閉室前の昭島市民図書館つつじが丘分室
昭島市民図書館つつじヶ丘分室は、2020年3月27日を最後に閉室しました。新幹線の先頭車両を改造して作られており、中にいるだけでワクワクする図書館でした。
以下は、閉室前の昭島市民図書館つつじが丘分室の訪問記です。
閉室前の昭島市民図書館つつじが丘分室 訪問記
昭島市立図書館つつじが丘分室の最寄り駅は昭島駅。駅から東北東へ1kmほどのつつじヶ丘公園の中にあります。
つつじが丘分室は、初めて訪れる場合でも見逃すことはまずありません。というのも、新幹線の先頭車両を、内装だけ改造したという、ユニークな図書館なのです。通り沿いに新幹線が置かれている様子は、知らずにそばを通りかかった人も思わず足を止めてしまうくらい。強烈な存在感を放っています。
新幹線と一言でいってもいろいろなタイプの車両がありますが、昭島市民図書館つつじが丘分室に使われているのは、青&白の初代0系の車両です。車輪も付いたままで、公園の敷地内に車両と同じくらいの長さの線路を置き、その上に新幹線車両が乗っています。
新幹線を含めて、電車というものはホームの高さにドアが取り付けられているので、線路がある地面からは高すぎて直接入れませんよね。なので、昭島市民図書館つつじが丘分室も、車体の外に設置された階段を上がって入ります。運転席からは遠い方(2号車に近い方)の乗車ドアを図書館の入口としているのですが、現役の頃は自動だったはずのドアも手動になっており、新幹線のドアをガラガラと手で開けるなんて何とも変な気分で楽しくなってしまいます。
中は靴を脱いで上がるようになっていて、入口を入った真正面、つまり新幹線のデッキ部分にカウンターがあります。右の客室に入ると、手前五列分の新幹線座席が残っていて、それが閲覧席。奥は座席が外されていて、背の低い書棚が並んでおり、一番奥は絨毯敷きの寝ころびスペースになっています。
私はこの新幹線図書館の存在を知ったとき、移動図書館のように座席なしで両脇が全面書棚になっている空間を想像していたので、座席を残して閲覧席としているのを見たときテンションが上がってしまいました。皆が座席について本を読んでいる様子は、図書館というよりまさに新幹線!ちなみに座席は自由席となっております(笑)。
お手洗いも新幹線のトイレの個室に普通の建物用の水洗トイレを設置したかたちで、この型の新幹線特有の丸い照明が新幹線内にいるような気分をそそります。よく見ると、館内の注意書きも「図書館の中では飲食禁止」などではなく、「しんかんせんの中でのんだり、たべたりはできません!」とあるので、図書館のスタンスとしても、ここは「図書館」というより「新幹線」なんですね(笑)。
書棚は客室の奥側に高さ1mほどの低い棚が並んでいるほか、新幹線の網棚に板を渡して、そこも書棚として使っています。網棚書棚に大人向けの本、低い棚に児童向けの本という配置になっていて、所蔵構成としては児童書が8割以上といったところです。新聞はなく、雑誌も「ジュニアアエラ」「OZmagazine」など数種類程度です。本をよく見ると、貸出返却処理に使うバーコード上のつつじが丘分室の蔵書であることを示すシールも新幹線のイラストです。
児童向けの本は、絵本・紙芝居、読み物、ちしきの本とあらゆるジャンルを揃えていますが、大人の本は半分以上が小説・エッセイなどの読み物。それ以外の一般書も、家事関連本や児童書ブックガイドなど、子育て世代のニーズに合わせているようなラインナップです。
日本の小説・エッセイは一緒にして著者姓名の五十音順、複数作家による作品集は五十音順の並びの最後にまとまっています。外国の小説も著者姓名の五十音順に並んでいますが、外国小説全て合わせて10冊程度しかありません。
絵本の分類は少し複雑で、「乳児向け絵本」「(乳児向け以外の)高さ21cm未満の絵本」「(乳児向け以外の)高さ21cm以上の絵本」に分かれており、前の2つは出版社五十音順、21cm以上の絵本はタイトル五十音順に並んでいます(日本人作家or外国人作家の分類はなし)。
児童読み物は、日本人作家の作品も外国人作家の作品も一緒にして、著者姓名五十音順です。中高生向けの本も児童書と一緒になっているので、児童読み物の棚などはかなり幅広いラインナップになっていますが、小学校1,2,年生向けの本には緑丸シールがついているので、本選びの際にはそうした目印を活用してください。
そして、座席エリアから書架エリアに入ってすぐ右には、新幹線図書館として欠かせない「しんかんせん てつどうの本コーナー」もあります。児童向けの鉄道の本や「きかんしゃトーマス」などの絵本もあれば、一般向けの鉄道関連本や鉄道写真集もあり、大人も子どもも楽しめます。私もそうでしたが、特に鉄道好きではない人も、この空間にいると鉄道熱が高まって、これらの本に手が伸びるはず!
昭島市立図書館つつじが丘分室は新幹線が図書館になっているという空間が面白いので、貸出・返却に来るだけでなく、やはりこの場での読書を楽しみたいです。新幹線の座席が閲覧席なので、前の座席の背中にある、パタンと下げると使えるテーブルや網袋もそのまま。重い本を読むときにはテーブルを倒して読めるし、頭上の網棚にずらっと並ぶ本から選んで座席で読むのは、何とも不思議な感覚です。
残念ながら開館時間が12時半から17時までと短いのですが、お越しの際はぜひ館内、いや車内で過ごす時間を作って行くと、楽しめること請け合いです。考えてみれば、本物の電車の中も目的地まで時間が限られているせいか集中して読書できたりしますよね。かつ、本物の電車のような揺れがないから眠気を誘われず、実際にいい読書空間という気さえしてきます。全国的にも珍しい(ここだけ?)新幹線図書館での読書をぜひ楽しんでください。