トップ図書館訪問記千代田区千代田区立日比谷図書文化館 > ドキュメンタリー映画『疎開した40万冊の図書』上映会

ドキュメンタリー映画『疎開した40万冊の図書』上映会

―2013年9月17日のイベント
visit:2013/09/17
§ 戦時下の「図書の疎開」を取り上げたドキュメンタリー映画

『疎開した40万冊の図書』は、1944年から1945年にかけて、千代田区立日比谷図書文化館の前身である東京都立日比谷図書館が主導して行った「図書の疎開」を取り上げたドキュメンタリー映画。この映画は2012年にも『40万冊の図書』として公開されており、私も日比谷図書文化館で上映会を行った際に観に行きましたが、2013年になって更に編集を重ねて『疎開した40万冊の図書』として完成させたと聞き、さっそくその完成版を見に行ってきました。

映画では、図書の疎開に関する資料を見つけた図書館職員さんの話を皮切りに、戦時中の図書の疎開に迫っていきます。当時の都立日比谷図書館館長・中田邦造氏を中心に開始された図書の疎開は、都立図書館の蔵書にとどまらず、収集家などの民間人が持つ貴重図書をも買い上げて疎開させる活動として行われます。つまり、図書館の財産を守るための活動ではなく、図書文化や文化財を守ることにまで広げて疎開を行ったわけです。

民間からの買い上げで中心人物となった古書の専門家・反町茂雄氏は、古書の売買を生業としながら、古書資料をあるべきところに戻す(地域資料をその地域に戻すなど)活動もしている方で、そうした方との仕事は図書館員にとっても大きな影響を受けたとのこと。業者が決めた古書の値段を払うのが当たり前と思っていた図書館員が、反町氏に自ら価値がわかるようにならないとダメだと怒られたエピソードなど、現代の図書館にもあてはまりそうと思ってしまったり。でも、現実的に全ての本を疎開させることはできない状況では、本の価値を見極めることが猶更重要ですよね。

それらの本の疎開先は現在のあきる野市や埼玉県志木市にある農家などの土蔵で、都立一中(現在の都立日比谷高校)の生徒が勤労学徒として動員され、リュックに本を積んで電車で運ぶ、木炭車に乗せて運ぶ、本を載せた大八車を曳いて運ぶなどの方法で疎開させたそうです。映画では、実際に本を運んだ方々や土蔵の持ち主の方々へも取材しており、雪で大八車がうまく進めなかったというエピソードや、土蔵に今も残っている爆撃の破片痕などから、疎開の苦労が生々しく伝わってきます。

そうやって、本を疎開させてきたものの、1945年5月25日の空襲で日比谷図書館も焼けてしまい、21万冊の蔵書が焼失、東京都立図書館全体では44万冊の蔵書が焼失してしまいました。中田氏はもっと早くにもっと多くの蔵書を疎開させておけばと悔やんだそうですが、そうしなかったのも図書館の使命を守るためで、そちらも確かに大切なことなんですよね。疎開させないでおいた本があったのはなぜか、そこはぜひ映画をご覧ください。戦時下で迷いながら図書館を守っていたことが感じられるエピソードだし、そもそも「戦時下での図書館の使命は何か」ということを考えないといけない状況こそが間違っていると痛感します。

また、エンドロールでは、戦時中に図書の疎開を行った図書館の一覧や、戦火で蔵書が焼失した図書館の一覧も示されており、都立日比谷図書館で行ったような疎開を全国の図書館で行っていたこと、都立図書館を襲ったような悲劇が全国で起こったことを伝えてくれます。中田館長や反町氏のような志を持った方が全国にいらっしゃって、それでも救えなかった本がたくさんあった。それを思うと、戦争というものの罪深さを感じずにはいられません。

§ 本の危機は遠い日の話ではない

また、この映画では、戦中の図書の疎開にとどまらず、イラク戦争、震災・津波、放射能漏れ事故などで、現代でも本が危機にあうということ、そして、そんななかで本や文化を守ろうと頑張っている人たちがいることも伝えてくれます。

イラクでは、空爆から図書館の蔵書を守るために、本を自宅に避難させた図書館員がいる。陸前高田市立図書館では、津波にさらされて読めなくなった蔵書のうち、400冊の貴重書を取り出して修復。また、移動図書館をスタートに、図書館活動を再開しています。

村営の本屋さんしかなかった福島県飯舘村では、全国に呼び掛けて利用されなくなった絵本を譲ってもらう「あなたにつなぐ飯舘絵本リレー事業」を開始。集まった絵本を飯舘村の子どもたちが読むだけでなく、絵本を英訳してラオスに送る活動もしていました。その後、震災に伴う放射能汚染によって、それらの絵本を残したまま避難することになってしまいましたが、現在は除染作業を経て移動図書館の蔵書として村民に読まれているようです。

ドキュメンタリーの内容が戦時中の図書の疎開にとどまっていたら、昔の方々の偉業という遠い話として受け取られかねないところ、この映画では、これら記憶に新しい出来事によって本が危機にあい、その中で本を守る活動をしている方々の姿を伝えている。映画を見ている私達一人一人が、今できることがあるのではないか、それを行っているのかと問われているように感じます。

§ 本を愛する全ての人に見てほしい映画

今の日常生活では、「書店で買ったり図書館で借りたりして本を読むことができる」というのは当たり前のこと。でも、それが当たり前でなかった時期もあり、これからも想像もつかないかたちでその「当たり前」ができなくなることがありうるんですよね。実際、多くの人は2011年3月11日が来る前にあんなに大きな地震・津波が起こるとは想像していなかったし、1940年頃の人々もこの先東京にある本が戦火で焼けるなんて思わなかったでしょう。それを踏まえると、これからだって思いもよらないかたちで本が危機にあう可能性はある。

また、一見平和に見える生活の中でも、図書館の蔵書が不当に破棄されたり、表現の自由を侵害する惧れのある法案が出されるなど、読書の自由が奪われるケースが起こっています。つまり、本の危機は今も身近で起こっており、実際の焼失とは違う方法で本が燃えているともいえる。そうした事件や動きに対して、何ができるか、何をすべきか、考えずにはいられません。

「本が読める」ということが「当たり前」であり続けることの大切さを再確認させてくれる『疎開した40万冊の図書』。本が好きな全ての人に、ぜひ観て欲しいです。