コンシェルジュと巡る神保町ツアー『古本屋ツアー・イン・神保町』編
visit:2014/12/06
千代田図書館では「図書館コンシェルジュと巡る神保町ツアー」というイベントを不定期で開催しており、毎回テーマを決めて図書館コンシェルジュの方が神保町を案内してくれます…と、ツアーイベント説明の前に、千代田図書館のコンシェルジュについての説明を先にすべきかもしれませんね。千代田立図書館公式サイトの説明もコンパクトにまとまりすぎて図書館員との違いがわかりにくいようにも思うのですが、私なりの表現をすると「生きた地域資料」という存在で、千代田区に関する案内をしてくれたり、図書館の枠を超えて新刊書店・古書店での本探しを手伝ってくれたりというサービスを行ってます。
そんなコンシェルジュと巡る神保町ツアー、2014年12月6日のテーマが『古本屋ツアー・イン・神保町』で、同名の本を出版した小山力也さんのトークイベントと神保町ツアーが楽しめるということで、私も参加してきました。小山さんとは今年の「ビブリオバトル in 神田古本まつり」の決勝でご一緒したのですが人柄的にもいい方で、神保町古本屋制覇の話もたっぷり聞けるとなったら参加するしかないというわけです。
イベント構成としては、所要時間2時間のうち、最初の1時間が小山さんトークショー、後半の1時間が神保町ツアー。最後は神保町での解散なので、そのまま個人的な神保町巡りに突入することも可能です。いや、むしろそれを見込んで、神保町ツアーでは訪問先の古書店をじっくり見るより、いろんなお店をちょこっとずつ巡るようなかたちでした。
まずは、千代田図書館10階にある区内小学校生徒さんの和紙漉き作品で作られた仕切りの裏に設けられた特設イベントスペースで、13時から小山さんトークショー。全国の古本屋を巡ろうとする野望のブログ「古本屋ツアー・イン・ジャパン」を立ち上げ、その中から個性的な店を集めて『古本屋ツアー・イン・ジャパン』という本を出した小山さんですが、本の雑誌社から『古本屋ツアー・イン・神保町』出版の話が来たときは、地方の特色あるお店に行くことが面白く、神保町の古本屋はそうした地方の古書店巡りの合間の箸休め的な存在だったそう。
全国を回っている小山さんと自分を並列に語るのもおこがましいですが、この「箸休めを作る」感覚はわかります。私も3年で23区の図書館を制覇したときは、大きい図書館と小さい図書館を交互に回ったり、特徴ある図書館を適度に挟んだりして気分転換していました。神保町の古書店もきっとそうだと思うのですが、特徴がはっきりしていてネットなどにも豊富に情報があるところの方が訪問記を書きやすいんです。
そんなかたちで神保町を訪れていた小山さん、『~神保町』の話が来た時点で150店ほどある神保町古書店のうち70店ほどが訪問済み、残っているのは小山さんにとっても敷居が高い店ばかりでどうなることかと思ったそうですが、神保町に集中して通うようになると気になるお店がいろいろ出てきたそう。また、通ううちに、神保町という町が一つの古本屋で、一つ一つの店が「神保町」という古本屋の棚であるような感覚になってきたそうです。なるほど、私は何も買わずに出ることになったときに心苦しくて、特に小さな古書店は入りにくく感じていたのですが、お店を一つの棚と考えれば何も買わずに店を出るのも心苦しさをそれほど感じずにいられるかもしれません。
13時20分頃には『~神保町』の担当編集者である宮里氏も登壇して、制作の裏話なども話していただきました。例えば、本を作るにあたって決めなければいけない問題が、神保町の範囲はどこからどこまでなのか。確かに、東京古書会館が神田小川町にあることを考えても、「住所が神田神保町である」という条件にしてしまったら範囲が狭すぎる。靖国通りは古本屋が多い辺りとスポーツ店が多い辺りでガードレールの模様が違うので、古本屋街仕様のガードレールの範囲を神保町とすることも考えたそうですが、結局は神田古書店連盟が毎年発行している「神保町公式ガイド」の掲載店を中心に、小山さんが入れたいお店も加えるというかたちに落ち着いたそうです。
神保町の古本屋全店を掲載する本を出すにあたっては、各店にきちんと掲載許可を取ると載せないで欲しいというお店が必ず出てくるので、許可を取らずに発行したという話には笑ってしまいましたが、幸い今のところクレームは来ていないとのこと。むしろ漏れがないか堂かが心配だそうです。神保町は意外と動きがある町で、月に1店くらいはあった店がなくなったり、新しい店ができたりしているという話には驚きました。
その後、小山さんがいいと思う店3店(風光書房・田村書店・八木書店)、すごいと思う店3店(=本のぎっしり感がとてつもない店。いにしえ文庫・通志堂書店・水平書館)を紹介していただきトーク終了。トークが終わってから神保町ツアーに出発するまでの間が、休憩兼本の販売会兼小山さんへの質問タイムになったのですが、この時間に見せていただいた小山さんの古本屋メモがとりわけ印象的。行った店の様子がロディアのメモ帳の表裏にびっしりと書かれているのを見ると、小山さんの観察眼の濃さをひしひしと感じます。
個人的には、この濃さのメモを店を出た後に書いていることにも驚きました。私は図書館訪問記を書くのに必要なメモは図書館の中で書いていて、私の記憶力では図書館を出た後にまとめてメモするというやり方は到底無理なのですが、古本屋でメモを取るのは怪しい行動なのでそのようなスタイルにしているそうです。いや、図書館で本を手に取るよりメモしている時間の方が長い私も相当怪しいし、「この人何しているんだろう」的な目で見られたことも何度かありますが、私の記憶力では本当に不可能。いろいろな意味で、小山さんの古本屋メモは衝撃的でした。
そうそう、参加者には小山さんが『~神保町』のなかで行った企画「神保町24時」の際のメモのコピーも配っていただきました。この企画は神保町に24時間居続けてその様子をレポートするというものなのですが、夜中になると小山さんの文字がヘロヘロになっていったり(笑)、イラストや見取り図もあって、活字で読むより何倍も臨場感があるんです。小山さん、こんな貴重なメモを配布してくださり、ありがとうございました!
後半の神保町ツアーは、20名ほどの参加者が営業中の古書店に一斉に訪れてはお店にご迷惑なので、4班に分かれての古書店巡りです。A-1、A-2、B-1、B-2とグループ分けされ、AとBでは微妙に訪問先が違っており、数字によって出発時間をずらして、1班5名程度で古書店にお邪魔しました。
私はA-2に振り分けられ、中野書店→けやき書店→小宮山書店→大屋書房というルートを歩きました。中野書店は神田古書センターの2階にあるお店で、漫画を多く扱っており、セル画や古いおもちゃなども見ていて楽しい。ただ、今年の末に西荻窪に移転してしまうとのことです。もうすぐ見られなくなってしまうお店の様子をツアーに組み込んでいただいたことに感謝です。
けやき書店は著者のサインが入っている署名本を多く扱っているお店で、本を覆うパラフィン紙に「署名入り」と書いているのがそれ。お店を出た後コンシェルジュさんに「本を手に取って開いてみました?」と言われ、考えてみればそういうこともできたんだと気づきましたが、1冊1冊大事にパラフィン紙に包まれた本たちを前にすると、安易な好奇心で開くのは畏れ多い気がしてしまうんです。丁寧に扱えば問題はないので、私の古本屋への不慣れさの表れにほかなりませんね(笑)。
フロアごとに異なるジャンルを揃えている小宮山書店では、最上階のアート関連フロアを中心に見学しました。この最上階には、三島由紀夫が舞台演出のために描いたと思われるデッサンや、荒木経惟が撮影したポラロイド写真など、この世に一つしか存在しない貴重なものもあり、ツアー参加者の興奮も一際大きかったように思います。
大屋書房は和本や浮世絵、古地図などを扱っている古書店で、東京が江戸だったことが実感できる店。いやホント、こうした資料を博物館などの展示で見るのと、買おうと思えば買える古書店で見るのとでは、感覚がかなり違うんです。遠いはずの時代と繋がってしまったような不思議な感覚。古本の魅力ってそんなところにもあるんだろうと思います。
こうしてツアー行程を全て回った後は、神保町内にある「本と街の案内所」(今はすずらん通り沿いにありますが、この当時は靖国通り沿いにありました)へ行き、今回のツアーに関するアンケートに回答して解散。神保町に関係の深い団体が共同で運営しているこのスペースは、千代田図書館のコンシェルジュさんもシフトに入って、神保町や書籍、各種イベントの情報をしています。この日は古いものから最近のものまで様々な電子書籍端末が展示されていたり、(確か)「奥の細道」を画像として取り込んだものを印刷して複製したものがあったりして、ここだけでも面白い空間でした。ある意味、ここは古書店より気楽に入れるところで、神保町に来たときには寄りたいスポットです。
ここまで長くなってしまいましたが、この他にも面白い話や楽しい体験があり、あっという間の2時間でした。また、私にとっては初めてのコンシェルジュツアーだったのですが、「コンシェルジュ」という存在を見直す機会になり、これまで軽視していて申し訳ない思いです。
「軽視」について説明しますと、司書とは違う「コンシェルジュ」というわかりにくい役割に対して、特に創設当時、すなわち千代田図書館が現在の場所に移転して、広告もバンバン出し、広報にもかなり力を入れていた時期に、メディアで「千代田区内の案内をしてくれる、例えば、カレーのおいしいお店を教えてくれる」という紹介をされることが多く、私はそれを見て「カレーのおいしいお店を図書館で教える必要などないのでは」と、コンシェルジュの存在を疑問に思っていたんです。
その頃そうした紹介をされたのは、メディアの人たちにわかりやすいサービス例だと思われ、かつ、実際にカレーのおいしいお店をファイリングした資料がその頃からあったからではないかと思います。神保町はカレーの街としても有名なので、そうしたお店の紹介も地域紹介として間違ってはいない。でも、今回のツアーに参加して、コンシェルジュはそうした浅い役割ではなく、「今現在のリアルな地域を紹介してくれる存在、図書館の外に飛び出して<生>の地域を紹介してくれる存在」だと感じました。
実際、今回のツアーでコンシェルジュさんからいろいろな話を聞いたことで神保町がぐっと身近になり、ぜひまた参加したいです。それに、千代田図書館で地域に関する調べものをしていて、図書館で得られる以外の情報も知りたいときにはコンシェルジュさんにも聞いてみるなど、普段の図書館利用でもコンシェルジュの存在を活用しない手はないなと。
神保町古本街に対するイメージも、コンシェルジュに対するイメージも変わって、今回のツアーは私にとって貴重な体験でした。小山さん、コンシェルジュの皆さん、ありがとうございました。