閉館前の北区立上十条図書館
北区立上十条図書館は2024年11月24日を最後に閉館しました。
以下は、閉館前の北区立上十条図書館の訪問記です。
閉館前の北区立上十条図書館 訪問記
北区立上十条図書館は、十条駅西方の上十条区民センター3階にある図書館。1985年から地域図書館として使われてきた歴史が、2024年11月で終わろうとしています。
図書館の様子
上十条図書館の最寄り駅は埼京線十条駅。駅を降りたところ中高生や大学生が目立つと思ったら、東京家政大学とその付属中学高校、東京成徳大学、帝京大学と帝京高校、東京朝鮮中高級学校など、私立の学校が多い地域のようで、歩いているといろいろな学生生活の会話が漏れ聞こえてきます。
上十条区民センターの3階に上がると、自動ドアの先にあるフロア全体が図書館です。入口のそばに新聞コーナーやカウンターがあり、カウンターを右に見ながら進んだ先が児童コーナー、カウンターの前に特集コーナー、CD、漫画、旅行ガイドなど。もう少し進むと雑誌があり、その先の奥一帯が一般書架です。
図書館の規模としては小さいほうに入ると思いますが、規模に対してCDの所蔵数はやや多めかな。机席は14席と少ないですが、それもふくめてこじんまりとした雰囲気が居心地いいです。
仕切りに囲われた児童コーナーは、入って左側に児童読み物やちしきの本、右側に絵本の棚や靴脱ぎスペースがあります。靴脱ぎスペースは図書館規模に対して広い印象。小学校や保育園が近いせいか一般書架でも子どもが遊ぶ声が聴こえてくることがあり、暮らしの中で利用されている図書館の雰囲気です。
一般書架は規模が小さいがゆえに何がどこにあるのか迷う余地も少ないです。図書館巡りをしていると、大きければいいという単純なものでなく、小さい図書館には小さい図書館のよさがあることを感じますが、あらゆるジャンルの本がぎゅっと集約されているのも小さな図書館のよさの一つ。統一感がある大きな棚見出しを使っていて、文字が詰まった本棚の中でも目に入りやすいです。
CD棚で言葉の派生に思いを馳せる
カウンターの前にCDの棚があるのですが、ここを見ていて新しい言葉を発見しました。いや、私が初めて見ただけでネット検索してみたらAmazonのCDカテゴリーやWikipediaの説明文でも使われていたのですが、それは「純邦楽」という言葉。
「邦楽」という言葉には、お琴や詩吟のような日本古来の音楽を指す意味と、欧米のロックやポップスを洋楽というのに対して日本人によるロックやポップスを指す意味があります。ジャンルで分類された図書館のCD棚の見出しでもよく使われる言葉ですが、前者の意味で使っている図書館もあれば後者の意味で使っている図書館もあり、どの使われ方が一般的だと一概にいえない幅広さを持つ言葉です。そこを明確にするために、上十条図書館のCD棚では、日本古来の音楽CDに対して「純邦楽」という見出しを使っている。初めて見たけど、直感的にすぐ意味がわかりました。
言葉は時を経て意味が広がったり変わったりするのが面白さであると同時に難しさでもありますが、「邦楽」も意味が広がって、それによって「純邦楽」という言葉が生まれたのか…と、上十条図書館のCD棚で言葉の派生に思いを馳せてしまいました。この3か月くらい前に飯間浩明さんの『辞書を編む』を読んだ影響で、言葉の使われ方に対する感度が上がっているのかも。
小規模のよさ
実は上十条図書館から北区立中央図書館までは、道のりにして約1km強。徒歩でも十数分、自転車なら5分程度で行ける距離です。もちろん蔵書数でいったら中央図書館の方が断然多いですが、いろいろなジャンルの本を読みたい場合はその分歩き回る必要がある。利用者も多くて土日は席の確保も難しい。のんびり読書を楽しみたいなら、上十条図書館の方がいいという判断もありでしょう。
私自身、図書館巡りをしていて、大きい図書館ではそのよさ、小さい図書館でもそのよさを楽しむのがうまくなりました。小さくて古くて、だからこそのんびりした空気が流れる上十条図書館のよさをぜひ味わってください。