資料修理の実演見学と和装本つくりツアー
visit:2011/08/11
東京都立中央図書館では、館内全体の見学ツアーのほか、テーマを決めたツアーも開催しています。2011(平成23)年8月11日には、資料修理の実演見学と和装本つくりを行うツアーが開催されて、私も参加してきました。定員15名のところ、1人欠席して参加者は14名。最初に5階の特別文庫室を見学し、その後に地下1階の資料保全室で、実演見学と和装本づくりをするというコースです。
特別文庫室は、古地図や錦絵、漢籍、写本等々の古い資料を所蔵してある部屋で、保全の対象となる古い資料の例として、いろいろな資料を見せていただきました。今回は和装本つくりをするということで、巻物・綴本・折本など、形態が様々な資料が用意してありました。川を描いた折本があったのですが、川が曲がっているところでは垂直に紙が繋がっていて、斜めに折ることで折本としてきちんと折りたためるようになっていたり。
一部の資料は複製だけでなく原本も見せていただいたのですが、きれいな状態を保っている原本をみると、保管の大切さを感じます。やはり資料保全のツアーだからか、参加者から複製の作り方に関する質問も出て、ゼロックスのような複写だと原本に紫外線が当たってしまうので、フィルム撮影してそこから複製を作るのだそうです。やはり古い資料は、一瞬の紫外線でさえもできる限り避ける必要があるんですね。
特別文庫室を出たら、地下に移動して、本ツアーのメインである資料保全室へ。ちなみに、特別文庫室も資料保全室も、図書館全体の見学ツアーに含まれているので、これらの部屋を含めた全体をご覧になりたい方はそちらのツアーをどうぞ。私は、全体の見学ツアーに参加した後に、今回のテーマツアーに参加したのですが、全体見学ツアーでは少しの時間しか見学できなかった資料保全室を、今回はじっくり見られるということで、楽しみにしてきました。
まず最初は、資料がどのように傷むのかについて、新聞紙を使ってわかりやすく説明していただきました。同じ新聞紙を、日光に晒した状態、蛍光灯の下に晒した状態、光に晒さない状態、の3パターンで保管したものを見比べると、その違いは一目瞭然。光に晒さずに保管したものは、新しい新聞紙に近い色をしていますが、日光・蛍光灯に晒したものはすっかり色褪せています。蛍光灯からも紫外線は出ているそうで、蛍光灯にずっと晒していると、日光と同じくらい傷むんですね。紫外線をカットした電球というのもあるそうですが、LED電球も紫外線をほとんど出さないそうですよ。だとすると、お肌にもLED電球の方がいいということなのかな?
資料保全の外敵として紫外線が挙げられる一方、資料に内在する保全のハードルのうち、まっさきに挙げられるのは酸性紙でしょうか。公立図書館の古い資料でも酸性紙のものは多く見ますし、私の実家の古い本にも酸性紙のものは少なからずあるくらいので、手にしたことがある人も多いですよね。本当に古いものは脆くて開くのも怖いくらいですし、空気に触れている部分の変色度合いもひどいものです。
そんな酸性紙問題の対策としては、薬品を使った脱酸性化処理。東京都立図書館公式ホームページの中にある「酸性紙資料の脱酸性化処理」に、大量脱酸・少量脱酸の二つの方法が紹介されていますが、費用がかかるようで、大切な資料だからといって片端から何でもかんでも処理するわけにはいかないようです。未処理の資料は、年々劣化していくわけですから、時間との勝負なんでしょうね。
そうした酸性紙問題の話の後に、和紙資料の修理を見せていただいたものですから、和紙の素晴らしさをまざまざと見せ付けられたかたちになりました。何せ、酸性紙より古いものであろう紙が、色も丈夫さもほぼ問題ないような形で存在しているのですから。では何を修理するかというと、虫食いの跡なんですね。素材そのものは本当に丈夫です(もちろん、虫食い処理だけをすればいいものを用意してあったせいもあるのでしょうが)。
ちなみに、中国の古い資料は、楮で作られた和紙と違って、竹で作った竹紙が多いのだそうです。竹紙は、薄くて虫に対して丈夫だけど耐久性が低いんですね。修理の材料として保管している、古い和紙と古い竹紙を皆で触らせてもらったのですが、和紙の方は破るのに力が必要、でも竹紙は劣化した酸性紙並みにパリッと割れてしまいます。う~ん、和紙って本当に優秀です。
その和紙資料の修理としては、虫に食われた部分にちぎった和紙を裏から継ぎあてするように貼っていく作業。修理に使う糊も、保存料の入らない100%のでんぷんのりを資料保全室自ら作っているのだそうです。職員さんが自ら説明しながら次々と貼っていくので、何だか簡単そうに見えてしまうけど、あんなにさくさく修理していけるのはプロだからこそ。でも、資料保全室に所属する人数も決して多くなく、今後のことが少し心配にもなります。地道な活動への予算は削られやすいご時勢ですが、都立図書館さん、資料保全室という部署の保全も、どうぞよろしくお願いします!
継ぎあてのほかに、裏打ちなどの技も見せていただいた後、ついに待望の和装本つくりです。これも東京都立図書館ホームページ内にある四つ目綴のテキスト(PDFファイル)に従って、皆で集まって実演見学→各自、机に座って作業…を繰り返して、四つ目綴の和装本を作っていきました。
作り方としては、半紙を袋とじ状に折り重ねて、こよりで仮綴じして、穴を開けて糸で綴じて終わり。…と、文章にすると簡単なのですが、これがなかなか。作業的には確かにそんなに難しくないのですが、きれいに仕上げるのが結構難しい。例えば、「半紙を半分に折る」という作業一つとっても、1ミリのずれもなくきっちり折るのはなかなか大変で、しっかり合わせたはずなのに微妙にずれたりしてるんですよね。
私が一番苦労したのは「こより作り」で、丈夫な和紙を細くきれいに丸めるのが難しかった。手元にあったら試していただきたいのですが、ティッシュとコピー用紙でこよりを作ったら、厚くて丈夫なコピー用紙の方が作りにくいですよね。和紙でのこより作りは、コピー用紙のこよりに近い感じになってしまって、どうにも汚くなってしまうんです。
そのこよりによる仮綴じも、結んだ後に結び目をつぶして平らにするとか、余分な部分を切り落とすときに切り口を斜めにして段差がつかないようにするとか、細かいところまで気を配ると、仕上がりがきれいになります。今回の私達はこよりを結ぶ方法で仮綴じしましたが、こよりの端を広げて留める方法もあって、こちらは“紙(髪)を結ばない”ことから「坊主綴じ」と呼ばれるそうです。
そんなこんなで、仕上がり具合はさておき(笑)、全員の和装本が完成。最後には、その他の綴じ方例をいろいろ見せていただきました。凝ったものほど格があることになるそうで、今日作った四つ目綴じは私達初心者にふさわしく、格の低い綴じ方とのこと(笑)。その一番簡単な四つ目綴じさえ、美しく仕上げるのはなかなか難しいですが、もっと凝った綴じ方もいつかやってみたいな。
このツアーは、図書館探検ツアーのサブタイトル「きて・みて・ふれて」の中でも、「ふれて」を十分堪能できたツアーで大満足。ぜひこの体験をもとに、自分でも和装本を作ってみようと思います。豆本なら、材料も少なくて済むし、ちょっとくらい失敗しても目立たないかもしれないし(笑)、いいですよね。
また、和紙の優秀さを感じたツアーでもありました。こんなに丈夫で美しい紙ですが、国内需要は少なくて、資料保全室での仕入先メーカーのカタログは、英語表記のものしかないのだそうです。国内を相手にしても採算が取れないので、海外に向けて商品展開しているのですね。これって、ちょっとまずいですよね。優れた技術を残すためにも、日常に和紙を取り入れて、国内需要を増やさないと。私もいろんなところで、和紙を使っていこうと思います。