第9回江戸歴史講座「江戸の判じ絵 Pictorial Quizzes in Edo」
visit:2012/05/19
日比谷図書文化館では、「日比谷カレッジ」と題して講座・セミナー・ワークショップなどを数多く開催しています。その中の一つ、江戸歴史講座の第9回「江戸の判じ絵 Pictorial Quizzes in Edo」に参加してきました。私は手ぬぐいを使うのですが、手ぬぐいにも「鎌」の絵と「輪」の絵とひらがなの「ぬ」を書いて「かまわぬ=構わぬ」と読ませる判じ絵があるんですよね。そうしたものをもう少し深く知ってみようというわけです。
第9回といっても、第8回までの講座を受講したことなくても参加できますし、現に私も第9回だけの参加です。また、図書館の講座としては珍しく有料(一般1000円、千代田区民は500円)の講座です。日比谷図書文化館自体が、純粋な図書館というよりは、図書館と博物館が合わさったような施設なので、そう捉えれば有料でもおかしくないのかもしれません。
講師を務める岩崎均史氏は、たばこと塩の博物館の主席学芸員で、『江戸の判じ絵』という書物も出版している方です。講座のスタートも、すぐに判じ絵の解き方に入るのではなく、判じ絵の歴史的背景から説明していただきました。
判じ絵のルーツをたどっていくと、古くは平安時代の「歌絵」や「葦手絵」にまで遡れるのだそうです。「歌絵」というのは、和歌の内容を絵であらわして、どの和歌なのか当てる遊びで、「葦手絵」というのは絵の中の葦が描かれている部分や水の流れの部分に、文字が隠されているような遊び。特に歌絵の方などは、教養がないと解けないですよね。つまり、わりと高尚な遊びだったわけです。絵ではないけど、音が同じで意味が違う言葉を使っているという意味では、和歌の掛詞なども判じ絵につながる文化といえます。
そんなかたちで、どちらかというと風流なものだった言葉遊びが徐々に庶民的なものになっていき、1600年代あたりには「謎染」というものが登場します。「謎染」というのは、上にあげたような「鎌」+「輪」+「ぬ」という絵を着物の柄として染めるもので、無頼をきどった輩が何事にも構わず自由に行動するという意味で「かまわぬ」柄を着ていました。そうした謎染はのちに歌舞伎役者にも好まれるます。
こうした判じ絵は、判じ物という謎解き遊びのようなかたちでも広まりました。この判じ物が、この講座のメインといえる判じ絵ですね。1枚の紙に、何らかのテーマで描かれた判じ絵がたくさん載っていて、謎解きを楽しむような遊びが流行します。「勝手道具判じ物」だったら台所道具の名前が判じ絵になってるとか、「さかなのはんじもの」だったら魚の名前が判じ絵になっているとか、テーマが決まっているんですね。このテーマがなければ、岩崎氏もなかなか解けないとおっしゃっていました。
そうした判じ絵の背景のあと、参加者の皆さんお待ちかねの判じ絵の謎解き実例に入ります。まずは、文字抜き(桜の絵の真ん中が消えていたら、“さくら”の真ん中の“く”を抜いて“さら”と読むなど)、逆さ読みなどの読みかたのルールをおさらい。私にとって大きかったのは、お約束というか、これが出てきたら迷わずこう読めというものを知ることができてよかったです。天狗が出てきたら「魔=ま」と読む、白い布を輪にして×で留めてあるような絵が出てきたら「乳(旗の竿を通すところ)=ち」と読むなど、その絵をどう読むかって本当にいろんな解釈ができてしまうので、そういう決まりごとを知ると、格段に判読率が高まります。
その上で、実際の判じ絵を見て読みかたを解いていきました。勝手道具判じ物なら、ゾウの絵と金太郎の上半身で「ぞうきん=雑巾」とか、カエルがお茶を立てている絵で「ちゃがま=茶釜」とか、菜っ葉がおなら(屁)をしている絵で「なへ=鍋」など。台所道具だと、現代の生活では馴染みがないものなどもあるので結構難しいです。
それでも数をこなすと段々わかってくるもので、例えばゾウと金太郎の上半身で「ぞうきん」という判じ絵なんかは、そのすぐ下に別の判じ絵があるので、スペースの問題で金太郎が半分しか描かれていないようにも見えるんですね。でも、判じ絵のルールがわかってくれば、あ、これは「きん」だなとすぐわかるようになってきます。パターンをつかむとますます楽しくなりますね。
スライドでは、こうした判じ物のほか、物語が全て判じ絵で書かれた本なども見せていただきました。忠臣蔵を判じ絵で書いたものでストーリーがわかるとはいえ、読み物としてはもどかしい気もしたりして(笑)。逆に言うと、テーマが決まった判じ物もそうですが、判じ絵はそれ単体ではなく、何らかの手掛かりがないと解くのが難しいですよね。
江戸時代の判じ絵を楽しんだ後は、現代にも使われている判じ絵の紹介。『サザエさん』や『クレヨンしんちゃん』にも判じ絵が登場するシーンがあったり、思えば子ども向けのクイズなどでも判じ絵は使われますよね。日本以外の例もあって、IBMの社名が目(eye=I)、蜂(bee=B)、Mで表されているロゴもそう。
同じ読みで違う意味の言葉を使った遊びという意味では駄洒落もそうですが、岩崎氏は今の社会での駄洒落の地位の低さをぼやいていらっしゃいました。う~ん、確かに言葉遊びと考えると高尚な遊びかもしれませんが、私自身も駄洒落のようなオヤジギャグには冷たく対応してますね…(笑)。言葉を掛けていること自体ではなく、言い方にも関係ありそうな気がしますが。
この講座を聴き終わって、岩崎氏が判じ絵を古い時代の娯楽として扱うというより、今にも通じる遊びとして話していたので、私もちょっと判じ絵を取り入れたくなりました。例えば、判じ絵で落款を作って、手紙の最後に押したりするとか。「竹内」を竹の絵と家の絵で表すのでは単純すぎるけど、それ以外となるとなかなか難しいな…。頭を柔らかくして、もうちょっと考えてみます(笑)。