図書館と話そう
visit:2013/07/13
新宿区立北新宿図書館に本を借りに行ったとき、図書館だより「きたしん つうしん」で「図書館と話そう」というイベントが開催されるという情報を目にしました。どうやら図書館職員さんと話せる場で、しかも出入り自由で14時から18時までの開催ということで、一体どんなかたちのイベントなのか興味深々。当日を迎えて、楽しみにして行ってみました。
北新宿図書館は北新宿生涯学習館の中にある建物で、「図書館と話そう」の会場は図書館と同じフロアの学習館の一室で行われていました。部屋に入ると周囲の壁を使って図書館に関する展示をしており、中央にテーブルと椅子が配置されています。部屋の中に館長さんと職員さんが常駐していて、展示について説明してくれたり、テーブルに座って気軽にお話することもできる。図書館と話すということで椅子とテーブルだけがあるような空間を想像していたのですが、そんな風にがっつり話すというかたちではなく、気楽に居られる場所という雰囲気でした。
展示の内容としては、北新宿図書館の蔵書数や貸出数のグラフや1982(昭和57)年に北新宿図書館が開館した当時の図書館だよりなど、北新宿図書館に関する展示があったり、図書館が舞台になった小説や図書館に関する本を集めたり、映画『図書館戦争』のポスターと「図書館に関する宣言」を並べたコーナーがあったり、図書館に関するクイズにも挑戦できたり。ここで配布してくれていたのですが、「図書館に関する宣言」の絵ハガキというものが存在するんですね。あのベージュ色のポスターを絵はがきの裏面に印刷したもので、日本図書館協会で販売しているのだそうです。
また、会場にはシャンティ国際ボランティア会が行っている、難民キャンプでの図書館支援や東日本大震災被災地で行っている移動図書館プロジェクトに関する展示もあり、シャンティ国際ボランティア会のスタッフさんもいらっしゃいました。公共図書館以外の図書館のかたちを紹介するという意味合いに加えて、シャンティ国際ボランティア会の事務所が新宿区にあるということで、シャンティ国際ボランティア会さんに新宿との結びつきを深めたいという思いがあり、この企画への参加が実現したのだそうです。
日本の絵本の文章部分に現地の言葉に訳した文章を貼って、それを現地に送るという活動をしていることや、現地に口伝てで伝わっている物語を絵本というかたちにする活動などを説明していただいたのですが、展示だけでなくスタッフさんに直接説明していただいたことで、強く印象に残りました。「おおきなかぶ」を現地の言葉で絵本読みを行おうとしたとき、「うんとこしょ、どっこいしょ」にあたる言葉がなくて困った話とか、現地の物語の絵本を作ろうと現地の人に絵を描いてもらったら、文章を入れる空間がないような絵になってしまったことなど、大変ながらもやりがいのある様子が伝わってきました。
上のような展示があるほか、中央のテーブルには図書館で使っているブッカー(本の表紙を保護する透明シート)やラベル、カラーマーカーや紙テープ、マスキングテープといった工作材料、シャンティさんが活動しているミャンマーやカンボジアの言葉と五十音の対照表があったりして、それらで自由に遊びながら過ごすこともできるようになっていました。私もそれを使って、ミャンマーの言葉・カレン語でメッセージを書いて図書館職員さんやシャンティのスタッフさんに渡すというはた迷惑なことをして遊ぶ始末(笑 でも、書いている本人も対照表なしには読めないし、たぶん先方にとっては暗号を渡されたようなものでしょう)。
それがきっかけで、隣に座った利用者の方と、外国語と日本語の違いの話にはじまって、新宿区の中央図書館移転の話や、はたまた大久保通りや明治通りの移り変わりの話まで、すっかり話がはずんでしまいました。新宿区の中央図書館移転の話などは北新宿図書館の館長さんも交えて話しましたが、その方と二人で話した時間も多く、私にとっては「図書館と話す」場だっただけでなく、他の利用者さんと「図書館で話す」場にもなったという体験でした。
これもまた楽しい体験で、普段は同じ時間に同じ図書館の中にいても他の利用者さんと話すことなんてなかなかないですよね。それが、こうしたきっかけで、図書館や地域のことを話せる面白さ。「利用者懇親会」だと、「図書館をもっとよくするためにどうすればいいか」といった目的性の強い集まりになる場合もあり、もちろんそれはそれで大切ですけど、もっと気軽に利用者同士が話せる場があってもいい。この「図書館と話そう」という企画は、まさにそんな場所だったと思います。
図書館と話ができる場としても、講演会のような“大勢で話を聞く”スタイルだと一方的に話を聞くことになりますが、自由に出入りできる場所でフラットに話せる場を作ってくれたことで、質問しながら話ができたのもよかったです。「図書館の話が聞ける場」ではなく「図書館と会話ができる場」になっていたという印象です。
私が思うに、壁面に展示をしてそれについて話すというスタイルも会話の仕掛けとしてよかったと思います。商談などで、相対して座ると敵対しやすく、隣り合った90度の位置に座るといい、同じ向きに並んで座るのが最も話が弾むが初対面でその位置関係だと逆にひいてしまうといった、話をする際の位置関係の技術がありますが、展示を見ている利用者に職員さんが話しかけるというスタイルにすることで、自然にもっともいいかたちで会話が弾みやすい「同じ向きの並び」になれるんです。
こうして図書館巡りをしていて感じるのですが、図書館をもっとよくしたいというときに、利用者の要望を図書館に突きつけるといった対立的なかたちでは、図書館側もこれはできます、それはできませんといった防御しつつの対応になってしまう。でも現実的には、図書館が何かを実現するには役所側の許可・理解や利用者全体の理解が必要だったりして、それを乗り越えていくには利用者と図書館が対立ではなく協力していくほうがいいと思うんですよね。そういう関係づくりの場としても、このイベントはとてもよかったです。
でも、振り返ると、そういった堅苦しい話はわずかに出た程度で、全体的には図書館や利用者の型と楽しくおしゃべりできる場というかたちだったかな。途中から参加したシャンティさんのスタッフさんがいて、その方がいらしたときに館長さんとそのスタッフさんが名刺交換したのですが、その儀式に加わりたかったのか、近くにいた小学生の男の子が名刺代わりに絵本を差しだす場面があったり(笑)、本当にいい雰囲気の空間だったんです。北新宿図書館の方々もまたこうしたイベントを開催したいとおっしゃっていたので、北新宿図書館ともっと仲良くなりたいという方は次の機会にぜひ!