているのが自分でもわかるんですよね。私などは、最初は真剣ではなさすぎたと思って、最初に戻ってもう一度展示を見直してしまったくらい。皆の回答を見つつ自分なりの回答を出すものの、会場を出た後も自分への問いが続くような、心に残る展示でした。

また、特別展示室の展示では、これら25の問いを投げかけてくるだけでなく、その問いに向き合うのに参考になる本も展示されているのですが、率直にいうとせっかくの展示本なのにそれが問いに関連していることがわかりにくい(私は8月14日に行ったので、その後改善しているかも)。展示室内に置かれている本をよく見ると番号の入った黄色丸シールが貼られていて、これが入口でもらう冊子に掲載されている参考書籍の番号に対応しており、それを辿るとどの問いへの参考本なのかわかります。展示本を手に取るにしても、問いを意識すると見方が変わるかもしれないので、ぜひ冊子と対応させてみてください。

§ 館内全体でも関連展示

さて、この「終わりから始まるものがたり」は、特別展示室の企画展示にとどまりません。2,3階の図書フロアや地下のレストラン脇など、館内全体で関連展示が行われています。

当サイトをご覧いただいている図書館好きの方に見ていただきたいのは、2,3階の階段向かって右に掲げられている問いと、それに対する皆の回答。2階の問いは「運命的な本との出会いはありますか?」、3階の問いは「100年後の図書館はどうなっているでしょうか?」となっており、問いのそばに大きめの糊付き付箋が用意されています。この付箋にあなたの回答を書いて、この場に貼ってくださいというわけですね。

私が見に行った8月14日時点では、「運命的な本との出会いはありますか?」のほうにはなぜか漫画を挙げている人が多く、その一方で「どれも貴重な本なので選べない」という回答もあり、私もこの回答に同感!「100年後の図書館はどうなっているでしょうか?」のほうも、利用者が行かなくても宅配してくれる、電子書籍等の台頭で図書館がなくなっている、などの回答があるかと思えば、とてつもなく高い塔になっているという回答、はたまた、イケメンしかいない図書館という回答(願望?笑)もありました。似ている回答があっても、決して一色にはならない、この多様性が面白いです。

地下レストラン入口向かって右では「大好物をひたすら食べ続けることができますか?」という展示があり、こちらは投稿型ではなく、ナポリタン(ミートソーススパゲッティだったかも)を食べ続ける映像が延々と流れるというもの。見ていると演者さんがお気の毒になってくる…と思うということは、やはりどんなに大好物でも限界があるということか。

§ 実は私も参加させていただきました

そしてもう一つ、2階パープルゾーン入口入ってすぐの三角形棚では、「あなたが100年後まで残したい本はなんですか?」という問いに、日比谷図書文化館の日比谷カレッジで講師を務めた皆さん、日比谷図書文化館館長、日本科学未来館館長の計18名が挙げた本を展示しており、実は私も新しい図書館学 第2回の講師を務めさせていただいた関連で参加させていただいております。

私が挙げたのは『東京下町100年のアーカイブス』なのですが、趣旨としてはこの本そのものというより、この写真集に掲載されているような素材こそを残しておくべきではないかというもの。上に書いたように、数多ある本の中で1冊挙げるなんて私には無理(笑)!むしろ、本そのものより、写真やインタビュー音源、取材メモなど、本の素材になるものを保存しておけば、今から100年後にこの写真集のような本を作ろうとしたときにも作れるわけで、そうした素材の保存の方が大切なのではないかと。

100年も経っていたら、いろんな分野でパラダイムシフトが起きているかも。そして、そうした新しいパラダイムの中では、素材の解釈も変わってくるはず。そういう意味でも、編集された本にも増して、本の素材となるものを保存していくことが重要なように思います。

まあ、私の思いはともかく、宇宙飛行士で日本科学未来館館長の毛利衛氏、作家の阿刀田高氏、女優の梶芽衣子氏といった著名人が選んだ「残したい本」を手に取ることができたり、ボクシングレフェリーの葛城明彦氏や太田道灌子孫の太田資暁氏といったラインナップをみて、日比谷カレッジの幅広さをあらためて感じられる展示になっているので、ぜひご覧ください。

§ 何度も楽しめる企画

この企画展は、2013年8月15日から10月14日まで約2ヶ月間行われますが、この期間に1度見に行って終わりというものではなく、何度も見たくなる展示です。というのも、来場者の問いに対する投稿は日を追って増えていく、その投稿を見るのが面白いから。自分では思いつかないことを書いている人がいたり、数多くの投稿の傾向を見ることで自分が多数派なのか少数派なのかがわかったりして、皆の投稿に刺激を受けます。

上でも触れたように、問いのなかにはネット上で参加できるものあり、この企画展の公式サイトの「あなたなら、この問いにどう答えるのか!?」から、特別展示室での問い(下の3つ)と館内展示での問い(上の3つ)に答えを投稿することができます。特別展示室での問いの方は専用サイトで皆の答えが自動的に流れてくるかたち、館内展示での問いはFacebookで答えを投稿&表示しているので、日比谷図書文化館に来られない方もこちらからぜひご参加を。

また、今回はこの人と一緒に、次回はあの人と一緒にと、違う人を誘って語りながら展示を見ると、同じ展示でも膨らむ発想が違ってくると思います。私自身、内覧会のときは親しくさせている職員さんと話しながら見て回り、後日友達と一緒に行ったのですが、一緒にいる人によって展示を起点に膨らむ話が違ってくるのが面白いんです。もちろん、一人で展示を見て、自分の心と向き合ってみるものよし。そのときの心理状態によって自分の考えも変わってくるだろうし、問いを通じて今の自分を見つめることができると思います。

本展示の元となっている「世界の終わりのものがたり~もはや逃れられない73の問い」を見た方にとっても、テクノロジーのミュージアムである日本科学未来館で発想する“終わり”と、新旧の本を所蔵している日比谷図書文化館で発想する“終わり”はまた違うかもしれません。“終わり”を感じた後に“今”の見え方が変わってくるのかどうか、どう変わってくるか。自分への問いかけをぜひ楽しんでください。