ビブリオバトル部第3回部活動 テーマ「スタート」
visit:2015/04/26
練馬区立春日町図書館でのビブリオバトル部、第3回目の活動日に参加してきました。この「ビブリオバトル部」は、図書館で開催されることが多いイベント型(少数のバトラーが多数の観覧者の前で本を発表するスタイル)ではなく、基本的に参加者全員が発表するかたちでビブリオバトルを行うスタイル。首都決戦などでビブリオバトルを知った人はビブリオバトル=イベント型という印象を持っているかもしれませんが、ビブリオバトル関連書物を読むとわかるように、参加者全員が発表するかたちの方がビブリオバトルの原型であり、春日町図書館ビブリオバトル部は東京の図書館でそちらを体験できる数少ないスタイルのイベントです。
ビブリオバトルを知らない方は、ビブリオバトル公式サイトにある公式ルール(ルールといっても4項目だけ)をご覧いただくと正確、かつ、簡潔にわかると思います。ざっと説明すると、5分間でバトラーが1冊の本を紹介し、2~3分間発表に関する質疑応答を行い、それをバトラー全員行ったうえで、最後に「どの本が一番読みたくなったか」を基準に投票して一番票が集まったものをチャンプ本にするというゲームで、書店やカフェのイベントとして、会社で勉強会を兼ねて、など、いろいろなかたちで開催されています。
ビブリオバトル自体は本であれば何でもいいのですが、「ビジネス本」などのように発表本に縛りをいれたり、「和」のようにテーマを決めてそれにあった本を紹介するかたちもあり、今回のビブリオバトル部・部活動では「スタート」をテーマに行いました。集まったのは6名で、うち5名がこれまで参加したことがある方々で、残る1名が初参加の方でした。その日初めてお会いする方でも、どんな本を読んでいるか、その本を読んでどう感じたかを聞くうちにお人柄が垣間見えるし、過去にもビブリオバトルでご一緒している方だと読書傾向を知っているので、この人が次はどんな本を紹介するんだろうという面白さがある。こうして回を重ねるにつけ、じわじわとメンバーが広がっているのがとても嬉しいです。
皆が集まったところで、会場である会議室の机を皆が向い合せに座れるよう並び替え、あみだくじで順番を決めたら、ゲームスタート。今回は私がノートパソコンを持参して、ビブリオバトル非公式タイマーを使ってゲームを行うつもりが、とてつもない速さでカウントダウンされるという不具合が発生し、最初の発表者2人は参加者のスマートフォンつかって時間を計測しての発表となりました。ちなみに、カウントダウンが速すぎるという不具合はPC再起動で解決したので、同じ現象が起きた場合はお試しあれ。
さて、本題のビブリオバトルの話へ。全員バトラー型のビブリオバトルは物理的にも心理的にも参加者同士の距離が近く、初めて会った人でも本の話で盛り上がれるのがとても楽しいんです。また、今回のテーマ「スタート」に合わせた本選びが比較的難しかったようで、ストレートにスタートがテーマになっている本というより、なぜその本をテーマ「スタート」に選んだかという皆さんの発想も面白かったです。まずは、発表本のラインナップを先に紹介してしまいましょう。
1人目 | 『百万ドルをとり返せ!』ジェフリー・アーチャー |
2人目 | 『風が強く吹いている』三浦しをん |
3人目 | ★『天平グレート・ジャーニー』上野誠 |
4人目 | 『林修の「今読みたい」日本文学講座』林修 |
5人目 | 『夏の庭―The Friends』湯本香樹実 |
6人目 | 『春期限定いちごタルト事件』米澤穂信 |
例えば、1番手の『百万ドルをとり返せ!』は私の紹介本ですが、スタート→作家の処女作という連想でこの本を選びました。また、『林修の「今読みたい」日本文学講座』を紹介した方は、日本文学を読んでみようと思う人が手始めに読める本が多数挙げられているということでこの本を持ち寄ったとのこと。『夏の庭』を紹介した方の、「この小説を読み終えると、物語の後に主人公の少年たちのこれからが始まることが感じられる」という切り口もユニークでした。
各人の発表についても少しご紹介しますと、『風が強く吹いている』の発表者さんは、当初この本は皆既に読んでいるだろうという前提で話をしようとしていて、発表の最中に「ちなみにこの本を読んだことある人ってどれくらいいます?」と聞いたんです。そうしたら、私の記憶では微妙な差で読んでいない人が多いくらいで、急遽ストーリーを説明してくださいました。
こうしてその場にいる人に合わせて発表内容を変えられるライブ感も楽しさの一つですし、バトルの後の雑談でも話題に上がったのですが、仕事や家事などすることがたくさんある生活のなか読書時間を確保するのも大変で、本の存在は知っていても読んだことがない場合も多い。そうした「機会があったら読もうかな」くらいに思っていた本が、実際にその本を読んだ人から熱くお勧めされると「ならばぜひとも読んでみよう」に変わります。いやホント、この日の発表本もどれも面白そうで、私の「読みたい本リスト」は貯蓄が溜まる一方で、消化が追い付きません(笑)。
その意味では、4番目の発表本である『林修の「今読みたい」日本文学講座』も、読んでいそうでしっかり読んでいない可能性のある作品の集大成といえるかも。この本は、中島敦の『山月記』、梶井基次郎『檸檬』、横光利一『機械』など、近代日本文学の中で短い名作を収録し、それに東進ハイスクールの林修さんが解説をつけている本だそうです。これらの短い小説は教科書に載ることも多く、「読書」というより「勉強」という感じで読んだ人も多いかもしれない。それをあらためて「読書」として読むのもいいかもしれません。
『夏の庭』は、本のストーリーも、紹介者さんの発表も、<終わりかと思いきや、そうではない>みたいな内容で、とても興味を惹かれました。主人公の少年たちは、町で暮らす死にそうな老人の死ぬ瞬間を見ようと彼を観察し始める。だけど、老人はむしろ元気になっていくようで、少年たちとも交流するようになり…そして、結果的に老人は亡くなってしまうのですが、紹介者さん曰く、その結末は物語の終わりというより、それからの少年たちのスタートを思わせるものだそう。私は今回、結果的には『天平グレートジャーニー』に投票したのですが、『夏の庭』とどっちにしようかとても悩んだくらい、発表を聞いて主人公の少年たちの心情をとても読みたくなりました。ビブリオバトルはどの本が一番読みたいか一票しか投票できませんが、実際にどの本を読むかはもちろん自由。『夏の庭』もぜひ読んでみたいと思います。
最後の『春季限定いちごタルト事件』の発表者さんは、中学生バトラーがたくさん参加した第4回ビブリオバトル@春日町図書館、ビブリオバトル部第2回にもバトラー参加した方。大人の男性なのですが、第4回ビブリオバトル@春日町図書館で中学生の発表を聞いたのをきっかけにライトノベルがマイブームになっているとおっしゃっていて、今回の紹介本もそんな1冊です。ただ、この本は最近のマイブームとしてではなく、前に読んだことがある本で、かつ、ご自身にとってのスタートに深く関わっている本ということで今回の紹介本に選んだそう。
発表の中ではご自身のスタートが何かというのも話してくださったのですが、ここで私が勝手に公開するのも失礼なので書くのはやめておきます。でも、そうした個人的な体験を聞くことで、私にとっては縁遠いライトノベル作品が一歩身近になった気がするのがビブリオバトルの面白さ。ゲームが終了後には、この本をきっかけに、漫画みたいな表紙が手に取りにくい、太字や大きな書体を使う独特の表現方法が苦手など、ライトノベル談義でも盛り上がりました。
このように、どれも面白そうな発表が繰り広げられるなか、今回見事チャンプ本に輝いたのはビブリオバトル部に初参加してくださったバトラーさんによる『天平グレートジャーニー』です。天平の時代の遣唐使たちを描いた小説だそうで、無事に海を渡れるとは限らない航海技術も拙い時代に、どんな動機で彼らは旅立ち、どんな体験をしてきたのか。物語全体だけでなく、遣唐使それぞれのライフストーリーも面白い本のようで、これまで「遣唐使」を「歴史の勉強で覚えるべき単語」程度にしか捉えてこなかった自分の想像力のなさを感じ、ぜひ読みたくなりました。
私はどちらかというと歴史小説・時代小説を読まないほうなので、もしこのように読んだ人から直接お薦めされるのではなく、書評記事やお薦め本リストなどでこの本を見ただけだったら、歴史小説だという時点でその本の情報を読み飛ばしていたと思います。でも、読んでいるときのワクワク感を再生しているような発表を聞くと、そうした偏見を飛び越えて読みたい本に出会うことができる。顔を合わせてお薦め本を語ることの楽しさを実感できる部活動でした。
今回はそれぞれの発表本以外の話でも盛り上がり、それも合わせて部活動っぽくて楽しかったです。例えば、『天平グレートジャーニー』の発表者さんは、事前にこの本が春日町図書館で在庫中になっているのを確認し、蔵書を使って発表しようと本を持たずにいらしたのですが、ご自分で探しても本が見つからなかった。なので、職員さんに探してもらいつつ、それでも見つからなかったときの予備として佐藤賢一の『ペリー』を書棚から持ってきていたのです。結果的に『天平グレートジャーニー』が届いたのでビブリオバトルではそちらを発表したのですが、せっかくだからとバトルとは別に『ペリー』のほうも紹介してもらったら、それも面白そう。
また、『春季限定いちごタルト事件』の発表者さんは、バトルとは別に図書館に来たついでに自分が読むために借りた『うえきばちです』を発表本と一緒にテーブルの上に置いていた。それを見つけた参加者からそれも気になるから見せてくれとリクエストがあがり、そこから派生して作者である川端誠さんの落語絵本シリーズが好きという声が他の方からも出て、川端さん人気を感じさせられました。
『風が強く吹いている』以外の三浦しをんさんの作品も話題にあがったし、6名によるビブリオバトルだったけど6冊を上回る本の話を聞けたかたちで、とてもよかったです。こうやって読みたくなった本を読み切れる時間があるかどうか、どうやったら確保できるのかが唯一の悩みです(笑)。
部活の最後は次回のテーマ決め。参加者が案を出して決めるかたちで、次回の開催が7月後半になるということから「夏休み」に決まりました。夏休みに起こる物語、夏休みの時期にしか読めないような長編、自分が実際に夏休みに読んだ本など、いろいろな切り口で本が選べそう。ご興味ある方は、ぜひ「夏休み」のテーマで本を選んでご参加ください。こうして部活動の様子を文章にしていますが、ビブリオバトルの楽しさは文章で読んでもわかりません(笑)。ぜひ実際にいらしてください。
日程については、今のところ7月後半としか決まっておらず、時期が近づいてから図書館が部員に予定を聞いて、日付を決めることになっています。これまでは部活動の日が決まってもあまり告知をしてこなかったのですが、次回からは練馬区立図書館HPにも掲載するそうなので、日時が決まったらそちらで確認できます。部員といっても参加を強制されるわけではなく、ビブリオバトル部員として図書館にメールアドレスを教えておけば、日付決めの際に希望日を言えるという程度なので、お気軽にどうぞ。読んで面白かった本について語る楽しさ、読んだ人から直接本の話を聞ける面白さをぜひ一緒に楽しみましょう。