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ビブリオバトル ~芥川龍之介~

―2013年7月27日のイベント
visit:2013/07/27
§ 「芥川龍之介」をテーマにしたビブリオバトル

ビブリオバトルというゲームをご存知でしょうか。面白いと思った本を持って集まり、本の紹介を5分間+発表に関するディスカッション3分間を繰り返したあと、「どの本が一番読みたくなったか?」を基準として参加者全員が投票し、最も多く票を集めた本をチャンプ本とするという本の紹介コミュニケーションゲームで、サークルや図書館、書店、学校、カフェなどあらゆるところで行われています。そのビブリオバトルが、2013年7月27日に文京区水道端図書館でも開催されるということで、私も本の発表者として参加してきました。

ビブリオバトルには、参加者全員が発表して、それぞれ自分以外の本に投票するというパターンもあれば、発表者に加えて観覧者が集まり、発表者が本を紹介した後に観覧者も交えてディスカッションをし、発表者+観覧者全員で投票を行うパターンもあります。図書館で大勢が集まるイベントとして開催される場合は後者であるパターンが多く、今回の水道端図書館も7名の発表者に対し、観覧者が30名ほど集まるかたち。また、ディスカッション時間もアレンジして、公式ルールが3分のところ、5分間に設定されました。

ビブリオバトル自体はどんな本を紹介しても構いませんが、テーマを決めてそれに関する本の発表を募るやり方もあり、今回の水道端図書館のビブリオバトルの場合は「芥川龍之介」がテーマ。「芥川龍之介がテーマ」というのは、芥川龍之介の作品に限らず、芥川龍之介に関する本なら何でも構わないのですが、結果的には発表者皆が芥川龍之介の作品の発表となりました。また、通常のビブリオバトルでは1冊の本を紹介しますが、芥川龍之介は短編がほとんどなので、今回は作品単位での発表というかたちでいざスタートです。

§ 発表を通じて芥川のさまざまな側面が垣間見えました

一つ一つの発表をレポートすると長くなりすぎてしまうので(笑)、今回紹介された作品と投票の結果をまとめてしまうと、以下の通り。

第1ゲーム第2ゲーム
1番手 『トロッコ』★『雛』
2番手 『鼻』★『舞踏会』
3番手★『羅生門』 『西方の人』
4番手- 『黄梁夢』
★がチャンプ本

第2ゲームは『雛』と『舞踏会』が同数の票を集めて、ともにチャンプ本ということになりました。私は第2ゲーム4番手の『黄梁夢』だったのですが、チャンプ本を獲得できず残念。言いたいことを5分間におさめきれず、ディスカッション時間の最初に質問者に「中断してしまった部分を続けてください」という助け舟をいただき、言えなかった部分を言わせてもらいました。あのときの質問者さん、ありがとうございます!

どの紹介も印象に残っていますが、私にとって最も印象強かったのは『羅生門』の紹介です。この本を紹介なさった方が、お話から察するに子どもへのおはなし会に関わっている方だったようで語りがとても上手く、お話を聞いていると映像が浮かんでくるんです。『羅生門』というのは、鬘の材料にと死体から髪の毛を抜く老婆、その老婆から着物を剥ぎ取る下人と、暗さの中に登場人物たちのエゴがうごめく作品にほかなりませんが、その方は反抗期の頃にこの作品を読んできれいな世界だと感じたとのこと。そして、その方の語りを聞いていると、暗さの中にぽっと灯る松明が不思議ときれいに思い浮かぶんです。

同じ作品を読んでも人によってイメージが違い、それらは必ずしもどれが正しいというわけではなく、それぞれがその人にとってのその本の読み方。自分一人で読んでいたら自分だけの読み方しかできないところ、他人の発表を聞くことで自分とは違う読み方を知ることができる。しかも、皆が自由に語る読書会だと、説得力のある人や話が上手な方が時間を独占してしまうかもしれないところ、時間が決められたビブリオバトルでは、さまざまな意見を平等に聞くことができます。特に第1ゲームのように、広く読まれている作品が多く紹介されると、「自分とは違う読み方」の面白さを楽しめます。

また、『トロッコ』の発表の際は、発表者の方はネタ元である力石の不満なども含めて作品全体を総合的に紹介したところ、討論時間に質問者の一人が疎開先に採石場があってトロッコに怖いイメージがあるという話をしたんです。その話によって、トロッコに乗って遠くまできてしまって暗い中帰って来た良平の恐怖感が、臨場感もって伝わってきて。これがビブリオバトルの面白いところで、発表者の発表だけでチャンプ本が決まるのではなく、討論時間での観覧者からの質問なども含めてその本の印象、ひいては投票の行方も左右されるんです。こういう点こそ、ビブリオバトルが本のプレゼン大会ではなく、コミュニケーションゲームだという所以なんだと思います。

そうそう、ちょっと面白いことがあって、ビブリオバトルは自分が読んで面白いと思った本を持ち寄って紹介するゲームですが、司会の方がビブリオバトルがそういうものだと説明したところ、『舞踏会』を紹介する方から「本当は一番好きな作品はほかにあって、今回は芥川にはこんな作品もあるんだということを話したいんだけどそれでもいいか」という質問があったんです。仮にそうだとしても正直におっしゃらなくてもいいのに(笑)、そう言ってしまうところが可愛らしい方だし、司会の方からも「好きなものであれば一番である必要はないので」という話があってそのまま『舞踏会』を紹介、最終的にはその『舞踏会』でチャンプ本を獲得してしまうという結果になりました(笑)。

でも、本当に本当に好きなものは紹介したくないという気持ちもわかります。ビブリオバトルは発表の瞬間になるまで自分の紹介本を明かさないことが多いのですが、今回は開場時刻より早めに集まった発表者同士で本を見せ合って話していて、私もその方に一番好きな作品もぜひ話してくださいなんて言ったけど、大切な気持ちこそ自分の心の中だけに置いておきたい気持ちは、私にもある。

こうやって、その日初めて会った方々と本を通じていろいろ話ができるのも楽しかったです。発表者は発表順に座ったので私は『西方の人』を発表した坂本さんと隣だったのですが、作品や芥川について発表では話せなかったことまでいろいろ話をさせていただいてとても面白かったです。坂本さん、ありがとうございました!こうした発表者同士の会話の楽しさは発表者特典ともいえることで(もちろん、観覧者と発表者が話しても楽しいでしょうけど、発表の分だけ互いを知っていることで話も弾む)、ビブリオバトルの参加を考えている人は、観覧者より発表者になった方が何倍も楽しくてお薦めです。

§ 図書館でのビブリオバトルで、大人への浸透を!

こんなかたちで、本を通じてコミュニケーションゲームを行うビブリオバトル。このゲーム自体は誰でも楽しめるものですが、「ビブリオバトル首都決戦」という大学生対象の大きな大会があったり、小・中・高校の教育に導入されたりと、若い人向けのゲームという印象がもたれてしまいがちであることを、私はやや懸念しています。そして、図書館での開催されることによって、大人も楽しめる知的ゲームとして浸透することを期待しています。

現に、今回のビブリオバトルは発表者の年齢層が高く、皆さんがそれぞれの経験も交えて本の話をするのが、聞いててとても楽しかった。ビブリオバトルは若い人のものではなく、個人的にはむしろ大人による発表こそ面白いと思っています。今回の参加でこの思いを更に強くしました。

また、本を読んで、面白い、ぜひ皆に読んで欲しいと思ったとき、図書館でのビブリオバトルがそうした思いを表せる場所になれたらとも思います。実は、今回『西方の人』を紹介した坂本さんが、『西方の人』の目次と抜粋を図書館を通じて配布してくださった(ビブリオバトルはレジュメの配布は禁止なので、イベント終了後に紹介本一覧などとともに配布)のですが、そういうことを自発的にしてしまうくらい「自分がいいと思う本を皆に伝えたい気持ち」ってありますよね。

これは座席が隣ということで個人的に私が聞いた話ですが、『西方の人』をビブリオバトルでの紹介作品にしようとするも、坂本さん自身も『西方の人』を収録している本を入手することができず、結局青空文庫から印刷したものを今回持ってきたとのこと。おそらく、それほど入手しにくい資料をぜひ多くの人に読んで欲しいという思いから、こうした資料を用意してくださったのだと思います。こんな風に、利用者同士でこの本が面白いという情報を交換し合えるイベントもいいですよね。

もちろん、図書館でも新刊案内コーナーや図書館だより、テーマ展示などで本を紹介してくれて、知らない本に出会える機会となっているけど、図書館の公平な視点で紹介されるのとは別に、読者側から思い入れのある本を紹介してもらうという方法があることで、本との出会いの幅が広がるのではないでしょうか。「人を通して本を知る.本を通して人を知る」というキャッチコピーのビブリオバトルが、本との出会いの新たなかたちとして図書館にますます広まっていくことを期待しています!