世田谷区立中央図書館さんぽ 借りたい気持ちと自制心の闘い
先日、玉川台図書館で借りた横尾忠則『ぶるうらんど』を返しに世田谷区立中央図書館へ。世田谷区の図書館の新築・移築などの情報を調べるなかで、中央図書館のある建物の2階に自習できる施設を開設するという話があったことを知り、でも世田谷区立図書館ウェブサイトをときどき見る限りでは中央図書館拡張計画にも進捗はなさそうで、返却がてら様子を見に行こうと。
『ぶるうらんど』は死後の世界をふわふわ生きているような作品世界で、本を開いてすっと入れるときと入れないときがあり、今日が1回延長済の貸出期限なのに読み終えられず仕舞いだ。桜新町駅から中央図書館への道中にあるハンバーガー屋で遅めの昼食を注文した後の待ち時間にもう少し読み進めてからページ番号を控え、続きは地元の江東区で借りて読むことにする。
空腹を満たした後に中央図書館へ向かい、まずは2階がどうなっているのかを見たところ、2階以上は関係者以外立入禁止になっている。計画では、現在建物の地下2階から地上1階までを占める中央図書館が地上3階まで拡張される構想で、建築に関わるコスト上昇・人手不足を考えると気長に期待しておくくらいがいいか。
窓口で本を返却した後、「話題になった本」の棚を眺める。図書館における「話題になった本」は、一時期は予約多数で返却されたら次の予約者に回っていたのが今は予約待ちがなくなって図書館の棚に置いておけるようになった本ということだ。前の週に柚木麻子『BUTTER』を買ったせいか、『マジカルグランマ』『自転しながら公転する』など女性作家の本に手が伸びる。いやいや、読み終わらずに地元の図書館で続きを読むつもりの本を返したばかりなのだから、今日は何も借りずに帰ろうと言い聞かせて移動する。
写真集の棚で『うめ版』が目に留まる。写真家の梅佳代の作品と明解国語辞典の言葉の説明をコラボレーションした本のよう。「陰謀」に合わせた写真は新宿らんぶるだという気がする、1度しか行ったことないので記憶もおぼろげだが。「思いも寄らない」の写真は、言葉とのコラボを抜きにしても面白い。一方、「覗く」に合わせた写真は狙いすぎ…等々思いながらぱらぱらページをめくって、最後に奥付を見たら「寄贈」の押印があった。誰かがこんな風に写真+言葉から好きに発想することを楽しんで、皆にも楽しんでもらおうと図書館に寄贈した、のかもしれない。
エッセイの棚では筒井康隆と蓮實重彦の対話・往復書簡『笑犬樓vs偽伯爵』に興味が湧き、少し読んでみると冒頭から一筋縄ではいかない関係の様子に興味が更に膨らんでいく。が、具体的な作品がたくさん話題に挙がるこの手の本を、私はその都度挙がった本も含めて読んでいきたい、その読み方をするには2週間で返却期限が来る図書館で借りるのは適さないと判断して棚に戻す。そういえば、そうやって都度都度挙がった本を読みながら読んでいた佐藤優『私の先生』も途中で放置したままだ。
地下の書架をあちらこちらと彷徨うなか、中心付近の柱に額入りのオックスフォード絵地図が飾られているのに気が付く。これはもしやと思い額の裏を返すと、世田谷区立中央図書館の蔵書バーコードが貼られている。中央図書館の地下1階、現在持参PC利用コーナーになっている場所には昔ポスターの棚があり、本と同じようにポスターを貸出していたのだ。たぶんこの絵地図もそんな資料の1つ。今でもポスターの貸出をしているのだろうか。
そもそもポスターを資料として今でも所蔵をしているのか調べてみようと検索機に向かうと、絞り込み項目の「資料形態」の選択肢として「ポスター」が存在する。但し、この項目は単独では指定できないので、タイトルを「オックスフォード」を含む条件にして検索してみる。が、該当する資料はなし。「Oxford」で検索してもなし。あれこれ試すうちに、「用賀の歴史双六-用賀を知ると用賀が好きになる」という資料がポスター資料としてヒットした。これは昔ラックに並べていたようなポスターというよりは、地域の歴史を盛り込んだ双六、おそらく1枚の紙状のものを図書館資料として登録する際にポスターという資料形態を使ったという種のものという気がする。昔あったポスターは図書館資料としては除籍扱いにして、でも先程見つけたオックスフォード絵地図のように図書館を彩る備品として使っているということなのかもしれない。
この文章を書いている時点ではここで職員に聞いてみればわかったのにと思うのだが、これぞ資料で確認したいという図書館病なのか、地域資料の世田谷区の図書館の棚にその辺りの事情がわかる資料がないかと探してみる。『世田谷のとしょかん』(世田谷区立図書館事業概要)にある沿革や「ざ・ちゅうおうぷれす」(世田谷区立中央図書館の広報誌)のバックナンバーを見るうちに、(建物の移設などではなく)新設された図書館としては世田谷区で一番新しい経堂図書館が開館した頃や貸出点数が「1館につき5冊」から「全館で15点」に変わる頃など懐かしい話を読むほうが面白くなってしまって、ポスターのことは二の次になってしまった。世田谷区立中央図書館にはこれからも行くだろうから、そのときに聞けばいい。
1階の棚も地下の棚も一通り見て、さあこのまま帰ろうと思う気持ちが半分、それほど厚くない本1冊くらいなら借りてもいいのではという気持ちが半分、決めきれずに出入口がある1階でまた書架をぶらぶら。印刷の棚で『文にあたる』が目に入り、ハッとする。私にとっては、買って家にあり、でも手を付けていない積読本の1冊である。図書館にあるたくさんの本に目移りせずに、買っただけで満足してしまっている本をしっかり読みなさいと言われた気分になり、はい、そうしますと図書館を出た。