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ビブリオバトル部第6回部活動 テーマ「卒業」

―2016年2月27日のイベント
visit:2016/02/27
§ ビブリオバトル部に2名の新入部員が参加!

練馬区立春日町図書館にはビブリオバトル部があり、3,4か月に1度の割合で部員同士でのビブリオバトルを開催しています。部員といっても義務や条件などはなく、本を紹介しあって楽しみたい人なら誰でもOK。大勢の観客の前で行うビブリオバトルより、気軽に参加できると思います。そんなかたちを好んでいただいたのか、第6回目となる今回の部活動には、2名の新入部員の方が参加してくださいました。

いつもは、発表時間は5分を守っているものの、ディスカッション時間は時間を測ることもせず、そのときどきの紹介本をきっかけに話がどんどん広がっては、「そろそろ終わらせないと最後の発表者まで辿りつかない」とハッと気づいて切り上げる、という感じで行っていましたが、今回は8名の部員が集まり、いつもの調子でビブリオバトルをしたら本当に最後の発表者まで辿りつけなくなってしまうということで、珍しくディスカッション時間を計測してビブリオバトルを行いました。この先、部員が増えたら2グル―プに分けるなどの工夫が必要かもしれませんが、今回は8名一緒にビブリオバトルを1ゲーム行うかたちにしました。

このビブリオバトル部では、毎回紹介本のテーマを決めていて、今回のテーマは「卒業」です。テーマに沿った本を持ってきてもいいし、好きな本を発表の仕方で「卒業」に無理矢理こじつけてもOK(笑)。そんな縛りのもとに、部員が持ち寄った本は以下のラインナップでした。

1人目 『まちかんてぃ! 動き始めた学びの時計』学校NPO法人 珊瑚舎スコーレ
2人目 『風の谷のナウシカ 1』宮崎駿
3人目 『海うそ』梨木香歩
4人目 『はっぴいえんど伝説』萩原健太
5人目 『卒業~開かずの教室を開けるとき~ 名探偵夢水清志郎事件ノート』はやみねかおる
6人目 『酔いがさめたら、うちに帰ろう。』鴨志田穣
7人目★『ミート・ザ・ビート』羽田圭介
8人目★『広辞林』1161版
★がチャンプ本

『まちかんてぃ!動き始めた学びの時計』は発表者さんが仕事関連で知った本で、今回の部活動にはもともと別の本を持ってくる予定が、この本を読んでぜひこちらを紹介したいと持ってきたそうです。「まちかんてぃ」というのは沖縄の言葉で「待ちかねていたよ」という意味で、戦争や戦後の生活苦などで学校に通えなかった人々が、2004年に開校した夜間中学校・珊瑚舎スコーレによって、学ぶ時間を取り戻した。この本はその方々の昔の体験や今の想いの聞き書きで、私たちが当たり前と思っているものを奪われてしまった人たちの切なさ・辛さ、当たり前だと思っているものの大切さを思い知らされたという発表を聞いて、私も今持っているもの(経験も含めて)を当たり前と思いすぎているのかもしれないと省みてしまいました。

『ナウシカ』の発表者さんは、卒業アルバムで書かされた「尊敬する人」にナウシカと書いてしまうほどの思い入れがあるそう。子どものときに読んだけど、やけに漢字が多くて決して子ども向けではなく、環境問題・差別問題などさまざまな要素が含まれていて、衝撃を受けたのだそうです。同名の映画は全7巻ある漫画作品の1巻分くらいしか描いていないので、映画を見たことがある人でも漫画で読んで欲しいと、今思い出しても冷めないような熱さで語っていました。古い作品ということもあり、昔は所蔵していた図書館で今検索すると所蔵していないこともあるという話題が出て、私、このときからしばらく、あちこちの図書館に行くたびに『ナウシカ』があると「ここにはまだある」とやたら目に留まるようになってしまいました。

『海うそ』は、仏教に帰依していた人が廃仏毀釈を受け入れる苦しみを描いていて、"廃仏毀釈"を"卒業"的に捉えての発表でした。あまりストーリー性がない物語とのことで、発表者さんも説明に苦しんでいたように思いますが、感性で読むような物語といったところでしょうか。発表者さんはこれまでも歴史小説をよく紹介なさっていて、ダイナミックな歴史の流れのなかでの個々人の心情などに思いを寄せて話をすることが多かったので、これもそんな本ではと想像しました。こんな風に、そのときの発表だけでなく、これまでのことも総合して話を聞けるのが「部活動」のよさだと思います。

「『卒業』という作品」と言われると、おそらく世代によって思い浮かべるものは違って、私より上の世代の方は映画の「卒業」という方も多いと思いますが、私の世代だと歌謡曲(まだJ-POPという言葉もなかった頃)の「卒業」。1985年に尾崎豊、菊池桃子、斉藤由貴、倉沢敦美の4名が「卒業」という同じタイトルで別の曲を、特に示し合わせたわけでもなくリリースするということがありました。今考えると、何故わざわざ同じタイトルにしたのか不思議ですが、そのうちの倉沢敦美の曲の作詞が松本隆だということから結び付けて紹介されたのが『はっぴいえんど伝説』。残念ながら大瀧詠一さんは亡くなってしまいましたが、本でなら今でもはっぴいえんどに触れられる。「残るもの」としての本のよさを感じさせられました。

こんな風にテーマと本が直接結びつかない紹介が多いなか、ずばり卒業がタイトルの本だったのが『卒業~開かずの教室を開けるとき~』。この小説は、元々小学校教諭だった著者が、小学生が楽しく読める読み物がないと思い、自ら作家になって書いた小説だそうで、文体や漢字の使い方などは児童向けだが、中身は新本格ミステリとのこと。私の場合、読書会などの課題本になれば児童向け小説も読み、読んでみると面白いと思うものの、自分で面白そうなものを探そうとまではあまり思わないので、こうやって薦めていただけるのは貴重な機会です。実際、春日町図書館のビブリオバトル部はいい感じに皆さんの読書傾向がばらけていて、でも全く離れているわけでもない、知らない本に出会える機会が多いんです。

『酔いがさめたら、うちに帰ろう。』は、漫画家の西原理恵子さんの元旦那さんだった戦場カメラマン・鴨志田穣の自伝的小説。アルコールから"卒業"ということで、アルコール依存症を克服するためにアルコール病棟に入院したこの本を紹介していただきました。この発表者さんは図書館で働いており、貸出・返却手続きのなかでこの本の表紙(文庫版ではなく単行本の方。リリー・フランキーさんのイラストが大きく載っている)を目にして、表紙に惹かれて読んでみたそう。なるほど、本にたくさん触れるお仕事の人こそ、表紙に惹かれて読むというのが多いのかも。

『ミート・ザ・ビート』は私が紹介した本で、自転車から卒業してクルマ(ホンダの軽自動車・ビート)へという物語の内容からこのテーマに持ってきました。この作品、周囲と同じ車生活になったことで逆に孤独を感じたりするところなどがリアリティある皮肉になってたりして好きなのですが、タイトルに掲げているわりにはビートの特性が書かれていなくて、少し不満です。また、ディスカッション時間には前の発表者さんからの流れもあって表紙の話題が出たのですが、このタイトルにして実物のビートを表紙にしなかったのも不思議。そんな機会は一生来ないだろうけど、羽田さんにこの本について聞ける機会があったら、ぜひいろいろ聞いてみたいです。

最後の発表者さんが持ってきた『広辞林』は、大正14年9月発行、昭和29年12月印刷の1161版。辞書は、本の中でもっとも早く紙から電子へと「卒業」したものと言えるのでは、という切り口からの紹介です。中を見ると、今や死後である「オールドミス」の対義語として、もはや私の年代では聞いたことさえない「オールドオス」も載っていたり、「恋愛」の意味が現代の新明解国語辞典並みに主観が入った説明になっていたり、昔の辞書を読む面白さが満載。この辞書は発表者さんの奥様が実家で見つけたものだそうで、本棚の奥を探れば皆さんの家にも古い辞典があるかもしれませんね。

長い文章になってしまいましたが、実際にもこれだけ発表者さんがいたので、その場の雰囲気を感じていただければと思います。こうして8名の発表が揃った後、皆で一斉に一番読みたい本を指差すという方法で投票をし、『ミート・ザ・ビート』と『広辞林』がチャンプ本に選ばれました。

§ 今後の課題?

今回考えさせられたのは、全員で本を発表する方式で嬉しくも参加者がたくさん集まった場合、どういう方式で行うかということです。ビブリオバトルは図書館に限らずいろいろなところで行われているので、おそらく同じような方法で行っていて、同じような悩みを持っているところもあると思うのですが、少人数でビブリオバトルを行うぶんには、皆で1ゲームをすればいい。その活動が続いて大人数になったとき、せっかく集まってくださるのに人数制限するのは違うと思うので、来てくださる方は全員発表して欲しい。

手っ取り早いのは数グループに分けてそれぞれでゲームをすることですが、最初からグループ分けして行うかたちだったならともかく、これまでひとまとまりになっていて、誰がどんな本が好きということも知っている同士になっているものを分けるのは心苦しい。何より、私自身が皆の発表を聞きたいですもん。グループ分けをするにしても、何らかのかたちで違うグループになった人の紹介本を知ることができるようにしたいですが、どうすればそれがうまく行くか…私は部員の一人に過ぎないので、私が決める問題ではなく皆で考える問題なのですが、そろそろ考えないといけないように思います。

でも、第1回から参加している身としては、こんな悩みを持つまで参加者が増えたこと自体が嬉しいです。こうやって悩んだものの、次回の部活動日に部員激減で悩む必要がなくなってしまったらとても悲しいので、ご興味持ってくださった方はぜひご参加ください。次回は2016年6月1日14時から春日町図書館2階会議室で開催、テーマはありません。テーマがないほうが参加しやすいのではということでテーマなしにしたので、初めての人もお気軽に。事前に春日町図書館に参加したいとご連絡いただければお待ちしておりますが、当日ふらっと会場に来ていただいても構いません。面白くて誰かに話したい本があるという方は、ぜひ一緒に本の話をしましょう。