ビブリオバトル IN 佐野
visit:2018/01/28
2018年1月28日に足立区立佐野図書館で開催されたビブリオバトルイベントに参加してきました。このイベントは、足立区内にある東京未来大学の学生さんが主体のNPO団体・Book Linkさんと佐野図書館との共催イベント。これまでBook Linkさんは、保塚図書館や新田図書館など足立区の図書館との共催ビブリオバトルを行っており、佐野図書館で初めてとなる今回のビブリオバトルでも、楽しい場にするべく東京未来大学の学生さんが活躍していました。
会場である2階のレクホールに行くと、テーブルが3つ用意してあり、参加者は空いている席に座ってくださいとのこと。イベント開始時刻には各テーブルに5名ずつ座り、それぞれで持ち寄った本を紹介してビブリオバトルを行うかたちです。イベント開始前に館内放送で参加を募っていたので、当日放送を聞いて参加した人もいたのかな。顔ぶれを見ると、大学生からご年配の方まで幅広い参加者が集まっていました。
この後、Book Linkさんからビブリオバトルの説明、グループ内で自己紹介、ビブリオバトルと進めていきました。ビブリオバトルをざっと説明すると、バトラーと呼ばれる参加者が本の紹介を5分間で行い、その後2~3分でその紹介に関するディスカッションを行う、というのをバトラーの数だけ繰り返して、最後に「どの本が一番読みたくなったか?」を基準に参加者全員で投票をし、一番票を集めた本をチャンプ本とするゲームです。詳しく知りたい方は、ビブリオバトル公式サイトをご覧ください。
このイベントでは、自己紹介にも一工夫ありました。まず、自己紹介前に、全員が2枚ずつカードに何か接続語、例えば「さらに」「だけど」「なぜなら」などと書いて、グループごとにまとめます。自己紹介は、それぞれ2分間で「名前」「出身地」「このイベントに参加したわけ」「この24時間以内で楽しかった・嬉しかったこと」を話すことに決めて、もし話が尽きてしまったら、接続語カードの出番。裏返されたカードから1枚ひいて、書かれた接続語をつけて、何とか話を続けます。
話が詰まってしまったときのカードがあることで、話が詰まることを恐れなくてもいい、というより、遊び心があって面白いので、あえて早めに話を切ってカードを使いたくなる。イベント全体の時間を考えて、2分間の自己紹介にしたのだろうと思いますが、私自身の感想としては、1人の自己紹介時間をもう少し長くして、もっとカードをたくさん使いたかった気もするくらい。そうかと思えば、タイマーを見ながらカードを使わずにきれいに2分間を終えた人もいて、この自己紹介時間をどう使うかにも一人一人の性格が表れます。
自己紹介をし、気持ちもほぐれたところで、ビブリオバトルのスタートです。会場の正面に大きく映されたモニターにタイマーが表示され、それに合わせて各グループ一斉に、5分間の発表と2分間のディスカッションタイムを繰り返します。各グループ5名でゲームをしましたが、5分間&2分間を4回繰り返したところで全てのグループが投票に入ったので、どのグループもバトラー4名、見学者1名だったみたい。少なくとも私がいたグループはそうでした。もちろん、投票は見学の人も含めて行います。
私のいたグループの紹介本は以下の通り。チャンプ本が2冊あるのは、全5票のうち、2票入った本が2冊あり、同票で両方ともチャンプ本になったからです。
1番手 | ★『語りかける中学数学』高橋一雄 |
2番手 | 『芸人式新聞の読み方』プチ鹿島 |
3番手 | ★『純喫茶トルンカ』八木沢里志 |
4番手 | 『女は覚悟を決めなさい』黒川伊保子 |
1番手さんが紹介した『語りかける中学数学』は、何と中学校の数学の参考書。とても分厚い本なのですが、その厚さは問題を解く過程を細かく書いているから。自分も劣等生だった著者が、劣等生に向けた語り口調で、間違いやすい例についてもどこがどう間違いやすいのかをしっかり書いている。ディスカッション時間には、そもそも数学の問題は「~しなさい」「~せよ」という文章でとっつきにくいという話も出て、確かに言われてみれば何様だと言いたくなる言葉遣いです(笑)。最終的にこの本がチャンプ本に選ばれたことや、イベント終了後に他のグループからこの本を見に来た人がいたを考えると、数学を学び直したいと思っている人は実は多いのかなとも思いました。
2番手は私で、時事芸人として活躍しているプチ鹿島さんが、新聞の読み比べ方、SNSも含めたメディア上の情報の捉え方を書いた『芸人式新聞の読み方』を紹介しました。紹介のときにも言ったのですが、このタイトルはネタを作るための読み方を書いた本のように捉えがちで、損しているような気がします。スマップ解散に関する報道などを例に出してわかりやすく書いているけど、メディアとは何かについて鋭い指摘をしている本です。
3番手さんは、最初に図書館で借りて読んで、とてもよかったのでその後買ったという小説『純喫茶トルンカ』を紹介。このように、本の紹介の中でその人の図書館の使い方や本との接し方を知れるのも、興味深いです。物語の中で大きな事件が起こるわけではない、日常のできごとが描かれた短編集とのことで、私はご年配の方が書いた作品なのかと思ってディスカッション時間に著者の年齢を聞いてみたら、現在40歳くらいの作家さんだそう。他の方の質問から谷根千あたりが舞台だということもわかり、それも皆が想像していた作品世界とマッチしたようで、グループが納得の空気に包まれました。
4番手さんは佐野図書館の職員さんで、休憩時間を使ってこのイベントに参加したそう。紹介した『女は覚悟を決めなさい』は、返却本を処理しているときにタイトルが目に留まって、自分でも読んでみたとのことです。他のビブリオバトルでも図書館員さんが同じような経緯で読んだ本を紹介していたことがあり、今更ながら図書館の仕事がいかに多くの本に接する仕事かを感じます。図書館利用の技として、返却処理済だけどまだ本来の棚に戻していない本を仮置きしておく棚を物色する(誰かが何かの理由で読もうと思った本だから、面白い本が見つかる可能性も高い)というのがありますが、それを日常的にしているようなものですもんね。脳科学について女性視点で書いた本で、人との接し方や仕事にも役立っていると話してくれました。
全員が本を紹介し終わったら、テーブルの中央に本を集め、皆が一番読みたいと思った本を心に決めます。そして、いっせーのせで全員同時に読みたい本に指を差し、一番票が集まった本がチャンプ本。私のグループでは上記のような結果に、他の2グループでは『23分間の奇跡』と『泣き虫しょったんの奇跡』がそれぞれチャンプ本になりました。
ビブリオバトルはそれ自体も参加者同士が交流できるゲームですが、このイベントでは自己紹介にもゲーム性があり、楽しい雰囲気で話ができました。漏れ聞いたところだと、この接続語カード自己紹介は過去のBook Linkさんのイベントでも取り入れていたそう。トランプに接続語を印刷してあるカタルタという商品もありますが、既成のカードを使うのではなく自分たちで接続語カードを作ることで、難易度が高い接続語をあえて仕掛けるなど別の楽しみ方が加わったゲームになっている。私も私的な集まりなどで使ってみたいアイデアです。
私が個人的に推している全員発表者型のビブリオバトルの面白さも十分楽しみました。ビブリオバトルは「人を通して本を知る.本を通して人を知る」をキャッチコピーにしたコミュニケーションゲームですが、数人のバトラーの発表を多数の観覧者が聞くステージ型だと、構造上多くの観覧者が質問もせずに投票だけして帰ってしまい、コミュニケーションの度合いが低い。このように、皆が輪になって本を紹介し合うかたちだと、自然と話が進むし、本の紹介を通じてお互いの考え方や好みが伝わってきます。
私自身も、イベントが終わった後に、一緒に書架を回ろうと同じグループの3番手さんと棚を見ながら歩き、そこで既に仕事に戻っていた4番手さんと鉢合わせしてご挨拶し、では帰ろうかと図書館を出たらちょうど1番手さんも帰るところで…と、今まで1人で来て本を借りていた佐野図書館が、一気に知り合いさんだらけの図書館になったような気分。3番手さんと分かれて1人でバスを待っていたときも、後からBook Linkの皆さんが片付けを終えて帰るところに出くわし、駅に着くまで知り合いさんだらけ気分が続きました。
そうだ、一つだけ気がかりなことがあるんです。今回のイベントを佐野図書館とともに主催したBook Linkさんですが、現在のメンバーの多くが4年生で、この代が今年度で卒業した後の存続が危ぶまれているのだそう。私も足立区立図書館のイベントで何度かお世話になっていますし、ぜひこれからも活動して欲しい。
BookLinkの活動に興味がある学生さんがいらしたら、ぜひ活動を覗いてみてください。東京未来大学の学生さんが主体ですが、他大学の学生さんも参加しているそうです。ホームページも開設していますが、一番頻繁に更新しているのはFacebookページだそうなので、見るならこちらがいと思います。来年度以降も足立区立図書館でBook Linkの皆さんとご一緒できたらと願っています。