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ビジネス書でビブリオバトル!

―2014年2月27日のイベント
visit:2014/02/27
§ ビジネス書を紹介するビブリオバトル

5分間でお気に入りの本を紹介する書評ゲーム「ビブリオバトル」が全国に広まっており、学校・図書館・会社などさまざまなところで開催されています(ビブリオバトルに関する詳細はこちら)。千代田図書館でもこれまでに、考案者の谷口氏を講師に迎えた「ビブリオバトル入門 ~開催のコツ教えます~」、泉鏡花に関する企画展示に合わせた「泉鏡花 de ビブリオバトル」を開催しており、多くの人がビブリオバトルを楽しんできました。

その千代田図書館で、2014年2月27日にビジネス書をテーマにした「ビジネス書でビブリオバトル!」が開催され、私もバトラーとして参加してきました。この前後にわたって「千代田図書館ユーザーが選ぶビジネス書」という企画展示を行っており、それと連動したビブリオバトルというわけです。

集まったバトラー(発表者)は8名で、2ゲームにわかれてバトルを行いました。発表を聞いてわかったのですが、若くして起業した方から、定年を迎えた方まで、発表者のお仕事状況もさまざま。

例えば、『古本屋開業入門』を発表したバトラーさんは、実際にこの本をもとに古本屋を開業したそう。この本は副題に「古本商売ウラオモテ」とあるように、古本屋稼業の苦しさなども書いている。でも、おそらくは起業するにあたっていろんな本を読んだはずの方が紹介しているということが、裏表を隠すことなく綴ったこの本のよさを物語っているのだろうと感じます。物事を始めるにあたっては、前向きな姿勢と同じくらいリスクへの覚悟も重要だと思いますが、バトラーさんはこの本でその両者を得たのではないかと、発表を聞いて感じました。

また、一方、定年を迎えたと話していたバトラーさんが発表したのは堀江貴文著『ゼロ』。私はホリエモンの本は若い読者が読むものと思い込んでいたので、この本をこうした方が発表したことに驚いてしました。バトラーさんは本を読むまでホリエモンのことが嫌いだったそうで、でも書店で表紙に惹かれて手に取り、読んでみたらイメージが変わったそうです。このバトラーさんは現役で働いている世代に見えたので、発表の中で定年を迎えたとおっしゃったときにびっくりしたのですが、こうして嫌いだったものにも手を出してみるところなどが、このバトラーさんの若さの秘訣なのかもなあ。

今のビジネスの世界で名が知られている人の著書としては、『疑問論』と『ビジネスパーソンの街歩き学入門』と紹介されました。元・ワイキューブ社長の安田佳生氏の著書『疑問論』は、バトラーさん曰く、本の中に出てくる疑問のうち半分以上はくだらないそう(笑)。が、そうしたくだらない(当たり前すぎてほとんどの人が疑問に思わない)ことを、ときに考えることもいいのではと。個人的にはこの本はそれほど読みたくはならなかったのですが、このバトラーさんの話は面白かったです。ビブリオバトルは「人を通して本を知る.本を通して人を知る」をキャッチフレーズにしていて、発表の中でお人柄が見えるのも面白いのです。

『ビジネスパーソンの街歩き学入門』は元・伊勢丹カリスマバイヤー、現参議院議員として知られている藤巻幸夫氏の本。仕事というより息抜きにふさわしい“街歩き”で発見する力や発想力を磨くというのは、いい意味でハードルが低そう。

今回の発表の中で、もう一つ実践的な本だったのが『「朝4時起き」で、すべてがうまく回りだす!』。タイトルだけ聞くと、バリバリキャリアウーマン(著者は女性)が書いた本に見えますが、著者本人がいうには落ちこぼれだそうで、バトラーさんはそうした部分に共感し、そんな人でも朝4時起きで効果が出たことに励まされたそうです。

学生時代のアルバイトから現在まで一貫して接客業をしていたというバトラーさんが発表したのは『自分では気づかない、ココロの盲点』。お仕事柄、「どうやったら自分の思いを相手に伝えられるか」ということをずっと考えてきたのですが、ある日、そうやって自分側からばかり見るのではなく、「相手からどう見られているのか」といった相手側の視点が必要ではと思い、この本を手に取ったとのこと。質疑応答時間では、「本に紹介されていたことのなかで実際に取り入れたことはありますか」との質問が出たのに対し、「実は今この場でもしています」と小技を教えてくれました。

私が発表したのは、『千年、働いてきました』という本。創業100年以上、会社によっては創業数百年にもなる日本の老舗企業を取材してまとめた本だったのですが、まるで段取りしたかのように、私の次に発表したバトラーさんの紹介本が、1909(明治42)年創業の有隣堂の元社長(故人)が書いた『一商人の軌跡』という本。バトラーさんは仕事で行き詰ったりするとこの本に立ち戻るそうで、発表を聞いていてそんな本に出会えたことが羨ましくなりました。

と、順不同で発表の様子を簡単に振り返りましたが、それぞれのゲームでの順序と投票結果をまとめると以下の通り。

第1ゲーム第2ゲーム
1番手 『ビジネスパーソンの街歩き学入門』藤巻幸夫 『千年、働いてきました』野村進
2番手 『古本屋開業入門』喜多村拓 『一商人の軌跡』松信泰輔
3番手★『自分では気づかない、ココロの盲点』池谷裕二 『「朝4時起き」で、すべてがうまく回りだす!』池田千恵
4番手 『疑問論』安田佳生★『ゼロ なにもない自分に小さなイチを足していく』堀江貴文
★がチャンプ本

「ビジネス本」と一言でいっても持ち寄った本はさまざま。ビブリオバトルは会社内で行われることもあり、同じ課題を持っている人同士ならではの紹介本・発表内容も得るところが多いのですが、図書館のようにいろいろな仕事についている人が集まる場所での開催だと、自分にはない視点からの話が聞けたりして面白いです。見知ったメンバーでのビブリオバトル、広く公募するビブリオバトル、それぞれの楽しさがあるというわけです。

また、こうしてイベントの様子や発表本をまとめましたが、実際に参加せずにこれらを読んでもビブリオバトルの面白さの10分の1くらいしかわからないと思います。一般的に評価が高い本などではなく、発表者が個人的にいいと思った本を持ち寄ることで生まれる紹介本への熱意は、その場にいてこそ伝わってきます。質疑応答で本に関する話を更に引き出すのも面白いし、読みたい本がたくさんあるなか、どの本に投票するのか悩むことも楽しさの一つ。最近は毎週末どこかで開催しているのではないかというくらい、いろんなところで実施されているので、興味を持った方はぜひ参加してください。

§ 千代田図書館の利用者で作るビブリオバトル

今回の「ビジネス書でビブリオバトル!」は、千代田図書館の特性とマッチしており、私にとってはこれまでの千代田図書館の他のイベントにも増して、参加してよかったイベントでした。

というのも、実のところ、私は千代田図書館を「図書館」よりも「自習室」の色合いが濃いと感じており、図書館の在り方としてはやや批判的に見ています。「セカンドオフィス」というと聞こえがいいけど、本来の図書館の役割とは外れたことを担って来館者を増やし、それを図書館事業の充実だと言っているのではないかと。実際、閲覧席を使っている人を見ると、図書館の本を読んでいる人より、持参した参考書・問題集のみを広げて勉強している人のほうが多いようにも見受けられます。そうした自習者が多いことで、図書館の資料を読みに来た本来の図書館利用者が座席を確保するのが難しくなっているのも事実です。

ただ、図書館がそうした本来の図書館利用者ではない人にも広く門戸を開放しているのは、本がある空間に来てもらうことで人と本を繋げることができる可能性があるから。当初の目的が違っても、本があふれる空間に来れば本との出会いも生まれます。

そうした千代田図書館の現状を踏まえると、就職や仕事のための勉強をしている人が関心をもちそうなジャンルの本を紹介するイベントを行うことは、他の図書館で同様のイベントを行う以上に意義があるように思います。また、何もなければそれぞれ勉強しているだけだった千代田図書館利用者が、仕事に役立つ本を紹介するイベントで繋がることができるというのも面白い。特性のある図書館だから利用者の傾向も一般的な図書館とは違う、その特性に合わせたイベントになっていたのがとてもよかったです。

また、千代田図書館の場合は開催場所も特徴的で、調査研究ゾーンの一画(メインカウンター向かって左。ふだんはソファとローテーブルが置いてある場所)で開催するために、調査研究ゾーンのうちイベント場所に近い座席に座っている人にはイベントの声が届きます。今回のビブリオバトルに限らず、講演会などもここで開催され、勉強中でもイベントの様子が耳に入ってくるのが面白いところ。だから、ビブリオバトルで紹介された本は、会場の観覧席に座っている人以外にも届いているはずです。

もう一つ、千代田図書館が他の図書館と一線を画しているのは、ふだんから区内の書店と連動した事業をしており、今回のビブリオバトルでも三省堂書店の協力を得て、紹介本のうち現在でも流通しているものをカウンターで販売してい点です。私自身は他の人と話していたために販売の様子を見ることができなかったのですが、聞いたところによるとちょっとした行列ができていたそう。

といった様子で、場所に合ったいいイベントだったと思うので、私としては千代田図書館でのビジネス書ビジネスバトルをぜひまた開催して欲しい。または、ビジネスの中で更に絞ったテーマでもいいし、勉強関連でもいいのですが、この場に集まる人ならではの本の紹介が聴けるビブリオバトルを期待しています。職員さんに聞いたところ、どちらかというと館の特性に合わせるよりも企画展示と連動でのビブリオバトルを考えているようですが、そこを何とかしていただいてぜひ!