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篠崎図書館さんぽ 複本にひやひや

visit:2025/04/10

最近忙しくて疲れ気味、でも江戸川区立図書館から借りた本を返しに行かねばならぬ、ならば電車で楽に行けるところへと思い、篠崎図書館へ。江戸川区立図書館は駅から離れている場所が多いなか、篠崎図書館は駅直結のビル3階にあるのだ。そういえば昔、篠崎駅近くにお住いの方から「駅近図書館がある」などいくつかの条件を挙げられて、これらについて篠崎以上にいい地域があれば引っ越ししようかと思っているが都内にそんな場所があるかと質問されたことがある。徒歩1分の篠崎図書館と同程度の駅近図書館があるという条件だけでかなり地域が限定されてしまい、結局篠崎がベストではないかと返答したのだった。他にはその図書館が遅くまで開いているという条件もあったかな、その点でも常に21時半まで開いている篠崎図書館は便利なのだ。

図書館がある3階にカフェもあるので、疲れ気味の私としては図書館の前にケーキでも食べて元気を回復するつもりでいたところ、これも同じフロアにある篠崎文化プラザ企画展示コーナーであいだみつお展をしており、人の心に寄り添うようなメッセージの書にふらふらと引き寄せられてしまう。展示では道徳の教科書にもあいだみつおの作品が使われていることが紹介されていて、1971年生まれの私としては、道徳の教科書に何が掲載されているかということより、道徳に教科書があること自体に時代の変化を感じる。

ありのままを肯定するメッセージで少し元気が出たところで、書架を巡るための体力を更に回復しようと伝統工芸カフェ・アルティザンでガトーショコラのスイーツセットを注文。このカフェでは、アイスの飲み物はシンプルなガラス容器に入れるのだが、ホットの飲み物は異なるカップを取りそろえた中からお店側がどれかを選んで提供してくれる。今日の私の紅茶に使われたいたのは珊瑚朱色の派手なカップ、この色とチョコレートの甘さで体力がまた少し復活。

カウンターで本を返却した後、奥の方から書架をぶらぶら歩く。篠崎図書館の書棚は163cmの私とほぼ同じくらい、つまり、上を見上げるという動作をしなくて済むので、棚を長い時間物色しても疲れづらい。更に、ほぼ長方形の空間に全ての棚が同じ方向に並んでいるというシンプルさもあり、今日のように多少疲れている日でも端から端まで一通り棚を見てしまう。

010(図書館)の棚で2018年まで篠崎図書館の館長を務めていた吉井さんの『2033年の日本と図書館に向けて』を見つけ、これは読んだことがなかったと手に取る。ものものしいタイトルに反して中身は気軽なエッセイ、でも雑感の中でデータを提示したり、出典となる専門紙を紹介したりしているところはさすが司書資格取得者による文章。惜しむらくは誤字脱字が潰しきれていない。

少し先の024(図書の販売)の棚で書評を読んで気になったまま未読だった『本屋、ひらく』を見つけて手に取ってみる。そういえば、篠崎図書館がこの場所に移ってきた2008年当時は、3階に図書館があり、2階には書店があったのだ。ここも今は100円ショップなどに変わってしまい、そうやって書店が減っていくご時世。でも、そんななかで書店を開業する人がいる。流れに抗うように書店を開業した人たちの言葉を集めたこの本は、そんな「流れ」の空気を読まず素直に読むのがよさそうだ。

商売としての書店の厳しさを考えていたせいか、916(ルポルタージュ)の棚に『くもをさがす』が3冊並んでいるのを見てドキッとしてしまった。2023年に出されたこの本、おそらく発行当初は予約多数で篠崎図書館1館で3冊も所蔵していたのが、予約待ちが落ち着くとこうやって同じ本が何冊も在架されている状態になる。複本問題は本の売り上げを図書館が妨げているとして取り上げられることの多い問題で、こうやって物理的に複数冊あるのが顕在化していると出版社や書店に見られたらまた図書館が責められるのではとひやひやしてしまう。

その近くにある『東京ディストピア日記』を何気なく手に取って読み始めたら、コロナ禍という非日常とその中での著者の暮らしという日常の混ざり具合が心地いい文章で、桜庭一樹の文章は読んでて何だか気持ちがいい、この人の文章がもっと読みたいと思う。振り返ると、桜庭一樹は『私の男』を読んでいいと思ったのに、それ以外は読んだことがない。少し前に『読まれる覚悟』の著者インタビューを読んで、読んでみたいと思っていた。この流れに乗って桜庭一樹を読むとして、具体的にどれを読もうか。読みたい本が複数あるなかで今の自分の気分に一番合うのはどれだろうと迷うのは楽しい悩みである。

540(電気工学)の棚では、『出井伸之』『さよなら!僕らのソニー』『グーグルで必要なことはみんなソニーが教えてくれた』などソニーに関連する本が目に入る。今月の日本経済新聞の「私の履歴書」がソニーグループ元社長の平井一夫で、毎日楽しみにしているのだ。平井氏の足跡が面白いだけでなく、氏の在籍時のソニーの大失敗も大成功もありうる不確定な様子が興味をそそる。篠崎図書館の棚にある書名を見ても褒める人あり貶す人あり、それほど注目されている会社だという表れだ。

棚を歩いて、本を見て、思いを馳せて、と過ごすうちに元気が出てきた。ある程度元気がなければ図書館の中を歩く気力さえ出ないが、面白い本を見つけると元気が出る。