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ビジネス書読者と編集者によるビブリオバトル

―2015年5月15日のイベント
visit:2015/05/15
§ ビジネス書読者と編集者をバトラーに迎えてのビブリオバトル

千代田図書館では書架の一画を使って講演会やビブリオバトルなどのイベントを開催しており、会場そばの座席に座っている人は本を読んだり調べものをしながら片耳でイベントの様子を聞けるのがこの図書館のユニークなところ。そんなイベントの一つとして、2015年5月15日に「ビジネス書読者と編集者によるビブリオバトル」が開催され、私もバトラーの一人として参加しました。

ビブリオバトルは当サイトでは頻出単語なので、よくご覧いただいている方はお馴染みかと思いますが、検索やどこかからのリンクで直接来た向けに簡単に説明しますと、「バトラー」と呼ばれる発表者が5分間で本を紹介し、その後2~3分発表を聞いて更に聞きたいことなどを聞ける質問時間がある。これを全バトラーが行ったあとに、「どの本が一番読みたくなったか」を基準に参加者全員が1人1票で投票して、最も投票が多かった本を「チャンプ本」とするというゲームです。

参加者全員がバトラーとなるビブリオバトルもあれば、数名のバトラーに多数の観覧者という場合もあり、イベントとして開催される場合は後者のスタイルがほとんど。今回のイベントも同様です。また、ビブリオバトル自体は本であれば何でもいい(雑誌なども可)のですが、イベントとしては本選びにテーマや縛りを設けることもあるし、一般から参加者を募集することもあればゲストを招いてバトルをすることもあります。

今回のビブリオバトルは「ビジネス書読者と編集者によるビブリオバトル」と題して、「2010~2015年に発行されたビジネス書」という縛りで行われ、バトラーには一般応募だけでなく、ビジネス書編集者さんも参加。千代田図書館では過去に、一般読者がバトラーとなる「ビジネス書でビブリオバトル!」や、平凡社100周年記念で開催された「平凡社ファンと作り手のビブリオバトル」(このときも、一般応募者さんと平凡社編集者さんがバトラー参加)を開催したことがあります。今回のビブリオバトルは、それぞれのテーマと形式を合わせたイベントといえそうです。

§ ビジネス書読者による第1ゲーム

第1ゲームはビジネス書読者4名によるバトル。やはりビジネス書は、教養というよりは仕事に役立てるために読まれるものだからでしょう、ご自分の仕事の話も織り交ぜながら話す方もいました。単にその本が面白いかどうかというだけでなく、本の内容をどう活かすか、本によってどう変わったかという話を聞けるので、その部分も自分の仕事に照らし合わせて聞き込んでしまいます。

第1ゲーム紹介本
1番手グロースハッカー』ライアン・ホリデイ動画
2番手投資家が「お金」よりも大切にしていること』藤野英人動画
3番手財政支出ゼロで220億円の新庁舎を建てる 豊島区の行財政改革と驚異の資産活用術』溝口禎三動画
4番手荒木飛呂彦の漫画術』荒木飛呂彦動画

今回のビブリオバトルは、図書館側で録画したものが千代田図書館企画チームのFacebookページにUPされています。どんな発表だったか見てみたいという方は、上表の[動画]を開いてみてください。

1番手バトラーの藤田さんは近々に起業をするそうで、そのためのスマホアプリも7月にリリース予定。そのスマホアプリを広めていくのに参考になる本だという『グロースハッカー』は、事業を成長(growth)させるのに、巨額な資金などではなく手法(hack)を使った実例が紹介されている本だそう。アメリカ人の著者による本ですが、日本のクックパッドの例も載っているそうです。

『投資家が「お金」よりも大切にしていること』は自身も投資家である著者が、お金の本質やお金の使い方についての考えを綴った本。この本を紹介した菅野さんは、この本を読んで以前よりお金を使うようになり、かつ、その使い方も変わったそうで、安ければいいという買い方ではなく、応援したい企業の商品を買うようになったのだとか。実はこの日もまさにそれを実践しており、このイベント後にビジネス本編集者さんがバトルで紹介した本の販売があったのですが、菅野さんは紹介本全て買っていらっしゃいました。そして、私にも応援的買い物をお薦めし、結果私も2冊買ってしまいました(全冊でないところが、菅野さんと私の度量の差か)。

3番手の『財政支出ゼロで220億円の新庁舎を建てる』を紹介したのは私で、これはつい先日、2015年5月7日にオープンした豊島区役所新庁舎に関する本です。タイトル通り財政支出なしで建てたことだけでなく、日本初のマンション一体型本庁舎という特徴もある区役所新庁舎について話したいことがありすぎて、詰め込みすぎでまとまりのない、かなりダメな発表だったと思います(笑)。せっかく千代田図書館に来る前に新しい豊島区役所も見て来たのにその話もほとんどできず。5分にまとめる難しさをあらためて感じました。

最後に『荒木飛呂彦の漫画術』を紹介した亀山さんはシステム関係のお仕事をしているそうですが、漫画術として書かれたこの本が自分の仕事にも参考になっているそう。例えば「ライバルが必要」という話や、キャラクタ作りで表面的には見えない内部も深く作り込んでいく話は、違う仕事にもあてはまる。帯にも「(荒木さんにとっての)企業秘密を公にする」と書いてあり、ジョジョが好きな一人として私もとても気になって、私自身はこの本に投票しました。

こうして4名の発表が終わった後にその場にいる皆で挙手による投票をした結果、『財政支出ゼロで220億円の新庁舎を建てる』がチャンプ本に選ばれました。ありがとうございます。私の発表が5分間でうまくまとまっていなかったので、私が話している以上のことが書かれているはずと思ってもらえたのかもしれません(笑)。

§ ビジネス書編集者による第2ゲーム

第2ゲームは、ディスカバー21、ダイヤモンド社、東洋経済新報社、日経BP社からなるビジネス書を発行している出版社4社の書籍編集者さんによるビブリオバトルです。私は「平凡社ファンと作り手のビブリオバトル」のときにも参加した(まだサイト記事を書いてないけど、いつか書きます)のですが、著者に近いけどそれとはまた違う「編集者」さんの話はなかなか聞く機会がなく、それを聞けるだけでも面白い。更に今回も感じましたが、お人柄が楽しい方、話が面白い方も多いんです。何人もいる社内の編集者の中からバトラーとしていらした方だから、平均値よりもお話が上手な方々かもしれませんが。

第2ゲーム紹介本
1番手新版 すべては「前向き質問」でうまくいく 質問思考の技術/クエスチョン・シンキング』マリリー・G・アダムス動画
2番手撤退するアメリカと「無秩序」の世紀-そして世界の警察はいなくなった』ブレット・スティーブンズ動画
3番手新しい市場のつくりかた』三宅秀道バトラーさんが動画UPを辞退
4番手グレイトフル・デッドにマーケティングを学ぶ』デイヴィッド・ミーアマン・スコット動画

まず、のっけから面白かったのが、『すべては「前向き質問」でうまくいく』を紹介している原さん自身が、失礼ながらイマイチ前向きではないところ(笑)。ご自身で「こういう考え方は前向きではないんですよねぇ」と言いながら紹介していく感じがとても面白かったです。

実はこの本、タイトルを変えたり監修を加えたりと、同じ本をかたちを変えて発行しており、この本で3回目の発行なのだそう。内容がいいから売れるはず、だからかたちを変えて何度も発行という考えはとても前向きですよね。なのに、他の編集者さんからの「違う本かと思って買ったのに同じ本だったというクレームはありませんか」という質問に対して、「それがないんですよねぇ。たぶん、それほど売れてないんで…」とまた消極的に(笑)。この紹介本と紹介者の組み合わせに思わずにんまりしてしまいました。

ダイヤモンド社の『撤退するアメリカと「無秩序」の世紀』は、発表者である山下さんが書籍編集の部門に異動して携わった最初の本だそうで、ビジネス本というよりは政治寄りの内容であるもののお薦めとのこと。基本的には数字や統計を多用した分析ですが、1章だけ仮定に基づいて未来予測をしている章があり、それが何と日本がアメリカに見限られるという内容だそう。1章だけ未来予測というのも不自然だし、実は根拠となる分析ががあるけど明らかにできなくて予測というかたちで書いたのかも…と想像が膨らみ、気になります。

東洋経済新報社の『新しい市場のつくりかた』は、あまり注目されずお金もないオーバードクターの著者が、新しい商品概念を作って成功した中小企業を取材したものをブログで公開しており、それを編集者の佐藤さんがいわば発掘して本にしたそう。本の内容も面白いうえに著者の語り口が面白く、余談ばかりなのに話がストンと入ってくる、B級グルメ的な魅力があるそうです。

新しい概念を作って成功した企業を取材といえば、同じ東洋経済新報社の『ストーリーとしての競争戦略』もあるので、イベント後にこの本を買ったとき「発表を聞いて楠木さんの本を連想しました」と言ったら、『ストーリーとしての競争戦略』も佐藤さんが編集した本だそう。A級グルメが『ストーリーとして…』、B級グルメが『新しい市場の…』と思っていいようです(笑)。

日経BP社の竹内さんによる『グレイトフル・デッドにマーケティングを学ぶ』は、ネットが普及する前からフリーやシェアという概念を実践しつつ、ビジネスとして成り立たせているヒッピーロックバンドのグレイトフル・デッドの手法を紹介する本。この本を発行するにあたって、グレイトフル・デッドが型破りなバンドなのだから、この本も型破りな本にしようと、表紙印刷にも凝り、本文用紙も4種使ってカラーページあり、それで1700円を実現したそう。

私、気になったので、質疑応答時間で「内容はビジネス書、でも装丁はファン向けの音楽本っぽい感じで、書店ではどこの棚に置いてもらったのか」と聞いてみたところ、ビジネス書の棚にも音楽の棚にも置いてもらえて、ビジネス書でありながらタワーレコードでも扱ってもらったのだそうです。編集者さんからこういう話が聞けるのも、このイベントの面白さ。また、どうやってこの本の原書を見つけたのかという質問が他の編集者さんから出たのですが、こういう質問も一般読者から出るのと編集者さんから出るのとでは真剣度が違う気がして、聞いてて興味深かったです。

編集者さんによるビブリオバトルは、いくつもの本を手掛けているはずの編集者さんがこれぞという本を持ってきただけあってどれも面白そうで、どの本に投票しようかとても悩みました。それは私だけでなく会場全体もそうだったようで、投票の結果は『すべては「前向き質問」でうまくいく』と『新しい市場のつくりかた 』が同数の最多票を獲得、次にこの2冊に絞って決選投票を行い、『新しい市場のつくりかた 』がチャンプ本となりました。

§ 紹介本の販売を通じて、編集者さんともおしゃべり

既に書いたように、イベント終了後はその場で編集者さんによる発表本の販売が行われました。また、第1ゲームの紹介本のうち、『グロースハッカー』は日経BP社発行の本だったので、そちらも販売(それ以外の3冊は今回ご参加いただいた出版社以外の本)。出版社さんによる直接販売ということで、定価よりお安くしていただいたこともあり、販売台に積み上げていた本が気付いたらかなり減っていました。ビブリオバトルに出た方が販売に立っているので、皆さん買う際に話も弾んでいたようです。

私達読者にとって、インタビューなどで著者さんの話を読んだり聞いたりする機会はある。特に最近は作家がメディアに登場することも増えました。でも、編集者さんの話を読んだり聞いたりする機会は、松田哲夫さんや見城徹さんなど名の知れた編集者以外にはほとんどない。あとがきなどで著者が編集者に感謝の意を表すことは多いけど、編集者さんの声ってなかなか見えません。

そんな状況のなか、図書館がイベントで編集者さんを呼んでこうした機会を作ってくれるというのはとても嬉しいです。千代田図書館は神保町に近いという立地条件から、出版社・書店・古書店との連携に力を入れていて、神保町古書店が所有する古書を展示する「としょかんのこしょてん」を期間入替で常に行っていますし、出版社との情報交換会も開催しています。編集者さんを呼んでのビブリオバトルも、こうした連携の一つです。

編集者さんにとっても、自社の発行物が多くの人に無料で読まれてしまう図書館という場所で本が売れるというのは刺激的な体験だったのではないでしょうか。私、この日の集合場所に早めについて、同じく早めにいらしていた菅野さん、東洋経済新報社の佐藤さんとその応援でいらしていた方とお話してたのですが、菅野さんと私で「平凡社編集者ビブリオバトルのときに、普段聞けない編集者の話が聞けて面白かった」という話をしたら、東洋経済新報社のお二人も「言われてみればこちらも読者の話を直接聞く機会がない」とおっしゃっていたんです。

例えば、書店のイベントなどだったら、やはりお客さんに来てもらうために、編集者を呼んで話を聞くより著者を呼ぶことになるでしょう。その点、図書館というのは、著名人ではないけど本の出版に携わっていて貴重な話を聞ける人を呼びやすい場所といえるかもしれません。編集者さんにとっても、販売ができる、読者の話が聞けるなどで参加するメリットを感じてもらえたら嬉しいです。

願わくば、2分の質疑応答時間でもっといろんな人から質問をしてもらえたら、もっとよかったように思います。というのも、バトラー・観覧者含めて25名ほどいたのですが、ごく限られた人が何度も質問をしていた状態だったので、せっかく観にきてくれたなら質問の機会にぜひ参加して欲しいです。

ビブリオバトルはいい意味で所詮お遊びに過ぎないというか、堅苦しい講演などでないので、きちんとした質問である必要はありません。ゲームを盛り上げるために多くの人に参加して欲しいし、読んでみようかなと思っている本について既に読んだ人に質問できるというのがビブリオバトルの良さでもあるので、これから観覧に行ってみようと思っている方はぜひ積極的に質問してください。

正式には告知されていないのでここには書きませんが、この日聞いた話だと今後も千代田図書館でビブリオバトル開催予定があるようです。それとは別に、私の希望としては、編集者さんを呼んでのビブリオバトルもぜひまた開催して欲しいな。これからも楽しいイベントが企画されることを楽しみにしています。