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鶴巻図書館さんぽ 漱石の誕生日

visit:2025/02/09

朝から散歩を誘ういい天気でどこに行こうかと考えたときに思い浮かんだ新宿区立漱石山房記念館、ここまで来たなら新宿区立図書館にも寄っていこうと一番近い鶴巻図書館まで歩く。漱石山房記念館から鶴巻図書館までは7分程度、途中で一度広い道路を渡るが基本的には閑静な住宅街を歩くルートだ。森鴎外記念館もそうだが、実際に文豪が住んでいた場所にある記念館の周囲は住宅地、漱石の場合は特に作品の中で登場人物がよく新宿区内を歩くので、脳内で周囲の風景を明治の住宅地に変換しながら歩いてみたりして。

そういえば、漱石山房記念館のカフェでお茶していたとき、約束したわけではなく来館した知り合い同士、それも1組ではなく知り合い集団風の人たちが次から次へと来ては「やっぱりお誕生日だから皆来るのね」「いや今日はイベントがあるんだよ」などと話していたのだ。もしやと思ってネットで調べてみたら、今日は漱石の生まれた日だとのこと。偶然とはいえ、いい日に来たものだ。

鶴巻図書館は建物の竣工年でいうと新宿区で二番目に古い図書館。建物の竣工年でもっとも古い中央図書館・こども図書館は旧・戸山中学校の校舎を改築したものであり、校舎として建てられた年が竣工年だということを考えると、図書館という建物での新宿区の最年長は鶴巻図書館と言っていい。そのため地下1階地上2階の建物にしてエレベーターがないなどの不便さもあるが、その分遠くから自習目当てに来る人などが少ない、近くに住む人たちが本を読んだり借りたりするのが中心の地域密着図書館という雰囲気である。

そして、ゆかりの地域ということもあり、1階の真ん中あたりに夏目漱石関連本を集めた棚もある。覗いてみたら生誕日ということで何か展示していた、ということはない。入口に近い辺りの展示コーナーのテーマは「ねこ」。漱石にちなんでいる気がしなくもない、でも表紙を見せて並んでいるのはストレートに猫に関する本やねこグッズを作る手芸の本などで『吾輩は~』に寄せる雰囲気はあまりない、なんとも微妙なところを狙った展示だ。

それに倣ったわけではないが私も漱石から離れ、雑誌コーナーで目に留まった「暮しの手帖 2025 2・3月号」を椅子に座ってぱらぱらめくる。小川洋子のインタビュー、私は彼女の作品を『ことり』しか読んだことがないが、柔らかい文体の奥に不穏な何かがある感じ、あんな小説を書くにはそんな考えがあったのか、などと思いながら読み入ってしまう。ふかわりょうのエッセイでは、イトーヨーカドー(とは書いていないが)の大量閉店によっていろいろなところで『成瀬は天下を取りにいく』みたいなことが起こっているのか、実家が多摩センター、今の住まいが江東区北砂の私は、どちらのヨーカドーも存続するのであまりピンと来ないが、こうして時代が変わっていくのか、とスーパーの栄枯盛衰に思いを馳せる。

「暮しの手帖」を読んでいたのは十分程度だったと思うが、読みはじめに1人しか座っていなかった机席が、棚に戻そうとしたときには埋まっていた。日曜の午後、徐々に混んできた1階を離れて2階の児童フロアに足を伸ばす。鶴巻図書館の児童フロアは入口で靴を脱がないといけないので、脱ぐのが面倒な靴のときには入る気も失せてしまうが、今日は入ってみようかという気分。

一組だけいた親子が楽し気におしゃべりしながら本を読んでいて、いい雰囲気だ。勉強のために本を読むことも必要だろうが、本を読むのが楽しい、面白いので読むという人が増えて欲しい。それを体現しているような親子の姿に嬉しくなる。

鶴巻図書館の児童フロアは、入口に近い方が絵本、奥に進むにつれて対象年齢が進むかたちの配置になっている。児童読み物の低い棚の上にブックスタンドを使って数冊~十数冊の本を並べているのだが、そうやって棚上に並べている本は全てシリーズもの。一律に本棚の中に詰まっている本よりも目立ち、本の置き方が「こんなシリーズがあるよ」と紹介している感じになっている。

お次は地下の一般書架。379(社会教育、一般的な勉強法もここに分類される)の棚で『独学大全』を見掛けて、私の中ではこの本は総記っぽい、"大全"と銘打った発行者側もきっとそういうノリだろうが、図書館の分類としては確かに379になるか、などと考える。そして、ぶらぶらと棚を見ていて気が付いた。ここも先日行った大田区立池上図書館と同様に「分類番号+著者名頭文字」が同じものの中での並びが本のサイズ順だ。但し、池上図書館がサイズの昇順(小さい本→大きい本)だったのに対して、こちらはサイズの降順(大きい本→小さい本)だが。

説明すると、図書館では本の内容によって分類番号(区市町村立図書館の一般書架では大抵3~4桁の数字)が割り振られて、その番号順に本が並んでいる。ただ、検索機でこの本がこの図書館にあるとわかっても、同じ分類番号の本がたくさんあるとその中のどこにあるかがわかりづらい。分類番号の桁数を増やす、つまり、内容による分類を細分化するやり方もあるが、区市町村立図書館でよく採られるやり方は図書記号として著者名頭文字をつけてその五十音順に並べる方法である。例えば、著者名:読書猿の『独学大全』だと「379 ド」となり、「379」の中で「379 ア」「379 イ」…と並んでいるなかから「ド」を探せばいい。

ただ、そうやって「分類番号+著者名頭文字」にしても尚、カナ1文字を含めたところまで同じ本が複数ある場合も当然ありえるわけだ。鶴巻図書館だとそれほどでもないけど、蔵書数が多い図書館だとカナ1文字まで同じ本が多数になることもある。すると、カナ1文字まで同じ本の中でどう並んでいるかということになる。

私は、図書記号として著者名頭文字を使う場合は、その中で著者名五十音順にするのが標準的だと思っていた。そして、先日池上図書館でカナ1文字まで同じ本の中の並びが本のサイズ順になっているのを見て驚いた。が、鶴巻図書館でもサイズ順になっているのを今日発見した。もしかして、こちらの方が多数派なのだろうか。私の中の「これが一般的」の認識が揺らぐ。

図書館は基本的な使い方、つまり、ジャンルによって分類されて本が並んでいて、図書館カードを作れば借りることができて等々という点はどこも一緒である。でも、細かいところでは違いがあって、図書館巡りをはじめた頃はその都度驚いて面白かった。多くを知らないうちは自分が知っているやり方を標準的だと思っていて、それが標準的ではないことを発見するたびに知見が広がる感じで。

都内という狭い範囲とはいえ一通り回ってしまった後は、そうした発見といえば新しい技術、例えば自動貸出機、図書消毒機、電子図書館のような新しく世の中に登場したものばかりだったのだが、まさかサイトを始めて20年経ってから「並べ方」というアナログなもので新しい発見があるとは。まだまだ知らない面白さがあるものだ。