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「世界が注目する大田区の町工場2 (有)安久工場 触図筆ペンの開発」

―2008年8月15日から9月10日までの展示
visit:2008/09/10

大田区立蒲田図書館では、1階入口入って左にあった喫煙コーナーを撤去して、開いた場所を展示コーナーとして使っています。2008年8月15日から9月10日までは、「町工場写真展2 (有)安久工場 触図筆ペンの開発」という展示をしており、私も見に行ってきました。

「触図筆ペン」といっても、ほとんどの人がどんなものかわからないのではないでしょうか。これは盲学校の教師の方の依頼で開発されたもので、描かれたインクが立体的に盛り上がるので、目の不自由な人でも絵を描くことを楽しめるというペン。ただ、インクに蜜蝋を使っていて、温度調整が必要なため、ペン先のお尻からコードが出ていて、それがB6サイズの国語辞典よりもう一回り大きいくらいの機械に接続されているのです。「筆ペン」という言葉からもう少し手軽なものを想像していたのですが、それよりもっと「機械」に近いものですね。

目の不自由な人でも絵が楽しめるものとしては、触図筆ペンが開発される前にも表面作図器というものがあり、それは紙の方に工夫をしたもので、ボールペンで圧力を加えるとその部分が盛り上がるというもの。ですが、こちらは紙の大きさが限られてしまうのと、線の太さがほとんど変えられないそうで、香川県立盲学校の栗田さんは、もっと生徒さん達が自由に絵を描くことを楽しめる道具はないものかと考えたのだろうです。

栗田さん自身もいろいろ試して、ワックスを使ったインクでペンを作るというアイデアで、10社ほどの会社に作成を依頼した。それらの会社の中の1社、有限会社東成工業が連携している安久工場に話を伝え(得意分野の異なる町工場が連携し、依頼された案件を得意とする工場が仕事を受けるようにしているのだそうです)、開発することになったのだとか。この依頼に「作ってみましょう」と返事をしたのは、安久工場のみだったそうです。

作ってみるといっても、ワックスを使うというアイデアは実現化にはいろいろ問題があったようで、安久工場がインクの素材からあらためて開発。自由に絵が描けるのはもちろんのこと、インクの熱による火傷などがないようにという安全性や、モノとしての耐久性など、いろいろな点をクリアした試作品ができあがったのは、最初の依頼から3年経った2007年7月のこと。現在はその触図筆ペンを使って、盲学校の生徒さんが実際に絵を描いているのだそうです。

蒲田図書館の展示コーナーにも触図筆ペンで描かれた絵が1点展示してありました。これはたぶん、取材をした蒲田図書館の職員さんが描いたものなんじゃないかな。インクが盛り上がっているので、目をつぶって触っても何が描かれているかわかるし、線もいろいろな太さで描かれています。でも、これ、たぶん思うように描くのにコツが要りそうですね。左上に描かれた太陽の線がインク出過ぎになっちゃっているのですが、私の想像ではこの部分から描き始めて、でもまだこのペンのインクの出方に慣れていなくて、ドバッと出てしまったのではないかと。

展示コーナーには、絵の他にインクの実物も置いてありました。常温だと普通に固まっています。それ以外には、触図筆ペンの細かい部分までわかるような写真や、安久工場のその他の製品の写真などがずらり。写真の下に小さいキャプションが入っているだけなので、もっと読み物を掲示してもいいように思います。上に書いたようなことは、コーナー奥に置かれた十数ページの資料に紹介されているだけで、掲示はされていないんですよね。

その資料にも書いてありましたが、使われているのが蜜蝋のインクなので、紙に絵を描いて楽しむだけでなく、ろうけつ染めの模様を描くのにも使えるんですよね。盲学校に限らずそうした利用も増やして触図筆ペンが売れれば、1個あたりのコストを下げることができて、盲学校にもより安く納入できるのではないかなと思ったりして。

蜜蝋を使っている利点はもう一つあって、一度描いた絵からインクを削り取れば、再利用できるんですよね。冷めれば固まりますが、温めればまたインク状になりますから。資料には描いていないけど、おそらくこの触図筆ペンはそれなりのお値段がするものだと思うので、消耗品が再利用できるというのは使い手には嬉しいことなのではないかと思います。

この展示は9月10日で終わってしまったのですが、蒲田図書館さんがまとめた資料は残っているので、展示が終わってもそちらの資料を見ることができます。今回の展示が「町工場写真展2」なのですが、1回目の「世界が注目する大田区の町工場」がカウンターの裏手にあたる郷土資料コーナーの最右列の下から2段目辺りにあったので(2008/9/10時点)、この資料もその辺に置かれるでしょう。

以前、蒲田図書館の館長さんとお話させていただいたときも、地域の町工場を紹介していきたいとおっしゃっていたので、このシリーズはこれからも続くのではないかと期待しています。実際、紹介したくなる事例がたくさんありそうですしね。蒲田図書館を利用する際には、ぜひこの展示コーナーも寄ってみてくださいね。