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ドキュメンタリー映画『40万冊の図書』上映会

―2012年12月13日から15日までのイベント
visit:2012/12/13
§ 戦時下の都立日比谷図書館の本の疎開を取り上げたドキュメンタリー

千代田区立日比谷図書文化館は、2009年3月まで東京都立日比谷図書館として運営されていた図書館。その歴史は1908年の東京市立日比谷図書館としての開館までさかのぼります。戦争で焼けてしまった後に今の三角形の建物に建て直されたのですが、焼失する前に図書館職員さんや東京都立第一中学(現在の東京都立日比谷高校)の生徒さんの手で40万冊もの本の疎開をしたのだそうです。それを取材してまとめたドキュメンタリー映画『40万冊の図書』が日比谷図書文化館で上映されました。

上映会場は地下の大ホールで、入場料は1000円。2012年12月13日から15日までに行われる上映会のうち、私は13日の1回目に行ってきたのですが、客席は会場の半分程度が埋まっていました。最初、映像に不具合があったということで、中断してまた最初から上映し直すというハプニングもあったものの、内容の重みに感動して涙を流していた方もいらっしゃった様子でした。

本の疎開先は現在のあきる野市や埼玉県志木市だったそうで、リュックをしょったり大八車に本を積んで日比谷からそれらの疎開先まで運んだというんだからすごい。疎開が行われたのは1944年から1945年だそうで、既に人手は戦地に取られているから、都立一中の生徒が勤労学徒として動員されたわけです。歩いて日比谷からあきる野市・志木市まで行くだけでも大変ですけど、更に本という重いものを運ぶわけだし、道も今よりもちろん状態が悪かったはずですよね。疎開させた40万冊には、図書館の蔵書だけでなく民間から買い上げた貴重資料も含まれていたそうで、図書館の財産を守るのみならず、出版文化・書籍文化を守るための疎開だったことがわかります。

映画では、実際に本を運んだ勤労学徒26名のうちの2名に話を聞いたり、疎開先となった土蔵の持ち主の方へも取材しています。また聞きではなく、疎開の様子を実際に知っている方々の証言を記録している点でも、本当に貴重な映像資料だと思います。本の疎開先となった土蔵はお寺や民家のものなんですけど、預かった後も土蔵が爆撃機から見えにくいように壁に炭で汚したりして、運んだ人と守った人の力で蔵書が今なお残っていることが伝わってきました。土蔵に残っている爆撃の破片後なども生々しいです。

でも、残念ながら全ての本が守られたわけではなく、1945年5月25日の空襲で日比谷図書館も焼けてしまい、21万冊の蔵書が焼失してしまいました。東京都立図書館全体で焼失した蔵書数は44万冊とのこと。もっと早くにもっと多くの蔵書を避難させておけば、21万冊ないし44万冊という数字は減らせたかもしれませんが、どうしてそれができなかったかという中田館長の言葉にも一理あって、本当に迷いながら悩みながら戦時下の図書館を守っていたことが伝わってきます。ではなぜ避難させることができなかったか…それは、ぜひ実際に映画をご覧ください。これもこれで理念を持って行われた決断だし、やはり憎むべきは疎開か否かの決断をしなければならない戦争なんだと思い知らされます。

§ 現代のエピソードも

この映画では、戦時下の本の疎開に加えて、映画ではイラクの図書館で同様に本を守った方の話や、ネットでの呼びかけで全国から絵本を集めた福島県飯舘村が震災に伴う福島第一原子力発電所の事故で本を残して避難することになってしまった話、津波の被害にあった陸前高田市立図書館が移動図書館を走らせている話なども取り上げています。津波にあってボロボロになった本と、見た目には何ともないのに放射能汚染のせいで取り残された本とは、映像としては対極的なのですが、ともに読書文化を奪われたできごとであり胸が痛みます。そんな状況の中で頑張っている方々を見ると、戦時下の本の疎開のような危機は決して過去のことではないと痛感します。

また、これは映画に描かれていたことではなく、私の感想ですが、戦争や災害といった危機に面してから守るのでは不十分で、やはり普段から本や文化を守っていかないといけないですよね。大阪市と大阪府が大阪府立中之島図書館を美術館などの集客施設に転用しようとしている件のような大きなケースから、保管スペースに限りがあるための蔵書の除籍というどの図書館でも抱えている問題まで、出版文化の継承を損ないかねない問題はたくさんあります。低成長、いやむしろマイナス成長が続く気配も濃いこの時代、コスト削減の名のもとに文化が断絶することがないよう、努力しないといけないことも感じました。

§ ぜひ多くの図書館で上映して欲しい

このドキュメンタリー映画は、都立日比谷図書館での本の疎開が取り上げられたということで日比谷図書文化館での上映となったのでしょうし、制作会社であるシネマボックスのサイトを見ても2012年12月13日時点では日比谷図書文化館でしか上映していないようですが、私としてはぜひ都内各地の図書館で上映して欲しいと 思います。都民の本を守ってくれたエピソードですし、多くの都民に知ってほしい。そのためにも市区町村の図書館で上映してもらえればと。

DVDになっていると上映しやすいかもしれませんが、現時点ではDVD化はされていないし、この先もしばらくDVD化の予定はないとのこと。でも、シネマボックスさんのHPから上映の相談ができるようなので、ぜひ多くの図書館で上映して欲しいと思います。

また、日比谷図書文化館さんにもこの3日間の上映会で終わらせず、ぜひまた上映会を開催していただければなあと。年末ですし、見たいけどこの3日間では都合がつかなかった人もいると思うので、時期をずらしてそうした方にも見ていただきたいです。利用者の皆さん、図書館関係者さん、本が好きな人などなど、多くの方にお薦めの映画です。