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中野区立中央図書館ビブリオバトル テーマ:たくさんの人に届けたい本

―2013年9月29日のイベント
visit:2013/09/29
§ 「たくさんの人に届けたい本」をテーマにしたビブリオバトル

ビブリオバトル」というコミュニケーションゲームをご存知ですか?どんなものなのか簡単に説明しますと、面白いと思った本を持って集まり、本の紹介を5分間+発表に関するディスカッション3分間を繰り返したあと、「どの本が一番読みたくなったか?」を基準として参加者全員が投票し、最も多く票を集めた本をチャンプ本とするという、本の紹介ゲームです。単なるお薦め本の情報ではなく、発表を通じて発表者の人柄なども見えるゲームで、「人を通して本を知る、本を通して人を知る」をキャッチコピーにして、学校、図書館、書店、カフェ、研修・勉強会、サークルなどで開催されています。

都内の図書館でも次々と開催されており、2013年9月29日に中野区中央図書館でも開催され、私も本の発表者として参加してきました。その際のテーマは「たくさんの人に届けたい本」。ビブリオバトルは、特にテーマを設けず皆が自由に好きな本を持ち寄る方法もあるし、このようにテーマを決めてそれに沿った本を持ち寄る方法もあります。但し、課題図書を設定するなどはダメで、参加者が自分で本を選ぶことが必要。その他、シンプルな決めごとがいくつかあるので、詳しく知りたい方は「ビブリオバトル公式サイト」をご覧ください。

ビブリオバトルには、参加者全員が本を発表するパターンもあれば、数人の発表者と大勢の観覧者が集まって行うパターンもあり、図書館で行われる場合は後者のパターンで開催されることがほとんどです。今回の中野区立中央図書館ビブリオバトルでも、7人の発表者に対して多くの観覧者が集まり、発表者も観覧者も合わせたその場にいる人全員で投票を行うかたちでした(発表者は自分の紹介本以外の本に投票する)。また、ディスカッション時間もアレンジして、公式ルールが3分のところ、2分間という設定で実施しました。

§ 中学生から大人までバトラーが集合

私はこれまでに何度か図書館でのビブリオバトルに参加していますが(図書館のイベント・展示訪問記で「ビブリオバトル」の文字を探していただければ、これまで私が見てきた全てのビブリオバトルの様子をご覧いただけます)、今回初めて、「バトラー(本の紹介者)として中学生と一緒になる」という体験をしました。ビブリオバトル自体は誰でもできますし、今回のビブリオバトルは募集対象が「中学生以上」でしたが、そうした制限さえ設けないところも多い。それでも、今までは大人の発表者としかご一緒したことがなかったんですね。それが今回は、区内の男子中学生がバトラーとして参加してくれたんです。

実は、会場に一番最初に来たのが私で、その次に来たのがその男子中学生だったので、待っている間にいろいろ話をしたんです。彼は学校の図書委員で、学校内のポスターでビブリオバトルのことを知り、学校でも開催したいと思って、まずは自分が体験してみようと参加したとのこと。私自身は、今でこそ紹介者として参加していますが、一番最初のビブリオバトル体験は観覧者としてでした。でも、彼は何事も体験とばかりに、初参加にして紹介者になるというんだから、すごいなあ。このように、こんな機会がなければ出会えないような、世代の違う本好きの人と知り合えるのも、ビブリオバトルというゲームの面白さです。

それから次々と集まった紹介者の面々は、中学生の彼を除いては20~40代くらい。ビブリオバトル自体今回が初めてという方もいれば、紀伊國屋書店新宿南館でほぼ毎月開催されているビブリオバトルの常連さんなどもいて、ビブリオバトルの経験値も含めていろんな人が集まったかたちになりました。ちなみに、紀伊國屋書店新宿南館のビブリオバトルは、開催頻度も高いし、書店の一画という気軽に立ち寄りやすい場所で開催しているので、まずはどんなものか覗いてみたいという方にはお薦めです。

さて、開催時刻を迎えて、司会の方からビブリオバトルについての説明があったあと、最初に発表者3人、次に発表者4人と、2ゲームに分けていざ開催です。さまざまな発表者がどんな本を持ち寄ったか、投票の結果も含めてまとめると以下の通り。

第1ゲーム第2ゲーム
1番手 『手話で生きたい』 『小川未明集 幽霊船』
2番手 『東日本大震災 石巻災害医療の全記録』 『みんなのかお』
3番手★『ナゴム、ホラーライフ 怖い映画のススメ 』★『ナガサレール イエタテール』
4番手★『マチルダは小さな大天才』
★がチャンプ本

第2ゲームでチャンプ本が2つあるのは、この2冊の票数が同じで両方チャンプ本に選ばれたから。ビブリオバトルでは、全国大会の予選などでチャンプ本を1つに決めないといけない場合でなければ、このようにチャンプ本が2冊以上あっても構いません。

皆さんの紹介本をあらためて見てみると、医療従事者が著した『東日本大震災 石巻災害医療の全記録』、被災者が著した『ナガサレール イエタテール』と、東日本大震災関連の本が2冊紹介されたのは、やはり「たくさんの人に届けたい本」というテーマを考えたとき、震災についてもっと知るべき・伝えるべきという思いを多くの人が持っている現れなのかなと感じました。「現場はこうだった」「被災者はこう感じている」というのは決して一様なものではなく、人の数だけ葛藤や喜怒哀楽があるはずですから。お二人ともご自分の経験を織り込んだ発表をしていて、それも含めて聞き入ってしまいました。

また、私にとって興味深かったのは、「たくさんの人に届けたい本」というテーマで、ホラー・怪奇系の本を紹介した人が2名いたこと(ホラー映画についての対談『ナゴム、ホラーライフ 怖い映画のススメ 』と怪談傑作選集の1冊である『小川未明集 幽霊船』)。ホラーや怪奇の世界って、私自身はあまり興味がないのですが、好きな人多いのかな。特に、『ナゴム~』の発表者さんは、ディスカッションタイムで「発表者さんの好きなホラー映画は何ですか」と聞かれたとき、「そんな質問をされたら止まらなくなりそう」といいながら本当に次々と挙げていき(笑)、好きな気持ちがビンビン伝わってきまた。

私自身は第1ゲーム1番手で、手話が禁止されいてた時代の苦しみと手話を使える喜びを文章と抽象画で描いた『手話で生きたい』を紹介したのですが、1番手としては場を温める役割も担ってもいいところ、重い雰囲気にしてしまって申し訳なかったような気も。いや、本に書かれていることは、皆に知るべき重い事実だと思うので、それを真面目に伝えたことは間違いではないのですが、イベント開始前に2番手の男性が発表の最初に物真似を入れようかどうしようか迷っていて、皆で(特に私が)「せっかくだから物真似してくださいよ~」と煽っていたんです。そのくせして、物真似しにくいような重い雰囲気を作ってバトンタッチしたのは申し訳なかったなあと(笑)。そして、実際に物真似がウケたかどうかは…いや、受けてましたよ、きっと…たぶん…(笑)。

動物の写真集『みんなのかお』とロアルド・ダールによる児童文学『マチルダは小さな大天才』は、テーマを踏まえると読者に笑顔を届けてくれる本として括れそう。会場では紹介本やその関連本が展示されていたのですが、特に『みんなのかお』は文字ものより読みやすいこともあり大人気でした。『マチルダは小さな大天才』はチャンプ本に選ばれ、実は私も中学生の男の子が発表したこの本に投票したのですが、彼の発表を聞いて大人の世界で汚れた心を児童文学で癒したくなって票を入れたんです(笑)。今回のテーマを踏まえて「届けたいもの」を考えたとき、大事な真実を選ぶ人もいれば、楽しい気持ちを選ぶ人、自分が大好きなものを選ぶ人もいる。こうした多様性が面白いです。

§ 利用者同士の情報交換・交流の場

ビブリオバトルは、「バトル」という名前から弁論技術を争うイベントのように思う人もいるかもしれませんが、冒頭に書いたようにコミュニケーションゲームで、勝ち負けそのものよりゲームを通じていろんな人と話ができるのが楽しいんです。上記のように、私の紹介本はチャンプ本に選ばれませんでしたが、第1ゲームと第2ゲームの間の休憩で友達が手話ボランティアをしているという人から話しかけてもらったりして、発表者同士や観覧者の方々と話すのも楽しかったです。

図書館って本を読む人がたくさん集まっている場なのに、自分で読みたい本を探して、借りて、読んで、としているだけでは、多くの人がそれぞれ孤独な読書をする場になってしまう。いや、もちろん、読んでいることを人に知られたくない本もあるので、そういう秘密をしっかり守ることも図書館の重要な役割です。でも、この本は面白い、ぜひ多くの人に読んでもらいたいというような思いを持っている人も多いはずで、そうした思いの交換の場となれるビブリオバトルはぜひ多くの図書館で開催してほしい。中野区立中央図書館でもぜひ、第2回、第3回と継続して開催して欲しいです。

図書館で得られる本の情報としては、図書館からのお薦め本を館内に展示していたり、図書館だよりなどで紹介してくれることも多いですが、優等生的な紹介文だったり、ありがちな選書だったりして、面白味としてはいまいちというものも…(笑)。図書館で得られるお薦め本情報のなかでは、総体としての図書館からのお薦めより、スタッフ●●さんからのお薦めみたいなものの方が、私自身は読みたくなることが多いんですよね。ビブリオバトルもそうですけど、紹介者の思い入れが伝わってくる紹介のほうが、実際に本に手が伸びます。図書館の利用者さんはそれぞれ思い入れを心に秘めているわけで、それを交換しない手はない!

今回は中学生の発表者がいたこともあって、図書館でのビブリオバトルの幅広さをあらためて実感でき、とても楽しい経験でした。一緒に参加した皆さん、楽しい時間をありがとうございました!