京橋図書館さんぽ 森を歩く脚力が足らぬ
中央区立図書館から、図書館カードの有効期限が近づいているというメールを受け取る。このような内容のメールを受け取ったのは初めてで、これまではもっぱら図書館でいざ借りようと思ったときに有効期限が既に切れている、または、期限切れが近付いていることを知るケースばかり、こんな風にあらかじめ連絡してくれると便利である。中央区立図書館が他の自治体ではあまりやっていない取り組みをしているということなのか、他の自治体でもやっているけど私がこうしたメールを送る対象になっていないのか。日付を見るに、有効期限の1か月前にこのメールを送っているようだ。
中央区立図書館は京橋・日本橋・月島・晴海の4館、この中のどこに行こうか。ここのところ昔の図書館に興味を持っているので、大きな地域資料室目当てに京橋図書館に行くことにする。3階のメインカウンターに行き、更新をしたいのですが…と言いながら、図書館カードの束をトランプの手札を開陳するように広げる。私の図書館カード持ち歩き法は、ポケットが一つだけのカードケースに全てのカードを入れて使う都度にこうして広げて必要なものを取り出すという、単純かつその場で手間取る方法なのだ。中央区のデザインはどれだっけと迷っていると、職員さんが「真ん中辺の水色のですね」と助け舟を出してくれる。更新を済ませて、書架へ向かう。
地域資料室は2階だが、せっかく3階にあがったので、先に3階の書架を歩くことにする。3階にあるのは新聞コーナー、雑誌コーナー、小説本、文庫本、ティーンズコーナー、学習室、対面朗読室。図書館の本の中では、比較的カジュアルな本が集まるフロアというところか。雑誌コーナーで中森明菜が表紙の「AERA」最新号が目に留まり、1980年代を中学生として過ごした世代としては思わず手に取ってしまう。これから行うライブでは激しすぎる振り以外は当時の振り付けで歌う予定とのこと、素晴らしい。そういえば清瀬市立図書館にも行こうと思ってまだ行っていないなと思いながらページを閉じる。
「本の雑誌」7月号では、冒頭の「本棚が見たい!」コーナーで取り上げられている奥多摩ブックフィールドの写真に見入る。分類された図書館での本棚と比べると雑然とした並びの棚が面白い。「新刊めったくりガイド」では、桜木紫乃『異常に非ず』の紹介文の「昭和の凶悪事件として有名な三菱銀行立てこもり事件」という言葉に、私は今そんな事件があったことを初めて知ったがと思う。この事件をモチーフにした小説だそうで、桜木紫乃好きとしては読むつもりだが、事件のことを全く知らないまま読むのがいいか、Wikipedia情報くらいは頭に入れてから読むのがいいか、悩むところだ。
フロア中央にある小説の棚から東側のティーンズコーナーに向かって、棚を見ながら歩く。ここは壁に対して棚が垂直ではなく、斜めに棚が並んでいる。そういえば3週間ほど前に行った上池袋図書館もそうだった。図書館の堅苦しさを和らげるのを狙ったデザインだろうか。
これもおそらくは和らぎ効果を狙っているのだろう、対面朗読室入口近く、社会科学の文庫本の棚からせせらぎのような効果音が流れている。私の記憶では移転開館したばかりの2022年12月に来たときは音がもっと大きくて、お手洗いの音消しの音姫が止まらなくなったのを聞かされているような気分になったのが、今はほとんど気にならない音量だ。ただ、対面朗読室入口近くで流しているということは、目が見えない人に対面朗読室の場所を知らせる音という意味があるかもしれず、そうだとしたら流れっぱなしでも気にならにような音、例えば歯医者の待合室で流れるような穏やかなクラシック音楽にしたうえで、もう少し大きくしてもいいのではとも思う。
2階へ降りて、地域資料室へ。3階のメインカウンターは東西に長いフロアの西側、地域資料室も西側、対して階段は東側にあるので、本棚の中を歩きながら階を移動したことになる。これは今回の私の出発地と目的地がたまたまその位置関係だったというだけではない。京橋図書館は6階建ての複合施設「本の森ちゅうおう」の2階から5階までを占めるが、2階と3階を結ぶ階段、3階と4階を結ぶ階段、4階と5階を結ぶ階段がそれぞれ異なる位置にあり、階段でフロア移動しようとすると自然に書棚の中を歩くようになるデザインなのだ。もちろんエレベーターや非常階段を使えば目的のフロアへ直行できるが、あれこれ本棚を見るのが好きな私としてはこの仕掛けに乗らないわけがない。平日の仕事終わりの時間帯の静かな児童エリア、生活関連の本がある「くらしのコーナー」を通り抜けて地域資料室へと向かう。
京橋図書館が区役所地下にあったのが2022年に今の場所に移転して、新しくなった、広くなった、席が増えたなどよくなったことはたくさんあるが、地域資料室が遅くまで使えるようになったことも旧館よりよくなったことの一つだ。移転前と移転後で図書館全体の開館時間は変わらないのだが、移転前は地域資料室だけ全体の閉館時刻より早い17時で閉まっていたのである。入ってみると、窓際の閲覧席は地域資料とは関係ない自習をしていると思われる人で埋まっているが、地域資料・記帳書庫資料を閲覧する人専用のテーブル席には誰もいない。膨大な地域資料を独り占めする人になった気分で本を探し始める。
今日は、前の前、つまり、築地1丁目1番地の区役所地下にあった京橋図書館より前の京橋図書館の様子、館内の写真があれば見たいと思っている。自分で棚を探してもこれぞというものが見つけられず、職員さんに聞いてみると、まず勧められたのが中央区立図書館ウェブサイトの地域資料室 画像資料検索。なるほど、これなら家にいながらデジタル化された写真資料が見られる。そちらは家でも見られるから今はここに来ないと見られないものを優先することにして、私の目的に合いそうな資料がありそうな棚を教えてもらう。
『中央区立京橋図書館百周年記念』という冊子を開くと、前の前の京橋図書館の開架を映した写真が載っている。それよりも気になってしまったのが、1914年に開館したという東京市立両国図書館。墨田区の両国ではなく日本橋区矢の倉町17番地の千代田尋常小学校内に東京市立両国図書館が開館したのだという。日本橋区に両国とは何ゆえかと、ここは安易にWikipediaに頼ると、両国 (東京都)のページに現在の東日本橋辺りが昔は両国と呼ばれていたとある。図書館の歴史から地名の変遷まで派生して知識が広がるのが楽しい。それにしても中央区立図書館は2024年に開館した晴海図書館を除いた3館全てが東京市立図書館にまで辿れる歴史を持っているのだ。せっかく夜遅くまで地域資料室を使えるようになったことだし、もっとここの資料を読み込みたいものだ。
いろいろな本で図書館に関する文章を読んでいるうちに思い出した。先日、江東図書館で江東区立図書館の歴史を調べるなかで、1973年4月に児童書の貸出方式を中小レポート方式に変更したという記述を読み、中小レポート方式って何だと思ったまま、その疑問を放置していたのだった。そこで4階の図書館の棚(010)へ向かう。が、古いアナログ貸出方式の1つが何かを調べるのに、比較的新しい本が並ぶ開架の棚を見るくらいならネットで検索した方が早いわけで、辿り着いたときには知識・学問(002)や情報学(007)の方に関心が移っている。総記(0類)の先頭に『在野研究ビギナーズ』があるのを見て、去年の最初の図書館さんぽ記事でこれまでいつか読もうと先延ばしにしていたのを今度こそ読もうと書いたまま、結局今まで読んでいないのを思い出す。
読書というのは同じ本ならいつ読んでも同じというものではなく、読むこちら側の状況や気分で何を受け取るかが変わってくるものだと思う。だから、仕事でそのときに読まなければならないなどの都合がなければ、一番読みたい気持ちが高まったときに読むのがいいと思う。ただ、この考えで読書していると下手をすれば積読本が溜まりすぎてストレスが溜まってしまうので、私は買う・借りるときにはなるべくその日その流れのまま読む行動までするつもりで1冊だけ入手するようにしている。そういうわけで、この本のようにいつか読もうと思っているけどまだ読んでいない本というのは、まだそのときが来ていない本だとも思う。
こちらの状況で何を受け取るかが違うということでは、先程地域資料室で見ていた『中央区立京橋図書館百年記念』は実は私も持っており、既読の資料なのだ。2011年11月に発行されたこの冊子は当時京橋図書館で無料配布され、私もその1つをもらってきたのである。でも、その頃は図書館の歴史にそれほど関心がなく、100年とは長い歴史だなくらいのざっくりとした印象しか覚えなかった。それがこうやって歴史に興味があるときには、日本橋に両国図書館があるとは何ぞやとか、最初は小学校の中の簡易図書館だったのかとか、細かいところにまで思いを巡らして読んでいる。違うときに読めば、気付くこと、感じることも違うのだ。
図書館の棚に話を戻して、総記全体を眺めていると、『「百学連環」を読む』という、『在野~』よりも分厚く、中身も手強そう、だけど面白そうな本を見つけてしまった。これはもう、毎日あれこれすることがある今読むのは無理なレベルの分厚さだ。老後の楽しみに取っておこう。
足が疲れてきたので、骨休めとしてビジュアル豊かなノート術の本『スケッチジャーナル 自分の暮らしに「いいね!」する創作ノート』を手に取って、座れる場所を探す。5階と6階を繋ぐ階段脇に、明るい色調の椅子がぽつんと1つある佇まいがいい感じで、そちらに座ることにする。『スケッチジャーナル~』は絵が苦手な私には実践するのは難しいが、いろいろな記録を絵で残す実例を見ているだけでも面白い。
一度座ると動きたくなくなり、『写真にみる日本図書館史』を手にまた同じ椅子に座る。1957年の日比谷図書館新館開館の写真のキャプションで、現在日比谷図書文化館のライブラリーショップ&カフェ日比谷になっているエリアが、当時は子ども室だったと知る。私も東京都立日比谷図書館だった頃にここで本を借りたことがあるし、千代田区の移管を前に行われた図書館ツアーに参加したこともあるのだが、その頃このエリアがどう使われていたか全く覚えていない。最後まで子ども室として使われていたのだろうか。
座って本を読むうちに歩き回る気力がますますなくなってきたので、今日はここで帰ることにする。とはいえ、エレベーターを使うことはなく、階段で書架をさまよい歩いてしまう。本棚散策に誘う仕掛けに乗りたいならもっと体力をつけねばと思いながら図書館を出た。