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上十条図書館さんぽ マスクの下でにやにや

visit:2024/11/14

北区立中央図書館から上十条図書館まで歩く。道のりとしては、中央図書館前の公園に出て、自衛隊の十条駐屯地に沿って左に進み、駐屯地の門辺りで右側を走るもう一回り広い道路に移動して、それまでと同じ向きと進んでいくと十条駅の踏切、それを越えて更に進んだところで路地に入れば上十条図書館。迷う余地のないくらいシンプルさで、私の足でのんびり歩いて15分もかからず、このたび上十条図書館が閉館になるというのもわからなくはない。

図書館に入る前にちょっと休憩したいと思い、前に来たときに気になっていたカフェ・𝙽𝚎𝚠 𝙰𝚐𝚊𝚒𝚗 𝙴𝚜𝚙𝚛𝚎𝚜𝚜𝚘へ。木の空間でこだわりのコーヒーを出すお店で、常連らしきお客さんと雑談をしながらも初見で入った私のような客にも気配りしてくれるのが居心地いい。この日持ち歩いていたのが松岡正剛『知の編集工学』で、こうした店の会話が漏れ聴こえる場でこれも編集と思いながら読むのにぴったりハマった感じ。

上十条区民センターの3階に上がると上十条図書館。入口右先にある展示コーナーで『歴史とは靴である』という本の黄色い表紙が目に入り、色の存在感と興味をそそられるタイトルに惹かれて読んでみる。『武士の家計簿』などで有名な磯田道史さんが女子高に出向いておこなった特別授業を再構成した本で、高校生の興味を引くように工夫した話術が、どちらかというと歴史が苦手な私にも面白く、これは座ってじっくり読もうと一般書架右側の閲覧席へ。平日なのに8割がた埋まっていて10月25日に来たときの閑散さとの違いに驚く。通常の波の範囲内なのか、それとも閉館する前にと思っての利用が増えているのか。

2割ほど読み進んだところで、このままここで一気に最後まで読める文章量だが、途中で読み止めていろいろ思いを走らせたりしたい内容だと思い、借りると決めて読書は終了。そういえば中央図書館を出たときには、懐かしの作家を探す棚巡りをした流れで上十条図書館でも文芸本を物色するかと思っていたのに、『知の編集工学』と『歴史とは靴である』を読んですっかりリセットされてしまった。というわけで、あてもなく端から順に棚を見て歩くことにする。

この、あてもなく全ての棚を見て回って気になった本を手に取るという行為は、このサイトをはじめてからその図書館の蔵書の特徴を探すためにやるようになったのだが、むしろそのときの自分の気分や興味を再確認する行為でもあり、後者を意識した方が楽しい。仕事のやる気満々なときにはやはり仕事に繋がる本がある棚にいる時間が長くなるし、疲れているときには健康管理の本がある棚、余裕のあるときにはあまり詳しくない分野の面白そうな書名の本に手が伸びたり。

歴史の棚で『世界は五反田から始まった』を見つけ、『転がる香港に苔は生えない』の星野博美さんが書いた本として書名は知っていたけど歴史の本だったのかと驚く。法律の棚で手に取ったのは、被害者の1人が書いた『再生 西鉄バスジャック事件からの編み直しの物語』。こうした突発的な犯罪は誰でも被害者になりうるんだよなと思いながら当時の状況を綴る文章に没頭してしまう。著者も重傷を負い大変な治療を受けるなか「頑張って」という言葉が今は頑張っていないと言われているようで辛かったという文章を読んで、そういえば先日いつも通っている病院のいつもは2人いる受付の人が1人だけでとても大変そうにしていたときに「今日のお姉さん、すごく忙しそうですよね。頑張ってください」と言ってしまったのを思い出した。1人で大変なところ頑張っていることをわかっていますよ、のニュアンスで言ったのが伝わっていればいいけど、他の言い方の方がよかったか。

スポーツ本の棚の並びをずっと目で追っていると、その流れのなかとみさわ昭仁さんの『無限の本棚』が目に飛び込んできて、この棚にあるのかと驚く。本に関する本は図書館分類では021~024になるのだが、この本の分類は790。79は茶道やお花、囲碁・将棋、ゲームなどで、蒐集についての本もここに分類される。読んでみると確かに本に関する本というよりは本の蒐集に関する内容で、蒐集家以外には理解できない苦労を楽しんでいる様子ににやにやしながら読む。

コロナ禍を経て季節に関わらずマスクをしていても珍しくなくなっているが、マスクをしていると立ち読みなどの際に人目をはばからずにやにやできる。私は基本的に外出時はマスクをしていて、この日も思う存分にやにやしながら読んだのだった。