第5回ビブリオバトル よしもとばなな編
visit:2013/07/07
今や全国的な大会まで開催されているビブリオバトル。文京区立本郷図書館では2年前から開催しており、今回が第5回目の開催です。2年前からの開催というのは早くから手をつけたほうであり、毎回司会を務めていらっしゃるビブリオバトル普及委員会の瀬部さんによると、第1回当時で公共図書館で開催された事例としては2例目だったとのこと。
第1回を除いては、森鴎外、夏目漱石、村上春樹と作家をテーマにしてきた本郷図書館ビブリオバトルの今回のテーマは「よしもとばなな」です。これは、これまでのアンケートの中で、「地元の作家・よしもとばななさんをテーマにしてはどうか」という意見があったのがきっかけだそうで、よしもとばななさんはご出身が谷中初音町(現・谷中9丁目)、千駄木で育ち、小学校は文京区立潮見小学校、中学校は文京区立第八中学校なのだとか。両校とも本郷図書館の南、「団子坂上」交差点を越えたすぐそばにあり、よしもとさんにとってこの辺りは地元中の地元といえる場所なんですね。本郷図書館利用者の皆さんの中には、よしもとさんの同級生だった人もいるんだろうな。
今回のビブリオバトルについては、本郷図書館からよしもとさんご本人にもご連絡したそうで、当日はご都合が合わずにいらっしゃることはできませんでしたが、今回のビブリオバトルに向けてご寄稿いただくことができたというのだから、これぞ地元の強み。よしもとさん自身も本郷図書館前身の鴎外記念本郷図書館に通っていたそうで、書架にある本の中には若かりしよしもとさんが手に取った本があるのかも…と想像すると、この場所でビブリオバトル・よしもとばなな編を観覧できることに、私もますます気分が盛り上がります。
「よしもとばなな」がテーマというのは、よしもとばななさんの著作に限らず、関連本なら何でもOK。ゲームのかたちとしては、3人の紹介者によるゲームを2ゲーム行い、5分間の発表の後に討論を5分間行うという、討論時間がやや長めの形式でした。毎回、文人をテーマに討論が盛り上がるので、この形式にしているそうです。
イベント開始時刻を迎えると、司会の方からビブリオバトルについての説明(詳しくはビブリオバトル 公式サイトをどうぞ)があり、特に投票基準(「どの発表がよかったか」や「どの本がいい本か」ではなく、「各発表を聴いてどの本が一番読みたくなったか」)や、討論時間の注意点(発表内容の揚げ足取りや批判はせず、その場が楽しい場になるよう配慮しながら、投票の参考になることを聞く)について詳しく説明した後、いざゲーム開始です。紹介された本は以下の通りで、結果的には紹介された6冊全てがよしもとさんの著作でした。
第1ゲーム | 第2ゲーム | |
1番手 | 『うたかた/サンクチュアリ』 | 『スウィート・ヒアアフター』 |
2番手 | ★『哀しい予感』 | 『ひな菊の人生』 |
3番手 | 『TUGUMI つぐみ』 | ★『High and dry(はつ恋)』 |
この皆さんの発表が、「バトル」という言葉に違和感を覚えるくらい柔らかな語り口で、よしもとばなな作品の読者さんってこんな優しい雰囲気の方々なんだなと感じられて、とてもよかったんです。私は、第3回の夏目漱石編の際も本郷図書館のビブリオバトルを観覧したのですが、同じ場所で行ってもテーマが違うと参加者が変わり、語られることも変わってきて、全体の雰囲気も全然違うんですね。毎回作家をテーマにしていると、その作家の個性がビブリオバトルの雰囲気にまで現れるんだなあ。
実は、討論時間になってもあまり質問する人がいなくて、私は場を盛り上げようと思って何度も質問してしまったのですが(笑)、今思うと決して盛り上がっていなかったわけではなく、皆さんじっくりと発表をかみしめていたんだろうという気がします。というのも、特に最後の紹介者へ最後に質問した方が、のんびりとした柔らかい口調で話す方で、応える紹介者の方も優しい雰囲気で、お二人のやりとりがよしもとさんの作品の一場面のようなふわっとした空気だったんです。それをみたら、このバトルらしからぬふわりとした雰囲気こそが、よしもとばななビブリオバトルの有り様なんだと思えて。ビブリオバトルってテーマや参加者によってこんなに違うんだなあと、ますますビブリオバトルが楽しくなりました。
よしもとさんゆかりの地でのビブリオバトルということでは、第2ゲーム3番手で『High and dry(はつ恋)』を紹介した谷津田さんが、「千駄木で育ったよしもとさんも、団子坂を上りながら初恋の人のことを考えていたのでは」とおっしゃっていたのですが、ビブリオバトルが終わってから配布されたよしもとさんの寄稿文を読むと、まさに観潮楼跡前の階段(団子坂上で南に曲がると第八中学校の手前にある階段のことでしょう)で自転車を押してくれた同級生に初恋をした話が載っているではありませんか!イベント後に寄稿文を読んで階段を下りてみた方もいるんじゃないかな。この場所でよしもとばなな作品の話をする面白さも、存分に味わえました。
また、今回は、第1ゲーム2番手の遠藤さん以外は、ビブリオバトルに紹介者として参加するのはおそらく初めてだろうという様子で、その初々しさに観覧するこちらも見守って応援する気持ちで聴いてしまいました(笑)。時間が余ってしまう人も多く、その時間を埋めるべく出てくる発言が面白いというビブリオバトルの一面もいつも以上に楽しめましたね。予定した言葉を言い尽くして尚時間を埋めなければいけないとなると、本音というか、あせって引っ張り出してきた思わぬ言葉みたいなものが飛び出してくるんですよね。
ちなみに、遠藤さんは、第3回の夏目漱石編でも『三四郎』を紹介してチャンプ本を獲得した本郷図書館ビブリオバトルの常連さん。上で、紹介者の皆さんが柔らかい語り口だと書きましたが、唯一彼女だけがちゃきちゃきとした語り口で、本郷図書館ビブリオバトルのムードメーカーといえる存在でした。
更に、今回のビブリオバトルでは、観覧者も参加者であるというのも実感しました。討論時間の際に、一人の観覧者さんから「よしもとばなな作品に登場する“変わった人”は、作者本人だという説があるが」という質問が出たのをきっかけに、その後の発表や質問の中で、“変わった登場人物”への注目が強くなったんです。ビブリオバトルは、討論や投票という仕組みを組み込むことで、観覧者も単なる傍聴者ではなくゲームの参加者となるよう設計されているのですが、今回のビブリオバトルではまさにそれが体感できました。この場にいる紹介者と観覧者が一緒になってゲームを作っているんですね。
欲をいえば、中高生にもぜひ紹介者として参加してもらいたかったです。よしもとばななを若い頃読んでいて、今回あらためて再読したらこう感じた、という紹介者が何人かいらっしゃって、確かによしもとさんって若い年代の読者が多いと思うんです。そうした、まさに今よしもとばななに夢中です!という世代の紹介者がいたら、ますます面白かったのではないかと。高校生や大学生を対象としたビブリオバトルも盛んですが、ビブリオバトル自体には年齢制限はないし、いろんな世代の人たちが集まることができるのが公共図書館の面白さ。もし、この文章を読んでくれている中高生がいたら、ぜひ公共図書館のビブリオバトルにも参加してください。世代を越えて一緒にビブリオバトルを楽しみましょう!
といったかたちで、何度かビブリオバトルに参加したことがある私にも、また新たな一面を見せてくれた「本郷図書館ビブリオバトル よしもとばなな編」、とても楽しい時間でした。本郷図書館の皆さん、参加者の皆さん、ありがとうございました!
私のようにビブリオバトルを楽しみたい人に向けて、イベント最後に図書館から告知された今後のビブリオバトル情報を掲載しておくと、まず本郷図書館では2014(平成26)年2月に池波正太郎をテーマにして行うとのこと。半年あれば、池波正太郎を読んだことない方が紹介者として参加することもできそうですね。また、同じ文京区内の水道端図書館で、2013年7月27日に芥川龍之介をテーマにしたビブリオバトルがあり、こちらは私も紹介者として参加する予定です。更に千石図書館でもビブリオバトルを行う予定があるそうで、職員さんに聞いたところ9月を予定しているとのこと。
ビブリオバトルは、ネット上でYouTubeなどの動画で見ることができるものもあるけど、そうしたもので観るより、その場で観て、質問して、投票する方が断然面白いし、発表者として参加すれば更に楽しいイベントです。公共図書館という皆に開かれた場所での開催なら誰でも参加できるし、観覧者として参加する分には何も用意は要りません。少しでも興味がある方は気軽に参加して、ぜひ一緒に盛り上がりましょう!