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講演会&パネルディスカッション「みんなで作ろう 新しい図書館」

―2012年10月20日のイベント
visit:2012/10/20
§ 「すみだ新図書館プロジェクトリーダー」という墨田区立図書館の取り組み

皆さん、墨田区の「新図書館プロジェクトリーダー」をご存じですか?墨田区では、2013年3月にあずま図書館寺島図書館が統合した新しい図書館が曳舟駅近くに開設される予定で、それに伴って2012年5月から展示・イベント企画・デジタルアーカイブの作成などに参加する「新図書館プロジェクトリーダー」というものを募集しているんです。正直、この応募要項をみたときは、「図書館ボランティアを格好いい名前に言い換えたようなものかな」と思っていたのですが、千代田区立日比谷図書文化館で開催した私の講座にプロジェクトリーダー参加者の方が来てくださり、お伺いしたところ想像以上に大きな可能性を持っていた取り組みだと知り、そのプロジェクトリーダーの皆さんからお話をいただいて、今回の講演会&パネルディスカッションを開催することになりました。

今回の企画は、新図書館プロジェクトリーダーが一般の人向けに行った企画第1号ということで、そんな記念あるイベントに関わらせていただいて、私も嬉しい限りです!そして、関わった人間として証言しますが、このプロジェクトリーダーという取り組みは、これまでの図書館ボランティアのイメージを越えて利用者の方々が企画や実行に携わっています。イベントの目的やどういう構成で行うのかは、プロジェクトリーダーの皆さんのミーティングで話し合い、その上で図書館と協働・調整して実現していくかたちでした。

従来の図書館ボランティアは、「ボランティアの方はこれをやってください」ということを図書館が決めて、ボランティア参加者はその枠内でしかできなかった。こちらの方が図書館にとっては管理しやすいでしょうが、本当にそれが住民に求められているものなのかどうか。図書館は運営している人のためにあるのではなく、利用者のための施設ですよね。そこで墨田区では、アイデア出しから企画決定、その実行にいたるまで利用者・住民が関わる仕組みを作り、メンバーを募集したんです。これはかなり画期的といえる仕組みでしょう。

そんなわけでイベント内容も、前半で私が講演し、後半は図書館から1名、プロジェクトリーダーから2名、そこに私が加わって、4名によるパネルディスカッションで、来てくださった方々の質問に答えるというかたちになりました。便宜上、当サイト内ではあずま図書館のイベントとして掲載していますが、実際の開催場所はユートリヤ(すみだ生涯学習センター)の3階視聴覚室で行いました。以下、その様子を私の視点でレポートしていきます。

§ 図書館は何のためにあるのか、図書館の役割とは

まず、私の講演部分から。上で書いたように、すみだ新図書館プロジェクトリーダーという仕組みは、図書館が作った枠内での利用者参加ではなく、利用者と図書館が協働して図書館をつくっていく取り組みなのですが、そのように関わりが大きくなると、楽しみだけでなく責任も生じてきます。これまで、ただ本が好きというだけで図書館を利用できたところ、利用者が図書館づくりに関わるとしたら、「図書館は何のためにあるのか」「図書館の役割は何か」ということを利用者も真剣に考える必要が出てきます。

で、図書館とは何かと考えると、おそらく多くの人の頭に浮かんでくるのが「無料で本が読めるところ」ということではないかと思います。でも、図書館の運営費がどこから出ているかというと、私たちが払っている税金ですよね。所得や固定資産があれば税金は必ず払わなければならない、つまり使おうが使うまいがお金を払わなければいけない施設、強制的に共同出資することになっていると言える施設だと思うんです。

これに関連して、図書館職員さんで利用者のことを「お客さま」と呼ぶ人が多いのですが、私はこれもちょっと違うと思っています。例えば、セブンイレブンのお客さんが何かの理由でセブンイレブンが気に入らなくなったら、明日からファミリーマートのお客さんに変わることができますよね。店側も自分の店がターゲットとしているお客さんを絞り込んで、その人たちの心をつかむような特徴を出すことにお金を掛けることができます。

それに対し、税金で運営されている公共施設は、まだ利用したことがない人も含めて全ての住民のことを考えて開設・運営していくべきだし、際限なくお金をかけて設備やサービスの質を上げればいいというものでもありません。お店だったらサービスが悪い店は潰れるに任せればいいところ、財源がある公共施設は運営内容が悪くても潰れない。だからこそ、住民の要求に真摯に応えていかないといけないし、利用者側も出資者としてアイデア・要望を出して、皆にとっていい施設へ変えていく必要があると思います。

というわけで、あらためて出資者の責任としても、「図書館の役割は何か」を考えたいのですが、やはり図書館の役割の要は「必要な情報を得ることができる」ことだと思います。同じ冊数の本が並んでいる図書館と書店があった場合、書店は売れる本が何冊も積んでありますが、図書館は人気本でもそれほど冊数を有していない分、幅広い資料を所蔵しています。小説・入門書・専門書といった市販の書籍を幅広く揃えている上に、個人では購入しにくい事典類、行政などが発行した市販されていない資料などなど、実にさまざまな資料が揃っているのが図書館。また、新しい情報だけでなく古い資料も見ることができるのも、図書館の特徴ですよね。

本以外にも、ネットやテレビから情報を得ることができますが、今はそれらのメディアが一つの見方に過度に偏ったり、事件や人物を扇情的に取り上げる傾向を感じます。その点、図書館には何かに対して賛成している人の本も反対している本も揃っているし、何かの事件が起きてから発せられた意見や情報だけでなく、事件が起こる前の冷静な情報も得ることができる。

更に、利用者が求めている情報を提供するために図書館が持っている大きな要素が司書の存在です。探したい本があって図書館職員さんに聞いてみたことがある人は多いと思いますが、図書館職員さんに聞けることって、「映画見て原作を読みたいと思っているんだけど、『のぼうの城』はありますか」「題名がわからないんだけど、辞書の編集部を舞台にした、人気の本はありますか」みたいな、具体的に存在する本のことだけではないんですね。

例えば、電車の中でケ―タイ・スマートフォンではなく本を読んでいる人を見ると私は嬉しくなっちゃうんですけど、そこで「考えてみたら今の日本人って一人年間何冊くらい本を読むんだろう」と知りたくなったとします。そんなデータがあるのかどうかもわからないですけど、図書館のレファレンス(調べもの相談)を利用すれば、そういうデータが存在するか、あればどの資料に載っているかということを調べてもらえます。

このように、必要な情報が揃っていて、かつ、その情報に辿りつくためのガイドである司書さんがいることが、図書館の大きな役割です。

§ 人が集まる「場」としての力

では、ここで想像力を働かせて、もしこの先技術が進歩して権利関係も整理されて、国民全員にipadのような情報端末が支給されて、全ての資料がその端末から呼び出せるようになり、更に図書館司書への調べもの相談も情報端末のテレビ電話機能ですることができるようになってしまったら、建物としての図書館はいらなくなるのでしょうか。これは、プロジェクトリーダーさんのミーティングで私の講演の内容を何にするかを話した時に、後半のパネラーでもあるプロジェクトリーダーの北村さんから出た疑問だったのですが、私が小さい頃には携帯電話さえ夢の世界だったことを考えると、あながち夢物語ではないかもしれないですよね。こんな世界が本当に実現したら図書館は要らないと思いますか?

まず、本好きな私としては、やはり本に囲まれた空間に行きたい、だから図書館は存在していて欲しいという思いがあります。本棚で物理的に本が並んでいると、思わぬ本が目に入ってきたりする「本の出会い」もありますし。この点では、図書館ならではの面白さがあって、図書館利用者の小ワザ(?笑)として「今日返ってきた本」の棚から面白そうな本を物色するというワザがありますよね。図書館で誰かが本を返すと、その都度職員さんが本をあるべき棚に戻すのではなく、ひとまず「今日返ってきた本」の棚に置いておいて、ある程度たまってから本来の書棚に戻していくということをしますが、その一時置き場所を物色して面白い本を見つけようという技です。

これはどういうことかというと、「今日返ってきた本」というのは、少し前に誰かを読んでみたいと思わせた本だから、ずっと棚に入りっぱなしになっている本よりは面白そうな可能性が高い。でも、予約がたくさん入っている本なら、この棚には置かれずに次の予約待ちの人に回ってしまうので、とても人気がある本というわけではない。つまり、この棚にある本は、同じ図書館を使っている誰か一人の心をつかんだ本という、何とも微妙な人気度の本と言えるわけです。ここから面白そうな本を探す、いわば掘り出し物を探す感覚のワザが図書館には存在するんですね(笑)。

これなどは、「図書館のある棚に置かれている本であること」が本選びの情報になっていると言えます。ベストセラーや「この本を読んでいる人は、こんな本を読んでいます」といった機能はネットでも得られますが、「今日返ってきた本」のようなニッチな情報は図書館でしか得られない情報でしょう。

あとは、これはあまり覗きすぎても失礼ですけど、他人が読んでいる本というのは面白そうに見える。その「本を読む人が集まっている場」という力が図書館にはあると思います。同じ本を読む人が集まって話す読書会というイベントがあったり(北区中央図書館の月に1度の読書会、なかなか日程が合わずにいまだ行ったことないけど、いつか行きたい!)、作家さんを招いての講演会の質疑応答などで自分にはない視点の質問があるのも面白い。子ども向けのおはなし会も、おはなしを聞くという点では一人の大人が一人の子どもに対して行う読み聞かせと同じですが、おはなし会には皆で集まって聞くことに「共有」感があって、それは一対一の読み聞かせとはまた違う体験ですよね。

また、そうした利用者・読者側が持つ「この本が面白い」という情報もコンテンツといえるわけで、図書館という「本が集まっている場所」とその情報が掛け合わされば、情報としてのパワーは広がります。この講演会&パネルディスカッションの翌日がビブリオバトル首都決戦2012の決勝開催日だったのですが、図書館で行うビブリオバトルなどは、まさに読者の情報と本がある場所との掛け合わせ。ビブリオバトルはゲーム形式で書評を交わすイベントで、どこでも開催できますが、公共図書館でもときどき開催されています。

また、これは講演では時間切れで紹介できなかったけど、個人の方が主催しているkumoriというプロジェクトは、おすすめ本を図書館に設置されているポストに投稿すると、推薦文と図書館での所蔵情報を印刷したしおりを作ってくれる取り組みで、東京都内では新宿立北新宿図書館板橋区赤塚図書館が参加しています。ビブリオバトルが臨場感溢れる書評交換であるのに対し、しおりに印刷するkumoriプロジェクトは静かな情報交換で、それぞれ好きな方がいるんじゃないかな。

更に、情報というのは本に書いてあるものだけでなく、まだ本になっていない情報を人が持っているケースも多々あります。そもそも、本を作るのは人であって、本という形になるまでは人の中にその情報がある状態ですもんね。私が参加したことある例でいえば、江戸川区立西葛西図書館で開催された、西葛西在住で江戸川インド人会副会長のインディラ・バットさんの講演会(当日の様子はこちら)。西葛西にはインド人の方々が多く住んでいるのですが、「私の家の近くにもインドの方が住んでいるけど、インドってどんな国でどういう文化を持っているんだろう」と思ったとき、インドに関する本を読むのもいいけど、人をお呼びして話を聞けばもっとリアルな情報が聞けるわけです。図書館でこうしたイベントを行えば、本からの情報と人からの情報が掛け合わせることができます。

こうした人が集まる場所としての力を考えると、ipadなどの機能が充実すれば図書館は要らなくなるということはなく、場所の力で更に情報収集力や情報交換の可能性がパワーアップするように思います。

§ 利用者だからこそできること・得意なこと

こうした「場」の力を活かすイベント、つまる利用者同士の交流が生まれるようなイベントに関しては、図書館職員さんだけが企画実行するより、利用者の力が活かせるのではないかと私は思っています。なぜなら、図書館には利用者の秘密を守るという大きな役割があり、交流と秘密遵守はぶつかる場合があると思うから。

図書館が利用者のプライバシーを守るというのは、住所や電話番号などの個人情報を漏らさないということだけでなく、何を読んでいるか・何を調べているかという秘密を漏らさないということも含まれます。この講演会では、「ダンディな男性がメルヘンを読んでいてもそれを他人に明かさない」という、いまいちピンと来ない例を出してしまいましたが(笑)、例えばある病気や悩みに関する本をたくさん借りている人がいたら、その人か周囲の誰かがその病気・悩みを持っているだろうと推測できますよね。何の本を読んでいるかを知られるというのは、知られたくない心のうちを知られてしまうということでもあるんです。

もう少しデリケートで、かつ、起こり得そうな例を挙げますと、ある家庭でお母さんは何とか子どもに安全なものを食べさせたいと、食品中の放射能に関する情報や、料理法などに関する情報を集められる限り集めたいと思っている。一方、お姑さんにはそこまでの危機感はなく、神経質になっているお嫁さんにうんざりして、ときどき喧嘩も起きている。そこに図書館から電話がかかってきて、電話に出たお姑さんに「お嫁さんが予約していた『放射能汚染のない食品を見わける本』が届きました」と本のタイトルを漏らしてしまったら、さらに家庭内の人間関係がギスギスするかもしれませんよね…。そうした情報を図書館は漏らさないでいてくれているんです。

そうした秘密遵守に対して、ビブリオバトルや読書会のようなイベントは、何を読んだかを公開するイベントです。もちろん、本人が公開すると決めているわけだからそれで構わないわけですが、イベント参加者は自分が読んだ本のすべてを公開するわけではなく、自分でこれを公開したいと思っている部分だけを公開することができる。でも、それを主催している職員さんが、実は公開したくない自分の読書履歴も覚えているかもしれない人となると、気恥ずかしさというか、ちょっとやりにくい面もあるかもしれません。だとしたら、交流イベントの進行はそうした秘密を知らない利用者が行った方が、余計な気恥ずかしさや気遣いなどなくできるかもしれません。で、参加者申込の手続きや、申込者の個人情報は図書館がしっかり管理する。

つまり、図書館で開催することは全て図書館職員が行うというのではなく、かと言って、図書館への利用者参加ということで何でもかんでも利用者が行うのでもなく、利用者と図書館職員の役割や得意なことがそれぞれある、それを活かすかたちを作るのがいいのではないかと。こんな風な利用者参加のかたちができればいいと思うんです。

そしてもう一つ、私が利用者の力を活かせるのではないかと思うことが、図書館を使っていない人を図書館に連れてくるということです。先に、図書館は使おうが使うまいがお金を払わなければいけない施設だと書きましたが、実際に図書館を使っていない人は大勢います。ちなみに、墨田区民の中で墨田区立図書館に登録している人の割合をあずま図書館に出していただいたところ、2012年4月1日現在の数字で、墨田区民が250,676人、墨田区立図書館登録者のうち区内在住資格の人が66,383人、割合に直すと26.48%しか図書館登録していませんでした。運営費(税金)を払っている4人に対して、そのうちの1人しか図書館を使っていない計算になりますよね。これはやはり申し訳ない、もっと多くの人に図書館を使ってもらうべきではないかと。

図書館利用者を増やそうという話をすると、「今でさえ人気本に予約が多数入るのに、これ以上使う人が増えたらますます本が回ってくるのが遅くなって困る」という人もいると思いますが、図書館を使う人を増やすのは、既に利用している人のためでもあります。26%しか図書館を使っていないとなると、万が一「財政が厳しくなってきたから、図書館をなくそう」なんて話が出て、多数決で決めようということになったら、図書館廃止案が通ってしまう可能性だってありますよね。

また、ネットやテレビに一つの見方に過度に偏ったり、事件や人物を扇情的に取り上げる傾向を感じると書きましたが、こうした情報源に踊らされる社会はとても危険です。限られた情報に翻弄されないためにも、図書館のようなところで新旧の情報、いろんな立場の人が発している情報に接することが一般的に行われる社会の方がいいと思うんです。そういう意味では、目的の情報に辿りつける技術が発達している社会になればなるほど、周辺の情報や対立している情報をともに得られる図書館がもっと使われて欲しい。

で、そのように図書館を使ってない人を図書館に来てもらう際に、図書館の中から来て!と訴えるより、既に利用している人が連れてくる方がうまくいくように思うんです。単純に、図書館の利用者を増やしたいと思う利用者が、1年に1人図書館未利用者を図書館に連れてくる(実際これならできそうですよね)というだけでも、かなり利用率が上がりそうだし。イベントポスター・チラシなども、図書館内に貼るだけでなく、飲食店を経営している利用者が店内にも貼ってくれたり、利用者が周囲に配ってくれたら、多くの人に伝わりますよね。

この点では、まさにこのイベントがその成果を上げていて、この講演会&パネルディスカッションは、80名の募集のところ何と90名以上の皆さんに集まりいただいたんです。それはまさに、プロジェクトリーダーの皆さんの宣伝や、チラシを置いていただいた墨田区内のカフェなどのお力があってこそ。今後の図書館イベントはもちろん、図書館そのものについても、こうやって利用者の力で誘導できると思うんです。

また、図書館の方から住民の集まる場へ歩んでいく例としてご紹介したいのが、「井のいち」に出展した練馬区立南田中図書館。このときの様子を私のブログに書いてありますが、石神井公園の近くの氷川神社での市で、神社の奥の林の中に段ボールでスペースを作り、古本屋さんと図書館が共同して「森の図書館」という青空図書館空間を作ったんです。これも、私がお伺いした話では、図書館が考えた企画ではなく、図書館職員さんと「井のいち」関係者の方がお知り合いになって、そこから「森の図書館」というアイデアが生まれたんじゃなかったかな。

こうやって、利用者が図書館の外からアイデアを持ち込むことで、図書館の可能性が大きく広がると思いますが、気を付けるべきは人を呼べれば何でもいいというわけではなく、やはりその後の継続的な図書館利用に誘導していきたいということです。私の行った図書館イベントの中には、来た人の多くがイベント開催の部屋に直行して、イベント後にそのまま帰ってしまった、つまり、人はたくさん集まったけど、その多くが図書館エリアには入ることなく帰ってしまったようなイベントもあって、それでは意味がないと思うんですよね。何をするにしても、それにちなんだ本棚の場所を紹介するとかして図書館に誘導して欲しいし、あらゆる資料が揃っている図書館なら、実際どんなイベントを開催しても図書館利用に繋げられる可能性を持っていると思います。

§ 「うちの図書館」という感覚

以上、図書館の意義や利用者の責任など難しいことも言いましたが、しっかりした心構えがある人しか参加してはいけないというわけではありません。現に私自身、図書館が好きだという気軽な気持ちから始めた図書館巡りから、こうして講演までさせていただくことになったわけですし。「図書館が好き」「図書館ともっと仲良くなりたい」「図書館を手伝いたい」という素朴な気持ちでいいと思います。

私は図書館を巡るサイトを運営する中で、「うちの図書館にも来てください」「あなたが来たときから図書館の様子も変わったので、ぜひまた来てください」というメールをいただくのですが、こうしたメールをくださるのは、図書館職員であることもときどきありますが、多くは利用者からいただくんです。つまり、寺島地域の人は寺島図書館のことを「うちの図書館」、両国に住む人は緑図書館のことを「うちの図書館」と思っている。この「うちの図書館」という意識が、図書館を手伝いたいとか、イベントを盛り上げたいとか、そういう気持ちにつながると思います。

例えば、私が横川コミュニティ会館図書室の閲覧室に座っていたときのこと。一人の利用者が閲覧室に入ってきて、机に荷物を置いた後すぐに席に座らずに、部屋の中を回り始めたんですね。この方が何をしたかというと、誰かが座った後で乱れていた椅子を机の中にきれいに入れていたんです。全席やっても1分もかからないようなちょっとしたことですけど、この方のおかげで閲覧室が気持ちいい空間になりました。

また、これは梅若橋コミュニティ会館図書室に行ったときに見たのですが、カウンターの向かって左端に花瓶があり、「利用者の方が持ってきてくださった花です」と書いてあったんです。たぶん、ご自宅の庭か植木鉢で育てた花が咲いたので、おすそわけというかたちでいつも使っている図書館に持ってきたのだと思います。

こうした普段の図書館利用の中で気が付いた・思いついたことをするのだって、「うちの図書館」という気持ちから生まれてくると思います。新図書館プロジェクトリーダーという取り組みがあるからといって、こうした取り組みで深く関わっている利用者が、深く関わっていない利用者より偉いとかいうことでは決してない。プロジェクトリーダーは、図書館が作った枠ではなく、仕組み作りから利用者が関わる取り組みだと言いましたが、「企画運営は図書館なり誰かに任せて、自分は現場で頑張りたい」という人はもちろんそれでも構わない。利用者それぞれできることが違うし、同じ人でも「今は少ししか手伝えないけど、子どもが成長してそれほど手がかからなくなったらいろいろ関わりたい」というように人生の中でできることが変わったりもするでしょう。それぞれの人がそれぞれの時期にできるかたちで図書館に関わって、そこに図書館職員さんも加わって協働していくことで、図書館に関わる人皆にとっての「うちの図書館」ができるのではないかと思います。

以上、長くなってしまいましたが、こういった内容の講演をしました。

§ パネルディスカッション

式次第としては、以上の私の話のあとにパネラーの3名が舞台に上がり自己紹介、その後5分の休憩の間に聞きに来てくださった方々から質問を集めて、それをもとにパネルディスカッションをしました。パネラーは、あずま図書館次長の井東順一氏、プロジェクトリーダの小田垣宏和氏、北村志麻氏。パネルディスカッションのパネラーとして、図書館の人と利用者が並んでディスカッションするというこのスタイルもまた、図書館と利用者が上下関係ではなく対等な関係であることを表していると思います。

そして、集まった質問の中では、プロジェクトリーダーにとは何ぞや?具体的な活動は?という質問が多かったようで、イベント展示部会・デジタルアーカイブ部会・すみだコミュニティ部会という3部会それぞれの担当内容を説明したり、どうやって活動時間を捻出しているのかといった質問に答えたり。プロジェクトリーダーに参加しようと思って、様子を質問した方もいらっしゃるんじゃないかな。

私への質問として、「新しい図書館と古い図書館とどちらが好きですか」といった質問などをいただいたのですが、こういった質問には「どちらも好きです」という答えしか返せません(笑)。このサイトにも、図書館の点数付け(星何個とか)をして欲しいという要望をいただくこともあるのですが、私は絶対にそれはする気はなくて、どの図書館もそれぞれいいところがあるし、そもそもどんな図書館がいいかというのも立地条件などによって違うと思っています。

あと、そういった話が前半で出たわけではないのに、なぜか出た「カフェのある図書館はどこがありますか」という質問には 、twitterの「#図書館カフェ」タグがついたツリーから生まれた図書館カフェマップ(東日本版西日本版)をご紹介しました。ちなみに新しく曳舟にできる図書館にもカフェを作ろうとして何社か打診したそうですが、採算面で難があり実現しなかったとのこと。確かに利用者も図書館も望んでいることでも、企業にメリットがなければ参入してもらえないだろうし、なかなか難しいものですね。

ディスカッションということでは、「図書館に来ていない人を図書館に呼ぶにはどうしたらいいか」という議題が出されましたが…結論は出なかったかも(笑)。これという特効薬があるわけではなく、それこそ利用者と図書館と地道にお誘いや広報活動などすることで、じわじわと広げていくしかないのかもしれません。というか、ぜひ墨田区の多くの人にプロジェクトリーダーに参加したいただいて、一緒に考えましょう!実際、この講演会&パネルディスカッションを聴いてくださった方の中にもさっそくプロジェクトリーダーに参加申込してくださった方がいたようで、私も嬉しいです。

イベント後も、聞きに来てくださった方々がプロジェクトリーダーさんや私に声を掛けてくださって、「皆でつくる図書館」の輪が広がりました。皆さん、お忙しい中足を運んでいただいて、ありがとうございました!これから、どんな図書館ができて、その中で利用者の方々がどんな活躍をするのか、とっても楽しみです。

そして、もしこの記事を読んでくださって、プロジェクトリーダーに興味を持った、参加したいという方は、ぜひあずま図書館にお問い合わせください。または、Facebookのすみだ新図書館プロジェクトページ(Facebookに入っていない人がページを開くと登録を促すポップアップが出ますが、それを閉じれば登録しなくても見られます)にもお知らせがUPされていますので、そちらもぜひ。パネラーの小田垣さんからは、「飲み会だけの参加でもいいからぜひ」という呼びかけもあったくらい(笑)、本当に楽しい集まりなんです。図書館って静かにすべきとされる場所ですが、実は話してみると熱い人が集まっている場所なのでは、と感じられる集まりなので、興味を持った方はぜひコンタクトとってみてくださいませ!