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第6回ビブリオバトル 池波正太郎編

―2014年2月9日のイベント
visit:2014/02/09
§ 「池波正太郎」をテーマにしたビブリオバトル

文京区立本郷図書館でのビブリオバトルも、2014年2月9日の回が第6回目。既に本郷図書館の定番行事として定着しています。本郷図書館でのビブリオバトルは毎回作家をテーマに開催しており、今回のテーマは「池波正太郎」。池波さんの作品でもいいし、別の誰かが池波さんについて書いた本でもいいし、要は池波正太郎に関連がある本なら何でもOKです。

本郷図書館のビブリオバトルは、これまで森鴎外、夏目漱石、村上春樹、よしもとばななと文京区ゆかりの作家をテーマにしてきましたが、今回の池波正太郎はどちらかというと台東区ゆかりのイメージが強いですね。発表の際にわかったことですが、実は今回、バトラーとして台東区立中央図書館に付設されている「池波正太郎記念文庫」の職員さんも参加していたんです。会場の最前列に並ぶバトラーさんは老若男女幅広く、皆さんがどんな本を発表するのか楽しみです。

§ 意外というべきか、成程というべきか、大半の紹介本がエッセイでした

ビブリオバトルについての詳しい説明はビブリオバトル公式サイトに譲りますが、簡単にいうと発表者(バトラー)がそれぞれお薦め本を5分間で発表して、他の参加者との間で質疑応答し、それを発表者の数だけ繰り返した後に投票でチャンプ本を決めるというもの。今回は6人のバトラーが参戦して、3人ずつ2ゲームの開催となりました。バトラー数がいつもよりやや少ないこともあって、質疑応答も5分間という長めの設定でしたが、発表が5分間厳守であるのに対し、質疑応答は質問が出切ったら5分に達していなくても切り上げる場合があります。

第1ゲームのトップバッターさんは『江戸前食物誌』を発表。発表者さんが読み上げてくれた、小鍋だての短文レシピのおいしそうなことと言ったら。今回のビブリオバトルは食のエッセイ本が多く、朝御飯も昼御飯も軽く済ませてしまったこの日の私にはかなり辛かったです(笑)。いやホント、簡潔にして食欲をそそる池波さんの文章、お見事です。

新編 男の作法 作品対照版』を紹介してくれた2番手のバトラーさんは、初めてお給料をもらってご両親にごちそうをした際に、お母様からお返しにこの本をプレゼントされたとのこと。このエッセイはいろいろな出版社から出ていますが、紹介者さんが持ってきたサンマーク文庫版には、エッセイの内容に通じる池波作品の1シーンや池波さんと実際に接した編集者による回想なども掲載しているとのこと。質疑応答タイムで「女性も粋な女になれますか?」と質問したところ、男に限らず粋な人になれる作法が詰まっているとの回答をいただきました(笑)。

3番手の坂本さんは、『剣客商売番外編 ないしょないしょ』を紹介。坂本さんは、去年7月の文京区立水道端図書館ビブリオバトル~芥川龍之介~にもバトラー参戦なさっていた方で、そのときに引き続き今回も解説資料(紹介本がシリーズ番外編ということもあり、本編の登場人物・流れなどをまとめている)を用意してくださり、イベント後に参加者に配布されました。ご自分のお薦め本を手に取ってもらいたいという坂本さんの気持ちが伝わります。また、実はこれが今回唯一の小説本であり、それこそが池波さんの才能の多彩さの表れだとも感じました。

第1ゲームの投票結果は後回しにして、第2ゲームでの発表本を続けて紹介しますと、トップバッターさんは、戯曲『牧野富太郎』を紹介。実在の植物学者を題材にした戯曲で、紹介者さん曰く、持っているお金を全て研究に費やしてしまう富太郎氏と、そんな夫を抱えながら家庭を切り盛りする奥様の関係がいいのだそう。私自身、池波さんの小説は読んだことあっても、戯曲は読んだことがないので、その点でも読みたくなりました。

第2ゲーム2番手に登場したのが池波正太郎記念文庫の職員さんで、『むかしの味』を紹介してくださいました。池波正太郎記念文庫でも資料としていろいろ所蔵していますが、この本は池波さんの文章のみならずイラストも掲載されているのが大きな魅力です。質疑応答の際には、バトラーさんがそれまで池波正太郎を読んだことがない状態で池波正太郎記念文庫に配属になり、それから食のエッセイを読んだら自分の好きな店が登場していて嬉しかったという話なども出ました。この本がバトラーさんにとって、仕事の対象である池波さんに個人的興味も引き寄せられたきっかけなのかもと想像してしまいました。

そして、トリを務めたのが、本郷図書館ビブリオバトルの常連である遠藤さん。時代小説は読まないそうで、第5回ビブリオバトルで第6回のテーマが「池波正太郎」だと発表されたときも読んだことがないからどうしようかなとおっしゃっていたのですが、池波さんがフランス・スペインを旅行した際のエッセイ『旅は青空』で参戦です。遠藤さんご自身も子どもの頃にフランスに旅行したことがあるそうで、そのときの感想も交えながら本を紹介していただきました。また、発表の淀みなさも見事で、すらすらと5分間語り終えたときには、観覧者席から感嘆の声が漏れていたほど。この本も池波さんのイラストを掲載しており、池波さんの目を通じたフランス・イタリアを楽しめそうです。

といった様子で、どれも面白そうな本。この日行われた都知事選に負けず劣らすどれに投票するか悩みましたが(笑)、投票の結果は以下の通りとなりました。

第1ゲーム第2ゲーム
1番手 『江戸前食物誌』 『牧野富太郎』
2番手★『新編 男の作法』★『むかしの味』
3番手 『ないしょないしょ』 『旅は青空』
★がチャンプ本

ちなみに、前日の大雪で道が悪いにも関わらず、観覧者は40名ほどでほぼ満席でした。あとで聞いたところ、これまで最も観覧者が多かったのは村上春樹の回だったそうですが、道が悪くなければ今回もっと来場者は多かったかもしれません。来場者数からも今なお続く池波さんの人気を感じました。

これも池波さんのお人柄を反映したのか、またはビブリオバトルに対する理解が広まったのか、いつもに増して皆でこの場を楽しむ雰囲気でとても楽しかったです。本郷図書館さん、ご参加の皆さん、ありがとうございました!

§ 観覧者もぜひ積極的に楽しみましょう!

今回私にとっては久しぶりに観覧者としての参加(私も時代小説を読まないほうなので)だったのですが、やっぱりただ見ているだけよりたくさん質問した方が楽しい。司会者でビブリオバトル普及委員でもある瀬部さんからも、「池波正太郎に関する知識を競うイベントではないし、未知の本に出会えることこそがビブリオバトルの楽しさだから、こんな初歩的な質問をしてもいいのかなどと遠慮せずに積極的に挙手してください」との説明があったように、観覧者で参加した人にはぜひ質問も楽しんで欲しいです。

発表者としての経験も踏まえると、5分間に収めるために言いたいけど泣く泣く削る話もあって、質疑応答の際にそれに関する質問が来るととっても嬉しいんです。逆に、質問したときにバトラーさんが我が意を得たりと言い足りなかった分を話してくれると、いいパスを出したみたいで嬉しくなることも(笑)。質疑応答は、決してバトラーさんを問い詰めるような時間ではなく、緊張や時間制限などでバトラーさんが言えなかった部分への理解を皆で深める場。聞いてみたいことがあったら、ぜひ気軽に質問してください。

また、よかったら、質疑応答時間だけでなく休憩時やイベント後にも、ぜひ発表者さんに話し掛けてみてください。特に、チャンプ本に選ばれなかったときに、「発表を聞いて読みたくなりました」と言ってもらえると発表者としてはとても嬉しいです(笑)。もちろん質疑応答時間でできなかった質問をしてもいいし、本を見せていただいてもいい。ビブリオバトルは「人を通して本を知る、本を通して人を知る」をキャッチコピーとしているゲームですし、本をきっかけにすると話が弾むこと請け合いです。

次回の予告については、年度をまたぐこともあってか明言はしていませんでしたが、今後ももちろん本郷図書館ビブリオバトルを開催する模様。また、これも公式に聞いたわけではないので、ここでの発表は控えておきますが、文京区内の他の図書館でも今年中に開催する予定があるそうです。今後もますます広がるビブリオバトル、ぜひ一緒に楽しみましょう!