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講演会「ビブリオバトル入門 ~開催のコツ教えます~」

―2013年6月30日のイベント
visit:2013/06/30

千代田図書館で開催された、いや正確に言うと、千代田図書館が入っている千代田区役所で行われた講演会「ビブリオバトル入門 ~開催のコツ教えます~」に行ってきました。ビブリオバトル自体を知るには、あれこれ説明を受けるより実際のビブリオバトルを見たり参加したりした方が早いと思うのですが、私自身、この講演会の6日前に私的な集まりでビブリオバトルを開催していおり、「開催のコツ」というのが気になるところだったので参加してみたという訳です。

この講演会、会場が「千代田区役所1階=区民ホール」となっていて、あの建物にそんな場所あったっけ?と思ったのですが、普段フリースペースになっているところ(千代田区役所や図書館へのエレベーターの奥のスペース)に仕切りを設けて区民ホールにするんですね。言い方を変えれば、区民ホールを普段はフリースペースとして開放しているということか。「ホール」というには簡易的なスペースですが、空間の有効利用という点では、仕切り一つでホールにもフリースペースにもできるというのは面白い造りです。

§ ビブリオバトル普及委員会によるエキシビション

講演会の構成にあたっても、ビブリオバトルについていろいろ説明するより実際のビブリオバトルを見た方が早いということで、進行は「普及委員会の方々がエキシビションとしてビブリオバトルを実演」→「考案者の谷口氏の講演」→「講演会参加者が4名程度の小グループに分かれて、それぞれでビブリオバトル」という構成で行われました。

ビブリオバトルについては公式サイトをどうぞ、ということでここではビブリオバトルについての説明はしませんが、三人の普及委員会のメンバーの方々は、「本で人をつなぐ」をテーマに紹介本を選んだとのこと。一番手の方が『一四一七年、その一冊がすべてを変えた』、二番手の方が『ブックストア―ニューヨークで最も愛された書店』、三番手の方が『みちのく怪談コンテスト2010傑作選』を紹介。本のジャンルもそれぞれ、紹介のスタイルもそれぞれで、投票の結果、二番手の『ブックストア』がチャンプ本になりました。面白いもので、流暢に話せる方がチャンプ本を勝ち取るとは限らないし、投票できるのは一票だけど、読みたいと思う本が1冊とは限らないんですよね。

§ ビブリオバトルについて、考案者・谷口忠大氏の講演

実演が終わった後は、谷口氏の講演です。公式サイトの説明や、谷口氏がつい2ヶ月ほど前に出版した『ビブリオバトル 本を知り人を知る書評ゲーム』と同様、ビブリオバトルについて説明する内容で、「開催のコツ教えます」というよりは「ビブリオバトルのことを知らない人も含めて、ビブリオバトルを紹介する」講演だったような気がしますが(笑)、それだけ勝手なアレンジをしてしまう人も多くて、そうならないための基本理解が大切ということなのかも。

例えば、先の普及委員会のエキシビションについて、「二番手の『ブックストア』がチャンプ本になった」と書きましたが、「二番目の発表者がチャンピオンになった」では間違いで、あくまでも「その本がチャンプ本になった」ということだとのこと。投票基準である「どの本が一番読みたくなったのか」というのも、「どの発表が上手だったか」(発表が主体)でもなく、「どの本が一番いいか」(本だけを評価)でもなく、本という要素と発表という要素を合わせて、各紹介者の発表を聞いた結果最も読みたくなった本を主観的に選ぶという考えを織り込んだ文言なのだそうです。

また、考案者である谷口氏の生の講演を聞いたことで、考案者の人柄が見えたおかげで、ビブリオバトルがますます好きになりました。例えば、レジュメを用意するとか、少数権力者(選ばれた審査員や学校での教師など)が投票するとかいったことは、ビブリオバトルの精神に反することで、考案者がもっと高圧的な方だったら、「こういうのは最悪、最低。こういうことをするイベントはビブリオバトルなんて名乗るな!!」となるかもしれないところ、もっと大らかな心で普及に努めていらっしゃるんです。

用意した原稿を読み上げるような発表はいけないというのも、公式ルールには書いていないのですが、それはルールで定めずとも、原稿を用意したらつまらなくなるという実状(実際、原稿を読み上げる人は大抵負けるのだそうです)に任せればいいから。ビブリオバトル自体が、「客観的ないい本・発表」を選ぶコンテストではなく、主観的に投票することを通じたコミュニケーションゲームで、いわば民主性の高いゲームといえるものなのですが、広め方にも民主性を感じてしまいました。

§ 参加者が小グループに分かれてビブリオバトル

谷口氏の講演が終わったあとは、休憩をはさんで参加者同士がビブリオバトルを行いました。講演会前半の席の並びが、横列12席で4席ごとに通路が設けてあるかたちになっていたところ、横並びの4人でグループを作って、ビブリオバトルを行うというかたちです。つまり観覧者は0人で、発表者=投票者というスタイルのビブリオバトルです。

当然、隣は知らない人。いや、正確には、私は会場でお知り合いに会って最初は並んで座っていたものの、「たぶん後半のビブリオバトルはこの並びでやるよね」と思って、あえて散って座ったのですが、そんなわけで知らない者同士でのビブリオバトルです。なので、自己紹介も含めて、持ってきた本を紹介するということになります。

私がいた席は、1人足りなくて3人のバトルとなり、ジャンケンの結果、私は二番目の発表者に。一番手の方は、会社の勉強会にビブリオバトルを導入しようかと考えて参加したという方で、『昆虫食入門』を紹介。この本、タイトル通り昆虫を食べることについての本だったのですが、紹介者の方は本の著者が主催している昆虫を自ら料理して食べる会に参加したことがあるそうで、鳥肌立てて、え゛~といった声をあげながら話を聞きました。

二番手の私は小説『朗読者』を紹介。三番手の方は学校司書さんで、書店でのバイト体験や現在の職場体験とからめて『新解さんの謎』を紹介してくれました。他チームは4名だったので、四番手分の発表・討論時間も『新解さんの謎』の話で盛り上がって、最後の投票結果では『新解さんの謎』がチャンプ本になりました。

でもホント、ゲームとして『新解さんの謎』がチャンプ本になったけど、昆虫を食べる体験談なんてめったに聞けるものじゃないし、そうやって本を仲介に話をすること自体が楽しいんですよね。図書館開催のビブリオバトルって観覧者多数のイベント型ビブリオバトルがほとんどですけど、こうした少人数での形式で開催しても面白いと思うんだよなあ。公共図書館の皆さん、ぜひご検討を!

§ 開催経験者とのお話

そんなかたちで、講演会自体もよかったですが、私にとっては講演後にビブリオバトルを開催する側の人、開催しようとしている人と話ができたことも大きな収穫でした。まず、私はこの講演会参加にあたって谷口氏か普及委員会の方々に聞きたいことがありまして、それは上にも書いた私主催の集まりでビブリオバトルを行った際に、集まり自体には乗り気だったのに、ビブリオバトルを開催すると言ったとたんにテンションが落ちてきて、結局集まりにも欠席した方が数名いたんです。おそらくビブリオバトルをハードルと感じて欠席なさったのではないかと思うのですが、ビブリオバトルってもっと気軽なゲームなんですよね。こうした「勝手にビブリオバトルをハードル高く感じてしまっている人」を誘うにはどうすればいいかというのが、この日の私の解決したいことだったんです。

谷口氏の前には講演後に行列ができていたので、これまでもいくつかのビブリオバトルでお会いしたことのある普及委員会のメンバーさんに相談してみたところ、「とりあえず本を持ってきてもらい、まずは他の人の発表を見てもらって、参加したくなったらしてみる、という感じで誘ってみては」「誰でも観覧できるビブリオバトルイベントに連れて行くと、そんなに構えなくていいことが伝わるかも」といったアドバイスをいただきました。なるほど、確かに私も実演を見たらどんどん参加したくなったもんなあ。ありがとうございます!

また、実際に開催してうまくいかなかったり、成功しているものを更に発展させようとしている大学生の皆さんと話せたのもよかったです。今回の講演会は「開催のコツ」というキーワードがタイトルに含まれていたこともあって、こういう方々が多かったんだろうな。講演会って、講演そのものだけでなく、こうした参加者同士の情報交換も貴重な体験ですよね。

といったかたちで、ビブリオバトルを開催したくなる講演会で、これからもいろんなかたちで私自身も開催してみたいと思います。講師の谷口さん、普及委員会の皆さん、いい講演会をありがとうございました。